ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。
本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。
今日は、水毒(すいどく)の治療について、詳しくご紹介します。
「余分な水というのは解るけど、中医学と漢方で呼び方も違うし、良く解らないなあ。」
って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。
確かに、漢方では「水毒」、中医学では「痰飲(たんいん)」等と呼び方も違い、また、病態によっても「痰」「湿邪」「水滞」「湿熱」と呼び方がバラバラで、しかも、用語の混同もあって余計に解りにくくなっています。
今回の記事では、水毒の概念と治療、語句の整理、使い方等を詳しくご紹介していきます。
本記事は、以下の構成になっています。
水毒とは何か
水毒関連用語の整理
水毒治療のポイント
水毒を治療する上での注意点
水毒の治療に使う生薬
水毒の治療
さいごに
水毒治療には、いくつかコツがあります。そのコツを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。
水毒についてご説明し、治療条件を経て治療まで行きたいと思います。
それでは、宜しくお願い致します。
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水毒とは何か
そもそも、人間の身体は60%以上が水で出来ており、水分は必要不可欠な物質でもあります。
ですが、漢方医学において、水というものは大体が「(最終的に)除くもの」という扱い方をされます。
治療のお話をしてみます。例えば、身体が頑丈で胃腸にも問題ない場合、「補腎」という長寿に向かう為の治療をします。
具体的な処方では、八味地黄丸や六味丸ですね。それらには、水を除く沢瀉や茯苓といった生薬が入ります。
また、逆に壊病と言われる治療ミスで起こった病態に使う茯苓四逆湯や真武湯という身体を強力に温める処方があります。それらにも、茯苓等の利水の効のある生薬が入ります。
何が言いたいかといいますと、身体の状態に関わらず、利水の生薬が漢方処方の中に入る事が多いという事です。
漢方医学においては、水というものは基本的に過剰になりやすい、邪になりやすいものとして扱う事が多い、と言い換える事も出来ます。
「石膏は?」「麦門冬は?」と言われるかもしれません。確かに、石膏は水をかけるという表現をされる生薬です。しかし、その実態は水分調整で、最終的には尿として排出されます。
また、麦門冬はその生薬の大部分が油脂であり、粘膜の油分を補給して肺の蒸散・気化作用を調整します。言い換えますと、水分の排出を緩める働きがあります(結局は水分排出の調整)。
これらの事から、漢方を使用する上では、過剰な水分の動きや排出を常に考える必要があるという事が解ります。
しかし、漢方医学は水を除け者にしているという訳でもありません。水分保持の生薬も中にはあります。
あまり知られていませんが、甘草は処方の中において、水分保持の役割があります。よく緩和作用と言われますが、これは、甘草の水を保持する効能から来ています。
水という物質は固体と気体の間の液体です。中間の性質をもつものは、両極端を繋ぐボンドの役割や緩衝作用があります。
漢方処方の中にある甘草は、その水分保持作用で、薬の効果を上手くまとめていると言えます。
これらをまとめますと、「水は過剰になりやすく、排出するという事が漢方治療のポイントとして置かれるが、甘草の水分保持作用で各種薬効の調整も行っている。」と言えます。
そして、その「身体から排出しなければいけない水」が水毒という事になります。水毒は、単に水毒がある場合もあれば、熱を帯びるもの、寒を帯びるもの等色々あります。
次の見出しでは、水毒関連用語の整理をしていきます。
水毒関連用語の整理
冒頭にもお話しましたが、水毒に関連する漢方用語は大量にあり、使い方もそれぞれの流派や人によっても違います。
しかし、基本は「水毒」ですので、その形態の違いや文脈によって呼び方が変わると認識すれば大丈夫です。
大まかには、水毒は漢方医学では「水毒」、中医学では「痰飲(たんいん)」です。
中医学の痰飲は、ネバネバしたものを「痰(たん)」、サラサラした液体を「飲(いん)」としています。
また、病態によって変わる用語の代表に、
痰、湿、水滞、湿熱、寒湿
等があります。それぞれご紹介していきます。
痰
痰は、粘度の高い水の毒を指します。代表は、風邪ひいた時に出る痰ですね。基本的に肺の管轄下である気管支や肺、皮膚に多いのですが、胃に存在する場合もあります。
