ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。
本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。
今日は、温病(うんびょう)の治療について、詳しくご紹介します。
「銀翹散が有名だけど、その他の処方知らないなあ。」
って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。
温病は、傷寒論や金匱要略といった本にはあまり扱いが無い為日本ではあまり発達せず、主に中医学において研究されてきたカテゴリーになります。
また、病の伝播様式も特徴があります。
今回の記事では、温病の病態と治療、注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。
本記事は、以下の構成になっています。
温病とは何か
温病治療のポイント
温病治療の注意点
温病と裏熱の違い
温病の治療に使う生薬
温病の治療
さいごに
温病治療には、いくつかポイントがあります。そのポイントを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。
本記事では、温病についてご説明し、治療条件を経て治療まで行きたいと思います。
それでは、宜しくお願い致します。
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温病とは何か
温病は、日本で発達した漢方医学ではあまり論じられず、本場中国の医学である「中医学」でよく用いられる概念です。
日本で発達した傷寒(風寒の邪)に対する治療法は、身体外部から冷えを伴う邪気が来た場合の対処法になります。
温病の場合は、冷えではなく熱と乾燥を伴う邪である温邪(うんじゃ)により、身体の陰が消耗していく疾患です。
簡単にまとめますと、
傷寒(風寒の邪)は冷えを伴う邪気→陽を損傷
温邪は熱と乾燥を伴う邪気→陰を損傷
となります。
温病は熱性の邪気ですので、秋冬に流行る傷寒とは違い、年を通して流行る特徴があります。
また、温病の基礎となる治療理論は、
衛気営血弁証
三焦弁証
の2つです。
弁証(べんしょう)というのは「証を弁ずる」という文字そのままで、漢方で〇〇証△△証というその処方が合うかどうかを決める方法の事です。
漢方医学という大きな括りでは、場合によって理論を替えるというのはあまり良くないのですが、上記の二つについては大元に近くなる理論ですので知っておいた方が良いでしょう。
それぞれ、解説していきます。
衛気営血弁証
衛気営血弁証(えきえいけつべんしょう)というのは、漢字が多くて解りにくいかもしれませんが、単純に「衛→気→営→血の順で病が進行する」という意味です。
さて、衛、気、営、血とは一体何でしょうか?
これらは、それぞれ簡単に次の様な説明になります。
衛:体表から外部にかけて流れる、身体の外から来る邪気をブロックする「衛気(えき)」の事。主な症状は喉の炎症や頭痛、痒み、発熱など。
気:ここでは、身体を流れている正気(せいき)で、主に肺の管轄。主な症状は口や喉、皮膚粘膜の乾燥や咳、呼吸困難等。
営:脾胃まで温邪が侵襲した状態で、湿熱になりやすく、神も侵されやすい。主な症状は下痢、食欲不振、嘔吐、胸苦しい、不眠、精神異常、意識混濁等。
血:温邪が身体の奥深く、肝腎という血の領域まで入り込んでしまった状態。主な症状は血栓や出血等。
これらが上から順に侵されて行きます。
しかも、それぞれの領域で単体で侵されていくのではなく、最初は衛、次は衛と気、その次は衛と気と営という様に追加して侵されます。
ですので、病が進行するに従って病状が重くなるのが特徴です。但し、温邪の性質により、出にくい症状もあります。
イメージは、外からだんだんと内々に入っていく感じです。これは、次にご紹介する三焦弁証にも当てはまります。
三焦弁証
漢方医学において、身体を上中下の3つに分ける捉え方があります。これを三焦(さんしょう)と言います。
温病の場合、概ね三焦において上焦→中焦→下焦の順で侵されます。
つまり、温邪が三焦のうちどの部位に居るのかを考える目安が三焦弁証になります。
また、五臓を上から順番に並べますと、肺→心→脾→肝→腎となります。肺が一番上で、腎が一番下です。
