ポイント
この記事では、温経湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、温経湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、温経湯という漢方薬が出ています。このお薬は、生理不順等に昔から使われてきたお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は女性の保健薬で、お肌を潤わせてデトックスも行います。一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、温経湯という漢方薬が出ています。このお薬は、生理不順等の女性に特有の婦人病というものに昔から使われてきたお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は女性の保健薬で、お肌を潤わせてデトックスも行います。
瘀血という血の毒を取って、気力体力をつけてお肌の乾燥を改善してくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒、蕁麻疹等)
消化器 (食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等 )
冷え
添付文書(ツムラ106番)
ツムラ温経湯(外部リンク)
温経湯についての漢方医学的説明
生薬構成
麦門冬4、半夏4、当帰3、甘草2、桂皮2、芍薬2、川芎2、人参2、牡丹皮2、呉茱萸1、生姜1、阿膠2
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「 婦人、下利して止まず、暮れには即ち発熱し、少腹裏急(しょうふくりきゅう:下腹部が引き攣れ)し、腹満(ふくまん:お腹が張り)し、手掌煩熱(しゅしょうはんねつ:手のひらに熱を持ち)し、唇口乾燥し、瘀血少腹(おけつしょうふく:瘀血が下腹)にありて去らざる証。」
「 婦人、少腹(しょうふく:下腹部が)寒えて、久しく受胎せず、あるいは崩中(ほうちゅう:子宮出血)、あるいは月水過多(げっすいかた:生理出血過多)、あるいは期に至るも来らざる証」
条文(現代語訳)
「 女性の、下利して止まらない、夕方から夜にかけて発熱し、下腹部が引き攣れて、お腹が張り、手のひらに熱を持ち、唇や口内が乾燥し、瘀血が下腹部にありて去らざる証。」
「 女性の、下腹部が冷えて、長く妊娠せず、あるいは子宮出血があり、あるいは生理出血過多し、あるいは生理が来ないもの。」
解説
今回は、温経湯の処方解説になります。この処方は、一般的に婦人病と呼ばれる、生理不順、月経過多、更年期障害等に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。
条文は、金匱要略からの出典で、要約しますと「発熱したり手が火照り、唇や口腔内乾燥がある女性の瘀血、生理不順、月経過多、不妊等に使用する。」となります。
温経湯は条文と添付文書の使い方に違いは少なく、現在の主な使われ方と大差ないと言えます。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
肺を潤す:麦門冬
駆瘀血:牡丹皮
胃を乾かし、湿邪を除き、温める:呉茱萸、生姜、半夏
補気:人参
血を巡らせ血熱を除く:阿膠
当帰、芍薬、川芎:補血
解表・経を巡らせる:桂皮
緩和・諸薬の調和:甘草
の様になります。
この処方は、張仲景先生の処方の中でも構成が複雑なものになりますので、少し詳しく解説していきます。
実は、温経湯の効果というのは「温経湯」という名前に全て集約されます。つまり、「気血の通り道である経絡を温めて通し、全身の循環を良くする」処方です。
それをする為に、実に色々な策を講じています。ここから、温経湯証を五臓と三焦の病態を用いてご紹介します。
その話の導入として、三焦の毒は上焦は邪気、中焦は湿邪、下焦は瘀血が溜まりやすいという事を念頭に置いて頂けると助かります。
それでは始めます。
まずは心肺です。心と肺は、共に上焦に属する臓器で、それぞれ車に例えると心はエンジン、肺は空冷装置として働いています。
心→肺に相克が働いているというのは、熱放散の負荷を心が肺に対してかけているという事です。
ちなみに、これと同じ動きが夏の土用から秋にかけて起こっています。
夏の土用は長夏と言い、一年で一番熱い時期になります。そして、秋に入ると、徐々に涼しくなっていきます。
しかし、秋の奥深くまで暑さが続くと、今度は身体の気力体力が必要以上に消耗(発汗や運動、寝不足等)し、冬から春にかけて体調を崩す元となります。
少し話が逸れました。
温経湯証の場合、肺燥の存在がある為に、心の熱を上手くさばいて熱放散をする事が出来ません。
