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漢方薬の解りやすい説明

【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明

更新日:

ポイント

この記事では、十全大補湯についての次の事が解ります。

・患者さんへの説明方法、副作用や注意点

・出典(条文)、生薬構成

・詳しい解説、他処方との鑑別

「名古屋漢方.com」のムセキです。

本記事は、十全大補湯についての解説記事になります。

最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。

ムセキ
よろしくお願いしますm(_ _)m

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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明

ムセキ
私が普段行う説明を書いています。

一般的な説明

今日は、十全大補湯という漢方が出ています。一般的には、仕事や勉強でちょっと最近疲れ気味、という方に合うお薬になります。

気力体力が落ちた時に飲むとよく効く、養〇酒のような効果があります。今日はどうされましたか?

〇〇という症状でかかられたのですね。先生は、このお薬が合うと判断されたようです。

身体が消耗し過ぎたりするとそのような症状が出る事もあります。一度、飲んでみて下さい。

このお薬は、胃腸が悪くなったり、身体が冷えてきたりすると効き目が悪くなりますので、十分に睡眠を摂る等、体調管理をしっかりとお願いします。

漢方医処方の場合の説明

今日は、十全大補湯という漢方が出ています。元々、気虚と呼ばれる気力不足、血虚と呼ばれる体力や持久力、お肌の色艶の悪さや婦人病に使われたお薬です。

一般的には、仕事や勉強でちょっと最近疲れ気味、という方に合うお薬になります。〇命酒のような効果があるお薬ですね。

今日はどうされましたか?

〇〇という症状でかかられたのですね。先生は、このお薬が合うと判断されたようです。

身体が消耗し過ぎたりするとそのような症状が出る事もあります。元気を出す薬ですので、一度、飲んでみて下さい。

このお薬は、胃腸が悪くなったり、身体が冷えてきたりすると効き目が悪くなりますので、十分に睡眠を摂る等、体調管理をしっかりとお願いします。

主な注意点、副作用等

アナフィラキシー

偽アルドステロン症

肝機能障害、黄疸(AST、ALT、Al-P、γ-GTP等の著しい上昇)

発疹、発赤、そう痒等

食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等

冷え

添付文書(ツムラ48番)

ツムラ十全大補湯(外部リンク)

ムセキ
ここから下はゆっくりと読んで頂ければと思いますm(_ _)m

十全大補湯についての漢方医学的説明

ムセキ
専門家向けの内容です。

生薬構成

黄耆3、桂皮3、芍薬3、当帰3、地黄3、川芎3、人参3、茯苓3、朮3、甘草1.5

出典

和剤局方

条文(書き下し)

「男子婦人,諸虚不足,五労七傷(ごろうしちしょう),飲食進まず,久病虚損(きゅうびょうきょそん),時に潮熱を発し,気骨脊(き、こつせき)を攻め,拘急疼痛(こうきゅうとうつう),夜夢遺精(やむいせい),面色痿黄(めんしょくいおう),脚膝(きゃくしつ)力無く,一切病後,気旧の如からず,憂愁思傷(ゆうしゅうししょう),気血を傷動(しょうどう)し,喘嗽中満(ぜんがいちゅうまん),脾腎の気弱く,五心煩熱するを治す。並に皆之を治す。此の薬性温にして熱せず,平補にして効あり。気を養ひ,神を育し,脾を醒まし,渇を止め,正を順らし,邪を避く。脾胃を温暖して其効具に述ぶべからず。」

条文(現代語訳)

「男性女性問わず,気血の不足,五労七傷(*),飲食進まず,長く病を患い気血が虚損し,時に高熱を発し,その気が背骨を攻め,ひきつれて疼痛し,夜に夢を見て遺精し,顔色がやつれて黄色く,足や膝に力無く,一切の病後で、新古の区別なく,思いわずらい,気血を消耗し,ゼイゼイと呼吸が乱れたり咳がしてお腹が張り,脾腎の気は弱く,精神不安があるものを治す。大体全て、之を治す。この薬性は温にして熱しない為,平補にして効果があります。気を養い,神を育み,脾を醒まし,渇を止め,正気を順らし,邪を避く。脾胃を温暖してその効果は言葉では言い表せない。」

* 五労七傷:五労「目を酷使すると血を傷る。寝すぎると気を傷る。座ってばかりだと肉を傷る。歩きすぎると筋を傷る。」、七傷「食べすぎると胃腸を傷る。怒りすぎると肝を傷る、重い物を持ったり、長く湿めった所に座っていると腎を傷る。身体が冷え、水毒が溜まると肺を傷る。心配し過ぎると心を傷る。風雨や寒暑は形を傷る。大いに恐れ、節度を失うと志を傷る。

