ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。
本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。
今日は、肝熱の治療について、詳しくご紹介します。
「肝熱っていうと小柴胡湯で有名なやつですよね。でも、他の処方とか使い分けとかどうなんだろう?」
って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。
肝熱は、大きなカテゴリーでは少陽病(しょうようびょう)とも呼ばれ、肝を中心に身体の上下左右前後の境目部分に熱を持ち、バランスが取れなくなっている状態です。
また、陰陽五行説において肝は怒りの臓器とされており、事実、その様な所見が現れてきます。
今回の記事では、肝熱の病態と治療、注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。
本記事は、以下の構成になっています。
肝熱とは何か
肝熱の治療のポイント
肝熱の治療の注意点
厥陰病との違い
肝熱の治療に使う生薬
肝熱の治療処方
さいごに
肝熱の治療には、いくつかポイントがあります。そのポイントを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。
本記事では、肝熱についてご説明し、治療条件を経て治療まで行きたいと思います。
それでは、宜しくお願い致します。
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肝熱とは何か
漢方医学理論には、表裏、虚実、寒熱等の概念があります。
大体はそれら二元論のうちのどちらかで考えていく事になりますが、中には表裏の境界部分(半表半裏:はんびょうはんり)の詰まりで気血の流れが止まる場合があります。
その境界部分の詰まりで、邪熱が原因になっているものを少陽病と言います。
この少陽病の場合、五臓で言うと肝に熱を持ち、丁度肝の臓器の上である横隔膜下(胸胸部)が腫れてきます。
この肝の熱による腫れが原因で起こる少陽病を、慣用的に肝熱と表現しています。
実際には、傷寒論に記載されている様な風寒の邪による闘病反応での少陽病だけではなく、体質的環境的に肝に熱が溜って精神的にイライラしている場合でも肝熱と表現します。
その他にも「肝鬱」と言ったり「肝火」と言ったりもします。
ですので、あまり細かく気にせずに、それらの語句は「肝に熱がある状態を指す」と簡単に理解すれば良いでしょう。
また、肝熱は春の季節に起こりやすくなります。「木の芽時」と言い、精神的に狂いやすくなる時期と昔から言われています。
理由は解りませんが、春になると胸脇苦満が現れやすくなり、肝に熱を持ちやすくなります。
肝に熱を持ち身体のバランスが崩れた結果、肝のグループである筋が突っ張り引き攣れたり、同じく目に異常が出たり、上半身が熱く下半身が冷える状態になったり、ストレスが取れなくなったりします。
逆に言いますと、この様な所見は、肝熱の特徴的な所見となります。
特に目が肝熱では現れやすく、目つきが鋭かったり、何処を見ているか解らない、変わった感じの目等、「あれ?目が何か変。」と思ったら肝熱の可能性を考えます。
更に、特に肝気過多という竜胆を使用しないといけない状態の場合、皮膚まで肝の熱が及んで浅黒く荒れてくる場合があります。肌の状態も判断材料の一つとなります。
この事を頭に入れておくと、処方決定に役に立つ事があります。
肝熱の治療ポイント
一言で肝熱と言っても、大きく分けて以下の2種類に分かれます。
肝気鬱
肝気過多
これらの病態は、どちらも胸脇苦満という右の脇腹辺りが腫れ、押さえると圧痛を生じます。
胸脇苦満の他に、肝熱の場合は目つき、ストレスが溜まった言動、怒りっぽい、肌の色が悪い、肌荒れ等の所見が現れます。
これらの所見の他、患者さんの全身状態を見ながら、処方を使い分けて良く事になります。
それぞれご紹介していきます。
肝気鬱
一つは、「肝気鬱」という肝気が流れず詰まった状態です。肝気鬱滞とも表現されます。
詰まった気の流れは、それを流してしまえば良い訳です。この流す治療を「疎肝」と言います。「疎」というのは疏泄(そせつ)の意味を持ち、物事を流す意味を持ちます。
疎肝という治療の要となる生薬は柴胡になります。
肝気過多
もう一つは「肝気過多」です。これは文字通り肝気が多すぎるので、その多い肝気を捨てる必要があります。この治療を「瀉肝」と言います。
余分の肝気は湿熱という形で存在し、例えば陰部の炎症や泌尿器疾患、アトピー等の原因にもなっています。
イメージとしては、ドロドロとした怒りのマグマが溜まっている感じです。別の言い方では「湿熱」と言われます。
