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血虚の治療について

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血虚の治療について

血虚の治療について

ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。

本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。

今日は、血虚の治療について、詳しくご紹介します。

「血虚って具体的に何?治療はどうするの?」

って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。血虚というと、血液を思い出しがちですが、そうではなく漢方で言う血虚はもっと範囲が広いんですよね。

ですので、まずは定義をしっかりとご紹介し、その後、実際の治療についてお話していきます。

簡単にご紹介しますと、血虚という状態は「全身の血液や組織の栄養不良、機能不全」になります。解りやすい例として貧血があります。

鉄欠乏をはじめとする様々な原因で、血液中の赤血球の機能不全が起こってきます。

漢方で言う血虚は、その概念をもっと拡大したもので、何かしらの酵素反応が上手く行かない、逆にブレーキが効いていない、等の異常も血虚と判断する事があります。

また、単純に生理出血等による血液量の不足も血虚と言ったり、皮膚のガサガサや色艶の悪さも血虚とする場合がありますので、その概念はかなり曖昧なものと言えます。

ざっくりと、「血や組織に関する虚」という認識でも問題ないのではないでしょうか。

血虚と言うと、婦人病をはじめとする女性の病気と思われるかもしれませんが、実は男性にも血虚の状態は多く存在します。その辺りもご紹介していきます。

しっかりとこの病態を把握する事で、患者さんお客さんに喜んで頂けます。本記事が、その手助けになれば幸いです。

本記事は、以下の構成になっています。

血虚とはなにか?

気虚と脾虚と血虚

血虚と腎虚の違い

血虚の種類

血虚の治療

無理そうなら一つ前段階の治療に戻る

継続的な治療には、血虚の概念が必須です。是非是非、マスターしたい所ですね。

本記事が、その助けになれば幸いです。どうぞ、ご覧ください。

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血虚とはなにか?