解説

今回は、十全大補湯です。名前も条文も生薬構成も効果も欲張りな印象ですが、使い方に関しては結構条件が厳しい処方と言えます。

まず、条文を見ていきます。

条文は長々と書かれていますが、要約しますと「病後で胃腸虚弱である状態で、虚熱、筋肉の張り、精神不安、遺精、咳や喘鳴等が起こった気血不足の状態。」になります。

何とも要領を得ない文章ですが、単純に、「気血両補剤で、五臓の虚損何でも補うと書かれている。」との認識で構わないでしょう。

次に、生薬構成を見ていきます。本処方を構成する生薬のうち、「芍薬、当帰、地黄、川芎」は四物湯、「人参、茯苓、朮、甘草」は四君子湯になります。

その二つを足して八珍湯として、その八珍湯に「黄耆、桂枝」を足したものが十全大補湯になります。

黄耆と桂枝を足した場合、その作用が表に向かいます。皮膚粘膜を治したり、また、身体の動きを良くする為に気血が使われるようになります。

処方の元になっている処方が、それぞれ補気と補血を専門に補いますので、両方を合わせて気血両方を補うという「何でも補える処方」を作りたかったのだと考えられます。

適応としても、そのように行けば良かったのですが、実はそうは簡単には行きません。

例えば、四君子湯証の場合で考えてみます。

四君子湯をはじめとした脾胃剤(六君子湯、補中益気湯、啓脾湯等)には十全大補湯に配合されている芍薬が入っておりません。

この違いは、小柴胡湯と大柴胡湯との違いでもあります。

芍薬が入るという事は、「脾胃の気を使用して営を血に補う。」という事になりますので、本当に脾胃が弱っている場合は使えません。

ですので、この十全大補湯での気虚というのは、脾胃虚弱の程度が軽いものに限定されます。

また、四物湯証での場合を考えてみます。

四物湯証の場合は、まず逆上せが無く、脾胃虚弱もありません。十全大補湯を四物湯証の方に飲ませると、逆上せが出現します(四君子湯+黄耆+桂皮が余分。気は上行する為、逆上せる)。