胃に存在する場合は、不消化物や消化が中途半端になり、それが邪実になって痰が発生する事があります。その場合は主に半夏を使用します。
臨床をしますと、甘いものが日常的に多いと痰が発生しやすい傾向にある事をよく経験します。
湿
「湿」より「湿邪」と表現される事が多い水の毒です。水が溜まっているというより、全体的にジトッと湿り、ベタベタしている様を表す時に使用します。
全身の臓腑で起こりますが、特に脾胃で起こりやすいです。水を除く生薬のうち白朮や沢瀉等が主に対応します。
脾胃の管轄下に肌肉というものがあります。これは、筋肉以外の組織を指します。具体的には頬っぺたや手のひらの柔らかい部分、脂肪組織等です。
こういう柔らかい部分は、スポンジの様に水が折り重なって入っていますので、湿邪が起こりやすい環境と言えます。
水滞
水滞というのは、サラサラとした状態の水が、一か所にまとまって存在している状態を指します。中医学で「飲」と表現される事もあります。
水滞は、よく胃に発生します。苓桂朮甘湯証では「胃がチャポチャポする」という所見が出てきますが、まさにその原因の水が水滞になります。
足の浮腫も水滞と表現される場合があり、また、熱を持った水滞を熱水と表現する場合もあります。
湿熱
湿熱という病態は、身体に熱を持った湿気がある場合に用いられる用語です。湿熱は単なる湿ではなく、熱を持つ事で粘性が高くなり、取り除きにくくなった水毒になります。
代表例としては膿があります。また、アトピー性皮膚炎でベタベタとした黄色い粘性の汁が出る事がありますが、それも湿熱と呼ぶことが多いです。
湿熱が溜まるという事は、言い換えますとドロドロとした熱毒の病理産物が溜まるという事になりますので、身体に余計なしつこい熱が溜まるという事に外なりません。
その為、症状の所見にネチネチとしたイライラやしつこく怒鳴りつける、継続的な不眠症状、皮膚炎症、膀胱炎等があります。好発部位は下半身、デリケートゾーン周辺となります。
アトピーの原因も湿熱と表現される事が多く、それらを除く処方がよく使用されます。
寒湿
寒湿は、湿熱とは逆に寒を伴う湿気がある場合に用いられる用語です。
代表例は苓姜朮甘湯証で、腰回りの冷えた水が原因で、痛みを発しています。寒湿の場合は、例の様に痛みや痺れの原因になる事が多いです。
水毒治療のポイント
水毒治療のポイントは、水毒を除くのにも気(エネルギー)を使用するという事です。
ですので、利水の生薬以外にもそれを補佐する生薬の種類と量を理解する必要があります。
そしてそれは、各々の処方の差にもなり、証の差にもなっています。
証と処方が合っていない場合、上手く水毒が除けないばかりか、反って体調を悪化させてしまう原因にもなります。
次の見出しでは、その辺りを詳しくご紹介していきます。
水毒を治療する上での注意点
水毒治療は、水を動かす訳ですから気を消費します。
何を当たり前の事を、と思われるかもしれませんが、実臨床で処方を見ていると、漢方専門の先生でもこれを考えられている方は一握りです。
確かに、気の消費を頭に入れなければ、漢方を出すのは簡単です。
ですが、人間の気の量は無限ではありません。ですので、限られた量の気を使用して、上手く治療を行う必要があります。
言い換えますと、水を除く生薬以外に入っている生薬構成から、使える証が何となく類推する事が出来るという事になります。
それらの処方を頭の中でデータベース化して覚えておけば、水毒治療の条件を身につけたも同然です。
水毒治療は、かなり身体が弱った裏寒(りかん)という冷えの状態からでも適応となります。そこから、身体を温める為には水を除く必要がどうしてもある、という事が解ります。
次の見出しでは、水毒治療に使われる生薬についてご紹介します。
水毒の治療に使う生薬
水毒を除く利水の生薬は、何種類もあります。水毒の状態によって使われる生薬が変わりますので、簡単に整理しておくと便利です。
代表的な利水の生薬には、以下の様なものがあります。
茯苓、蒼朮、白朮、半夏、沢瀉、猪苓、滑石、木通、防已、車前子、竜胆、芍薬、石膏、桔梗、呉茱萸
それぞれ、ご説明していきます。
茯苓(ぶくりょう)
茯苓は、利水の生薬の中でも一番虚状が強い場合から使える優秀な利水の生薬です。
主な効能は回水作用と呼ばれ、身体の水分を一旦上に持ち上げてまた下に降ろす、という働きとなります。
要は水をグルグルと体内で回転させる訳です。グルグルと水を動かす訳ですから、尿生成が盛んとなり、次第に身体の水毒は減っていきます。
この水を上げて下げるという働きは、茯苓特有の効能となります。その水の動きは、気の動きも伴います。
ですので、例えば、補中益気湯ではその作用を嫌ってわざと抜かれています。
逆に、補中益気湯の元になった四君子湯では、その効で体内の水の動きが活発になる為、処方の働きや体調のバランスが取れてきます。