ムセキ
血虚とは、血液や組織の虚状全てを指します。

血虚は、単に血液量の不足という事だけではなく、身体組織自体の不足や栄養不良や、疫系の異常、血液成分の虚状も指します。

単に貧血や生理出血での失血等だけを指す言葉ではありません。生理的に女性の方が血虚になりやすいのですが、男性も血虚になります。

また、血虚というのは、気虚と違って「持続的な虚状」を指す場合があります。

それは体格に現れる事が多く、血虚の場合は「この方、持続力をもう少しつけたいなあ。」と思う様な方がそれに当たります。

更に、精神的に抑鬱傾向の方が多いです。これは上焦にある心の血虚が関係しています(「血虚と腎虚の違い」の見出しで詳しくご紹介します)。

脾虚や裏寒は軽度か無く、がっしりとした体格の方で食欲は無く、皮膚の色艶が悪くて抑鬱傾向、「養生的な栄養剤を飲んだら良いのに。」と思うような方が適応となります。

血虚の治療が出来るまで身体が回復すると、その処方中に瀉剤を入れる事が出来るようになります。

ですので、四物湯を出発点として様々なバリエーションがあります。そのバリエーションを覚えると、処方の選択幅がグッと増えます。

血虚のバリエーションに関しては、本記事の下部で詳しくご紹介致します。

気虚と脾虚と血虚

ムセキ
気虚や脾虚が甚だしい場合、大体血虚に陥っています。

血虚は、気虚や脾虚が甚だしい場合でも起こります。つまり、胃腸の虚状が激しい所から血虚が起こるという訳です。

気虚≒脾虚と考えてよく、詰まる所胃腸の調子が悪いと元気が出ない、身体を動かすエネルギーが不足してしまいます。

この場合、地黄や当帰の入った通常の補気剤や気血両補剤は使用出来ません。

実際、この手の失敗は非常に多く、脾虚の甚だしい方に気血両補剤や補血剤を出して失敗している例をよく見ます。

この場合、四君子湯等の補脾剤を与えると、胃腸が整って血虚も改善してきます。

これは私だけの理論ではなく、矢数道明先生も同様の事を仰っています(臨床応用 漢方処方解説の四君子湯の項目参照)。

血虚と腎虚の違い

ムセキ
腎虚の治療には、基本的に地黄以外の四物湯の生薬は入りません。

血虚と腎虚はよく混同されがちです。ですが、血虚と腎虚には明確な差があります。これは語句の組み合わせの違いも関係していて、その辺りを整理しておく必要があります。

漢方医学における肝の働きとして「蔵血」というものがあります。これは、肝が血を貯蔵しているという事です。

肝の支配下には筋があります。筋肉全般が肝の支配下であり、その筋肉には血を多量に含みます。

また、肝臓そのものも血を非常に含む為、肝の働きとしての「蔵血」という作用は納得できるのではないでしょうか。

その肝の血が足りなくなると、もう一つの肝の作用である疏泄作用により、全身へ運ばれる血の量が減少します。

特に血は有形ですので、下半身に充足しやすく上半身が足りなくなりがちです。肝血が不足すると、続発的に心肺の血虚が起こって来るという訳です。

そうしますと、少し上で振れた通り、心血虚が起こって心の喜びの機能が低下して抑鬱傾向になります。

次は腎虚についてお話します。本記事は、腎虚の記事ではありませんので簡単に済ませます。

腎虚というのは、腎精の虚を指します。腎にある「精」という物質の虚である、という事です。語句の組み合わせの違いというのはこの部分がポイントになります。

普通、血虚に対応する言葉としては精虚という言葉が当てはまるはずですが、何故か腎虚という言葉がスタンダードになっています。

精というのは「先天の精」の事で、身体内部の根源的な気とされています。遺伝子も精に当たりますね。

老化に伴い遺伝子のテロメアが短くなっていきますが、それを古代人は腎精が虚していく、と表現した訳です。

腎は下半身の要の臓器であり、肝の様に全身に色々なものを到達させる働きではなく下支えの働きを持ちます。この下支えの働きが虚していくのが、腎精の虚である腎虚という訳です。