それらを、それぞれ三焦の上中下に割り振ると、以下の様になります。
上焦:肺・心
中焦:脾
下焦:肝・腎
上で、温病の場合は「上焦→中焦→下焦の順で侵される」と書きましたが、この流れは衛気営血弁証の流れと一致します。
という事は、これら二つの弁証(理論)は、同じものを別の角度から見ただけ、とも言えます。
まとめますと、
温病は、身体の外部から内部に渡って、上から下に向かって侵されていく発熱傷陰の病である。
となります。
ここで、古典の温病の記述をご紹介します。
黄帝内経素問という漢方の聖典があります。その中に、「冬傷於寒,春必病温」という記載があります。
難しい事書いてある様に見えますが、訳しますと「冬に傷寒(冬に流行る風邪)にかかったものは、春に必ず温病となる。」となります。
この記載は未だに論争がある記述ですが、私は以下の様に考えています。
「冬に風寒の邪に侵されて病になってしまうと、身体(陰)が充実せず陰が不足し、春の持続的な陽気に負けて傷陰発熱して必ず温病となる。」
これは、上で散々ご紹介してきた温邪と身体の正気との綱引きとなり、少し応用的な考えとなります。身体の陰虚がある所に、春の温かい気が身体を取り囲む訳です。
外部に身体が負けてしまうというのは自明の理となります。
本当の所はどうか解りませんが、漢方の世界では、白黒はっきりつかない事も多い為、自分なりの回答を持っておく事がとても大事です。
ちなみに、2020年から始まった世界的な流行り病は、最初に喉の痛み、次に咳、胃腸症状&意識混濁、最後に免疫暴走からの血栓や出血という症状が出ます。
更に、季節問わずに流行していますので、「これって温病じゃないかな?」と私は考えています。
次に、温病の治療ポイントについてお話します。
温病治療のポイント
温病は、他の漢方の分野に比べて中医学の影響が強く、まだまだその考えがこなれていない現状があります。
つまり、その考え方の掘り下げが浅く、対象範囲も狭いと考えています。
それが問題点ですので、逆に言いますと、それらを解決してやればいいという事になります。
答えは2つ、
補陰清熱が温病治療の本質
温病の対象範囲を広げる
という事です。
それぞれ、ご説明していきます。
補陰清熱が温病治療の本質
温病の性質は、何処まで行っても「温燥の邪」です。潤いを無くす事で相対的に持続的に邪熱を発生させる特徴があります。
それらが、身体のどの部分まで入り込んでいるかの差しかありません。
温燥の邪という事は、身体に対する負荷が2つのパラメーターで表されるという事になります。
温・・・身体に余分な熱を持たせる性質
燥・・・身体の潤いを取り去り乾燥させる性質
これらのパラメーターの強弱と、身体の状態を加味した状態が、実際の所見で現れてきます。
ですので、これらの治療は、その反対をしてやればいいという事になります。補陰清熱ですね。
言い換えますと、身体を潤わせて熱を取れば良いという事になります。これが、温病治療の本質になります。
温病の対象範囲を広げる
温病というと、熱と傷陰(乾燥)とお話しました。しかし、典型的な温病以外は温病として処理されない事が多いのが現状です。
どういう事かと言いますと、「温病と捉える範囲が狭い」という事です。
結局、どの様な方法であれ、証が当たって病気が治ればそれで良いのですが、温病の範囲を狭めてしまうと、それに伴って使える処方も限定されていきます。
日本国内では温病の治療処方が少ない為、温病の範囲を少し広げておいた方が使える処方が増えて運用しやすくなります。「広義の温病」と定義すると良いでしょう。
また、上で「温燥の邪という事は、身体に対する負荷が2つのパラメーターで表される」とご紹介しました。
温邪の中には、熱はそれほど無く、傷陰させてしまう力が強い邪、逆に熱性が強いが傷陰はあまりしない邪、等の特徴があります。
前者の場合は空咳が出やすく、逆に後者の場合は呼吸困難だったり脾胃で湿邪と結びついて湿熱になる場合もあります。
邪気の性質と身体の状態、それぞれの影響を総合したものが所見となる訳です。
この様に、邪気の性質まで考えた場合、少し遊びを持たせた方が運用しやすくなるメリットがあります。
勿論、他の原因である場合もありますので、その辺りは慎重に鑑別していきます。
次に、温病治療の注意点をご紹介します。
温病治療の注意点