言い換えますと、四君子湯は比較的長い期間使える処方と言えます。
ちなみに、茯苓で回る水はサラサラとしたものになりますので、ベトベトした痰は動かす事が出来ません。
蒼朮(そうじゅつ)
蒼朮は、脾胃の水毒を除く生薬として有名です。元々、古代中国、傷寒論・金匱要略では区別されておらず、単に「朮(じゅつ)」とだけ記載されています。
胃腸の水毒除きの効能があり、気を上に上げて最終的に発散させます。
気を発散させる位水を上げるという事は利水の効果は高くなります。しかし、逆に気は最終的に発散しますので、元気はそこまで増えません。
それ故、利水の効果は高く、逆に「捕気の効果はまああるかな?」という位です。
元々は白朮が古来使われていたようですが、江戸時代、古方の先生が「蒼朮の方が良い」と言って、日本では利水の効の強い蒼朮を優先的に使われる様になったそうです。
白朮(びゃくじゅつ)
白朮は、蒼朮と同じく脾胃の水毒を除く生薬として有名です。
上の蒼朮に比べて利水は弱いのですが、脾胃を補い気を上げる為、胃腸の弱りがある方や気虚の方にお勧めです。
使い分けは、水毒除きを主に行う場合は蒼朮、補脾を主体に考える場合は白朮が良いですね。前者の例は桂枝加朮附湯、後者の例は人参湯や四君子湯です。
半夏(はんげ)
半夏は脾胃や肺の「泥を取る生薬」と言われ、ネバネバした痰がある場合によく使用されます。
ですので、半夏が入っている処方は脾胃や肺に痰がある場合に使うという事が解ります。
水毒に対して単独で使われる事は少なく、白朮等と組み合わせて使用される事の多い生薬です。六君子湯や半夏瀉心湯などに配されます。
沢瀉(たくしゃ)
上焦中焦を中心に、全身の湿を除く生薬。非常に細かな部分にある湿邪も除きます。向きは上から下で、最終的に腎膀胱に水や気を持ち込みます。
降る性質という事は、言い換えますと気を消費しやすい生薬と言えます。ですので、身体が冷えていたり脾虚気虚が強い場合は使用できません。
また、性質上下半身を充実させる方向に使用されますので、八味地黄丸等の補腎剤や当帰芍薬散の様な安胎薬にも使われています。
猪苓(ちょれい)
猪苓はとにかく、腎膀胱より尿を出させる生薬となります。その性質が寒で、猪苓の効能は腎膀胱に熱を帯びた水毒が溜まっている場合に特に発揮されます。
冷やしながら小便を出す、という効があるという事は、言い換えますと気を下げる働きが強いという事になります。
ですので、例えば感染性の膀胱炎等、湿邪が膀胱に存在する場合にそれを洗い流す生薬と言えます。猪苓湯に配されます。
滑石(かっせき)
九竅(きゅうきゅう)、つまり目や耳、鼻等全身にある穴にある湿熱を去り、尿として出します。その性は寒で、気を強力に下げます。
丁度、沢瀉と猪苓を足して2で割った様な生薬ですね。猪苓湯に配されます。
木通(もくつう)
木通は、心肺に熱を持ち鬱滞した気血を下し、尿として排泄します。ですので、水毒除きというよりは上焦の気血の熱毒下しと言えます。
肺が正常に動くと尿が生成されますので、利水効果は二次的なものになります。
防已(ぼうい)
防已は、中下焦の熱を持った水毒である湿熱を除きます。痰の様なベトベトしたものというより、サラサラとした水滞を除きます。熱水と言っても良いでしょう。
結局の所、熱を除く生薬ですので、脾虚や気虚、冷えがあると使えない生薬になります。配されている処方で有名なものに、防己黄耆湯があります。
車前子(しゃぜんし)
車前子は「水道を通ず。」と言われ、言ってしまえば水の流通路を広げて尿排泄を助けます。
その性は寒になりますので、専ら湿熱を下す際に用いられます。つまり、脾虚、気虚、冷えがある場合には使用注意な生薬となります。竜胆瀉肝湯や牛車腎気丸に配されます。
二次的に、湿熱が除かれる事で腎が強くなる補腎効果があります。
竜胆(りゅうたん)
肝経の湿熱を強力に瀉す処方です。湿熱というのは、熱性が強ければ強い程粘性が増して除きにくくなります。それを取り除く効能を持ちます。
また、「肝経の湿熱」ですので、竜胆が適応となる証はキツい怒りを無理に抑え込んでいると言えます。
ですので、表面は穏やかですが、眼光が鋭くそこはかとない威圧感があります。
部位としては中下焦です。深い位置に湿熱がある場合に使用されますので、湿熱による足腰の痛みにも使用します。
更に、中焦の湿熱も除きますのでアトピーを改善させる事もあります。配される処方は、竜胆瀉肝湯や疎経活血湯になります。
芍薬(しゃくやく)
芍薬は通常、肝血を補う補血補陰の剤として有名です。ですが、例外的に水をさばくのを助けるという使い方をする事があります。
代表例は真武湯で、白朮で水を組織から血中に引き込んだ後、肝血としてプールさせる働きが芍薬にあります。