恐らく、この言葉の取り違えが血虚と腎虚の混同の一つの原因になっているのではないでしょうか。

血虚の種類

ムセキ
血虚の原因や状態で、色々と種類が分かれます。

血虚を引き起こす原因は色々とあります。また、血虚だけではなく他の異常を兼ねる場合もあります。この見出しでは、臨床上重要な血虚について分類していきます。

漢方処方によってはこれらの分類を複数兼ねるものがありますので、血虚の治療を行う上でマスター必須です。

つまり、血虚の治療をする際には、その周辺の病態把握もする必要があるという事になります。

代表的な血虚の種類には、以下の様なものがあります。

脾虚から来る血虚

裏寒を兼ねる血虚

脾虚(≒気虚)と血虚を兼ねるもの

腎精の虚を兼ねる血虚

腎精の虚を考えない血虚

瘀血を兼ねる血虚

湿熱や肝鬱を兼ねる血虚

裏熱を兼ねる血虚

水滞を兼ねる血虚

温病を兼ねる血虚

それぞれ、ご紹介していきます。

脾虚から来る血虚

上でも少し触れましたが、脾虚が甚だしい場合には血虚の所見が現れる事があります。つまり、貧血や皮膚の色艶が悪い、月経不順等の症状ですね。

この場合、それらの症状に囚われると気血両補剤や鉄剤を選択しがちですが、それをしても効果が無いどころか脾虚や冷えを悪化させてしまう事もあります。

正しい選択は、補脾剤です。代表的なものは四君子湯ですね。併せて、「栄養のある食べ物を摂取」ではなく「消化に良いものを無理ない量食べる」という事をお話します。

そうしますと、脾虚が改善すると共に血虚の所見も改善していきます。地黄や当帰、芍薬といった生薬は、脾虚が甚だしい場合には使用出来ませんので注意が必要です。

脾虚の治療に関しては、以下の記事をご参考下さい。

脾虚の見分け方と漢方治療
脾虚の見分け方と漢方治療について

裏寒を兼ねる血虚

裏寒というのは身体内部の冷えの事です。身体内部の冷えがあると、身体の新陳代謝自体が落ちて身体がだるくなってきます。

裏寒の他には食欲に問題が無く体つきもがっしりしていて血虚だけがある場合、補血剤に真武湯等の温裏剤を追加で加えます。

そうしますと、単剤で使うよりも効果が良い場合が多いです。もし温裏剤が無ければ、足湯やレッグウォーマーで足首を温めると良いでしょう。

裏寒の治療に関しては、以下の記事にて詳しく説明しています。どうぞご覧ください。

身体内部の冷え(裏寒)の解消方法
漢方入門。臨床第一歩目は身体内部の冷え(裏寒)の解消方法を学ぼう!

脾虚(≒気虚)と血虚を兼ねるもの

上でご紹介した「脾虚から来る血虚」ではなく、脾虚と血虚を兼ねる病態もあります。一般的には気血両虚と呼ばれます。

気血両虚の場合は、補脾剤と補血剤を合わせた気血両補剤が使われます。元気な方が「ちょっと疲れた」時の処方と認識しておくと上手く運用出来ます。

脾虚が甚だしい場合は脾虚の治療を先ず行ってから気血両虚の治療をすると上手く行きます。

気血両虚の治療に関しては、以下の記事をご参考下さい。

気血両虚の治療について
気血両虚の治療について

腎精の虚を兼ねる血虚

「腎精の虚を兼ねる血虚」は、血虚の中でもメインの扱いになります。腎精を補う生薬は地黄、それを血と変化させて全身にばらまく生薬として当帰、芍薬、川芎が使われます。

つまり、この血虚は四物湯の加減方が使われます。単に血虚と言う場合、「腎精の虚を兼ねる血虚」を指す事が多いですね。

胃腸虚弱ではなく、体格もがっしりとしていて血虚の所見だけあるのが特徴です。

腎精の虚を考えない血虚

腎精の虚を考えない血虚というのは、簡単に言ってしまいますと「地黄を使わず当帰のみを使用する病態」を指します。

血を補う為には腎精を補う地黄が入るのが一番ですが、胃腸虚弱や腎精に問題が無い等、地黄が不適になる場合も多々あります。

その場合、軽く当帰を使って血の流れを良くする事で、血虚をケアする事が出来ます。

瘀血を兼ねる血虚

瘀血というのは、正常に働かない血の事を指します。漢方医学の範疇の血は、血液のみならず組織全般も含めています。ですので、固形の癌や白血病等の血液の癌も瘀血と捉えます。