この湿熱は中々取り去るのが難しく、治療に時間がかかります。
瀉肝という治療の要となる生薬は竜胆になります。
肝熱の治療の注意点
肝熱の治療は、その性質上、柴胡や竜胆等の身体を冷やしたり胃腸に負担がかかる生薬が使われます。
ですので、身体が漢方処方に負けて冷えたり胃腸の状態が悪くなる可能性もあります。
使用する際は、その様な負の側面にも十分注意しながら使用する事が必要です。また、失敗した時の対処法(温裏、補脾等)も頭に入れて処方運用をしていくと良いでしょう。
次は、肝熱(少陽病)と厥陰病の違いについてご紹介します。
厥陰病との違い
傷寒論の病態の一つに厥陰病(けついんびょう)というのがあります。
この厥陰病は冷えにより身体の気血の流れが止まってあべこべになった状態で、肝熱(少陽病)と寒熱・陰陽が逆の関係になります。
身体の芯が冷えてという訳ではなく、気血の流通自体が冷えで全身に運ばれない状態です。
つまり、身体の裏の冷えは無く、全身に気血が運ばれる段階で冷えが邪魔をしているという事になり、管轄としては肝の冷えとなります。
本記事にて取り上げている少陽病の場合は「肝に熱が詰まる事で身体の気血の流れが止まってあべこべとなっている状態。」であり、正反対の関係になります。
少し話は逸れますが、「四逆」という言葉があります。傷寒論に載っている四逆のつく処方のうち、代表的なものは以下の3処方です。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯
四逆散
四逆湯
これらの処方は、病態は全く違うのですが、同じ様に上焦に熱を持ち中下焦が冷えてきます(この上半身が熱く下半身が冷える事を四逆と言います。)。
それぞれ簡単に説明しますと、
当帰四逆加呉茱萸生姜湯・・・冷えた血(肝)を温めて巡らせる処方。厥陰病の処方。
四逆散・・・肝の鬱熱を取り、気の流れを良くする処方。少陽病の処方。
四逆湯・・・身体の中心部の冷えを改善し、命を救う処方。少陰病の処方。
となります。
これらの鑑別は難しいのですが、症状や部位に拘らず全身の所見を見て判断する必要があります。
陰病をマスターすればそのコツは自然と解る様になりますので、もしご不安な点があるようでしたら、
【漢方:66番】参蘇飲(じんそいん)の効果や副作用の解りやすい説明
の記事より各種陰病の記事をお読み下さい。
次の見出しでは、肝熱の治療に使う生薬についてご紹介していきます。
肝熱の治療に使う生薬
肝熱の治療に使う生薬はあまり多く無く、上の見出しでご紹介した通り柴胡と竜胆になります。
しかし、肝風の処理等周辺の病態を処理する生薬として釣藤鈎がよく使われますので、それも併せてご紹介します。
柴胡
「肝熱の治療と言ったら柴胡」という位有名な生薬です。
肝気の鬱滞が原因で熱を持ち、胸脇部が腫れてくる場合に使用します。疎肝理気と言い、肝の熱を取って気の流れを回復させます。柴胡の主効能はこの一点のみになります。
この効能の結果、起こる気の巡りの回復で色々な効能が出てきます。ですので、よく「柴胡が気自体を巡らせる」と書かれている成書がありますが、あれは間違いです。
竜胆
肝熱を取る生薬は柴胡が有名過ぎて、竜胆は湿熱取りの生薬という認識がされている生薬です。竜胆は、肝気過多の場合に余分な肝気を瀉す働きがあります。
竜胆瀉肝湯という処方がありますが、これは君薬の竜胆の作用をそのまま名前に採用した例になります。
柴胡と竜胆の使い分けは、肝気過多の場合はその余分な肝気が湿熱として存在するか否かという一点です。
湿熱という邪は熱性粘性の高いドロドロベタベタした邪気で、特に陰部から太ももにかけて汚い炎症を発生させる事が多いです。
また、アトピー等も湿熱が原因となっている場合があります言い換えますと、炎症等で「皮膚が汚い」というのも湿熱の特徴的所見になります。
更に、竜胆の証は丁度北斗の拳のラオウの様に、奥深くで怒っている様な怖い印象を与えます。マグマと同じく、身体の奥深くで怒りを溜めているというイメージですね。
表面上は静かでも、その様な場合は目が非常にキツくなります。周りにその様な方が見えたら注意しましょう。
釣藤鈎
釣藤鈎は、肝風を除く生薬として有名です。肝という臓器は熱を持ちやすい性質があります。熱を持つと、どうしてもそこに上向きの邪気が発生します。
発生した肝風は、眩暈や頭痛、ふらつき、筋肉の痙攣等の症状の原因となります。釣藤鈎はその様な場合に使用し、キツい肝風の邪気を除きます。
ですので、釣藤鈎が入っている処方を見た時「イライラや頭痛、眩暈、筋肉の引き攣れ等が存在する。」と頭に浮かべると良いでしょう。
肝熱の治療処方
肝熱の治療は、主に裏寒がそこまで酷くなく脾胃剤が使える段階から補血が出来る段階までと非常に幅があります。
