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心熱・肺熱の治療について

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心熱・肺熱の 治療について

ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。

本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。

今日は、心熱・肺熱の治療について、詳しくご紹介します。

「上半身の熱取りですよね。でもよく解った様な解らないような。」

って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。

心熱・肺熱の治療に関する書籍は、詳しいものがあまり無い為正しい情報が伝わりにくい状況にあります。

ですが、漢方処方では普通に心熱や肺熱を取る処方が出てきます。押さえておくべきカテゴリーになります。

今回の記事では、心熱・肺熱の病態と治療、注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。

本記事は、以下の構成になっています。

心肺の漢方医学的生理

心熱・肺熱とは何か

心熱・肺熱治療のポイント

心熱・肺熱治療の注意点

心気虚・心血虚・肺気実との違い

心熱・肺熱の治療に使う生薬

心熱・肺熱の治療

さいごに

心熱・肺熱治療には、いくつかポイントがあります。そのポイントを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。

本記事では、心熱・肺熱についてご説明し、治療条件を経て治療まで行きたいと思います。

それでは、宜しくお願い致します。

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心肺の漢方医学的生理

ムセキ
心と肺は隣り合った臓器の為、臨床の場ではまとめて考えた方が理解しやすいです

心肺は、独立して考えるよりまとめてセットで考えた方が臨床上便利です。

基本的な陰陽五行説は成書で書かれていますが、臨床で使用する「まとめて考える」という事に関しては記載が少ないのが現状です。

ですので、心熱・肺熱の治療に入る前に簡単に臨床上で運用しやすい心肺の整理をまとめておきます。

心と肺の成立過程

心と肺、それぞれご説明します。

心は神を蔵し、別名を神臓と言います。そこから、それを包む様に気を臓する肺が生まれています。

生成は神→気の順で、心→肺の順になりますので、親→子の関係になります。五行相関の図を見てもそうなっています。

親より子の方が上であり、臓器的には肺が心を包んでいます。

ここで話を少し変えます。人間の心(こころ)って何処にあるでしょうか。

解剖学的には、脳ですので頭になります。ですが、「胸に手を当てて考えてみる。」との言葉がある通り、私たちは心(こころ)は胸にあると認識しています。

漢方医学においての心(こころ)=精神を主るのは心(しん)として扱います。解剖学的には間違っていても、胸に精神の社(やしろ)があるとして運用する訳です。

話を戻します。その様な経緯で、心臓という臓器は血液を送り出すポンプ(身体のエンジン)機能と精神の社(パソコンで言うCPUやOSの扱いと同じ)の2つの機能を主る事になります。

つまり、心熱という状態は何らかの原因による心の熱により、機能が障害された状態を言います。

肺は、上の心でお話した通り神から出来た気を蔵する臓器で、心を包む様に心より上に配置されます。

呼吸を主り、それを介して自律神経の調節も行っています。

西洋医学的には、主な機能は酸素を取り込んで二酸化炭素を排出しているとされている臓器ですが、漢方医学の場合は、それ以外にも余分な身体の熱を放出している臓器ともされています。