瘀血を除く生薬は多数あります。代表的なものには牡丹皮があります。牡丹皮が配合されているかどうかで、その処方が瘀血を標的にしているかどうか、というのが解りますね。

牡丹皮の他にも、大黄や桃仁、芒硝、紅花、蘇木等が駆瘀血の生薬になりますので、その辺りの生薬が配されていたら瘀血の処理について考えていると思った方が良いでしょう。

瘀血は唇が紫色、舌下静脈の怒張、下腹部の張り、便秘等を伴います。その辺りの所見を見ながら瘀血の有無を見極めていきます。

湿熱や肝鬱を兼ねる血虚

湿熱や肝鬱を兼ねる血虚というのは、肝熱を瀉す生薬群が組み合わさっている処方で改善する病態を指します。

湿熱というのは、粘り気のある湿邪が熱を持った状態で、右下腹部から右大腿部の滞りを生みます。その滞りは熱性である為、結果、肝の熱として所見が現れてきます。

肝鬱というのは、ストレス等の邪気が怒りとして溜まり、肝に熱を持った少陽病の状態を指します。

肝に熱を持ち、かつ血虚の状態にあるというのは、どちらかというと男性に多い印象ですね。まあ、女性にもたまにその証はありますが。。。

裏熱を兼ねる血虚

裏熱を兼ねる血虚というのも存在します。四物湯に芩連剤や猪苓湯等が入った処方がそれに当たります。

この場合、血虚というより熱を瀉す事を優先し、血虚は補助に回るような印象ですね。

水滞を兼ねる血虚

水滞を兼ねる血虚は、血虚を共に胃内停水や身体に何らかの湿邪が溜まった状態になります。ですので、水を除きながら補血するという考え方になります。

補血剤と利水剤が同時に配されていたら、その様なものを目的とした処方と見る事が出来ます。

水滞を伴う血虚の場合は、その症状がそれぞれの処方に独特のものである事が多いです。その処方が標的としている証を把握する様にしましょう。

温病を兼ねる血虚

温病を兼ねる血虚は、傷陰と言って身体が熱を持って乾燥しやすく、ややこしい病態になりがちです。

現代で増えているアトピー性皮膚炎も、この温病を兼ねる血虚の治療をすると良くなるパターンがあります。

肌の色艶が悪く、ガサガサしている上に熱を持って炎症になっているものは、この証を疑っても良いかもしれません。

使用条件も厳しいので、各処方の適応を頭に入れて対応します。

血虚の治療

ムセキ
上の見出し「血虚の種類」を絡めながら、治療についてご紹介していきます。

血虚の治療に使われる処方は数多くあります。そのうち、臨床上よく使われるものをピックアップしてご紹介していきます。

基本的には、血虚の所見(貧血、肌の色艶が悪い、婦人病、抑鬱気味)が複数当てはまった場合に血虚を疑います。

患者さんの気力体力も併せて証決定し、適切な処方を選びたいものですね。血虚によく使われる処方には、以下のものがあります。

四君子湯

四物湯

当帰芍薬散

当帰建中湯

当帰四逆加呉茱萸生姜湯

芎帰膠艾湯

温経湯

芎帰調血飲

女神散

加味逍遥散

連珠飲

帰脾湯

加味帰脾湯

十全大補湯

人参養栄湯

温清飲

竜胆瀉肝湯

荊芥連翹湯

当帰飲子

炙甘草湯

補中益気湯

清暑益気湯

苓姜朮甘湯

補血剤+真武湯

まだまだ他に補血の処方は存在しますが、基礎的なものとして上記の処方を挙げています。それぞれご紹介していきます。

四君子湯

四君子湯というと脾虚・気虚の処方というイメージの方が多いです。

ですが、上の「脾虚から来る血虚」でもお話した通り、衰弱して脾虚が甚だしい場合は脾虚を治す事で血虚の治療になります。

この事は私が実際にそれで妊婦の貧血を治したことがあるからです。この場合、気血両補剤を与えると反って胃腸の虚を助長させてしまい、逆効果になります。

実際に治療した経験があるので、「病態に合った漢方を使わないといけないなあ。」と心の底から思いました。

大塚敬節先生も仰っている通り、「シンプルな処方での治療」というのは本当に大事です。

四君子湯と脾虚の治療については、以下の2つの記事で詳しくご紹介しています。是非ご覧ください。

四君子湯
【漢方:75番】四君子湯(しくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
脾虚の見分け方と漢方治療
脾虚の見分け方と漢方治療について