言い換えますと、柴胡や竜胆といったメインの肝の熱を取る生薬より、その周辺状態を考えながら証決定を行う必要があるという事です。
肝熱の治療に使う処方で、代表的なものは以下になります。
補中益気湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、小柴胡湯、大柴胡湯
柴胡清肝湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、十味敗毒湯、加味逍遥散、加味帰脾湯
六君子湯、釣藤散、荊芥連翹湯、疎経活血湯、柴陥湯、竜胆瀉肝湯、竹筎温胆湯
滋陰至宝湯、柴朴湯、小柴胡湯加桔梗石膏、柴苓湯
それぞれご紹介していきす。
補中益気湯
補中益気湯は、元気をつける薬として有名です。
「気虚に補中益気湯」として使われる事が多いのですが、処方中に血を補う当帰やストレスを取る柴胡を含み、気虚専門の処方かというと疑問符が浮かびます。
私は、柴胡の入った気血両補剤と捉えた方が良いと考えています。また、条文には上焦の熱を取る薬として出てきます。
ですので、中肉中背から痩せ型で、イライラがあって疲労や咳のある方にお勧めです。
補中益気湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴胡桂枝湯
柴胡桂枝湯は、風邪の後期に対する薬として有名です。
桂枝湯と小柴胡湯を合わせたもので、肝の詰まりがありつつも上半身に気が鬱滞して逆上せているものに使用します。
私の経験で申し訳ないのですが、桂枝湯証はさっぱりとした方が多い様に感じます。
小建中湯が子供に使用する所からも解る通り、裏表のない素直な性格の方が桂枝湯類の適応になりやすいです。
逆に柴胡の証はイライラやストレスを内包し、裏表のある方が適応となりやすいです。
柴胡桂枝湯証は、例えば丁度思春期で身体の毒が出てくる時期等で子供の素直さと毒を内包するという相反する状態にある場合にも使用出来ます。
また、性格で「裏表があるけど素直さもある」という方も見えますので、そういう方にも適応となります。
柴胡桂枝湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:10番】柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴胡桂枝乾姜湯
柴胡桂枝乾姜湯は、神経過敏や不眠症に対する薬として有名です。
柴胡という生薬は胸脇部の熱を取り、その結果、気の巡りが復活して上焦の熱が中下焦に流れ、身体のバランスを整えます。
その処方群の中でも柴胡桂枝乾姜湯は、上焦の熱と中下焦の冷えが強い場合に使用します。
丁度、半夏瀉心湯の肝熱版の様な薬になります。
柴胡桂枝乾姜湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:11番】柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡加竜骨牡蛎湯は、神経症や不眠症に対する薬として有名です。
体つきが中肉中背以上でがっしりとしていて元気、ストレスが溜まって不眠などが出ている場合に合います。
柴胡加竜骨牡蛎湯証の場合、特に目が特徴的で、「変わった雰囲気の目」になります。手塚治虫の漫画に精神に異常のあるキャラが出てきますが、ああいう感じの目です。
本処方に限らず、直感で「目が変」と思ったら柴胡の使用を検討してみましょう。
柴胡加竜骨牡蛎湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:12番】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
小柴胡湯
小柴胡湯は、風邪の後期に対する薬として有名です。
柴胡剤というと小柴胡湯という位、有名な漢方処方です。昔、肝炎治療に用いて間質性肺炎の副作用問題が出ましたね。
今は使用頻度の少ない処方ですが、胃腸虚弱な方でストレスがかなりキツく入った場合に本処方の適応となります。
やはり右脇腹、胸脇苦満が出てきますが、釣藤鈎等は入らないので眩暈や酷い頭痛、眩暈等の筋肉の攣縮を伴う異常はありません。
基礎処方になりますので、是非覚えておいてください。
小柴胡湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:9番】小柴胡湯(しょうさいことう)の効果や副作用の解りやすい説明
大柴胡湯
大柴胡湯は、ストレスや不眠に対する薬として有名です。
小柴胡湯と同じく有名な処方に大柴胡湯があります。