この「身体の熱を外に放出している臓器」というのは成書には殆ど書かれておりませんが、処方運用上必須事項になります。

今からご説明しますので、これを機に身につけて頂ければ幸いです。

肺が呼吸と共に熱を体外に放出しているという事は、息を手に当てれば解ります。呼気は温かいですよね。

さて、この熱は何処から来たものでしょうか。

細胞の新陳代謝で出た熱、というのが答えですが、もう少し深堀りすると、細胞内部エネルギーを供給しているミトコンドリアから出たものです。

ミトコンドリアは細胞内のエンジンに当たり、五行で考えると心に当たります。

また、肺に供給される血液は身体のエンジンである心の右心室から出たものになります。つまり、肺から出る身体の余分な熱は、心から供給されたものと言えます。

五行の相性相克関係を見ても、心から肺に相克がかかっていますので、漢方理論から見ても問題ありません。

つまり、心と肺の関係はエンジンと空冷装置という関係があり、臨床の場でそれぞれ別に考えるよりセットで考えた方が運用しやすい臓器になります。

心熱・肺熱と言った場合、それぞれ対になる臓器の異常も考えと上手く行く事が多いです。それだけ密接に絡んでいるという事ですね。

心熱・肺熱とは何か

ムセキ
心熱・肺熱それぞれ説明します

上の見出しで大まかにはお話ししましたので、心熱・肺熱についてそれぞれ各論をご説明します。

どちらの場合も顔全体が赤く、時に舌が痛い、味覚異常等を伴う事があります。

心熱

心に何らかの原因で熱が溜まり、機能が狂っている状態です。

胸苦しさ、胸の詰まり感、煩わしさ、不眠、精神不安、ボーッとする、などの症状が出てくる事が多いです。

上の見出しで説明させて頂いた通り、身体のエンジンであると共に精神の社になりますので、精神的な状態異常が出やすいのがポイントです。

顔が全体的に赤黒く、ケタケタ笑いが止まらない、うわ言等を言う等の強い熱が溜まった場合は黄連が要る事が多いです。

また、仕事や考え過ぎ等の頑張り過ぎでボーッとする、不眠等出て皮膚粘膜の乾燥があれば、麦門冬の場が多い印象です。

肺熱

肺熱は、陰虚火旺(いんきょかおう)と言い、潤いが無くなり熱を持つものがメインです。皮膚粘膜の乾燥があるようでしたら麦門冬の要る場合が多いです。

また、熱射病等の急激な熱邪における熱の場合は、石膏等水を呼ぶ生薬を使う場合もあります。

乾燥が無く、単に熱だけがある場合は黄芩が使われる場合もあります。

後、上の見出しで「肺は空冷装置」と書きました。これは非常に大切で、この肺の空冷装置としての機能が低下すると心熱が溜まりやすくなるという事です。

その為、肺を冷ます事は心を冷ます事にもつながると言えます。

次の見出しでは、心熱・肺熱の治療のポイントについてご説明します。

心熱・肺熱治療のポイント

ムセキ
心と肺それぞれの生理機能が治療のポイントになります。

心熱と肺熱の治療は、上でお話しましたそれぞれの生理機能と関係性が要点となります。生理機能が頭に入っていて、初めてその治療が出来るという訳です。

心熱治療

心熱は、その熱が心から異常に出ているものか、肺の機能失調により起こるものかで対処法が変わってきます。

最初に心の実熱をご紹介します。

心から異常な熱が出ている場合、肺が正常であってもそれを超える熱が心から発せられている事になります。

その場合、相当にキツい熱が出ていないとその様な事にはなりません。漢方医学において実熱といわれるものです。

顔は全体的に赤黒い、若しくは眉間や目頭の辺りが異常に赤い等の異常な色になり、もだえ苦しむ、又は目が血走って何もしていないのに周りを怒鳴りつける、ケタケタ笑う、うわ言、徘徊等の所見が出てきます。

