ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。
本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。
今日は、一貫堂医学について、ご紹介します。
「一貫堂医学って漢方とは違うの?三大体質とかよく解らない。」
って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。
私も色々と書籍を読んでみましたが、中々よく解らないという印象です。他の先生の処方の使い方を見ていても、先生各々で違ってよく解らないのが現状です。
その辺りについて、私なりにまとめてブログ記事でポイントをお伝えする事にしました。
今回の記事では、一貫堂医学の概論や病態を出しながら、処方の注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。
本記事は、以下の構成になっています。
一貫堂医学とは何か
一貫堂医学のポイント
一貫堂医学の治療における注意点
一貫堂医学の応用的解釈
一貫堂医学の治療各論
さいごに
一貫堂医学の理解については、どう説明をしても漢方の中級者以上の知識が必要です。
ですので、初学の方は後回しにして他のカテゴリーから勉強していただいた方が良いでしょう。
しかし、一貫堂医学を理解できると治療の幅が格段に増えます。
もし出来そうなら、是非トライしてみてください。
それでは、宜しくお願い致します。
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一貫堂医学とは何か
一貫堂医学というのは、明治から昭和にかけての漢方家である森道伯先生が始められた漢方医学の事を指します。
患者の体質を3つに大きく分け、それらに対する処方運用を基軸としています。
使用される処方は後世方とよばれる分野のものである為、後世方の一流派とされています。
一貫堂医学は、森道伯先生の後を矢数格先生、矢数道明先生等をはじめ、日本の後世方の漢方を使用する先生を中心として、受け継がれています。
次に、一貫堂医学の三大体質についてご説明します。
一貫堂医学のポイント
一貫堂医学のポイントは、他の漢方流派には見られない「患者の体質を三つに分類する」という事です。
その3つの分類は、以下のように分かれます。
瘀血証体質(おけつしょうたいしつ)
臓毒証体質(ぞうどくしょうたいしつ)
解毒証体質(げどくしょうたいしつ)
瘀血証体質は瘀血があるという事で何となく解るのですが、下二つは両方毒が溜まる体質であり、名前だけではその区別がつき辛く感じます。
それらも含め、それぞれご紹介していきます。
瘀血証体質(おけつしょうたいしつ)
瘀血証体質とは、その名の通り、瘀血が溜まりやすい体質の事です。
瘀血とは悪い血、古い血の事で、血液だけではなく癌や良性を含む腫瘍等も瘀血として解釈します。
特に女性に多いのが特徴です(男性でも勿論溜まります)。
瘀血を引き起こしやすい体質という意味で、その名がついています。
瘀血になりやすいという事は、その治療は駆瘀血となります。
一貫堂医学の瘀血証体質に対する処方は、通導散が代表です。通導散の説明に関しては、また後で行います。
臓毒証体質(ぞうどくしょうたいしつ)
臓毒証体質というのは、邪気邪熱や湿邪等の邪気が身体に溜まっている状態を指します。
胃に熱を持ち、主に不摂生が原因で邪気湿邪を取り込み過ぎている為にそうなってしまったのが原因です。
臓毒証体質の治療は、それら邪気や湿邪を体外に排出するという方法を取ります。代表処方は防風通聖散です。
防風通聖散の説明に関しては、また後で行います。
解毒証体質(げどくしょうたいしつ)
解毒証体質は、肝に熱を持ちやすくて身体に邪気邪熱、湿熱が溜まりやすい状態を指します。とにかく身体の邪気を分解する速度が遅く、熱を持って詰まりやすい体質となります。
六病位で表現すると、少陽病になりやすい体質の事です。私は、肝熱や湿熱が溜まりやすい体質と認識しています。
ですので、解毒証体質の治療は柴胡や竜胆といった肝の熱を取り去る生薬が入ります。臓毒証体質と名前が似ているので混乱しますが、胃の熱か肝の熱かという違いがあります。
そして、それらは使用される処方の違いにもそのまま当てはまります。
代表処方は、竜胆瀉肝湯、荊芥連翹湯、柴胡清肝湯です。これらの処方に関しては、また後で説明します。
一貫堂医学の治療における注意点
森道伯先生の門人であった矢数格先生が書かれた「漢方一貫堂医学」という本で、森先生が行われていた医学は漢方に加えて仏教も取り入れて診療されていた、と書かれています。
つまり、現代に伝わっている一貫堂医学という流派は「不完全である」という事になります。
理由は不明ですが、一貫堂医学の仏教の部分については、失伝しており伝わっておりません。
私の想像ですが、本として書けなかった、若しくは矢数先生をはじめとする門人の先生が理解できなかったのかもしれません。
また、一貫堂医学は明治時代から昭和にかけて完成された医学体系であり、当時の住民の体質に合わせて考えられているという事です。