四物湯

四物湯は血虚の聖剤と言われ、様々な血虚の処方の基本処方となっています。胃腸が丈夫で、逆上せのないもので、抑鬱傾向、皮膚の色艶が悪い方に適応します。

また、四物湯が補血剤の始まりの様に思いますが、実は芎帰膠艾湯の方が先に作られています。

たまに「四物湯に生薬を足したものが芎帰膠艾湯」とされていますが、それは正しくありませんので注意しましょう。

それはこの例に限った事ではなく、八味丸と六味丸や、五苓散や四苓湯等にも見られます。

四物湯は以下の記事にて詳しく紹介しています。どうぞご覧ください。

四物湯
【漢方:71番】四物湯(しもつとう)の効果や副作用の解りやすい説明

当帰芍薬散

当帰芍薬散は、よく「美人さんの薬」と評されています。ですが、よく処方を見てみますと「胃腸の虚状が無く、水を除く生薬が多量に含まれている」という事が解ります。

こういう、浮腫んだ顔つきの美人の女性は・・・?と考えると、現代的な美人さんではありませんよね。

この様な処方が合う方というのは昔の美人さんです。即ち、平安美人と呼ばれる方になります。

当帰芍薬散を「平安美人の様なふっくらした昔の美人」を目標として投与すると、非常によく効いてきます。一度お試し下さい。

当帰芍薬散については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。

【漢方:23番】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の効果や副作用の解りやすい説明

当帰建中湯(帰耆建中湯)

当帰芍薬散の陰に隠れていますが、当帰建中湯は現代女性にとって非常に重要な処方です。

当帰建中湯は、手のひらに熱を持ったり発汗があり、両腹直筋が固くなっている状態で、皮膚の色艶が悪い等の血虚が存在する場合に使います。

よくテレビで出てくるモデルさんの様な美人さんやアイドルは、当帰建中湯証が多いですね。

丁度、当帰芍薬散が昔の平安美人とすると、当帰建中湯はほっそりとした現代的な美人さんの薬に当たります。

当帰建中湯と黄耆建中湯を合わせた帰耆建中湯も、この目標がその証決定に入ります。

当帰建中湯と帰耆建中湯を比べると、帰耆建中湯の方が逆上せが強く気虚の所見がより多く見られます。

当帰建中湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。

当帰建中湯
【漢方:123番】当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

当帰四逆加呉茱萸生姜湯

当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、元々当帰四逆湯という名前の漢方処方があり、それに生薬の呉茱萸と生姜が入った湯という事です。厥陰病の薬として有名です。

色々と生薬が入っていて、身体を温めるのは解りますがどう温めていてどこがポイントなのかよく解らない方が多く見えます。

簡単に言いますと、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は「当帰の薬効を最大限に発揮させる構成」の処方です。当帰の薬効は血を温めて全身に散布するのを助ける薬です。

その後押しをするのが、その他の呉茱萸や生姜、桂皮等の生薬になります。ですので、一言で言うと「血を温めて動かす処方」となります。

しもやけやあかぎれによく効いてくるのも、この効果によるものです。

ちなみに、四逆というのは冷え逆上せの事です。ですので、この処方が合う方は「顔が真っ赤で手足が冷える」といった所見が有ります。

これを目標にしもやけやあかぎれに使っていきたいですね。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:38番】当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