小柴胡湯が胃腸の虚がある場合に使う処方とすると、この大柴胡湯は胃腸に問題が無く、ガッシリして元気な方につかうのが大柴胡湯となります。
ポイントは枳実や芍薬、大黄という胃腸に負担がかかりやすい生薬が入っている事です。これらを使って、身体の毒取りを行います。
身体に虚が無く、歯軋りや頭痛等の邪気が上焦にあって、柴胡の所見があれば使用を考慮する処方になります。
大柴胡湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:8番】大柴胡湯(だいさいことう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴胡清肝湯
柴胡清肝湯は、小児の体質改善薬として有名です。
一貫堂医学という明治時代から有名になってきた漢方の流派で、肝に熱がある子供に対する処方として使われています。
身体全体が浅黒く皮膚がガサガサしていて、目つきが鋭く、くすぐると鋭敏に反応する子供が対象となります。
柴胡清肝湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:80番】柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
抑肝散
抑肝散は、神経症や不眠に対する薬として有名です。
抑肝散の中には釣藤鈎が含まれ、イライラがつよくて眩暈や頭痛が起こる、筋肉が引き攣れている等の所見があれば使用の場があります。
近年、認知症の漢方としてよく使われていますが、中には抑肝散の虚の証が混じっている事があります。
抑肝散で取れるのは肝鬱で、イライラ等の怒りになります。
ですが、人生を悲観して精神的に参っている場合は悲しみになりますので抑肝散の適応ではなく、その様な場合は甘麦大棗湯を使用します。
表裏どちらの証にも対応出来て初めて、抑肝散が使用できると言えるのではないでしょうか。
抑肝散についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:54番】抑肝散(よくかんさん)の効果や副作用の解りやすい説明
抑肝散加陳皮半夏
抑肝散加陳皮半夏は、胃腸が弱い方の神経症や不眠に対する薬として有名です。
抑肝散に陳皮と半夏を足した処方で、江戸時代に日本で作られました。
抑肝散とほぼ同じですが、より胃腸が弱く、左上腹部の動悸が見られるのが特徴です。
抑肝散加陳皮半夏についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:83番】抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)の効果や副作用の解りやすい説明
十味敗毒湯
十味敗毒湯は、化膿性の皮膚病に対する薬として有名です。
紫雲膏で有名な華岡青洲先生が作られた処方で、名前の通り毒取りの処方となります。
とにかく毒を身体から除く事を目的としていますが、排出出来ない毒は身体の中で処理するしかありません。その場合、柴胡を使用して毒を中和しやすくします。
十味敗毒湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:6番】十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
加味逍遥散
加味逍遥散は、女性の不定愁訴に対する薬として有名です。
出典の和剤局方では、体力の無い弱弱しい方に、と書かれていますが、処方構成からは、身体の虚がそれほどなく、色々な事にブツブツ文句を言う方に合う処方となります。
似た様な使われ方をする薬として加味帰脾湯がありますが、加味逍遥散の方がより体質的に実となります。
加味逍遥散についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:24番】加味逍遥散(かみしょうようさん)の効果や副作用の解りやすい説明
加味帰脾湯
加味帰脾湯は、神経症や不眠症に対する薬として有名です。
一つ上でご紹介している加味逍遥散証と混同されがちな処方です。両処方共に不定愁訴と言い、取り留めも無く色々と話をするのですが、加味帰脾湯証の方がより虚になります。
名前の通り帰脾湯に山梔子と柴胡を足した処方で、イライラはありますが、胃腸の虚があって不眠や神経症等の心虚も存在します。
加味逍遥散証は比較的身体ががっしりした方用、加味帰脾湯証はスレンダーな方の不定愁訴、と使い分けを覚えておくと良いでしょう。
加味帰脾湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:137番】加味帰脾湯(かみきひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