明治から昭和の時代は、文明開化で外国の食生活が日本に流入してきました。
ですので、江戸時代の頑健な身体の中に油気が多い邪熱湿邪瘀血を生じやすい食生活となっておりました。
つまり、時代背景として、邪気邪熱湿邪瘀血等の毒が身体に溜まりやすい時代であったという事が言えます。
しかし現代は、冷蔵庫やエアコン、車が一般化した事で運動量が落ちて新陳代謝自体が減っている所に上記の西洋料理・中華料理等を食しており、一貫堂医学が完成した時代とは基本的な体質が虚にシフトしていってしまっています。
その様な事情で、一貫堂医学の処方はそのままでは使いづらく、その前に身体の虚状を回復させるという手順が必要となります。
更に、一貫堂医学の代表処方についても、そのまま使うのではなく類方や加減方を応用で使えるようにした方が良いでしょう。
それぞれの体質に合う処方を拡大解釈し、運用していく訳です。後ほど、一貫堂医学の五大処方に加え、その応用的な処方もご紹介します。
よく見てみると解るのですが、森道伯先生の門人であった矢数道明先生も、その処方は虚の処方から実の処方まで幅広く使われています。
その事実から、一貫堂医学に変に固執するのではなく、自分の漢方のオプションとして考え方を取り入れるというのが一番理に叶っています。
以上、一貫堂医学の注意点についてご紹介しました。
一貫堂医学の応用的解釈
上の段落にて、「一貫堂医学の処方を拡大解釈し、運用していく。」とお話しました。それについて、詳しくお話していきます。
一貫堂医学の五大処方は、
通導散
防風通聖散
竜胆瀉肝湯
荊芥連翹湯
柴胡清肝湯
です。
これらを見て、一つ気付くことがあります。それは、「どの処方も瀉剤」という事です。
全て瀉剤であるならば、これらが使えるのは限定された証のみという事が解ります。
確かに、明治から昭和中期位まではこれで良いのかもしれません。
ですが、身体の虚が出てきている昭和~現代の人々は、これらの処方が重くて身体に対して耐えられない場面が多くなってきていると考えられます。
どうすれば良いか?
私の答えは、「現代に合わせて処方の選び方や運用を修正する」というものです。虚にスライドしているのであれば、その虚状をカバーできる方法に修正して行けば良い訳です。
修正する方法は以下の2つです。
五大処方が使えるまで回復させる
五大処方の虚の処方を使う
それぞれ説明して行きます。
五大処方が使えるまで回復させる
これは、言い換えれば瀉剤が使えるまで身体を補うという事です。
漢方医学は、一つ処方を決めればそれで終了という訳ではなく、体調に合わせて処方を変えていく必要があります。
温裏剤、脾胃剤の適するレベルでは一貫堂医学の五大処方は使う事が出来ません。
最低でも気血両補剤が不要になるまで補い、補腎や補血が出来るレベルまで身体を持っていく必要があります。
補って身体が回復してくると、虚に隠れていた実の邪がはっきりと解る様になります。その状態になった時、五大処方を使用して瀉すという方法です。
この方法は、五大処方を使いますので瀉した効果が非常に明確に出てきます。言い換えれば凄まじい切れ味の効果が出てきます。これがメリットですね。
逆にデメリットは、場合によっては虚を補うのに時間がかかるという事です。あまりにも虚状が激しい場合、実の状態に身体を持ってくるまでに長い年月がかかります。
ですので、元々身体が頑丈で虚状が無いか少ない方に適する方法になります。
例えば、最初に気血両補剤を使用して疲れを取ってしまい、その後に五大処方を使用すれば良い訳ですのでそれほど手間と時間はかかりません。
五大処方の虚の処方を使う
これは上の方法の丁度逆で、身体の状態に処方を合わせてあげるという治療を行います。
虚状が激しく、五大処方を使う状態まで持っていけない方は、この方法が適しています。
簡単に言いますと、五大処方それぞれの虚にスライドした様な類方(バリエーション処方)を使用していく方法です。
例えば、竜胆瀉肝湯ですと「湿熱を取る」という目的を考えた場合、清心蓮子飲や五淋散、疎経活血湯、加味逍遥散、滋陰至宝湯等が候補に上がります。
森道伯先生の使用処方を拝見してもこの様な五大処方の類方は使用されており、この様な応用は「一貫堂医学的にも」問題はないと考えられます。
次に、いよいよ各論に入っていきます。各論では、五大処方を中心に、虚状が激しくそれらが使えない方に使用する類方(バリエーション処方)をご紹介します。
一貫堂医学の治療各論
繰り返しになりますが、一貫堂医学の五大処方は、
通導散
防風通聖散
竜胆瀉肝湯
荊芥連翹湯
柴胡清肝湯
です。
それぞれ、解説していきます。
なお、五大処方のバリエーション処方は、本記事でご紹介する他にも考え方次第で候補が山ほどあります。
その一部をご紹介するという事で御了解頂けると助かります。
通導散
通導散は、かつて「百叩きの刑の後に使用する薬」として有名でしたが、それを瘀血取りに転用した所よく効いたといういわれがある処方です。
現代では、クラッシュシンドロームやむち打ち症等の全身打撲の場合に使用の場がある処方です。