その芍薬の効果がある事で、効率よく身体から水を除く事が出来ます。他の処方ではあまりされない使い方ですが、特徴的なので覚えておくと良いでしょう。
石膏(せっこう)
石膏は、熱中症時などに使う白虎加人参湯等で、水を呼ぶ生薬として使われています。しかし、例えば麻杏甘石湯の様に汗がダラダラ出ている場合にも使用します。
実は石膏には、水を呼ぶという効果の他に、最終的に水を尿として出すという働きがあります。面白い生薬ですので、覚えておくと良いでしょう。
桔梗(ききょう)
桔梗は排膿作用がある生薬として有名です。その出される膿は湿熱になります。広い意味では、桔梗も水毒除きの生薬と言えます。
呉茱萸(ごしゅゆ)
呉茱萸は、片頭痛の治療薬として有名な呉茱萸湯等に配されています。その主な効果は「胃を温めて湿を乾かす。」です。
漢方医学的に見た場合、片頭痛は胃の冷えと湿邪が原因になっている場合が多いとされ、その病態を改善させます。胃の乾燥剤、と覚えると良いでしょう。
水毒の治療
水毒の治療を行う条件、生薬のご紹介が終わりましたので、いよいよ処方の紹介に入ります。
基本的には上の見出しでご紹介した生薬を使用していきますが、お話した通り、その他に入っている生薬によって合う証に変化が出てきます。
また、利水の生薬の中でも適不適がありますので、その辺りもご紹介していきます。
水毒を除く代表的な処方には、以下の様なものがあります。
真武湯、五苓散(柴苓湯、胃苓湯、茵蔯五苓散)、猪苓湯、牛車腎気丸(八味地黄丸、六味丸)、防己黄耆湯、竜胆瀉肝湯、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、九味檳榔湯、木防已湯、排膿散及湯、桂枝加朮附湯(桂枝加苓朮附湯)、呉茱萸湯、五淋散、小青竜湯(苓甘姜味辛夏仁湯)、小半夏加茯苓湯、清心蓮子飲、疎経活血湯、当帰芍薬散、二朮湯、二陳湯、茯苓飲、麻杏薏甘湯、薏苡仁湯
それぞれご紹介していきます。また、列記したもの以外にも、さまざまな種類の処方に利水の生薬が含まれています。
非常に数が多いので、焦らず一個一個、出会った処方を勉強していくのが良いでしょう。
真武湯
真武湯は、少陰病(しょういんびょう)と呼ばれる時期に使用します。
具体的には、「身体が弱って内部が冷え切った状態で、身体全体に水毒が溜まっている状態」です。この状態は、身体もぐったりとして、ずっと寝ていたいという症状が出てきます。
しかし、それほど弱っていないように見えても、真武湯が合うパターンは日常的に見られます。
無理をした、冷たいものを摂った、徹夜やそれに近い程遅くまで起きていた。この様な場合にも適応できる優秀な処方です。私もよく使います。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
五苓散(柴苓湯、胃苓湯、茵蔯五苓散)
五苓散は、一般的には胃腸風邪の時や、気圧変化があった場合に使用されます。
処方中に人参や甘草等の胃腸を補う薬が無く、逆に気を巡らす桂皮、身体を冷やしながら水を抜く沢瀉等の生薬が入っています。
ですので、胃腸に特に問題ない方が、風邪等にかかって胃腸に来た場合に使用するとなります。
喉が渇いて水を飲むのですが、すぐに吐いてしまう場合に使用します。
柴苓湯(小柴胡湯+五苓散)や胃苓湯(平胃散+五苓散)、茵蔯五苓散(茵陳蒿+五苓散)といった処方も、基本的な水抜きの考え方は五苓散と同じです。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【漢方:17番】五苓散(ごれいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:114番】柴苓湯(さいれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:115番】胃苓湯(いれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:117番】茵蔯五苓散(いんちんごれいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
猪苓湯
猪苓湯は、膀胱の湿熱除きに使用する処方です。具体的には、細菌性の膀胱炎等となります。
膀胱だけではなく身体全体の湿熱を取る処方ですので、アトピー性皮膚炎等に応用される事もあります。
猪苓湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:40番】猪苓湯(ちょれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
牛車腎気丸(八味地黄丸、六味丸)