芎帰膠艾湯

芎帰膠艾湯は、四物湯に生薬を足したものという認識をされている方がお見えですが、歴史的には四物湯より先に作られています。

本処方は金匱要略出典ですので、恐らく本処方を元に生薬を去って四物湯を作ったと推測されます。

芎帰膠艾湯は、逆上せは無く気力体力があるがっしりした方で、肌の色艶が悪く抑鬱傾向の言動があり、不正出血等があるものを目標に使用します。

艾葉、阿膠で血の巡りも良くなりますので、私自身は四物湯単剤よりこちらの方が使いやすい印象です。

芎帰膠艾湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

芎帰膠艾湯
【漢方:77番】芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

温経湯

温経湯は、瘀血を兼ねる血虚に使用します。その処方中に牡丹皮を含み、古血を取りつつ流れをよくしたいイメージですね。

漢方の師匠先生には「桂枝茯苓丸の虚の処方」と教わりました。個人的には、少しずんぐりむっくりとした女性で、頭の回転が速いキャリアウーマンタイプの方に合う印象です。

麦門冬も入っていますので、唇の乾燥やお肌のかさつき等もあります。

温経湯については以下の記事にて詳しくご紹介していますので、ご参考下さい。

温経湯
【漢方:106番】温経湯(うんけいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

芎帰調血飲

芎帰調血飲は、瘀血を兼ねる血虚に使用します。その処方中に牡丹皮を含み、出産後の瘀血を処理しつつ気血の流れをよくする処方になります。

「産後一切の気血を調理する」という語句で有名ですが、実際の所、産後は気虚裏寒が甚だしすぎて、その語句の通りに使うと痛い目に逢う事があります。

ですので、産後に限らず処方構成を見て、気圧変化に弱い方の気血の巡りが悪い方、を目標に私は使用しています。

また、芎帰膠艾湯と名前が似ているので、調剤の時も注意が必要な処方となります。

芎帰調血飲については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

芎帰調血飲
【漢方:230番】芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)の効果や副作用の解りやすい説明

女神散

女神散は、昔は安栄湯と言って武士が刀傷を受けた時の処方でした。

そのうちに平和な世の中になり、刀傷を負う事が無くなりましたが、それを女性に応用的に使った所非常によく効いた事から「女神散」と名付けられました。

生理などで失血して血虚になった状態で、気が突き上げてもだえ苦しんでいる時によく効きます。

この場合、実熱になりますので、顔は赤く全体的に逆上せて目つきが鋭いのがポイントです。

女神散については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

女神散
【漢方:67番】女神散(にょしんさん)の効果や副作用の解りやすい説明

加味逍遥散

女性のストレスに対するお薬として、加味逍遥散はとても有名です。この処方の中には牡丹皮を含み、瘀血を兼ねる血虚となります。

牡丹皮の他にも柴胡や芍薬を含んでおりますので、ある程度胃腸に力があって、ストレスがある為に目つきが鋭く愚痴や悪口が多いものが対象となります。

ですので、加味逍遥散は非常に応用的な補血の処方と言えます。

加味逍遥散については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:24番】加味逍遥散(かみしょうようさん)の効果や副作用の解りやすい説明

連珠飲

連珠飲という処方は、四物湯と苓桂朮甘湯を合方する事で作れます。また、一般用医薬品において武田薬品のルビーナという商品が出ています。

胃腸が丈夫でがっしりとした体質で肌の色艶が悪い方で、顔が赤く逆上せて胃に水が溜まって眩暈やふらつきに使用されます。

女性だけでなく、結構な割合で男性もこの連珠飲証になっています。

四物湯証と苓桂朮甘湯証が併存していた場合、考慮に入れたい処方となります。

四物湯と苓桂朮甘湯は、以下の記事にて詳しくご紹介していますので、ご参考下さい。

四物湯
【漢方:71番】四物湯(しもつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:39番】苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