体つきはがっしりとしており、脾虚や裏寒が無く、食欲過多で、顔が赤黒くなり、不動明王像の様に怒り狂ったような目になるのが特徴です。
構成生薬にも大黄や芒硝、厚朴、蘇木等が入るきつい瀉剤で、全身に瘀血が散らばっている場合によく使用されます。
一貫堂医学においても瘀血証体質へ用いる代表処方となっています。
通導散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:105番】通導散(つうどうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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以下の記事もご参考下さい。
瘀血の治療について
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本処方が使えない場合、瘀血証体質に使用できる類方は、
芎帰調血飲(第一加減含む)
温経湯
安中散
桂枝茯苓丸
苓姜朮甘湯
があります。
それぞれ簡単に解説していきます。
芎帰調血飲(第一加減含む)
芎帰調血飲は、これも森道伯先生の言葉ですが「産後一切の気血を調理する。」と言われています。
その口訣の通り、産後の不調に対して一般的によく使われています。また、芎気調血飲は加減処方が沢山あり、日本では無印の芎気調血飲と芎帰調血飲第一加減がよく使われています。
産後は、妊娠で使われていた血が不要となり、それが瘀血として存在するようになります。
しかし、「産後」とは一体どれ位を指すのでしょうか。私の漢方の先生は「女性の産後は一生」と仰っていました。
別に、西洋医学的な産後の定義をそのまま持ち込む必要はありませんので、私も同じ立場を取っています。
また、若い女性の方でも瘀血証体質で気鬱である方は結構おられ、その様な方の体調不良や更年期の女性の体調管理に芎帰調血飲を使っても良いと考えています。
通導散が使えない場合に、十分検討する価値がある処方と言えます。
ポイントは、気血両補剤の程度の中肉中背の方で、瘀血所見(唇が暗赤色、舌下静脈の怒張等)があり顔が赤くのぼせて気分が塞ぎがち、若しくは頭痛や天気頭痛等の症状がある方になります。
通導散のように、怒り狂った目はしていません。
芎気調血飲の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:230番】芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る
温経湯
温経湯は気血の通り道である経絡を温め、瘀血を取り血虚を治し、気血を巡らせる処方です。
桂枝も入る為、桂枝湯の方意も入っています。また、麦門冬も入る為、皮膚粘膜の乾燥もある方に使用します。
頬が赤く軽く逆上せ、唇や肌が乾燥し、瘀血所見がある方が目標です。
通導散の様に顔が赤黒く逆上せておらず、狂ったような食欲や精神異常は見られません。
温経湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:106番】温経湯(うんけいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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安中散
安中散は胃薬として有名ですが、その構成生薬中に延胡索(エンゴサク)を含み、軽い駆瘀血作用を持ちます。
また桂枝を含みますので、桂枝湯の方意も入ります。
ほっそりとして胃腸が弱く食べられない身体つきですが、食べ過ぎている方で、頬が桜色に逆上せ、口の周りが赤く炎症を起こしている方が適応となります。
通導散の様に体つきはがっしりとはしておらず、精神異常等もありません。
通導散の虚の処方が芎帰調血飲ですが、そのまた虚の処方と捉えると解りやすいと思います。
安中散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:5番】安中散(あんちゅうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸は金匱要略出典の処方であり、後世方の一貫堂医学の考え方は合わないと思われるかもしれません。
しかし、桂枝茯苓丸はその構成生薬が少ないため、本来の子宮筋腫への使用とは別に少量投4与で瘀血を継続的に取るという使い方をします。
生活習慣病で起こる瘀血を取り去るという瘀血体質に対する使い方になり、一貫堂医学の応用として見る事が出来ます。
「別に通導散でも良いんじゃないか?」とも思いますが、通導散にはその処方中に大黄や芒硝が含まれるため、便秘が無いと使いづらい処方となります。
虚状が無く、頬が桜色で便秘が無く、過食傾向でもないが、瘀血所見があるから何とかしたい。
そんな時、桂枝茯苓丸や桂枝茯苓丸加薏苡仁を考えても良いのではないでしょうか。本処方は、丁度通導散の裏処方的な扱いと言えます。
