ポイント
この記事では、茯苓飲についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。本記事は、茯苓飲についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、茯苓飲という漢方薬が出ています。このお薬は、胸苦しく食欲がない場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は、胸苦しさを取って、食欲を回復させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えてしまうと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、茯苓飲という漢方薬が出ています。このお薬は、胸苦しく食欲がない場合によく使われるお薬です。
昔は水を吐いたりするのにも、よく使われていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
よく半夏厚朴湯と合わせて出る事が多いのですが、こちらだけの方が良いと判断されたみたいですね。
このお薬は、胸苦しさを取って、食欲を回復させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えてしまうと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
冷え
添付文書(ツムラ69番)
ツムラ茯苓飲(外部リンク)
茯苓飲についての漢方医学的説明
生薬構成
茯苓5、蒼朮4、陳皮3、人参3、枳実1.5、生姜1
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「心胸中に停痰宿水あり、自ら水を吐出して後、心胸間虚気満ち、食すること能わざるを治す。痰気を消し能く食せしむ。」
条文(現代語訳)
「心胸(心を中心とした胸部に痰が滞り)中に水毒があり、自ら水を吐いた後、心胸の辺りに虚気が満ち、食べられなくなる。痰と邪気を消して食欲を回復させます。」
解説
今回は、茯苓飲の解説になります。本処方は、あまり見る機会が無いと思います。私は、漢方を勉強されている先生しか使われない様なイメージがあります。
また、半夏厚朴湯と合わせて茯苓飲合半夏厚朴湯(漢方116番:ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)という処方になりますので、そちらの処方でなじみがあるのではないでしょうか。
一般的には、胃の上辺り、心下部に邪気が詰まり、それが原因で水が停滞して食欲不振になっているものに使用します。
まず、条文を見ていきます。条文は、傷寒論・金匱要略の他処方と同じ様に、短く要点のみの文章となります。
要約しますと、「心を中心とする胸中に邪気と痰、水滞があるものに使用すると、それらが消えて食欲が回復する。」となります。
次に構成生薬を見ていきます。構成生薬を分類分けしますと、
利水:茯苓、蒼朮
破気・行気:陳皮、枳実
健胃健脾:蒼朮、陳皮、人参、生姜
の様になります。ポイントは、処方名にもなっている茯苓で、とにかく水を動かして除くという働きになります。
また、破気の枳実が入っており、水が停止して動かないのは、邪気が胸部に詰まっている事を表しています。
構成生薬には半夏が入っておりませんので、条文で言われる痰というのはこの邪気の詰まりによって起こされている水滞という事が解ります。
さて、この処方で気になるのは「補剤か瀉剤のどちらだろうか?」という事です。
一部書籍には「四君子湯の変方」と書いてありますが、条文からすると茯苓飲は邪気の詰まりと水滞を除く訳ですので瀉剤になります。
ですので、同じ瀉剤である半夏厚朴湯と相性が良く、茯苓飲合半夏厚朴湯という合方が存在するという訳です。
【漢方:16番】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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構成生薬中に健胃健脾の生薬は入っていますが、それらはメインではなくサポートというイメージです。
気が詰まっているので顔つきは固く、食欲も少ないのでどちらかというと痩せている方に多い印象です。
以上をまとめますと、茯苓飲は「痩せて固い顔つきをしている方で、水を吐く位、胃に水が溜まり、食欲が無い方」に対する処方となります。
個人的なイメージですが、「初老で有能な、痩せた男性執事」の様な感じです。
本処方は、著しい裏寒や脾虚があった場合は不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
茯苓飲と他処方との鑑別ですが、代表的なものに四君子湯と半夏厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯があります。それぞれについて解説していきます。
四君子湯
茯苓飲と四君子湯は、同じ様に食欲が無い場合が多い為、鑑別対象です。茯苓飲が瀉剤としますと四君子湯は補剤であり、ある意味対極に位置する方剤と言えます。
茯苓飲は、上の解説で書かせていただいた様に「胸苦しさや水を吐く、硬い顔つき」と言った水や気の詰まりがあります。
逆に四君子湯は、脾胃の力自体が無い為に食欲が無く、気力が出ず、目に力が無くやせ細っています。
茯苓飲の様に、硬い顔つきではありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
半夏厚朴湯
茯苓飲と半夏厚朴湯は同じ脾胃に対する瀉剤となりますが、水毒の性質に差があります。
茯苓飲は、脾胃から水を除く為に朮が使われます。サラサラとした漿液性の水毒を除くという目的です。
逆に、半夏厚朴湯は水毒を除く為に半夏が使われています。これは、水毒の性質が粘性の強い事を意味しています。
また、半夏厚朴湯は食滞があり、食べ過ぎ(胃の詰まり)、咽中炙臠(いんちゅうしゃれん:炙った小さい肉が喉にある感じ)等があり、それが原因で咳こむ場合もあります。
更に、蘇葉が入っている為、気鬱症状もあります。茯苓飲にはその様な症状はありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯
茯苓飲と茯苓飲合半夏厚朴湯は同じ証を含む為、その鑑別は紙一重になる場合があります。
茯苓飲合半夏厚朴湯は、胃の食滞や水滞、痰の全てがある場合に用いる事が出来、非常に応用範囲の広い処方になります。
咳や咽中炙臠がある半夏厚朴湯証で、水も多く飲む場合に用いると非常によく効いてきます。
どちらかというと、「半夏厚朴湯と茯苓飲の合方。」と考えるよりは、「半夏厚朴湯に茯苓飲という水滞を除く処方を追加した。」と考えた方が運用しやすい処方となります。
ですので、半夏厚朴湯証の所見があるかどうかで茯苓飲との鑑別が可能となります。
臨床現場では茯苓飲合半夏厚朴湯の方が多いので、迷った場合は合剤の方が無難です。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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