帰脾湯

帰脾湯は、脾虚主体の血虚になります。主に心血虚ですね。四君子湯っぽい細い外見で食が細く、覇気がなく非常に物静かという所見があります。

精神活動は心がその下支えをしていますが、その機能の虚がある場合に使用します。

帰脾湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

帰脾湯
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明

加味帰脾湯

加味帰脾湯は、帰脾湯に柴胡と山梔子が足された処方となります。この2つは作用が強い為、その所見も帰脾湯とは一見ずいぶんと変わります。

肝鬱があり、上半身に熱を持つと、肌が浅黒くなり、目つきが鋭く愚痴や不満を多く口にします。また、胸脇苦満も出てきます。

しかし、その言動に思慮が足りず、行き当たりばったりな発言となります。

これは、柴胡と山梔子で取れる熱に乱雑さが大きい事に由来します。正気の虚と邪熱が同時に存在する場合にこの様な所見となります。

加味帰脾湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

加味帰脾湯
【漢方:137番】加味帰脾湯(かみきひとう)の効果や副作用の解りやすい説明

十全大補湯

十全大補湯は気血両補剤と呼ばれるタイプで、血虚に脾虚を兼ねたものです。「血虚があるけれど、ちょっと疲れているなあ・・・。」という時に使用します。

この処方のポイントは、抑鬱的ですが気疲れの様な精神的な虚が無い事。顔が赤く逆上せ、食欲はあり、痩せ~中肉中背の体格の方が適応になります。

十全大補湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明

人参養栄湯

人参養栄湯も十全大補湯と同じく気血両補剤と言い、血虚と脾虚を兼ねたものです。十全大補湯との違いは、気疲れの様な精神的な虚状がある事です。

こう書きますと帰脾湯が頭に浮かぶかもしれません。その通りで帰脾湯との鑑別が必要となる処方です。

帰脾湯よりも食欲があり、顔が逆上せているのが特徴です。その様な所見があれば人参養栄湯、もっとほっそりして食が細いものが帰脾湯の証になります。

人参養栄湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

人参養栄湯
【漢方:108番】人参養栄湯(にんじんようえいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

温清飲

温清飲は、一般的にはよくアトピー性皮膚炎の治療で使用される四物湯と黄連解毒湯の合方になります。

本来、黄連解毒湯というのは身体全体の実熱を取る処方となります。顔は赤黒く、目も血走ったようなものが適応となります。

それに加えて血虚の所見(がっしりとした体質、皮膚の色艶が悪い、不正出血等)があるものを目標に使用すると良いでしょう。

間違っても、脾虚や裏寒等の虚状が目立つ所見には使ってはいけません。

温清飲については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

温清飲
【漢方:57番】温清飲(うんせいいん)の効果や副作用の解りやすい説明

竜胆瀉肝湯

竜胆瀉肝湯は、実熱、湿熱を兼ねた血虚に対する処方となります。名前の通り竜胆という非常に苦い生薬を含み、湿熱という湿気を伴った熱邪をさばきます。

また、一貫堂(医療用ではコタロー)の竜胆瀉肝湯の中には温清飲を丸々含む為、実熱も強力に瀉すのも特徴となります。

ツムラの竜胆瀉肝湯は、一貫堂の竜胆瀉肝湯のライトバージョンとして使用すると良いでしょう。

竜胆瀉肝湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

竜胆瀉肝湯
【漢方:76番】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
一貫堂の竜胆瀉肝湯
【漢方:76番:一貫堂】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

荊芥連翹湯

荊芥連翹湯は竜胆瀉肝湯と似た様な構成の処方となり、一般的には蓄膿症の薬として有名です。

荊芥連翹湯の中には温清飲が丸々入り、そこに痒みや鼻の通りを良くする祛風という効を持つ生薬が追加されています。

処方中に柴胡も入りますので、がっしりとして皮膚が浅黒く、目つきの鋭い肝鬱タイプの方に合う処方となります。

蓄膿症の他にも、アトピーの痒みが酷い場合等にもよく効く処方ですね。

荊芥連翹湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:50番】荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