江戸時代の漢方医である中神琴渓(なかがみ きんけい)先生は、今でいう睡眠時遊行症(夢遊病)の治療で甘草瀉心湯を使用され、著効を得られたという記録も残っています。

この様に、心の実熱による熱暴走が起こっているものには、心の熱を直接冷ます黄連が入った処方が主に用いられます。

また、その症状には精神的な異常も出やすいという事を覚えておくと良いでしょう。

現代的には、仕事等で考え過ぎて昼過ぎから白昼夢等を見てしまう方、いつも顔が赤くて頭がボーッとして視線が定まらない方には、黄連配合処方も検討の余地があります。

勿論、麦門冬と黄連を両方使用する事も場合によってはありますので、その可能性も忘れてはいけません。

次に、肺の異常から来る心熱をご説明します。

肺の異常から来る心熱とは、言い換えれば肺で熱処理が上手く行かなくなり、それが原因で心に熱が溜まる病態を指します。

ありがちなのは、肺陰虚という肺の潤いが無くなる病態です。肺が乾燥して、熱放出が上手く出来なくなった結果、肺の燥熱と心熱が生まれます。

この場合、肺を潤わせる事を主体に考える必要がありますので、麦門冬や天門冬が主に用いられます。

肺の乾燥を何処で見抜くかと言うと、五行で肺のグループに入っている皮膚粘膜の乾燥や口の乾燥、呼吸が荒い、空咳等です。

また、肺陰虚以外に肺気虚による心熱も存在します。あまり有名ではありませんが、処方としては有名な補中益気湯証です。

条文を読むと解るのですが、補中益気湯について創方された李東垣先生は気虚の処方としては考えておらず、肺気虚による心熱を除く処方として考えられていました。

その条文を後世の先生は正しく読めず、適応拡大して気虚の処方として運用され、今に至ります。

以上の様な肺の異常所見が有り、顔が赤い、ボーッとする、不眠、気分の不安定等があればこのカテゴリーの心熱を検討します。

肺熱治療

肺熱は、上の心熱の所で主な部分をご説明しましたので、肺陰虚と肺気虚以外の肺熱をご紹介します。

残る肺熱は、肺の実熱と腎熱から来る肺熱です。

まず肺の実熱です。肺の実熱には、乾燥を伴わないものと伴うものの2種類があります。

乾燥を伴わない肺の実熱は、肺に熱邪侵入した場合で、呼吸困難や咳の他に、手足の火照りや皮膚炎や粘膜炎症による下痢が現れる事もあります。

黄芩がその場合に主に使われます。

清上防風湯や三物黄芩湯は、それぞれ皮膚炎や火照りでの黄芩の使用例です。

また、黄芩湯は下痢に使う処方ですが、邪実が丁度肺の部分にあって、それを消す為に黄芩を使用しています。

現代医学的に言えば、食中毒から来る粘膜炎症が原因の下痢という所でしょうか。

次に、乾燥を伴う実熱についてご説明します。

「肺陰虚とは違うの?」と思われるかもしれませんが、この場合は熱が主体です。肺陰虚の場合は、乾燥があって熱を持つので順番が逆ですね。

強い熱があって、それが原因で陰分が失われるのが乾燥を伴う実熱です。この場合、石膏を使用します。

熱射病ですぐに身体を冷やさないといけない、という状態が、肺に乾燥を伴う実熱があるという病態になります。

最後、腎熱から来る肺熱をご紹介します。

腎熱から来る肺熱は、腎虚が原因で起こる「腎熱」というジリジリとした熱で肺が焼かれる病態です。伏熱(ふくねつ)と呼ばれる事もあります。

手足の火照りを伴う喉の渇きや咳等が所見として表れます。丁度、滋陰降火湯証がこの熱であり、知母や黄柏、麦門冬が使用されます。

心熱・肺熱の治療は以上です。次に、心熱・肺熱治療の注意点をお話します。

心熱・肺熱治療の注意点

ムセキ
心と肺の熱取りという事は、逆に虚に落とさないという事が大事です。

心熱・肺熱治療の注意点は、一言で言いますと「虚状を見逃さない事」です。

結局の所、心熱・肺熱の治療は熱取りなので、身体を冷やす治療です。

元々身体が弱く、身体が冷えている、胃腸が弱い(脾虚)等の虚状がある場合、心熱・肺熱の治療はそれらを悪化させてしまう可能性があるので注意が必要です。

ですので、処方運用の際には身体の虚状をしっかりと確認し、熱取りをしても良いと確信を持って治療を行う事が大事です。

特に、黄連・黄芩・石膏等は冷やす力が強い為、身体の状態によってはすぐに虚に陥ってしまいます。これらの生薬は、特に慎重に使用していきましょう。

心気虚・心血虚・肺気実との違い

ムセキ