牛車腎気丸、八味地黄丸、六味丸は、共に補腎薬というカテゴリーで、老化防止や先天性発育異常に使われます。
処方中には水毒除きのお薬も入りますが、中でも牛車腎気丸に利水の生薬が一番入っていますので代表してご紹介致します。
八味地黄丸と六味丸には、茯苓と沢瀉の二つの生薬が入り、牛車腎気丸には更に車前子という生薬が入ります。
老化と共に水を処理する腎機能が衰えますので、それを助ける生薬が配されている訳です。
茯苓は水の巡りをよくし、沢瀉は身体全体の湿邪を動かして尿まで持ち込み、車前子でそれらの流れをスムーズにします。
各々、役割分担して効果を出している事が解ります。地黄等で腎を補いながら、水毒と瘀血を除く良い処方と言えます。
詳しい処方解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:107番】牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:7番】八味地黄丸(はちみじおうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
防己黄耆湯
防已黄耆湯は、昔から「水太りの漢方薬」として有名です。防已は勿論水をさばく生薬ですが、それ以外にも黄耆が皮膚の締まりを良くして皮膚の水毒を除く働きがあります。
色白で水太り、汗をよくかく方を目標に使用する事が多い処方です。
詳しい処方解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:20番】防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)の効果や副作用の解りやすい説明
竜胆瀉肝湯
竜胆瀉肝湯は、その名の通り「肝を瀉す(毒取り)」処方です。肝というと、真っ先に思い浮かぶのは肝気の鬱滞により熱を持つ「肝鬱」という状態です。
代表的な症状はイライラや不眠、易怒性となります。
この肝鬱の場合、肝気の流れを改善する柴胡という生薬を使うのがメインですが、肝気過多という状態の場合、竜胆を使用します。
そして、その肝気過多の場合、湿邪と余剰の肝気が結びついて湿熱という「熱を持った湿邪」になっている事があります。
その場合に竜胆瀉肝湯を使用し、その湿熱を排出する治療が行われます。
湿熱という邪の場合、水という眼に見えやすい毒の為、下焦にその症状が現れる事が多いです。逆に、陰部湿疹や膀胱炎等の症状がある場合、湿熱を疑う事が多くなります。
肝気過多が原因で湿熱が存在する場合、その所見にイライラや不眠等も出やすい為、そういう症状があれば竜胆瀉肝湯証を疑う事になります。
竜胆瀉肝湯の詳しい処方解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:76番】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
苓桂朮甘湯
苓桂朮甘湯は、眩暈の薬として有名です。胃に水毒があり、そこから逆上せを伴う眩暈が発生している場合に使用します。
四物湯と合わせて連珠飲という処方になり、現実にはこちらの方が合う方が多い印象です。
苓桂朮甘湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:39番】苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
苓姜朮甘湯
苓姜朮甘湯は苓桂朮甘湯と名前が似ていますが、全く性質の異なる処方です。
同じ水毒を除く漢方ですが、桂枝が乾姜に代わる事で腰回りの水毒を中心に除く働きが出ています。
また、この処方の場合は逆上せが無く顔が青白(青黒)く、腰の冷えや痛みを中心にだるさ等を伴うのがポイントです。
苓姜朮甘湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:118番】苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
九味檳榔湯
九味檳榔湯は「くみびんろうとう」と読みます。昔は脚気に用いていた処方になります。
この処方の中には厚朴が含まれており、胃の詰まりを温めながら除きます。
口臭が酷く、便通が良くなく、食べ過ぎ傾向の方に合います。
九味檳榔湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:311番】九味檳榔湯(くみびんろうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
木防已湯
木防已湯は、聞いた事の無い方も見えるのではないでしょうか。ですが、これは心不全の処方として昔から使われています。