桂枝茯苓丸の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:25番】桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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苓姜朮甘湯
苓姜朮甘湯も、上の桂枝茯苓丸と同じく金匱要略出典の処方です。
この処方には駆瘀血作用のある生薬が含まれておりません。しかし、使用方法によっては瘀血を取る事が出来ます。
苓姜朮甘湯は腰部の水毒を取り、温める作用があります。
冷えて瘀血となっている場合、本処方によって瘀血を去る事が出来るため、非常に喜ばれます。
私の経験ですが、出産後の子宮等腰部の痛みに苦しんでいた方に本処方を使った事があります。
当初は森道伯先生の「産後一切の気血を調理する」という口訣を頼りに芎帰調血飲を使おうかと考えていましたが、あまりにも虚なので使えず、腰部を温める苓姜朮甘湯はにしました。
飲んで頂いた次の日、「あの処方がとても聞いた。痛みが激減した。パラダイスだ。」とのこと。
芎帰調血飲の使用目標が頭にあったからこそ、苓姜朮甘湯が使用できた一件でした。
瘀血があるが、冷えが強すぎて駆瘀血剤が使用出来ない場合、本処方を考慮頂けると幸いです。
苓姜朮甘湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:118番】苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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防風通聖散
防風通聖散は一貫堂医学の五大処方のうち、臓毒証体質に使用する処方となります。
健康な方が、ストレスや食べ過ぎ等で邪気や水毒(湿邪、痰等)、食毒が溜まった方に使用します。
よく、「重役の方みたいなお腹をしている方に使用する」と言われます。俗に言う太鼓腹というやつですね。ここから、肥満症に対する処方として現代では使われます。
昔は身体が頑健であった為、それでいいかもしれません。しかし、現代では想像以上に体質が虚弱化している為、本処方を連用するのは問題があります。
具体的には、継続的な瀉剤の使用で、脾虚裏寒に陥れてしまう訳です。
その他にも、大黄が配されている為に連用で大腸メラノーシスを引き起こす危険性もあります。その様な危険性を把握した上で使用すべき処方となります。
防風通聖散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:62番】防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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本処方が使えない場合、臓毒証体質に使用できる類方は、
五積散
防己黄耆湯
六味丸(牛車腎気丸、八味地黄丸、味麦地黄丸、杞菊地黄丸等の補腎剤全般)
があります。
それぞれ簡単に解説していきます。
五積散
五積散は、気・血・飲・食・痰の五つの毒が降り積もったものを治すという意味の処方です。
防風通聖散とほぼ使用目標が同じですが、防風通聖散が麻黄、石膏、大黄等の瀉剤が含まれるのに対し、五積散はそれよりも緩和な作用の生薬を中心として組まれています。
ですので、言わば「防風通聖散の虚の処方」と表現出来る処方です。
食べ過ぎ傾向で気分が優れない等の気鬱や頭痛があり、首筋がこるものに使用します。
現代人は虚状が酷い場合が多いので、防風通聖散よりは五積散の使用の場が多いと考えられます。
五積散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:63番】五積散(ごしゃくさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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防己黄耆湯
防己黄耆湯は金匱要略出典の処方であり、後世方の防風通聖散とは似ても似つかない構成生薬の処方となります。
しかし、その使い方は似ています。防己黄耆湯は皮膚の水毒を除きますので、防己黄耆湯は水太りの薬として使われます。
防風通聖散が気水の取り過ぎによる実証の肥満症の薬ですので、同じ肥満症に対する処方として考慮にいれるべき処方となります。
特に肺の気が虚して水が動かない場合に使用します。色白、よく汗をかくブヨブヨの皮膚をした方に適します。
そこそこ虚状があっても使いやすい処方のため、肥満でご相談があった場合は防風通聖散より防己黄耆湯を先に使っていくと安全です。
防己黄耆湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:20番】防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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六味丸(牛車腎気丸、八味地黄丸、味麦地黄丸、杞菊地黄丸等の補腎剤全般)