心熱・肺熱とは反対の病態を例に出して、違いをご説明します。

今回のテーマである心熱や肺熱とは正反対の病態があります。それらはの代表例が心気虚や心血虚、肺気実です。

これらの病態の時、間違って心熱・肺熱の治療を行っても効果が無いばかりではなく、虚の状態に身体を陥らせてしまう可能性があります。

ですので、「正確に証を確定させて正確にそれに対する処方を出す。」という一点が求められます。

この見出しでは、心気虚や心血虚、肺気実をそれぞれご紹介し、心熱や肺熱との違いをご説明します。

心気虚

心気虚は、一言で言いますと心のエネルギー不足です。心血虚を兼ねている事が多いため、合わせて心虚と表現される事もあります。

この場合、元気が無い、考えられない、不眠、精神不安等が引き起こされます。

結局の所、身体全体のエネルギーは腎に蔵されている先天の精と脾胃から供給される後天の精である食物になります。

心のエネルギー不足は、これら2つの精からのエネルギー=気の供給が細くなっている事が主原因です。

ですので、その治療ではそれらを改善し、心への気の供給を改善させるという事を行います。

先天の精を引っ張り上げて心まで届かせる遠志、腎精が変化した血を供給させる当帰、脾の状態を改善させて気を作りだす人参等がそれらの治療に用いられます。

具体的な処方は、帰脾湯や人参養栄湯です。

心熱・肺熱の場合には上記の様な症状はありません。心気虚の状態で心熱・肺熱の治療を行うと余計に悪化する事がありますので注意が必要です。

心血虚

心血虚とは、心血が足りないと表現される病態です。

とは言いましても、実際に血液が足りないという事はありませんので、その質が低下して心の機能低下が起こると考えるのが妥当でしょう。

心気不足の場合は血も足りない事が多いのですが、心血不足は心気は足りている事もあります。

気は足りてるけど、血の不足がある病態。どんな病態でしょうか。

この心血虚は、当帰がその治療生薬になります。つまり、心血虚は、単に血虚と読み替えてもかなり近い病態を指す事になります。

心は蔵神の臓で五行でも喜びを主ります。神=喜びという訳です。

つまり、心血虚になりますと、喜びの虚=抑鬱傾向が起こりやすくなります。

勿論、心気不足でない場合は考えられない、精神不安等はありませんので、精神的には問題ありません。只、考え方が後ろ向きになるという事です。

上でもお話しました通り、心血虚は血虚と被るので、血虚がある方は総じて後ろ向き思考の傾向になります。

心熱・肺熱の場合には上記の心血虚の症状が同時に発生している事もあります。君薬の他に、臣・佐・使薬で使う生薬はその様な所から決めて行くと良いでしょう。

肺気実

肺気実は肺に邪気が発生して溜まった場合に起こります。肺に溜まる邪気はどんなものでしょうか?

答えは、悲しみの邪気、ショッキングな事があった時の不安の邪気です。

これらの邪気が溜まると、悲しい気持ちに囚われたり、落ち込んで何もしたくなくなったりします。ため息やあくびがよく出たりする事もあります。

また、呼吸が浅くなり、陰陽の調整機能が失調してしまいます。

例えば、何か発表会や講演会で前に出なければいけない事がある場合にもその様な不安の邪気が発生します。

そうしますと、呼吸が浅くなり、ため息が多く出て精神不安になったりします。

その様な病態が肺気実です。肺気実は心気虚と混同されて成書にて紹介されている場合が多く、鑑別を間違う事が多いので注意が必要です。

肺気実の治療には甘麦大棗湯や苓桂甘棗湯を使用します。

心熱・肺熱の場合には上記の様な症状はありませんので、そこが鑑別ポイントとなります。

心熱・肺熱の治療に使う生薬

ムセキ
心熱・肺熱の治療に使用される生薬についてご説明します。

心熱・肺熱の治療に使われる生薬は、以下の様なものがあります。

黄連

黄芩

山梔子

麦門冬、天門冬

石膏

百合

知母

栝楼仁

薤白

それぞれご紹介していきます。

黄連

黄連は、心熱を除く代表的な生薬です。その味は苦く、結ぼれた熱を解して強力に冷まします。

この生薬の適応する方は、眉間が赤い、鼻血が出る、顔が赤黒い等の明らかな熱の所見が現れます。

瀉心湯類や黄連湯等の他に、身体全体の熱を取る黄連解毒湯等に含まれ、酒毒や急性のアレルギー症状等にも使用します。また、精神不安定、幻覚などの精神異常にも使用します。

