ポイント
この記事では、加味帰脾湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、加味帰脾湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、加味帰脾湯という漢方薬が出ています。このお薬は、胃腸虚弱な方の不眠や精神不安等によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は、胃腸の調子を整えて、不眠や神経過敏等の症状を改善をさせてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、加味帰脾湯という漢方薬が出ています。このお薬は、胃腸虚弱な方の不眠や精神不安等によく使われるお薬です。
専門的には、その様な症状があって、下痢を繰り返す場合に使用する事があります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は、胃腸の調子を整えて、生薬の力で精神的に安定させ、不眠や神経過敏等の症状を改善をさせてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
腸間膜静脈硬化症
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ137番)
ツムラ加味帰脾湯(外部リンク)
加味帰脾湯についての漢方医学的説明
生薬構成
黄耆3、柴胡3、酸棗仁3、蒼朮3、人参3、茯苓3、遠志2、山梔子2、大棗2、 当帰2、甘草1、生姜1、木香1、竜眼肉3
出典
済生全書
条文(書き下し)
「思慮して脾をやぶり、血を摂すること能わず、血妄行をいたし、あるいは下り、あるいは健忘、䇝忡(せいちゅう:激しい不安感)、驚悸して寝られず、発熱盗汗し、あるいは 心脾傷り痛み、嗜臥(しが:伏せたくなり)少食、大便不調、あるいは血虚発熱し、あるいは肢体重く痛むを治す。婦人月経不調、赤白帯下し、あるいは晡熱(ほねつ:夕方に上がる熱)内熱、あるいは瘰癧(るいれき:頸部リンパ節結核)流注して消散潰斂(しょうさんかいゆ:消えてなくなったり、潰れて治る)する能わず、あるいは思慮脾を傷りて瘧痢(ぎゃくり:発熱等を伴う下痢)をなす には、柴胡、梔子を加えて加味帰脾湯と名づく。」
条文(現代語訳)
「色々と思い悩んで胃腸を痛め、その器質と機能の回復が出来ない。それらが原因で振る舞いがおかしくなったり、あるいは忘れやすくなったり心悸亢進があったり、驚きやすくなり眠れない。あるいは心や胃腸にダメージが入り、横になる事を好み食欲は無く、あるいは思い悩んで胃腸を壊し、血が足りず発熱し、あるいは身体が痛んで、便通が不調で、あるいは生理が不安定で、 午後に熱が出る、あるいは瘰癧(頸部リンパ節結核)が腫れて消えてなくなったり潰れて収縮したりしないものを治します。あるいは思い悩んで胃腸を傷つけ発熱等を伴う下痢を起こすものは、柴胡、梔子を加えて加味帰脾湯と名付けます。」
解説
今回は、加味帰脾湯の処方解説になります。この処方は、一般的に虚弱体質の神経症、不眠症等に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は要約しますと「思い悩んで食欲が無く、健忘症や不眠、精神不安がある状態で、身体に熱を伴って下痢があるもの。」となります。
ほぼこの条文は帰脾湯のものであり、最後の「あるいは思慮脾を破りて~」の文章のみが加味帰脾湯特有の文章になります。
ですので、本処方は帰脾湯が頭に入っていて初めて使える処方とも言えます。加味帰脾湯はよく使っていても、帰脾湯の使い方が解らないと本当にこの処方が解った事にはなりません。
実際の臨床上では帰脾湯は加味帰脾湯よりも人参養栄湯や甘麦大棗湯との鑑別が重要になりますが、処方構成上の違いから加味帰脾湯の鑑別も頭に入れておくと良いでしょう。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
人参、白朮、茯苓、大棗、甘草、生姜:脾胃を補い気虚を治す(四君子湯)
肺気を補う:黄耆
腎気を心まで到達させる:遠志
補血:当帰
捕脾、補心気、安神:竜眼肉
肝血の漏れを防ぐ、補肝気:酸棗仁
気鬱を解す、巡気:木香
肝熱を清す:柴胡
心肺胃の熱を清す:山梔子
の様になります。処方名の「加味」帰脾湯という所からも解る通り、帰脾湯が出発点となっており、そこに柴胡と山梔子が追加された処方となります。
ですので、この処方を理解しようと思いますと、まずは帰脾湯を理解する必要があります。
帰脾湯については、
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
にて詳しく解説しておりますので、先にそちらをご覧ください。
本処方は、帰脾湯に2味加えただけの処方ですが、使用目標はがらりと変わります。両生薬共に作用が強めですが、とりわけ柴胡の影響が強く出ます。