温病治療は、その性質上、金銀花や石膏、麦門冬等の身体を冷やしたり胃腸に負担がかかる生薬が使われます。
ですので、身体が漢方処方に負けて冷えたり胃腸の状態が悪くなる可能性もあります。
使用する際は、その様な負の側面にも十分注意しながら使用する事が必要です。
次は、温病と裏熱の違いについてご紹介します。
温病と裏熱の違い
温病と裏熱は似ていますが、異なる病態です。
狭い意味では、裏熱は傷寒という冷えを伴う邪気に身体が侵された時、闘病反応として出る身体内部の熱過多を言います。
温病が熱と乾燥(傷陰)を伴う邪気であるのとは対照的です。
広い意味では、裏熱は狭い意味の裏熱にプラスして「乾燥を伴わない熱邪に身体が侵された場合」に使用します。
裏熱でよく使用される黄芩・黄連・黄柏という生薬は、どちらかというと身体の熱を取りながら乾燥させます。ですので、温病の治療ではメインで使われる事はありません。
逆に、麦門冬や石膏という生薬は、身体を冷やしながら潤いを与える働きがあるため、温病でも裏熱でも使用されます。
この様な違いがあります。
次に、温病治療に使用される生薬についてご紹介していきます。
温病の治療に使う生薬
温病の治療に使われる生薬は、以下の様なものがあります。
辛涼解表薬(金銀花、薄荷、荊芥、牛蒡子、連翹、升麻、他)
麦門冬、天門冬
石膏
知母
犀角(水牛角)
羚羊角
それぞれご紹介していきます。
辛涼解表薬(金銀花、薄荷、荊芥、牛蒡子、連翹、升麻、他)
温病の治療というと、真っ先に出てくる生薬群として辛涼解表薬(しんりょうげひょうやく)があります。
辛涼解表薬というのは、その名の通り、辛くて冷やす性質の有る、表の異常を解す(治す)薬です。
薄荷の様に、スーッと発散しながら冷たくなるのが特徴です。
逆に、麻黄や桂皮の様な身体の表を温めて表の異常を治す薬は、辛温解表薬(しんおんげひょうやく)といいます。
要は、発散させて治す薬の性質が、温めるか冷やすかの差という事になります。
辛涼解表薬には、上に挙げた生薬の他に、作用はゆるやかですが邪気を祓う香附子等も広義の温病の治療として用いる事があります。
これら辛涼解表薬は身体の表に主に効いてくるので、「体表である衛分の異常を治す生薬」と言えます。
麦門冬、天門冬
麦門冬は肺を潤す効能があり、温病の治療剤として使用されます。温邪が気分まで入ると、肺が侵されて咳が出たり皮膚粘膜が乾燥してきたりします。
病態としては、肺の陰虚と燥熱になりますので、補陰清熱という治療法を用います。
麦門冬や天門冬は衛分と営分の間、体表と中焦の間である「上焦の気分の異常を治す生薬」と言えます。
ですので、言ってしまいますと、麦門冬や天門冬の配された処方は全て温病治療剤という事になります。
「広義の温病」の考え方を持ち込むのは、麦門冬処方をフレキシブルに使用する為です。例えば、麦門冬湯や清暑益気湯も、温病の治療剤としてラインナップに加える事が出来ます。
日本では、温病の治療剤が少ないのですが、少し工夫してやるだけでグッと運用が楽になります。
石膏
石膏は裏熱を取る生薬として有名ですが、水分調整をする効果があるので温病にも使います。
効果範囲は肺と胃になりますので、気分と営分の両方の熱を取る生薬と言えます。
基本的に、石膏が適応となる様な熱燥の強い温病の場合、大体は水を呼ぶ方向で調整がかかります。
急性の温病において、日本で気軽に使える生薬の中で一番深い位置の熱を取る生薬です。
知母
知母は、腎熱に対する生薬として有名です。急性ではなく、環境要因や生活習慣による持続的な乾燥を伴う熱に使用します。
ですので、これも広義の温病に対する生薬としての側面があります。
知母は氷に例えられる生薬で、その性は寒となります。急性の病で使う事は少ないのですが、頭に入れておくと良いでしょう。
犀角、水牛角
それぞれ読み方は、犀角(さいかく)、水牛角(すいぎゅうかく)です。清熱涼血薬という分類になり、血分の熱を冷ます働きがあります。
前者は動物のサイの角、後者は名前の通り水牛の角を使用します。
何かのニュースで見たのですが、犀角は成分を調べてみても有効成分が無いそうです。
只、漢方はその様な生薬が山ほどありますので、伝統的な使い方に沿って使用する事が大事では無いでしょうか。