黄連は熱を取りながら乾かすという特徴がありますので、心肺の潤いの程度もチェックしながら使用すると良いでしょう。

黄芩

黄芩は、肺熱を除く生薬として有名です。この生薬も黄連と同じく味が苦く、熱を逸らし解して冷まします。

肺熱を取るという事はそのグループ下にある大腸の熱もさばきます。その効を君薬に置いたのが、食あたりによる下痢を改善する黄芩湯という処方です。

黄芩も黄連と同様、顔が赤黒く、強い実熱の所見がある場合に使用します。また、肺を乾かしながら熱を取るという作用があるので、肺陰虚が強い場合には使用不可となります。

肺陰虚と肺の冷えが両方ある場合に使用すると、余計に乾かし冷やしてしまう為に間質性肺炎の原因になる事もあります。

効果は強いのですが、その辺りに注意して使用する必要のある生薬となります。

山梔子

山梔子は心熱肺熱に加え胃熱も取る生薬です。昔から栗きんとん等の色付けに使用される事から解るように、その成分が全体に染みわたります。

ですので、心肺に主に入るとは言っても、最終的には身体の奥深くまで熱取りの効が入り込みます。

山梔子は黄連、黄芩と同じ様に、乾燥させながら熱を取ります。

ですので、気血の不足から来る虚熱には使用出来ません。また、肺陰虚の状態にも不適となります。

麦門冬、天門冬

麦門冬と天門冬は共に、肺熱を取る働きがあります。

違いは、麦門冬が肺-心のラインの熱を除くのに対し、天門冬は腎-肺の熱を除きます。

一般的には麦門冬の方がよく使われます。心熱と腎熱を比べた場合、心熱の頻度が高い事から処方に使われやすいものと考えられます。

肺陰を補う生薬で、肺が乾燥し熱を持ち、関連が深い心や腎まで熱を帯びるものを改善します。

潤わせると言っても、生薬自体が油性ですので、水を補うというよりは油分を補い最終的に界面活性を取り戻す事が本作用と言えます。

上焦が主に熱を持ちますので、胸の熱感、唇や皮膚の乾燥などの症状が出てきます。

また、温邪が侵襲した場合にも使用されます。温邪というのは温病という病の邪で、乾燥を伴う熱病態を引き起こします。

広い視野で見ますと、肺燥熱は全て温病とも言えます。

麦門冬・天門冬の使用は、肺燥を伴う心熱・肺熱の治療の要ですので、是非マスターしていきましょう。

石膏

石膏は、麦門冬や天門冬とは違い、身体の水分を調整する働きがあります。

浸透圧を利用する事で、細胞と血液の水分の流れを変更します。

つまり、乾燥して熱を持つ部位には水をかけ、低浸透圧の部分からは水を抜きます。

効果発現スピードが速く効果も強いため、胃腸の虚や身体が冷えている場合は使用には細心の注意が必要です。

百合

百合は、「ゆり」ではなく「びゃくごう」と読みます。

百合病という病態に使用します。ざっくりと陰虚火旺という潤い低下による病態に使用しますが、諸説ありはっきりとしません。

成書には、潤肺・清熱・捕脾となっています。私は、脾の陰を補い、肺も二次的に潤わせて清熱させる生薬と考えています。

知母

知母は、腎熱に対する生薬として有名です。

腎熱に由来する肺熱の場合、知母が有効になる事が多いです。

急性ではなく、環境要因や生活習慣による持続的な乾燥を伴う熱に使用します。

ですので、これも広義の温病に対する生薬としての側面があります。

知母は氷に例えられる生薬で、その性は寒となります。急性の病で使う事は少ないのですが、頭に入れておくと良いでしょう。

栝楼仁

栝楼仁は「かろにん」と読みます。

肺を潤し痰を消し、熱を除きます。性味は甘寒と言い、熱取り作用が強力な生薬です。

痰を除くというのが、麦門冬等には無い効で、杏仁とは寒温の違いがあります。

薤白

薤白は「がいはく」と読みます。ラッキョウを乾燥させたものです。

通陽・理気の生薬とされています。

諸説ある生薬ですが、私は心熱肺熱を通して鬱熱を発散させると考えています。カレーにもつくのは、その為と思っています。

心熱・肺熱の治療

ムセキ
心熱・肺熱の治療に使用される処方についてご説明します。

実際に臨床で心熱・肺熱の治療を行う際、以下の処方が主に日本では使われます。

半夏瀉心湯、黄連湯、三黄瀉心湯、黄連解毒湯

生脈散、麦門冬湯、炙甘草湯、白虎加人参湯、清暑益気湯、清心蓮子飲

木防已湯、百合固金湯、竹葉石膏湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、栝楼薤白半夏湯

それぞれご紹介していきます。

半夏瀉心湯

瀉心湯と呼ばれる、黄連を含んだ心の熱を取る処方群の代表です。

黄連は苦みで結ぼれた実熱を散らすという働きがあり、顔の中心部が強く赤みがあるものを目標として使用されます。

臨床上では、心のグループ下にある小腸の邪気による炎症、つまり急性胃腸炎等によく使用されます。

黄連には身体を冷やす働きがありますので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要です。

これらの虚状が無い事を確認してから使用する事が大事です。

半夏瀉心湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:14番】半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