柴胡という生薬は、肝熱を抑える働きがあります。肝熱が存在しますと精神状態に怒りが混じるようになります。
また、身体の上半身は熱が溜まり、逆に下半身は冷えるという状況を生み出します。
条文にある「瘧痢(ぎゃくり:発熱等を伴う下痢)」というのは、この状態で出る症状となります。それを緩和する目的で、柴胡と山梔子が配されているという訳ですね。
これらの事より、加味帰脾湯の所見というのは、帰脾湯と違ってイライラや愚痴、目つきが鋭いなどの特徴が出てきます。
ですので、一見帰脾湯が要る様には見えません。ですが、よく見ますと身体の線が細い、不眠、貧血、話している内容が取りとめもない等の帰脾湯と同じ様な所見も現れています。
この辺りの所見を見逃さずに捉えるというのが、本処方を使うポイントとなります。
以上まとめますと、加味帰脾湯は「身体の線が細く胃腸が弱くて体力のない方で、目つきが鋭い、イライラや愚痴が多い、不定愁訴がある等の所見があり、不眠や精神不安等を訴えるもの。」となります。
本処方は、柴胡が配されていて、イライラ等の所見に使用しますので、帰脾湯との鑑別というよりは抑肝散や加味逍遥散との鑑別が重要となってきます。
具体的な鑑別については、次の見出しで詳しくご紹介していきます。
本処方は、裏寒や著しい脾虚がある場合には使用不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
加味帰脾湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに帰脾湯、加味逍遥散、抑肝散、補中益気湯があります。それぞれについて解説していきます。
帰脾湯
加味帰脾湯は帰脾湯の加味方であり、鑑別対象となります。
解説でもご紹介しましたが、柴胡と山梔子を「加味」するだけでも大分効果が変わってきます。
非常に簡単な見分け方は、イライラや皮膚が浅黒い、目つきが鋭い等の肝鬱所見があるかどうかになります。
同じ様な細身、貧血ぎみ、体力がない、等の所見が有っても、柴胡が要るかどうかで鑑別が可能というのがポイントですね。
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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加味逍遥散
加味帰脾湯と加味逍遥散は、所見が似ており同じ柴胡の配された処方である為、鑑別対象となります。
加味逍遥散は、その処方中に芍薬を含み、また、逆に人参を含んでいません。ここから解る事は、胃腸の虚はそれほど無いという事になります。
ですので、体力はまだ残っており、体つきはどちらかと言うとしっかりしています。
また、牡丹皮が含まれておりますので、瘀血所見も見られます(唇が紫、下腹が張る、舌下静脈の怒張等)。
加味帰脾湯の場合は、どちらかというと細身で、芍薬を使うと食欲が無くなってしまう方が対象となります。
この両処方の鑑別は、胃腸の虚状で行うと良いでしょう。
【漢方:24番】加味逍遥散(かみしょうようさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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抑肝散
加味帰脾湯と抑肝散は、所見が似ており同じ柴胡の配された処方である為、鑑別対象となります。
抑肝証の所見として、良くも悪くも「自分(自分達)の事だけ考える」という特徴があります。
加味帰脾湯の場合は、色々な周りの事も含めて心配が先に立ち、人の事まで考えてしまうという特徴があります。
また、加味帰脾湯と抑肝散は体つきが似ていても、抑肝散の方が筋肉が引き攣れていたり、顔つきが険しかったりします。その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:54番】抑肝散(よくかんさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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補中益気湯
加味帰脾湯と補中益気湯は、所見が似ており同じ柴胡の配された処方である為、鑑別対象となります。
補中益気湯の場合は、一種の天才肌というか色々な事を分析したがるという傾向があります。
また、イライラから呼吸困難になったり咳が出たりと、肺の症状が出てくる事が多いのが特徴となります。
加味帰脾湯では、その様な所見は無く、その代わりに貧血や不眠、精神不安等の血虚症状が出てくるのが特徴です。その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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