石膏の水をさばく効果がここでは発揮され、肺の水毒を除いて心の負荷を下げます。
木防已湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:36番】木防已湯(もくぼういとう)の効果や副作用の解りやすい説明
排膿散及湯
排膿散及湯は、元々排膿散と排膿湯という別々に存在している処方の合方となります。
この処方の効果は、漢方の名前の通りで排膿となります。膿は、漢方医学の分類では湿熱の部類に入ります。
湿熱も水毒の一種ですので、それを身体から排出する処方と言えます。
排膿散及湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:122番】排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
桂枝加朮附湯(桂枝加苓朮附湯)
桂枝加朮附湯は、桂枝湯に蒼朮を足した処方になります。江戸時代の医師である吉益東洞先生の創方とされ、関節痛、頭痛、麻痺等に使用されていました。
基本骨格が桂枝湯ですので、逆上せがあって頭痛、発汗、皮膚表面は冷えているという所見があります。
また、桂枝加苓朮附湯は桂枝加朮附湯に茯苓を足した処方で、江戸時代末期の浅田宗伯先生が使われて著効したという話が今に伝わっています。
桂枝加朮附湯、桂枝加苓朮附湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:18番】桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:18番】桂枝加苓朮附湯(けいしかりょうじゅつぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
呉茱萸湯
呉茱萸湯は、胃の湿邪を温めながら去る乾燥剤である呉茱萸が入った処方となります。
胃が冷えて湿邪がある場合、片頭痛が起こる事が多く、本処方もそれに対する処方となっております。
呉茱萸湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:31番】呉茱萸湯(ごしゅゆとう)の効果や副作用の解りやすい説明
五淋散
五淋散は、五淋(ごりん)と呼ばれる5種類の泌尿器系の病気に使われた処方です。
膀胱炎等で、尿が濁ったり痛みがあったり、血が混じっている場合に使用されました。
竜胆瀉肝湯よりやや虚の場合に使います。
五淋散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:56番】五淋散(ごりんさん)の効果や副作用の解りやすい説明
小青竜湯(苓甘姜味辛夏仁湯)
小青竜湯は、花粉症やアレルギー性鼻炎の処方として有名です。肺を温めながら、上焦の水毒を除く処方です。
また、苓甘姜味辛夏仁湯は小青竜湯の虚の処方となります。
両処方共に、胃腸の調子が悪かったり、身体が冷えて来ると効きが悪くなります。注意しましょう。
小青竜湯、苓甘姜味辛夏仁湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:19番】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:119番】苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
小半夏加茯苓湯
小半夏加茯苓湯は、妊娠時のつわりに対する処方として有名です。胃の中の痰を中心とする水毒を除きます。
小半夏加茯苓湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:21番】小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
清心蓮子飲
清心蓮子飲は、心肺に熱があり、頻尿や膀胱炎等の泌尿器症状がある場合に使用します。
丁度、竜胆瀉肝湯に対して虚の関係があり、竜胆瀉肝湯が使えない場合に清心蓮子飲という使い方も想定出来ます。
清心蓮子飲の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:111番】清心蓮子飲(せいしんれんしいん)の効果や副作用の解りやすい説明
疎経活血湯
疎経活血湯は、足腰の痛みに対する処方として有名です。その原因は湿熱と瘀血があり、それらを除く事で患部を治します。
普段元気な方で、酒を飲んで足腰の痛みが出るもの、使い痛み等に使用します。
疎経活血湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:53番】疎経活血湯(そけいかっけつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