本生薬を使った有名な処方に「犀角地黄湯(さいかくじおうとう)」というものがありますが、日本では犀角が手に入らないので使えない処方となります(犀角を水牛角に変えて、個人的に作る事は出来ます)。
血分まで入り込んだ温病を治す薬です。
日常でこれらの生薬を使う事はほぼありませんので、「こんなのがあるよ」と頭に入れておくだけで良いでしょう。
羚羊角
羚羊角(れいようかく)と読みます。平肝熄風薬(へいかんそくふうやく)という分類に入り、肝のカテゴリーに入る衛~気分の薬となります。
平肝熄風薬は「平肝」、つまり肝の熱を取って正常に戻す「熄風薬」、つまり火の様な鋭い風の邪気を消す薬という意味です。
火の様な鋭い風の邪気ですので、痙攣や眩暈などの震え症状全般を取り去る効果があるとされます。
これも角という漢字がついている通り、動物の角を使用します。起原動物はカモシカになります。
本生薬は銀翹散に使用されていますが、近年、入りにくくなって水牛角で代用される事もあります。水牛角は血分の薬ですので、薬効は若干違いますね。
温病の治療
実際に臨床で温病の治療を行う際、以下の処方が主に日本では使われます。
銀翹散、駆風解毒湯、川芎茶調散、参蘇飲、升麻葛根湯、香蘇散
生脈散、麦門冬湯、炙甘草湯、白虎加人参湯、清暑益気湯、清心蓮子飲
香砂六君子湯加減、正理湯、藿香正気散、竹葉石膏湯、滋陰降火湯
それぞれご紹介していきます。なお、上の見出しでご紹介した犀角地黄湯については、日本では使用出来ない為割愛致します。
銀翹散
銀翹散(ぎんぎょうさん)は、喉の痛みの薬として有名です。
温病を代表する薬で、保険収載されていないのが特徴です。ですが、色々な所で「喉の痛みによく効いた」と聞く処方でもあります。
体表にある温邪を冷ましながら発散させて治すという薬で、基本的に身体を冷やす処方となります。
ですので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要です。これらの虚状が無い事を確認してから使用する事が大事です。
駆風解毒湯
駆風解毒湯(くふうげどくとう)は、喉の痛みに対する薬として有名です。
喉の痛みというと銀翹散が有名ですが、駆風解毒湯には石膏が入り、喉により強い熱を伴う炎症がある場合に使用する処方となります。
また、扁桃腺炎等にも応用されます。
銀翹散同様、身体を冷やす働きがありますので、脾虚や裏寒等の虚状がある場合は使用する際注意が必要です。これらの虚状が無い事を確認してから使用する事が大事です。
川芎茶調散
川芎茶調散は、頭痛に対する薬として有名です。
処方の中に温性の気を散ずる生薬が多数入っており、頭痛まで起こす様なキツイ邪気にも対応出来ます。
温邪の侵襲に対してもその効果は発揮され、同様に春先の頭痛等にも応用されます。
川芎茶調散についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:124番】川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
参蘇飲
参蘇飲は、頭痛発熱等を主訴とする風邪に対する薬として有名です。
名前の通り、人参と蘇葉がメインの構成となります。
本処方の骨格は葛根湯と似ており、風寒の邪気ではなく温性の邪に使用します。熱がメインで傷陰はそこまで無い為、湿邪と絡みついて湿熱を帯びやすいのが特徴です。
簡単に、「温病の葛根湯」と覚えておくと良いでしょう。
参蘇飲についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:66番】参蘇飲(じんそいん)の効果や副作用の解りやすい説明
升麻葛根湯
升麻葛根湯は、小児の風邪や発疹に対する薬として有名です。
名前から、葛根湯に升麻を足したものと思われがちですが、そうではなく「升麻と葛根が君薬」という意味になります。
とは言え葛根湯と構成はそこそこ近く、麻疹に対する処方として昔多用されていました。
風熱の邪に対する処方で、広義の温病の薬と言えます。
升麻葛根湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:101番】升麻葛根湯(しょうまかっこんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
香蘇散
香蘇散は、頭痛や気分不良、蕁麻疹に対する薬として有名です。
