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漢方薬の解りやすい説明

【漢方:36番】木防已湯(もくぼういとう)の効果や副作用の解りやすい説明

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ポイント

この記事では、木防已湯についての次の事が解ります。

・患者さんへの説明方法、副作用や注意点

・出典(条文)、生薬構成

・詳しい解説、他処方との鑑別

「名古屋漢方.com」のムセキです。

本記事は、木防已湯についての解説記事になります。

最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料としてご活用頂ければ幸いです。

ムセキ
よろしくお願いしますm(_ _)m

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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明

ムセキ
私が普段行う説明を書いています。

一般的な説明

今日は木防已湯という漢方薬が出ています。

このお薬は、昔、心不全に使われた薬です。それ以外にも、胸に水が溜まったりする症状全般に使われます。

先生は、お困りの〇〇という症状にはこの漢方が効くと思われて出されています。一度、お試しください。

このお薬は身体が冷えてきたり、胃腸の調子が悪いと効きが悪くなります。規則正しい生活を送って、身体が冷えないよう注意してください。

漢方医処方の場合の説明

今日は木防已湯という漢方薬が出ています。このお薬は、昔、心不全に使われた薬です。

肺の水を抜いて、胃腸を良くして心臓の力を補う処方です。今はそこまで使われる処方ではありませんが、胸に水が溜まったりする症状全般に使われます。

先生は、お困りの〇〇という症状にはこの漢方が効くと思われて出されています。一度、お試しください。

このお薬は身体が冷えてきたり、胃腸の調子が悪いと効きが悪くなります。規則正しい生活を送って、身体が冷えないよう注意してください。

主な注意点、副作用等

アナフィラキシー

発疹、発赤、そう痒等

食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等

冷え

添付文書(ツムラ36番)

ツムラ木防已湯(外部リンク)

ムセキ
ここから下はゆっくりと読んで頂ければと思いますm(_ _)m

木防已湯についての漢方医学的説明

ムセキ
専門家向けの内容です。

生薬構成

(木)防已4、石膏10、桂枝3、人参3

出典

金匱要略

条文(書き下し)

「膈間支飲(かくかんしいん),其の人喘満(ぜんまん)。心下痞堅(しんかひけん)。面色黎黒(めんしょくれいこく)。其の脈沈緊。之を得て数十日。醫(い)之を吐下して愈(い)えざるは,木防已湯之を主る」

条文(現代語訳)

「胸の間の水分貯留で、その人は息苦しい状態にある。みぞおちが固く痞(つか)え、顔色がどす黒く、その脈は沈緊である。その状態になり、数十日。医者がこれを吐き下す治療をして治らないものは木防已湯で治ります。」

解説

木防已湯は金匱要略に記載されており、心不全に使われたと言われる処方です。

条文を見てみますと、「胸に水分が溜まって息苦しく、心下痞堅があり、顔色がどす黒い」とあります。

これは、心不全(恐らく左心不全)が起こり、肺うっ血が起こった状態だと思われます。

肺胞に血漿が染み出てきますので、ガス交換が出来ず、また、全身循環系の血流が滞りますので、チアノーゼが起こります。

条文には、この状態が記されているのだと思われます。次に、生薬構成を見ていきます。

木防已湯には、石膏・(木)防已・人参・桂枝が配されていますが、そのうち石膏・(木)防已で肺の熱水(熱飲)の処理を、桂枝と人参は心肺のそれぞれの働きを助けているものと考えられます。

これだけだとよく解りませんので、もう少し詳しく見ていきます。

まず(木)防已ですが、現在のエキス製剤は木防已ではなく、防已を使用しています。

木防已はツヅラフジ科アオツヅラフジの根で、防已は同科のオオツヅラフジの根になりますので、本来の生薬ではありません。

本来の生薬が使われなくなった理由は調べきれませんでしたが、木防已湯で木防已が選ばれた理由は、恐らく防已より木防已の方が肺の裏に作用するためと考えられます(防已は肺の表である肌に作用)。

只、これは指向性の問題でして、防已でもある程度は同じような効果もあるのでエキス剤で選ばれたのでしょう。

次は、問題の石膏です。これは白虎加人参湯と同じく肺の熱を取る為だと思われますが、今回の処方の場合は肺の水抜き剤として使用されています。

白虎加人参湯に入っている石膏は、熱燥に使用して肺を潤わせていたのを考えると対照的だと言えます。

これは石膏の働き方は条件によって変化する事を表しています。

石膏は、体内では硫酸カルシウムイオンとして存在します。言い換えますと、血中のカルシウムイオン濃度が上昇する訳でして、血液の浸透圧が上昇すると言えます。

そして、組織と血液の浸透圧差を利用して水分調整を行います。

肺のガス交換において、そのガス交換時に気化熱として主に心臓から出る熱を排出しています。

言わば肺という臓器はバイクのエンジンの様に空冷装置としての機能もありますが、この空冷装置は適度に濡れていないとその機能を発揮しない仕組みとなっています(気化熱が発生しない為)。

日射病・熱射病の場合は、「特に」肺胞内が渇いてその組織内浸透圧が上昇しています。

そうしますと、白虎加人参湯を投与した際に、石膏は他組織から水を引っ張り、肺胞の浸透圧を下げます(浸透圧:肺>血液>他組織)。

肺胞を潤わす事で気化熱の発生を回復させ、心の熱を排出して経の機能を回復させます。

他方、木防已湯は、肺に熱水(熱飲)が溜まっている状態で、肺胞の浸透圧は低下しています(浸透圧:血液>組織≧肺)。

ですので、血液中の浸透圧を下げる為にカルシウムイオンの排出が起こりますので、腎膀胱から水は排出されます。

石膏が「水を呼ぶ生薬であり、水抜き生薬である。」と言われているのは、条件によって働きが変わってくるから、という訳になります。

また、桂枝は表を温める生薬ですが、「表を温める」という事は心肺機能を高める、という事になります。木防已湯の場合は、肺からの水抜きと心機能の賦活(ふかつ)両方の効果を狙っているものと思われます。

ちなみに、麻黄も桂枝も心肺両方に効いてきますが、私の感覚では麻黄は肺に、桂枝は心の機能を高めるような印象を持っています。

人参は、木防已湯の他の生薬を下支えしています。また、処方中に甘草と大棗は入っておりませんが、甘草は使用しますと水分貯留傾向になるという理由で、また、大棗は効能が分散されてしまう、という理由で入っていないものと考えられます。

鑑別

木防已湯と他の処方との鑑別ですが、真武湯と柴胡剤が対象になります。

真武湯

真武湯は、身体を温めながら余分な水を尿として排出する働きがあります。ですので、結局の所、心負荷が減って心不全等を軽減します。

しかし、その性質が熱薬の為、急性期には使わず慢性期に使用します。

ですので、木防已湯は心不全の急性・亜急性期、真武湯は慢性期に使うという使い分けが出来ます。

身体の冷えの程度からも、それが鑑別出来ます。

柴胡剤

柴胡剤に関してはシンプルで、胸脇苦満と心下痞堅の所見を間違えるというものです。

似た様な位置が詰まるので、間違えて胸脇苦満と取って柴胡剤を与えてしまう事があります。

お読み頂きありがとうございます。

ムセキ
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