ポイント
この記事では、滋陰降火湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、滋陰降火湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、滋陰降火湯という漢方薬が出ています。このお薬は、一般的には咳が出たり喉が渇く場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体全体の余分な熱を取って咳を鎮めますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、滋陰降火湯という漢方薬が出ています。このお薬は、一般的には咳が出たり喉が渇く場合によく使われるお薬です。上半身が熱を持つ場合にも使われます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体全体に潤いを与え、余分な熱を取って咳や喉の渇きを取ってくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ93番)
ツムラ滋陰降火湯(外部リンク)
滋陰降火湯についての漢方医学的説明
生薬構成
蒼朮3、地黄2.5、芍薬2.5、陳皮2.5、天門冬2.5、当帰2.5、麦門冬2.5、黄柏1.5、甘草1.5、知母1.5
出典
万病回春
条文(書き下し)
「陰虚火動(いんきょかどう:潤いが足りず熱を持つ状態)にて、発熱、咳嗽(がいそう:咳)、吐痰、喘急、盗汗、口乾を治す。この方六味丸を与えて相かねてこれを服す。大いに虚労を補う神効あり。」
条文(現代語訳)
「潤いが足りず熱を持つ状態になり、発熱や咳が出、痰を吐き、ゼイゼイと呼吸が苦しく、嫌な汗が出て、口が乾くものを治す。この処方は六味丸と一緒に服用する良い。大いに虚労を補う効果があります。」
解説
今回は、滋陰降火湯の処方解説になります。この処方は、一般的に強い咳や喉の渇きが強い場合に使われています。
滋陰至宝湯と同じ万病回春が出典の処方で、効能も似ています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、要約しますと「身体の潤いが足りずに熱を持ち、呼吸器疾患等の症状が出る。六味丸と合わせて用いると良い。」となります。
陰虚という症状と火動という熱を持つ状態が表裏一体で現れている事が条文から解ります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
健胃:蒼朮、陳皮
補血:地黄、芍薬、当帰
潤肺:天門冬、麦門冬
腎熱と肺熱を去る:黄柏、知母
諸薬の調和・緩和:甘草
の様になります。構成生薬からは、「肺陰虚と血虚が存在し、それが原因で腎と肺に熱を生じている状態」と読み取れます。
滋陰剤のポイントは麦門冬が入っている事で、肺の燥熱がある場合に咳や粘膜乾燥が現れてきます。その場合にこれらの滋陰剤の適応となります。
また、知母が入っている事で、腎熱を呼ばれる身体の芯からの余分な熱を取り去る効果があります。腎熱は肺までその熱が到達しますので、身体全体が熱くなってきます。
本処方は、人参等の脾胃を補う生薬や乾姜等の身体を芯から温める生薬が入っておりませんので、胃腸の調子や身体の冷えがある方には不適となります。
以上、条文と併せてまとめますと、滋陰降火湯は「脾胃や裏の虚は無く、肺陰虚と血虚が存在し、それが原因で腎と肺に熱を生じて咳や粘膜の乾燥等の上焦の熱が生じているもの。」となります。
六味丸との併用は、同じベクトルの処方になりますので、脾胃の虚や裏寒に気を付けて用いる分には問題ないでしょう。
鑑別
滋陰降火湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに滋陰至宝湯、六味丸、清心蓮子飲があります。それぞれについて解説していきます。
滋陰至宝湯
滋陰降火湯と滋陰至宝湯は同じ滋陰剤と呼ばれる部類の処方であり、鑑別対象となります。
共に万病回春が出典の処方で、同じ麦門冬配合処方である為、非常に似通った証に使われます。
鑑別ポイントは、柴胡の有無と地黄の有無になります。滋陰至宝湯には柴胡を含みますので、肝熱の所見(ストレス)が出てきます。
いわゆる不定愁訴と呼ばれる、取り留めない発言を多く口走ります。しかし、滋陰降火湯にはその所見が出てこず、逆に血虚による皮膚のかさつきが強く出てきます。
両者の鑑別はその様な部分で行います。
滋陰至宝湯と滋陰降火湯は、共に病態を行き来する場合があり、セットで覚えておくと良い処方となります。
続きを見る【漢方:92番】滋陰至宝湯(じいんしほうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
六味丸
滋陰降火湯と六味丸は共に地黄を配合される処方であり、鑑別対象となります。
共に地黄を含む処方ですが、滋陰降火湯は中上焦の補血にそれが使われ、六味丸は骨や髄を補う方向で使われます。
上焦の熱状や乾燥は滋陰降火湯に出て、逆に六味丸では出ませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
清心蓮子飲
滋陰降火湯と清心蓮子飲は、共に同じ麦門冬を含む処方であり、鑑別対象となります。
両者共に上焦に熱の所見が出てきますが、清心蓮子飲の場合は心腎交通が上手く行っておらず、尿トラブルが起こったり、陰部の湿疹があるのが特徴となります。
滋陰降火湯にはその様な所見は出てこない為、その部分で鑑別が可能となります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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