ポイント
この記事では、胃苓湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、胃苓湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、胃苓湯という漢方薬が出ています。このお薬は、飲み会等で胃腸に負担がかかって調子が悪い場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、消化を助けて調子を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、胃苓湯という漢方薬が出ています。このお薬は、飲み会等で胃腸に負担がかかって調子が悪い場合によく使われるお薬です。
特に、胃が冷えて動きが悪くなっている方に使われる漢方薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、消化を助けて身体の余分な水分を除いて調子を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
冷え
添付文書(ツムラ115番)
ツムラ胃苓湯(外部リンク)
http://www.info.pmda.go.jp/go/pdf/460026_5200002D1036_1_08
胃苓湯についての漢方医学的説明
生薬構成
厚朴2.5、蒼朮2.5、沢瀉2.5、猪苓2.5、陳皮2.5、白朮2.5、茯苓2.5、桂皮2、 生姜1.5、大棗1.5、甘草1
出典
万病回春
条文(書き下し)
「中暑(ちゅうしょ:暑気あたり)、傷湿、停飲、夾食(きょうしょく:食滞)、脾胃不和、腹痛洩瀉、渇を作し、小便利せず、 水穀化せず、陰陽分かたざるを治す。」
条文(現代語訳)
「暑さ負けで湿邪にやられ、水毒があり、食滞があり、胃腸の状態が悪く、腹痛があり下痢をして、喉は乾き、小便は出にくく、 食事したものは消化されず栄養にならないものを治す。」
解説
今回は、胃苓湯の処方解説になります。この処方は、一般的に胃腸炎、暑気あたり、吐き下し等に使われています。
また、お酒を飲み過ぎた後の体調不良等にも使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、要約しますと「暑邪、食滞、湿邪等による胃腸の詰まりを原因とする消化不良に使用する。」という事です。
この条文だと平胃散とかなり被りますので、使い所に迷う事になりますね。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬はそれぞれ、
胃を温め食滞を消す:厚朴
健胃:蒼朮、白朮、陳皮、生姜
利水:沢瀉、茯苓、猪苓
気を巡らす:桂皮
緩和、分散:大棗、甘草
の様になります。この処方は、平胃散と五苓散の合方で、その目標はやはり厚朴剤という所がポイントです。
胃は冷えているが、動きが悪くて食滞や水滞が起こっている状態に厚朴は使われますので、本処方は構成生薬と条文がきちんとリンクしている事が解ります。
平胃散は「食べ過ぎ処方」と言われ、普段からよく食べる人に使われます。
その効能はそのままに、追加して五苓散証の様な水の処理不良と気が逆上せる状態が胃苓湯証になります。
ですので、平胃散との鑑別が殊更難しい処方であるとも言えます。
まとめますと、胃苓湯は「普段より食べ過ぎ傾向の方の食べ過ぎや飲み過ぎによる胃腸症状に対する処方で、頬が桜色や喉の渇きという症状のあるものが目標」と言えます。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合は不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
胃苓湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに五苓散、平胃散、黄連解毒湯、柴苓湯、清暑益気湯があります。それぞれについて解説していきます。
五苓散
胃苓湯は平胃散と五苓散の合方であり、鑑別対象となります。
五苓散は、水を飲んですぐ吐いてしまう吐き戻しの処方で、気の逆上せや頭痛があるのが特徴となります。
しかし、平胃散にある様な、食べ過ぎ傾向、よく喋る等の厚朴の証はありませんので、そこで鑑別が可能となります。
【漢方:17番】五苓散(ごれいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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平胃散
胃苓湯は平胃散と五苓散の合方であり、鑑別対象となります。
平胃散は食べ過ぎに対する処方になり、非常によく喋る、頑固等の所見が有ります。
胃苓湯にも同じ所見が有りますが、胃苓湯には逆上せと水滞の五苓散が配されていますので、桂枝の証(頬が桜色、頭痛発熱)等が有ります。
平胃散には、その様な症状はありませんので、その点で鑑別が可能となります。飲み会等の後には胃苓湯の方が良い場合があります。桂枝の証の有無を慎重に判断していきます。
【漢方:79番】平胃散(へいいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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黄連解毒湯
胃苓湯と黄連解毒湯は、共に飲み会後に使用される処方であり、鑑別対象となります。
黄連解毒湯の条文には、病み上がりで体調不良の武将が酒を飲んでもだえ苦しんだ時に作って飲んだ、という記述があります。
この条文のポイントは「武将」という部分で、この時代の武将というのは基本的にイライラして血気盛んな方が多いです。
ですので、酒毒が火に変わって身体にダメージが入った場合に黄連解毒湯を使用する、という意味になります。
この胃苓湯には厚朴が入っており、胃腸は逆に冷えている事が解ります(胃苓湯に黄芩・黄連・黄柏等の清熱剤は入っていません)。
ですので、身体は熱を表す赤みが身体の中心に無く、桂枝の存在から逆上せ症状(頬が桜色)がある事が解ります。
黄連解毒湯の場合は、全身が赤黒く、顔も赤黒くもだえ苦しむような感じになりますので、そもそも見た目からして違う事が解ります。
この様な部分で鑑別が可能です。
【漢方:15番】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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柴苓湯
胃苓湯と柴苓湯はどちらも胃腸炎等に使用する処方であり、鑑別対象となります。
柴苓湯は小柴胡湯と五苓散の合方であり、その為肝気の詰まり(胸脇苦満、目つきの鋭さ、イライラしがち等)がその所見にあります。
逆に、小柴胡湯は胃腸の弱い方用の処方になりますので、胃苓湯の様に食べ過ぎ傾向ではありません(どちらかと言うと食が細い)。
それら2つの所見の差が、鑑別ポイントとなります。
【漢方:114番】柴苓湯(さいれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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清暑益気湯
胃苓湯と清暑益気湯は、共に暑気あたりの胃腸障害に使用する処方であり、鑑別対象となります。
清暑益気湯は補脾の処方であり、どちらかと言うと食欲は無い気虚の方に使用します。逆に、胃苓湯は、平胃散と同じ様に食べ過ぎの方に使用します。
また、清暑益気湯には麦門冬が含まれており、唇や皮膚粘膜等の乾燥があります。胃苓湯にはその所見はありません。
食欲の有無、皮膚粘膜の乾燥等で、これらの処方は鑑別が出来ます。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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