当帰飲子

当帰飲子は、四物湯に痒み等を押さえて皮膚を強くする祛風・補気の生薬が含まれた処方です。

荊芥連翹湯と違うのは、当帰飲子には熱さましや湿熱の生薬が入っていないという所です。

顔が赤黒く逆上せている、という所見が当帰飲子には無く、只痒みがあるというのがポイントとなります。

処方中には裏寒や脾虚の生薬は入っておりませんので、がっしりとして食欲が有る方が適応となります。

当帰飲子については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

当帰飲子
【漢方:86番】当帰飲子(とうきいんし)の効果や副作用の解りやすい説明

炙甘草湯

炙甘草湯は、十全大補湯や人参養栄湯と同じく血虚と気虚を兼ねる気血両虚に対する処方です。ですが、その処方中に麦門冬や阿膠を含み、心肺の熱を取る作用があります。

別名「復脈湯(ふくみゃくとう)」といい、不整脈等にも応用されます。また、食欲があり、中肉中背で顔が赤く逆上せ、息切れや皮膚粘膜の乾燥がある場合等にも使われます。

炙甘草湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

炙甘草湯
【漢方:64番】炙甘草湯(しゃかんぞうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

補中益気湯

補中益気湯と言うと「気虚に対する処方」というイメージが大きいと思います。ですが、この処方の中には当帰を含む為、軽い補血作用もあります。

補血作用があるという事は、食欲はまだあるという事になります。また、柴胡も配されていますので肝鬱も存在します。

食欲があって疲れ易く、痩せ型~中肉中背、目つきが悪く愚痴っぽくて元気が出ないものによく合います。

補中益気湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明

清暑益気湯

清暑益気湯も、補中益気湯と同じ様に「気虚に対する処方」というイメージが大きい薬です。ですが、この処方にも当帰を含み、補血作用があります。

更に、この処方には麦門冬も含みますので、心肺の熱を冷ます作用があります。炙甘草湯のより虚となったバージョンが清暑益気湯ですね。

夏バテや夏風邪に使用されますが、胃腸虚弱タイプの温病にも使用出来、アトピー性皮膚炎等にも応用されます。

清暑益気湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

清暑益気湯
【漢方:136番】清暑益気湯(せいしょえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明

苓姜朮甘湯

苓姜朮甘湯は、腰回りの冷えに使われる処方です。一見血虚と関係無いように見えますが、下半身を温めるという事は血を温めて全身の血虚を改善する事に繋がります。

現代女性は元々が虚弱体質であったりして、産後の芎帰調血飲が使えない事があります。

その場合、苓姜朮甘湯を使う事で腰回りを温め、血を温めて症状を改善させることが出来る場合があります。知ってないと出来ませんが、知っていると簡単に対応できる例です。

苓姜朮甘湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

苓姜朮甘湯
【漢方:118番】苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

補血剤+真武湯

補血剤どれがどれ、という訳でもありませんが、私は同時使用若しくは交互に真武湯をかませて服用して頂く、という事をよくします。

これは、気付かない身体の冷えがある為に、その処方が若干身体に対して重たい事があるからです。

食欲、体格、気力体力の有無等を見ながらですが、冷えの所見があれば足した方が良い場合が多いです。真武湯は甘草を含まない為、合方しやすいですね。

只、合方は安易にすべきではありませんので、本当に慎重にする必要があります。

真武湯については、以下の記事にて詳しくご紹介しています。どうぞご覧ください。

【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明

無理そうなら一つ前段階の治療に戻る

ムセキ
血虚の治療はかなり身体の調子が良い場合に行いますので、虚状が激しい場合は無理しない方がベターです。

漢方薬というのは、身体に合った使い方をする必要があります。ですが、「処方の効果がこれだから、これ!」という西洋医学的な使い方をされる先生が後を絶ちません。

貧血だから補血剤!というのもよくありがちな失敗で、症状を見ただけで簡単に出すのは危険だと考えます。

虚状を見抜き、怖かったら前段階の治療に戻る事が大事です。特に、第六感的なアラートが働いた場合は、無理せずに引いた方が良い事が多いです。

補血の治療は慎重に運用していきましょう。

前段階の治療は、裏寒、脾虚、裏虚、気血両虚の治療になります。それぞれ以下の記事をご参照下さい。

身体内部の冷え(裏寒)の解消方法
漢方入門。臨床第一歩目は身体内部の冷え(裏寒)の解消方法を学ぼう!
脾虚の見分け方と漢方治療
脾虚の見分け方と漢方治療について
裏虚・虚労の治療
裏虚・虚労の治療について
気血両虚の治療について
気血両虚の治療について

さいごに

ムセキ
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

今回は、血虚の治療についてご紹介しました。

バリエーションが多く全てを理解するのには時間がかかりますが、根本治療につながる道ですので是非是非、挑戦してみて下さい。

この記事が皆様のお役に立てたら嬉しいです。最後までお読み頂きありがとうございました。

以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

参考記事
目次

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また、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。

調剤に従事される薬剤師の方でしたら、本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご参考頂けたら幸いです。

「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。

「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース

また、漢方の勉強の仕方は下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。

漢方の勉強方法
漢方の勉強方法について

それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。

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