当帰芍薬散
当帰芍薬散は、女性の漢方の代表的な立ち位置の処方です。安胎作用があるとされ、産婦人科でも頻繁に使用されます。
本処方は、丁度、五苓散と四物湯を足して、そこから生薬を数種除いた様な構成となっています。ですので、女性が不足しがちな血を補いながら、余分な水を除く薬と言えます。
夢二美人に対する処方とされますが、私はどちらかというとふっくらとした顔の平安美人の様な方に合うと考えています。
当帰芍薬散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:23番】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の効果や副作用の解りやすい説明
二朮湯
二朮湯は、肩こり、四十肩等の薬として有名です。名前の通り、蒼朮と白朮の2つの生薬が入っています。
通常はどちらかの生薬だけですので、かなり珍しい処方となります。
二朮湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:88番】二朮湯(にじゅつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
二陳湯
二陳湯の二陳(にちん)とは、2つの種類の古い生薬を意味します。その生薬は半夏と陳皮で、両方、古い方が良いとされています。
胃に溜まっている痰を除き、動かす処方となります。
二陳湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:81番】二陳湯(にちんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
茯苓飲
茯苓飲は、処方名の通り茯苓が主体の処方で、胸苦しく食欲が無い場合に使用します。
よく半夏厚朴湯と合わせて使われます。
茯苓飲の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:69番】茯苓飲(ぶくりょういん)の効果や副作用の解りやすい説明
麻杏薏甘湯
麻杏薏甘湯は、湿気が原因で起こる関節痛等によく使われている処方です。
皮膚下の水毒を取る薏苡仁が配されています。麻黄も入りますので、胃腸の弱い方は使用出来ません。
麻杏薏甘湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:78番】麻杏薏甘湯(まきょうよくかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
薏苡仁湯
薏苡仁湯は、麻杏薏甘湯と並んで薏苡仁というハト麦が起原植物となる生薬が配される処方となります。
これも水毒除きで、昔からリウマチの処方として用いられてきました。
薏苡仁湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:52番】薏苡仁湯(よくいにんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
さいごに
今回は、水毒の治療についてご紹介しました。
水は、どうしても温める為に気を消費しますので、漢方医学の立場では基本的に除くものとして扱います。
ですので、水の動きをマスターする事はイコール水毒の治療をマスターする事に繋がります。
記事では色々と書きましたが、最初は簡単に「水毒は除く」位でも良いです。まずは使ってみて、感覚で捉えて頂くのが一番です。
本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。
臨床寄りの漢方資料
実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。
現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。
後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。
調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。
「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。
【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。
漢方の勉強方法について
以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。