皮肉な事に、表虚による逆上せを治す桂皮で逆上せを起こしてしまう事になります。このように、気血両補剤というのは意外と使用範囲が限定された処方だと言えます。

私の経験した例ですが、妊婦さんの貧血で、四物湯配合の気血両補剤が使われていて、貧血が治らないと相談を受けた事があります。

脾胃虚弱の場合は、気血両補剤ですと胃腸に重いので、逆に貧血を助長してしまう事にもなりかねません。その時は、四君子湯を飲んで貰って、貧血を治しました。

以上をまとめますと、十全大補湯は「裏寒が無く、食欲が有って逆上せている方で、疲れがあり、元気が出ない方。」になります。

このような方は結構いらっしゃいますので、お勧めしてあげると良いでしょう。

現実的には、十全大補湯よりも、その派生処方である人参養栄湯が合う方が多い印象です。

気血両補剤に共通して言える事ですが、脾胃虚弱の甚だしいもの、裏寒が存在するものには使用できませんので注意が必要です。

よく、手術後の体力回復に出されるようですが、食欲の無い方や冷えている方は、逆に身体の回復の足を引っ張る事にも成り兼ねませんので、注意が必要です。

応用的な使い方として、アトピーや喘息等のアレルギー疾患、免疫疾患にも処方されます。

鑑別

十全大補湯との鑑別が必要な処方はかなりの数になります。

それぞれに特徴があり、覚えておくと非常に重宝しますが、あまりにも数が多い為、代表的なものを取り上げます。

よく鑑別対象になる処方は、人参養栄湯、補中益気湯、炙甘草湯、大防風湯、帰耆建中湯、八珍湯になります。

それぞれ、見ていきます。一番重要かつ、難しい鑑別は人参養栄湯と八珍湯になります。他の処方との鑑別は、さほど難しい事はありません。

人参養栄湯

十全大補湯との鑑別で、一番迷う処方となります。

人参養栄湯は、十全大補湯より川芎を去り、代わりに陳皮と遠志と五味子を足した処方になります。

川芎は、血中の気剤と呼ばれ、血を走らせる作用がありますが、その作用故に、肝を若干瀉します。

人参養栄湯は、十全大補湯よりもその証において脾胃の虚状が酷く、また、それに伴い心気虚も併発しておりますので川芎は不要となります。

その代わり、胃腸を動かして心気を補い、その気が漏れないようにする目的で陳皮と遠志と五味子が配されています。

ですので、人参養栄湯は、十全大補湯に比べて脾虚心気虚の程度が酷く、精神神経疲れや不眠、が目立ちます。その辺りで鑑別が可能となります。

補中益気湯

十全大補湯と補中益気湯は、一般的にどちらを使うかというのが問題になります。しかし、この2つの処方の使い分けは、それほど難しくはありません。

補中益気湯は、その構成生薬に柴胡が含まれ、また、脾虚の程度が酷く、胃下垂という特徴があります。

また、桂枝が含まれておりませんので、逆上せ等も見られません。

ですので、ストレスによる目つきの鋭さがあり、脾胃虚弱により食欲が無く、体格痩せで逆上せが無いもので呼吸がしにくい、咳が出る等あれば補中益気湯が考慮に入ります。

逆に、食欲があり、逆上せがあって疲れこんでいて、という場合は十全大補湯を考慮に入れます。

ポイントは桂枝の場があるかどうか(表虚による逆上せ)と、芍薬を使えるかどうか(脾胃虚弱の程度)、柴胡証があるか、という差になります。

参考記事
【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明

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炙甘草湯

十全大補湯と炙甘草湯との鑑別ですが、炙甘草湯には麦門冬や麻子仁が含まれ、肺の燥熱に由来する心熱があるのがポイントです。

空気が乾燥して,肺胞をはじめとした粘膜や皮膚が乾燥し、それによって心熱が気化熱として排出出来なくなるのが特徴です。

ですので、十全大補湯との違いは、粘膜乾燥(唇等)が乾燥し、胸から上に熱が籠もっている為に胸を触ると熱い、胸や顔の中心や舌の先端が赤くなっている、というのが鑑別ポイントとなります。

また、炙甘草湯では大便も大腸乾燥の為に便が固めになっていますので、忘れずにチェックするようにしましょう。

大防風湯

大防風湯も、十全大補湯との鑑別対象となります。

大防風湯は、関節リウマチや関節炎等の治療用に作られた処方ですが、構成生薬を見てみますと、裏寒、捕気、補血、補腎、祛風(きょふう)と言う効能があり、気血両補剤の一種である事が解ります。

ポイントは、裏寒、補腎、祛風の効があり、補腎剤と気血両補剤の間を埋める薬として非常に使用しやすい処方と言えます。

十全大補湯との鑑別ですが、十全大補湯には表虚の逆上せがあり、大防風湯には無い所です。

また、使用のポイントとして、「男性らしくない男性」「女性らしくない女性」「補腎剤に行きたいけど、胃腸が少し弱い」というのがあります。

前者2つは先天的に腎気の虚がある場合で、後者は補腎剤だと胃腸に重い場合に考慮します。

帰耆建中湯

帰耆建中湯というエキス剤はありませんが、黄耆建中湯と当帰建中湯を合わせる事で帰耆建中湯になります。

本処方は、十全大補湯とは構成生薬がかなりの部分に違いがありますが、最終的な効き方は気血両方を補う働きになります。

内訳ですが、建中湯というのは、脾胃の力を使って全身の栄養状態を改善するという目的で組み立てられており、主薬となる膠飴、桂皮、黄耆、当帰、芍薬等の生薬が、その働きを担います。

建中湯類の中の気血両補剤と言い換える事も出来ます。

十全大補湯との鑑別は、帰耆建中湯は建中湯ですので、素直な子供のような人、手掌反熱(手のひらの熱感)、手掌発汗、頬が桜色で逆上せが酷い、非常に疲れこんでいる、両腹直筋の緊張等が特徴となります。十全大補湯は、これらの特徴は軽め&少な目になります。

八珍湯

八珍湯も、帰耆建中湯と同じくエキス剤には無い処方ですが、解説の所で書かせて頂いた通り、四君子湯と四物湯を合わせる事で作る事が出来ます。

十全大補湯との違いは、黄耆と桂枝の有無になりますが、この中で、桂枝の有無という違いがかなり大きな効果の違いを生み出します。

十全大補湯は、桂枝が入る事で、その効果を表面に持ち出し、身体の運用に使用します。言い換えると、動きをつける為に最終的に処方がフォーカスされていると言えます。

しかし、八珍湯は、この桂枝が無い為に、身体の気血をじっくりと補う処方になります。

動きを付ける為の処方ではなく、気血のそれぞれの滋養そのものを目的としています。ですので、脾胃の調子と血虚事態を両方補いたい場合に選択されます。

十全大補湯との違いは、桂枝の場があるかどうかの差になり、所見としては表虚による「頬が桜色等の逆上せ」が無いのが特徴です。

後は十全大補湯と同じになります。

お読み頂きありがとうございます。

ムセキ
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