君薬の香附子、蘇葉は冷やす生薬ではありませんが、「甘温除大熱」と李東垣先生が仰っている様に、温病に温性の生薬を用いる場合もあります。
これらは、熱燥の性質が少ない邪気に気軽に用いる事が出来ますので、広義の温病の処方とも言えます。
香蘇散単体で使われる事は少なく、六君子湯や茯苓飲合半夏厚朴湯の様な胃腸の処方に合方して使用すると色々な病に応用出来ます。
香蘇散についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:70番】香蘇散(こうそさん)の効果や副作用の解りやすい説明
生脈散
生脈散は、夏バテに対する薬として有名です。
麦門冬が入っており、肺の熱燥を潤しながら冷まします。生脈散は、五味子を含むため非常に酸味の強い味がします。
温病の熱躁の邪が持続的に身体を侵襲する環境での使用の場があります。また、清暑益気湯にも含まれています。
麦門冬湯
麦門冬湯は、咳に対する薬として有名です。
大逆上気と言い、肺が乾燥して敏感になり、咳こんでいる場合に使用します。
温邪で、燥性が強いものに侵襲された場合にも応用出来ます。
麦門冬湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:29番】麦門冬湯(ばくもんどうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
炙甘草湯
炙甘草湯は、別味「復脈湯」といい、不整脈に対する薬として有名です。
心肺の燥熱を取る処方で、疲れ等にも使用されます。
処方中に麦門冬を含み、肺を潤す効があります。麦門冬湯より心肺に熱があり、疲れこんでいる場合によく効きます。
炙甘草湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:64番】炙甘草湯(しゃかんぞうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
白虎加人参湯
白虎加人参湯は、熱中症に対する薬として有名です。
所謂「署邪」に使われる処方ですが、署邪も広い意味では温病の一種となります。
酷く顔が赤く、皮膚粘膜や喉が乾燥して時に咳込む場合に使用します。
気軽に使える急性温病の処方の中で、一番深い位置に位置する処方となりますので、温病の最終防衛ラインと認識しておくべき処方です。
白虎加人参湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:34番】白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
清暑益気湯
清暑益気湯は、暑気あたりに対する薬として有名です。
白虎加人参湯が熱性が強い邪に侵襲されたものに比べ、清暑益気湯は燥性熱性それぞれがそこそこ存在する場合に使用します。
中に生脈散が丸々入っており、補中益気湯の夏バージョンの薬と言えます。心肺の熱を処理する考え方は補中益気湯より直接的と言えます。
清暑益気湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:136番】清暑益気湯(せいしょえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
清心蓮子飲
清心蓮子飲は、膀胱炎等泌尿器症状に対する薬として有名です。
清心とは、心が清らかという訳ではなく「心の邪熱を取り去る」という意味になります。
心肺の燥熱を取って、上半身と下半身の連携を回復させ、余分な熱を尿として排泄する処方と言えます。
顔が赤く皮膚粘膜が乾燥している方で、多忙で不眠症状や精神不安等があり、頻尿や尿の異常等、泌尿器症状が出ている方に使用します。
身体の周りの環境でそうなっている事も往々としてある為、本処方も広義の温病に対する処方になります。
清心蓮子飲についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:111番】清心蓮子飲(せいしんれんしいん)の効果や副作用の解りやすい説明
香砂六君子湯加減
香砂六君子湯加減は、咳を伴う胃腸風邪に対する薬として使用されます。
処方構成は、六君子湯と香蘇散を等量混ぜたもので、香砂六君子湯の加減方となります。