黄連湯

黄連湯は、半夏瀉心湯の構成生薬が黄芩から桂枝に変更された処方です。

桂枝が入るという事は、頭痛発熱、悪寒悪風等の表証の存在があるという事を示しています。

半夏瀉心湯には表証が存在せず、肺の熱がある為、胸全体の熱感があります。その辺りが鑑別となります。

黄連には身体を冷やす働きがありますので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要です。

黄連湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

黄連湯
【漢方:120番】黄連湯(おうれんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

三黄瀉心湯

三黄瀉心湯は、吐血、鼻血等の急性出血に使用する処方です。

気が突き上げ、血管が破れた場合に使用します。ですので、頓服処方と言えます。

間違っても、内服で何日も飲む処方ではありません。

本処方の条文には「心気不足」若しくは「心気不定」の2つの読み方があり、統一されていません。

ですが、臨床上の使用方法と構成生薬、処方名の「瀉心」から「心気不定」と取った方が良いと考えられます。

黄連には身体を冷やす働きがありますので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要です。

三黄瀉心湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

三黄瀉心湯
【漢方:113番】三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

黄連解毒湯

黄連解毒湯は、元々急性の酒毒に対する処方として作られました。

ですが、心・肺・腎を始めとする身体全体の熱を取る為、簡易的な解毒剤として非常に使用されています。

脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要ですが、頓服としてすぐに使える様に常備しておくと良いでしょう。

黄連解毒湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:15番】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明

生脈散

生脈散は処方中に麦門冬を含み、肺陰虚が存在する心肺の虚熱を清す処方です。

同時に心肺の気虚も治す事が出来る優れものの処方です。

麦門冬配合処方の中で一番虚状が酷いものに使用しますので、本処方が麦門冬配合処方の中で基本中の基本となります。

猛暑で喉が非常に乾き、呼吸や脈が乱れている場合にもよく合います。

麦門冬湯

麦門冬湯は、咳に対する薬として有名です。

大逆上気と言い、肺が乾燥して敏感になり、咳こんでいる場合に使用します。

温邪で、燥性が強いものに侵襲された場合にも応用出来ます。

麦門冬湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:29番】麦門冬湯(ばくもんどうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

炙甘草湯

炙甘草湯は、別味「復脈湯」といい、不整脈に対する薬として有名です。

心肺の燥熱を取る処方で、疲れ等にも使用されます。

処方中に麦門冬を含み、肺を潤す効があります。麦門冬湯より心肺に熱があり、疲れこんでいる場合によく効きます。

炙甘草湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

炙甘草湯
【漢方:64番】炙甘草湯(しゃかんぞうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

白虎加人参湯

白虎加人参湯は、熱中症に対する薬として有名です。

所謂「署邪」に使われる処方ですが、署邪も広い意味では温病の一種となります。

酷く顔が赤く、皮膚粘膜や喉が乾燥して時に咳込む場合に使用します。

気軽に使える急性温病の処方の中で、一番深い位置に位置する処方となりますので、温病の最終防衛ラインと認識しておくべき処方です。

白虎加人参湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:34番】白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