六味丸は補腎剤の代表として取り上げます。
本処方は元々小児の発達不良の処方として、八味地黄丸の附子と桂枝を除いて開発されました。
しかし、現代では老化防止の薬として使用され、味麦地黄丸、杞菊地黄丸等の様々な派生処方が存在します。
ちなみに、八味地黄丸からの派生は六味丸と牛車腎気丸となります。
それら処方に代表されるカテゴリーが補腎剤で、腎虚に対する処方として使用されます。
防風通聖散とはこれらの処方は似つかないと思われるかもしれません。
しかし、腎虚というのは脾とのバランスが大事で、加齢と共に腎気が不足していくのに対して脾は衰えにくい為、お腹周りに脂肪がついて腰から下が痩せてくるという現象が起こります。
腎気が不足して動きが減るのに、食べ過ぎてしまう事で水滞や食滞等が起こる事になります。
丁度、会社で言うと社長や重役の方の体型になってきます。この場合に、防風通聖散と似た病態となります。
防風通聖散が過剰な脾胃の力を削ぐ方向の薬方であるのに対し、六味丸に代表される補腎剤は腎を補い土剋水を和らげる方向に働きます。
言ってしまえば表裏の関係にある処方と言えます。
現代人では、一見実証で防風通聖散証に見えても、よく見ると違う事があり、補腎剤の考慮も入れる必要があります。
がっしりとして太っており、しかし腰から下がほっそりとして足腰が重い、痺れ、痛み等を訴える方、ご高齢の方等は補腎剤を考慮に入れると良いでしょう。
六味丸の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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牛車腎気丸の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:107番】牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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八味地黄丸の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:7番】八味地黄丸(はちみじおうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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竜胆瀉肝湯
竜胆瀉肝湯は、解毒証体質に対する処方として使用されます。
解毒証体質は肝の熱が起きやすく、それが原因で身体に熱邪や湿熱が蓄積しやすい体質です。余分な肝気を瀉すために、本処方は竜胆が配されています。
竜胆瀉肝湯は、文字通り竜胆が君薬となります。余分な肝気を瀉して捨てる処方です。
余分な肝気は下行して湿熱の形でも存在します。その為、陰部湿疹や泌尿器症状、全身の湿疹等の症状が出てきます。竜胆瀉肝湯は、その様な場合に使用出来ます。
脾虚や裏寒等の虚状が無く、皮膚の色が浅黒くざらつき、一見大人しい方に見えますが、目が笑っておらず怒りを無理矢理押し殺して生活している方が目標です。
全身の湿疹がある場合、荊芥連翹湯と迷う所です。
荊芥連翹湯の場合は下焦の症状は少なく、鼻づまり等の耳鼻咽喉科で扱うような症状も出てくる場合が多いです。その辺りが鑑別点となります。
竜胆瀉肝湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:76番】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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肝熱の治療について
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本処方が使えない場合、代わりに使用できる類方は、
疎経活血湯
五淋散
十味敗毒湯
清心蓮子飲
があります。
それぞれ簡単に解説していきます。
疎経活血湯
疎経活血湯は、下焦の関節痛の薬として有名です。
その処方の中に竜胆を含み、竜胆瀉肝湯と同じ様に肝気を瀉す処方となります。
ビールを飲んだ後に痛みが出る、比較的強めの腰痛や膝痛が出だした等の症状があれば本処方を考慮します。
その他にも、肝の熱があるため皮膚が浅黒く、湿熱により皮膚炎が現れたりという症状がある場合があります。
竜胆瀉肝湯は瀉す力が強く、身体に負担がかかりやすい処方となります。類方として疎経活血湯を覚えておくと良いでしょう。
疎経活血湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:53番】疎経活血湯(そけいかっけつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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五淋散
