ポイント
この記事では、香蘇散についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、香蘇散についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、香蘇散という漢方薬が出ています。このお薬は、軽い風邪や気分が優れない場合に場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、香蘇散という漢方薬が出ています。このお薬は、軽い風邪や気分が優れない場合に場合によく使われるお薬です。昔は蕁麻疹にも使われていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、気分をさっぱりさせて胃腸の調子も整えます。一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
冷え
添付文書(ツムラ70番)
ツムラ香蘇散(外部リンク)
香蘇散についての漢方医学的説明
生薬構成
香附子4、蘇葉2、陳皮2、甘草1.5、生姜1
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「四時の瘟疫(うんえき)傷寒を治す。」
条文(現代語訳)
「時を選ばず、発熱性の流行り病や風邪を治します。」
解説
今回は、香蘇散の解説になります。本処方は和剤局方よりの出典で、一般的には軽い風邪の処方として使用されます。
また、魚介に当たった時の蕁麻疹の類にも使われる事があります(現在では殆ど使用されません)。
更に、合方として使用される事も多く、特に胃腸に対する処方と一緒に出される事も多々あります。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は非常に短く、只「流行り病や風邪を治す。」とだけあります。
確かにその通りではあるのですが、流石にこれでは短すぎます。次に、構成生薬を見ていきます。
構成生薬も少ないです。それぞれグループ分けしますと、
理気:香附子、蘇葉、陳皮
健胃健脾:陳皮、甘草、生姜
となります。構成生薬は違いますが、正月に飲む屠蘇散(とそさん:お屠蘇)と似た効き方になります。
ちなみに、屠蘇散の構成は、
祛寒:肉桂、細辛、乾姜
祛風:防風
排膿:桔梗
健胃健脾:山椒、乾姜、白朮
となり、香蘇散より寒さに重きを置かれた処方である事が解ります。
蛇足ですが、香蘇散の蘇(そ)は蘇葉(そよう:紫蘇の葉)を指しますが、屠蘇散の蘇は風邪(ふうじゃ:風の邪気)の一種になりますので意味合いが違います。
以上、条文と構成生薬から香蘇散を考察しますと、ポイントとしては理気と健胃健脾になります。
ですので、気鬱(きうつ:上焦での気の停滞)や胃腸風邪等を中心とした感染症全般に使用する機会があるといえます。
気鬱の症状としては、「低気圧が近づくと頭痛やふらつき、気分不良を感じる。」「頭がボーッとする。」「何となくふさぎ込んでしまう。」「狭い場所が嫌い」と言った様なものがあります。
また、胃腸風邪には合方して使われる事があり、食欲が無い場合は六君子湯と合わせて香砂六君子湯加減、食欲が有る場合は茯苓飲合半夏厚朴湯と合わせて正理湯(しょうりとう:胃が詰まる食べ過ぎタイプの胃腸風邪で、咳痰がよく出る)が選択されます。
香蘇散を使用する際の注意点ですが、この処方は人参は入っておりません。
ですので、健胃健脾と言っても脾胃の力を回復させるというものではなく「動きが悪いので、軽くそれを回復する。」という意味になります。
また、温裏剤である附子や乾姜が入っておりませんので、裏寒もありません。ですので、香蘇散は食欲があって裏寒のない方に合う処方となります。
以上をまとめますと、香蘇散は「食欲がある方でそれほど冷えていない方で、気鬱や気鬱を伴う軽い胃腸風邪等の所見がある場合に使用する場のある処方」と言えます。
応用的な使い方ですが、「魚毒による蕁麻疹」へは、最近は西洋薬(抗ヒスタミン剤、ステロイド剤等)が使われる事が殆どですので現在ではほぼ使われておりません。
他には、気鬱症状のある方の花粉症、アレルギー性鼻炎等に使われる事があります。これは、気鬱が改善する事で花粉症症状も改善するという理屈です。
この場合も、香砂六君子湯加減や正理湯として出される場合が多いです。
繰り返しになりますが、本処方は著しい裏寒や脾虚がある場合には不適になりますので、注意が必要となります。
鑑別
香蘇散と他処方との鑑別ですが、代表的なものに桂枝湯、真武湯(温裏剤)、香砂六君子湯加減、正理湯があります。それぞれについて解説していきます。
桂枝湯
香蘇散も桂枝湯も風邪に対する処方となり、鑑別対象となります。解説で書かせて頂きましたが、香蘇散は「気鬱と健胃健脾」が主な作用となります。
対して、桂枝湯は簡単に言いますと、表寒虚と呼ばれる身体の表面や機能に使われる気が虚したものになります。
ですので、香蘇散に出てくる症状としては「気分が優れない」「何となくモヤッとする」「狭い所が嫌」等症状が出てきます。胃腸の状態も良くない場合があります。
逆に、桂枝湯は胃腸の調子は特に問題が無く、「頬が桜色」「逆上せ」「発熱」「頭痛」等の通常の風邪症状がメインとなります。この辺りで鑑別可能となります。
【漢方:45番】桂枝湯(けいしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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真武湯(温裏剤)
香蘇散と真武湯をはじめとする温裏剤は、上の見出しの桂枝湯との鑑別と同じように風邪に対する処方でもあり、鑑別対象となります。
真武湯は「裏寒」と呼ばれる身体の内部の冷えを治す処方になります。
ですので、「身体の中心線に沿って顔色が青黒い」「すぐに横になろうとする」「足首の冷え」「壇中(だんちゅう)の冷え」等があれば裏寒証と判断して温裏剤をチョイスします。
香蘇散には真武湯の様に、身体を芯から温める生薬は入っておりませんので、裏寒の所見の有無で鑑別が可能です。
【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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香砂六君子湯加減
エキス剤で香砂六君子湯を作る場合、六君子湯と香蘇散の2つを等量混ぜる事で近いものが出来ます(香砂六君子湯加減:こうしゃりっくんしとうかげん)。
通常の香蘇散との鑑別ですが、香蘇散は気鬱症状がメインになるのに対して、香砂六君子湯加減の場合は気鬱症状のある胃腸風邪で、咳や痰が酷い場合に使用されます。
香砂六君子湯加減は、元々胃腸が弱くて食欲の無い方の胃腸風邪に向いた処方になりますので、食欲の有無や身体つきを見て証決定を行っていきます。
香砂六君子湯加減を使用する場合は、無理に栄養をつけようとして食べ過ぎないよう注意します。
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正理湯
正理湯(しょうりとう)は茯苓飲合半夏厚朴湯と香蘇散を等量混合したもので、あまり馴染みのない処方ですが、日頃食べ過ぎてしまう方の咳痰を伴う胃腸風邪によく効きます。
香砂六君子湯加減と香蘇散との鑑別と同じ様に、香蘇散単体では気鬱症状がメインになります。
また、正理湯の場合は気鬱症状がある胃腸風邪で、咳や痰が続く場合に使用します。
本処方を使用する場合は、食べ過ぎると胃が詰まり効果が悪くなるので、食事を少なめにしてもらう事がポイントとなります。
「食欲が無い」と患者さんが言っていても、身体つきで判断しましょう。中肉中背以上は食べ過ぎ傾向と判断して差し支えありません。
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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