六君子湯
六君子湯は、胃腸虚弱に対する薬として有名です。
六君子湯には、柴胡や竜胆といった肝熱を取る生薬は入っておりません。
ですが、胃を動かす陳皮や半夏といった生薬が入っています。
胃というのは、肝臓の左横において、胃底部(上部)から幽門にかけて左上から右下に降りており、六君子湯はその流れをつける事で上焦と中下焦の境目で気を攪拌します。
肝気もそれにつられて動きますので、六君子湯は柴胡剤一歩手前の処方という意味もあります。
うっすら柴胡証の香りがしてきたか来ないかの微妙な時期に使用出来る処方となります。
六君子湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
釣藤散
釣藤散は、頭痛や高血圧に対する薬として有名です。
処方中に柴胡や竜胆は含みませんが、肝の詰まりを取って風邪を除く釣藤鈎が君薬として配されています。
石膏や麦門冬も含まれる為、肺陰が少なくなり粘膜が渇き、時に咳込む方の高血圧や頭痛に使用されます。
今は認知症の漢方と言うと抑肝散ですが、脳血流を改善する菊花等も入る為、認知症にも使用される事があります。
釣藤散についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:47番】釣藤散(ちょうとうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
荊芥連翹湯
荊芥連翹湯は、鼻汁や湿疹に対する薬として有名です。
一貫堂医学を始められた森道伯先生がよく使われた解毒証体質の薬でもあり、皮膚が浅黒くガサガサしていて目つきが鋭い方の蓄膿症や痒みに使用します。
同じ解毒証体質の処方である竜胆瀉肝湯が下焦中心の薬に対して、荊芥連翹湯は上焦の風邪を除く所がポイントとなります。
荊芥連翹湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:50番】荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
疎経活血湯
疎経活血湯は、関節痛や腰痛に対する薬として有名です。
処方中に竜胆を含み、湿熱と呼ばれる熱をもった水の毒を除きます。アルコールや甘い物等、湿熱を溜めやすい食品を好む方で、急性亜急性の足腰の痛みに使用の場があります。
ドラッグストアにおいても、よく使用される処方の一つになります。
疎経活血湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:53番】疎経活血湯(そけいかっけつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴陥湯
柴陥湯は、咳に対する薬として有名です。
小柴胡湯と小陥胸湯を合わせた処方で、柴胡の証である肝の詰まりがある所に、咳が出て胸痛が出てくるものに使用します。
ストレスが溜まりがちな体質の方で、目が鋭く、中肉中背程度の方の咳に検討したい処方です。
柴陥湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:73番】柴陥湯(さいかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
竜胆瀉肝湯
竜胆瀉肝湯は、泌尿器疾患や陰部炎症に対する薬として有名です。
一貫堂医学の解毒証体質の薬でもあり、私の漢方の先生は「男性の保健薬」と仰っていました。
仕事をバリバリする男性に合う処方だそうで、皮膚が浅黒く、目つきが鋭い方の泌尿器疾患や陰部の痒みや炎症に使用します。
竜胆を含み、肝気が集まって出来た湿熱を瀉す処方で、表面は静かですがマグマの様な怒りを内包するのがポイントです。
湿熱はベトベトとして中々除きにくいのが特徴になりますので、持続的に重いストレスを抱えている事が解ります。
竜胆瀉肝湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
同じ名前でも配合処方が違うものが2種あり、一貫堂医学で使われる竜胆瀉肝湯は下のコタローN76番のものになります。
【漢方:76番】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:76番:一貫堂】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
竹筎温胆湯
竹筎温胆湯は、風邪の後期や不眠に対する薬として有名です。
この処方は、胆が冷えた時に飲む薬という意味があり、温胆湯と名付けられています。
胆が冷えるとどうなるのでしょうか?