清暑益気湯

清暑益気湯は、暑気あたりに対する薬として有名です。

白虎加人参湯が熱性が強い邪に侵襲されたものに比べ、清暑益気湯は燥性熱性それぞれがそこそこ存在する場合に使用します。

中に生脈散が丸々入っており、補中益気湯の夏バージョンの薬と言えます。心肺の熱を処理する考え方は補中益気湯より直接的と言えます。

清暑益気湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

清暑益気湯
【漢方:136番】清暑益気湯(せいしょえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明

清心蓮子飲

清心蓮子飲は、膀胱炎等泌尿器症状に対する薬として有名です。

清心とは、心が清らかという訳ではなく「心の邪熱を取り去る」という意味になります。

心肺の燥熱を取って、上半身と下半身の連携を回復させ、余分な熱を尿として排泄する処方と言えます。

顔が赤く皮膚粘膜が乾燥している方で、多忙で不眠症状や精神不安等があり、頻尿や尿の異常等、泌尿器症状が出ている方に使用します。

身体の周りの環境でそうなっている事も往々としてある為、本処方も広義の温病に対する処方になります。

清心蓮子飲についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

清心蓮子飲
【漢方:111番】清心蓮子飲(せいしんれんしいん)の効果や副作用の解りやすい説明

木防已湯

木防已湯は、心不全に対する漢方処方です。

具体的には、肺の熱を帯びた水滞を取る事で心の熱を取り、負荷を下げます。

本処方は虚実が絡み合っている為に処方解析が必要ですが、一回モノにして置くと心不全の方が見えた時に「これだ!」と閃きます。

心不全を起こされている方は独特な顔をされているので、一発で見抜けます。

木防已湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:36番】木防已湯(もくぼういとう)の効果や副作用の解りやすい説明

百合固金湯

百合固金湯(びゃくごうこきんとう)は、一言で言うと補血+肺の補陰清熱です。

地黄・芍薬・当帰を使用していますので、脾胃の虚がある方は使用注意です。

補血が入る処方は、比較的長期に使用するものが多いです。病変が長期に渡るものにも使用できます。

竹葉石膏湯

竹葉石膏湯は、処方中に竹葉と石膏、麦門冬を含んだ、肺にキツい熱躁がある場合に使用する処方となります。

使用の場としては、日射病熱射病等の急性の熱病で、咳をよくして、皮膚粘膜や唇、喉の乾燥を伴っているものになります。

丁度、白虎加人参湯も似た様な病態で鑑別が必要となりますが、竹葉石膏湯の方が皮膚粘膜の乾燥が強く、咳や喘鳴等の呼吸器症状があるのが特徴です。

本処方は、その性質上身体を芯から冷やしてしまう可能性があります。ですので、裏寒に注意しながら使用する必要があります。

必ず、顔の中心部が青黒い、白い等の所見が無い事を確認してから使用するようにしましょう。

滋陰降火湯

滋陰降火湯は、咳に対する薬として有名です。

本処方の病態は、腎虚から来る腎熱が原因で、肺が乾燥し熱を帯びている場合に使用します。

温病の様な早い変化を伴う急性病向きの薬ではありませんが、じんわりと身体を侵襲する熱燥の邪にも使用できる、広義の温病処方と言えます。

滋陰降火湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

滋陰降火湯
【漢方:93番】滋陰降火湯(じいんこうかとう)の効果や副作用の解りやすい説明

滋陰至宝湯

滋陰至宝湯は少し特殊な処方で、柴胡剤でもあり麦門冬配合処方でもあります。

つまり、イライラと皮膚粘膜の乾燥や咳等の症状が併存しています。

簡単な使い方は、加味逍遥散+咳や口喉の乾燥となります。

滋陰至宝湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。

滋陰至宝湯
【漢方:92番】滋陰至宝湯(じいんしほうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

栝楼薤白半夏湯

栝楼薤白半夏湯(かろがいはくはんげとう)は、心の熱を帯びた痰を除く薬です。

薤白(がいはく)はラッキョウの事で、カレーライスの添え物としてよく食べられます。

カレーライスを食べると、心肺に熱と脾経由で痰が生まれます。それを軽減する目的があります。

最近は福神漬けが多いのですが、ラッキョウの方が身体にとってはよさそうです。

栝楼薤白半夏湯そのものを使う事は殆ど無いと思いますが、食養生で同様の知識を使う事が出来ますので覚えておくと良いでしょう。

さいごに

ムセキ
最後までお読み頂きありがとうございます。

心肺の熱というのは、主として黄連で取れる様な実熱と、肺の乾燥から来る虚熱があります。

温病も同様の処方を使う場合があり、病態としては非常に似通ったものがあります。

どの視点で見るかによって、邪の呼び方や種類が変わるという事を知っておくと、応用する力が格段に増えていきます。是非、マスターしてくださいね。

本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。

臨床寄りの漢方資料

ムセキ
臨床よりの漢方資料は本当に少ない印象です。

実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。

現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。

後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。

調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。

「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。

【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース

また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。

漢方の勉強方法
漢方の勉強方法について

以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

参考記事
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。

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