胃腸が元々弱く、食欲が湧かない痩せている方の胃腸風邪や花粉症に使用されます。
香砂六君子湯加減についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:70番】香蘇散(こうそさん)の効果や副作用の解りやすい説明
正理湯
正理湯(しょうりとう)はあまり聞きなれない処方だと思いますが、咳を伴う胃腸風邪に対する薬として使用されます。
処方構成は、茯苓飲合半夏厚朴湯と香蘇散を等量混ぜたものになります。
胃が詰まって消化不良を起こし易い方の胃腸風邪や花粉症に使用されます。
正理湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:116番】茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:70番】香蘇散(こうそさん)の効果や副作用の解りやすい説明
藿香正気散
藿香正気散は、夏風邪に対する薬として有名です。丁度、清暑益気湯と表裏関係にある薬方になります。
清暑益気湯が胃腸の虚弱があって夏風邪の場合に使用する処方とすると、本処方は胃実という、食べ過ぎ飲み過ぎで消化不良がある場合の夏風邪に使用する処方と言えます。
温病の性質は、燥性熱性共に強くないのですが、胃腸まで達して痰と絡んで湿熱になっているものを治療します。
竹葉石膏湯
竹葉石膏湯は、処方中に竹葉と石膏、麦門冬を含んだ、肺にキツい熱躁がある場合に使用する処方となります。
使用の場としては、日射病熱射病等の急性の熱病で、咳をよくして、皮膚粘膜や唇、喉の乾燥を伴っているものになります。
丁度、白虎加人参湯も似た様な病態で鑑別が必要となりますが、竹葉石膏湯の方が皮膚粘膜の乾燥が強く、咳や喘鳴等の呼吸器症状があるのが特徴です。
本処方は、その性質上身体を芯から冷やしてしまう可能性があります。ですので、裏寒に注意しながら使用する必要があります。
必ず、顔の中心部が青黒い、白い等の所見が無い事を確認してから使用するようにしましょう。
滋陰降火湯
滋陰降火湯は、咳に対する薬として有名です。
本処方の病態は、腎虚から来る腎熱が原因で、肺が乾燥し熱を帯びている場合に使用します。
温病の様な早い変化を伴う急性病向きの薬ではありませんが、じんわりと身体を侵襲する熱燥の邪にも使用できる、広義の温病処方と言えます。
滋陰降火湯についての詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:93番】滋陰降火湯(じいんこうかとう)の効果や副作用の解りやすい説明
さいごに
もしかしたら気付かれたかもしれませんが、温病というのは、対象を広げていくと身近に経験する病態が結構あります。
風邪も、秋冬だけに流行るものではなく、残り半分の春夏や通年に渡ってかかるものもあります。
どの視点で見るかによって、邪の呼び方や種類が変わるという事を知っておくと、応用する力が格段に増えていきます。
また、温病の治療も裏熱の治療と同じ様に、失敗した時の対処法まで頭に入れて使う事が必要です。
基本的には補剤や、裏を温める温裏剤を使用します。
失敗した時の事も考えながら治療を行うと、安全性が非常に高まります。是非、マスターしてくださいね。
本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。
臨床寄りの漢方資料
実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。
現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。
後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。
調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。
「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。
【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
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