「えーっとえーっと・・・どうしよう?!」と考えるばかりで、答えが出なくなりますよね。
実は思考のプロセスは、細かく分けると「考える」「答えを出す」という2つの工程に分けられます。
実は、胆は「決断を主る臓器」とされ、肝と組んで思考の一翼を担っています。つまり、どちらかを決めて答えを出すという機能を持ちます。
ここが動かなくなると、答えを出せなくなり延々と考え続ける様になります。
患者さんで、話しかけても決断できずずっとその事について考えている方は、胆の冷えを疑っても良いでしょう。
竹筎温胆湯は行き過ぎた肝の熱を抑え、気の巡りを復活させる事で胆の冷えを改善し、結果的に症状を改善します。
竹筎温胆湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:91番】竹筎温胆湯(ちくじょうんたんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
滋陰至宝湯
滋陰至宝湯は、慢性の咳や痰に対する薬として有名です。
この処方は中々使いづらいイメージがありますが、「加味逍遥散に麦門冬が入ったものと似ている」考えると非常に使いやすくなります。
元気な方の加味逍遥散証で、咳や喉の渇きがある方に合う処方となります。
滋陰至宝湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:92番】滋陰至宝湯(じいんしほうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴朴湯
柴朴湯は、喉の詰まり感のある咳や喘息、神経症に対する薬として有名です。
半夏厚朴湯と小柴胡湯を合わせた処方で、肝熱のイライラと胃実の頑固さが一度に来ている方に使用します。
目つきが鋭く、胸脇苦満がある方で、高圧的で頑固、自慢話をよくし、我が儘で頑固な方の喉の詰まりに良い処方です。
柴朴湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:95番】柴朴湯(さいぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
小柴胡湯加桔梗石膏
小柴胡湯加桔梗石膏は、喉の痛みに対する薬として有名です。
風邪の後期に使用される小柴胡湯証で、喉の強い痛みがある場合に使用されます。
ですので、基本的には小柴胡湯の使用目標に準じます。
小柴胡湯加桔梗石膏についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:109番】小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)の効果や副作用の解りやすい説明
柴苓湯
柴苓湯は、暑気あたり等の急性胃腸炎に対する薬として有名です。
小柴胡湯と五苓散を合わせた処方で、風邪の後期に頭痛や浮腫み、水を飲んでは吐く等の症状があれば、使用を検討してみても良いでしょう。
また、耳鼻科領域で難聴やメニエール病、耳鳴り等に使用される事もあります。
柴苓湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:114番】柴苓湯(さいれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
さいごに
肝熱は、身体の気の流れが上下の境目で止められてしまい、バランスが悪くなってしまう事が原因です。
総じて身体の上半身で熱を持ち、逆に下半身が冷えて来るという病態を生み出します。
西洋医学には無い概念ですので最初は勉強に苦労するかと思いますが、治療上、起死回生の一手になる事も多いカテゴリーです。
是非、色々と経験されてマスターしていかれることをお勧めします。
また、肝熱の治療は瀉の治療法になりますので、失敗した時の対処法まで頭に入れて使う事も必要です。
基本的には補剤や、裏を温める温裏剤を使用します。
失敗した時の事も考えながら治療を行うと、安全性が非常に高まります。
本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。
臨床寄りの漢方資料
実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。
現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。
後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。
調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。
「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。
【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。
漢方の勉強方法について
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。