五淋散は排尿障害等泌尿器症状(五淋)に対する処方として有名です。竜胆瀉肝湯より若干虚気味で、湿熱を取る処方として使用されます。
実の病態で泌尿器症状が強い場合、考慮に入れても良いでしょう。
五淋散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:56番】五淋散(ごりんさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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清心蓮子飲
清心蓮子飲は、五淋散と同じく泌尿器症状がある場合に使用されます。本処方も湿熱を除くのですが、五淋散や竜胆瀉肝湯では瀉しすぎて強いという場合に使用されます。
本処方のポイントは、心を清すという作用が強い所です。麦門冬も入り、心肺の熱を取りながら湿熱を除き、泌尿器症状を改善させます。
清心蓮子飲の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:111番】清心蓮子飲(せいしんれんしいん)の効果や副作用の解りやすい説明
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荊芥連翹湯
荊芥連翹湯は、解毒証体質に対する処方として使用されます。
一貫堂医学の五大処方の一つで、上焦の熱や風邪をさばく力が強いのが特徴です。特に皮膚の痒みが強い、鼻水鼻づまりが酷い場合に使用の場があります。
湿疹に対しても使えますが、その場合、竜胆瀉肝湯の方が良い場合もありますので、どちらが良いか鑑別する事が大切です。
下焦の湿熱症状(泌尿器症状や陰部湿疹)や皮膚の状態が湿熱で非常に汚い場合は竜胆瀉肝湯の方が合う場合が多い印象です。
逆に、湿疹と鼻水鼻づまりが併発している場合は荊芥連翹湯の方が効く印象です。
どちらか決めかねる時は、患者さんに薬や名前を書いた紙を持ってもらって、どちらが良いかを感覚で選んで貰うという手もあります。
非科学的ですが、打率五割位は出せます。
竜胆瀉肝湯も同様ですが、脾虚や裏寒等の虚状が無く、上記の実の症状(耐えられない様な症状)が強い時に使用します。
荊芥連翹湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:50番】荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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肝熱の治療について
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本処方が使えない場合、代わりに使用できる類方は、
川芎茶調散
香蘇散
香砂六君子湯
藿香正気散
があります。
それぞれ簡単に解説していきます。
川芎茶調散
川芎茶調散は茶葉を構成生薬で含み、上部の風熱を除き頭痛や眩暈、鼻づまり、気鬱等の症状を除きます。
温病の処方でもあります。
荊芥連翹湯は、肝の熱が強く体つきも中肉中背以上でがっしりしていますが、川芎茶調散はそこまで身体がしっかりしていなくても使用できます。
肝熱がありませんので厳密には解毒証体質の処方とは言えませんが、荊芥連翹湯の虚の処方として挙げさせて頂きました。
川芎茶調散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:124番】川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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香蘇散
香蘇散は気鬱の薬として有名です。荊芥連翹湯の虚の処方である川芎茶調散のそのまた虚の処方です。
香附子は気鬱を去ると同時に血を動かす作用もあり、本処方は瘀血証体質の処方でもあります。
天気頭痛や気候変動で気分がふさぎ込む、花粉症等に使用されます。
香蘇散の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:70番】香蘇散(こうそさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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香砂六君子湯
香砂六君子湯は、簡単に表現すると香蘇散と六君子湯に似ています。
平素から食欲が細く、ほっそりとした体つきの方で、上部の気鬱や風邪がある方に使用します。
六君子湯は身体の左部分の気の流れを主に改善しますが、その反動で右の流れも改善しますので柴胡証の一歩手前の処方となります。