また、当帰、芍薬、川芎等が入っている事より、血虚の存在があり、心血も不足気味であることが解り、また、阿膠の存在は心肺における血液還流の低下の存在が解ります。
別の言い方では、心肺の血虚があり還流量も減っている為、肺からの熱放散のメカニズムが上手く働かない状態になっているという説明になります。
その結果、上記二つ、肺燥と心血虚により上焦に邪熱(邪気)が溜まってきます。
次に、中焦についてご紹介します。中焦の臓器は脾となり、主に胃腸(脾胃)を指します。この部位の脾胃の邪気は生薬構成より粘性の高い冷湿の邪である事が解ります。
この冷湿の邪により胃腸の機能が障害されますと、気が全身に行き渡らなくなり、循環不良を起こしてきます。
呉茱萸という生薬は、その胃を温めて乾燥させる目的で配されており、呉茱萸湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯等にも同じ目的で配されています。
特に胃の冷湿が酷い呉茱萸湯証の場合は、それが原因で片頭痛が発生します(添付文書上の適応も通っています)。
最後は下焦についてご紹介します。下焦に配される臓器は肝腎となり、下半身全般を主るとされています。
この肝腎という臓器は、血や腎精と関連が深く、そこに溜まる毒は瘀血がメインとなります。
瘀血が溜まると、便秘になったり下腹部が張ったり、腹痛が出たり、生理不順や子宮筋腫が起こったりします。
これらの事から解るように、温経湯証の場合は上焦には余分な熱の邪気、中焦は冷湿の邪、下焦は瘀血が溜まってきます。
温経湯は、その処方中にそれらの毒を除く生薬がそれぞれ含まれており、それらが効いてくると経が巡って来るという仕組みです。
経を温めて気血の巡らせる働きは桂枝と当帰・芍薬・川芎がメインで行い、他の生薬がまたそれを支えているという図になります。
温経湯は、邪気を取るという働きと、気血を補って巡らせるという働きを同時に行う、二段構えの処方であるという事になります。
ですので、所見も併せてまとめますと、温経湯は「女性に置いて、肺燥で唇や口腔内の乾燥があり、気の上行と心肺の熱により頬を中心として顔全体的にほんのり赤く、掌が熱く、舌下静脈の怒張や唇が紫色、下腹部の張り、生理不順、不妊等の瘀血所見があり、胃部不快感や頭痛等の湿邪の所見のあるもの。」となります。
私の私見ですが、食欲があって、頭の回転が速く、どちらかというとずんぐりした方や安産体型の女性に合うイメージがあります。虚証型の桂枝茯苓丸と考えても良いでしょう。
本処方は裏寒や脾虚が酷い場合は不適になりますので、注意が必要です。
鑑別
温経湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに桂枝茯苓丸、加味逍遥散、六味丸があります。それぞれについて解説していきます。
桂枝茯苓丸
温経湯と桂枝茯苓丸は、共に瘀血に使用する処方であり鑑別対象となります。
温経湯は、脾胃や血を補う生薬、心肺の熱燥を和らげる生薬が入っている為、種々の虚に対しても対応できる気血両補剤の側面もあります。
しかし、桂枝茯苓丸にはその様な配慮はされておらず、瘀血を捌くという一点に作用点が集中しております。
ですので、種々の虚が起こった時に対応出来ません。その為、温経湯よりも実側に傾いた処方と言えます。
ずんぐりした体型の方で、瘀血が酷くて身体の虚が何もない方でしたら桂枝茯苓丸の方が良いでしょう。
続きを見る【漢方:25番】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
加味逍遥散
温経湯と加味逍遥散は、共に女性の血の道症に使用する処方であり、鑑別対象となります。
加味逍遥散は、よく「訴えが多い方」と言われます。「大阪のおばちゃん」みたいな方に合う処方で、よく喋る印象があります。
加味逍遥散には柴胡が含まれており、目つきが鋭く不平不満が口に出る場合が多くあります。
温経湯は、その様な不平不満をあまり言わないのが特徴です。その代り、肺の乾燥が強いので、唇等の粘膜乾燥が強く所見で出てきます。
続きを見る【漢方:24番】加味逍遥散(かみしょうようさん)の効果や副作用の解りやすい説明
六味丸
温経湯と六味丸は、それぞれ瘀血を取る作用もあり、体質改善の長期処方として使用する処方である為鑑別対象となります。
六味丸は腎虚の方剤ですので、腰から下にかけて細くなる腎虚という状態に使用します。
基本的には加味逍遥散と同じで、六味丸の処方中には麦門冬を含んでおらず、その所見で肺燥は起こっておりません。
また、気の上行も六味丸にはありませんので、顔が逆上せるという事もありません。その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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