気鬱と脾胃の虚が同時に存在する場合は、使用を考慮しても良いでしょう。
藿香正気散
藿香正気散は、香砂六君子湯証の丁度裏バージョンです。香砂六君子湯が食欲が無くほっそりとしているのに対し、本処方は胃が詰まりぎみで掃除が必要な方に使用します。
食べ過ぎ飲み過ぎで胃腸の負荷がかかっている場合の処方です。
脾胃の力があるので、余計な補剤は不必要で、湿邪を除き胃を通す掃除の効果が必要な場合に使用します。
柴胡清肝湯
竜胆瀉肝湯や荊芥連翹湯が大人の解毒証体質に対する処方であるのに対し、柴胡清肝湯は子供の解毒証体質に対する処方となります。
肝熱と湿熱を取る処方で、湿疹や鼻づまり、鼻水等の諸症状に使用されます。
竜胆瀉肝湯や荊芥連翹湯と同じく、脾胃の虚が無く、皮膚が浅黒く荒れ気味の方が目標です。
柴胡清肝湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:80番】柴胡清肝湯(さいこせいかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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肝熱の治療について
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本処方が使えない場合、代わりに使用できる類方は、
柴胡桂枝湯
補中益気湯
があります。
それぞれ簡単に解説していきます。
柴胡桂枝湯
柴胡桂枝湯は、風邪の中期から後期にかけての処方として有名です。
柴胡を含み、肝熱を取りながら、気を巡らせるという効果があります。
本処方は応用として、解毒証体質への処方として使用出来ます。
丁度小建中湯や黄耆建中湯が合っていた子供が成長して、身体の毒が出始める青春期(10歳~15歳程度)から使用の場があります。
柴胡清肝湯はかなり瀉す力が強く、脾虚や裏寒が無い方が対象です。
食欲があり、そこまで体つきはがっしりとはしていない中肉中背で、顔が桜色に火照り、目つきは鋭く、どちらかというと色黒で荒れ気味の皮膚のお子様に合う処方です。
柴胡桂枝湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:10番】柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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補中益気湯
補中益気湯は、補気の処方で元気をつける処方として頻用されています。
しかし、その処方中に柴胡や当帰を含み、本来は「肝熱を取る気血両補剤」としての処方運用を行った方が良い処方でもあります。
柴胡清肝湯はその構成が補血剤+柴胡剤というものであり、脾虚に対する考慮があまりされていない処方ですので身体がかっしりとしたお子様向けの処方でもあります。
しかし、本処方の場合は脾虚血虚があるため、体つきはそこまでがっしりとはしていません。
体格が中肉中背までで、顔の赤みは無く、どちらかというと色白で、目つきが悪いお子様に使用されます。
柴胡桂枝湯と同様、毒が出だす青春時代以降の処方となります。
補中益気湯の詳しい解説は、以下の記事をご覧ください。
【漢方:41番】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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さいごに
一貫堂医学は森道伯先生しかその完全な姿を捉える事が出来ず、今では失われた医学という側面があります。
今回の記事は、私の経験と生薬の効能から独自に考察した事柄も多く含まれています。
ご参考頂き、皆様独自のオリジナル一貫堂医学を作り上げて頂けると望外の喜びです。
本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。
臨床寄りの漢方資料
実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。
現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。
後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。
調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。
「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。
【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース
また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。
漢方の勉強方法について
以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。