ポイント
この記事では、茯苓飲合半夏厚朴湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、茯苓飲合半夏厚朴湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、茯苓飲合半夏厚朴湯という漢方薬が出ています。このお薬は、喉がいがらっぽかったり咳が出やすく、胃の調子が悪い方によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の掃除をして喉の詰まりを取ってくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、茯苓飲合半夏厚朴湯という漢方薬が出ています。このお薬は、喉がいがらっぽかったり咳が出やすく、胃の調子が悪い方によく使われるお薬です。
普段から食欲がある方の胃腸風邪で、咳が良く出るものにもよく使われています。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の掃除をして喉の詰まりを取ってくれます。
食事量を減らしていただきますとよく効いてきますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
冷え
添付文書(ツムラ116番)
ツムラ茯苓飲合半夏厚朴湯(外部リンク)
茯苓飲合半夏厚朴湯についての漢方医学的説明
生薬構成
半夏6、茯苓5、蒼朮4、厚朴3、陳皮3、人参3、蘇葉2、枳実1.5、生姜1
出典
本朝経験方(合方される両処方は共に金匱要略出典)
条文(書き下し)
茯苓飲:「心胸中に停痰宿水あり、自ら水を吐出して後、心胸間虚気満ち、食すること能わざるを治す。痰気を消し能く食せしむ。」
半夏厚朴湯:「婦人、喉中に炙臠(しゃれん:炙った小さい肉)有るが如き証。」
条文(現代語訳)
茯苓飲:「心胸(心を中心とした胸部に痰が滞り)中に水毒があり、自ら水を吐いた後、心胸の辺りに虚気が満ち、食べられなくなる。痰と邪気を消して食欲を回復させます。」
半夏厚朴湯:「女性が、喉に炙った小さい肉が有る様に感じるものに使用する。」
解説
今回は、茯苓飲合半夏厚朴湯の処方解説になります。この処方は、一般的には神経性胃炎やつわり、不安神経症等に用いられます。
処方名は、どちらも金匱要略が出典の茯苓飲と半夏厚朴湯を合わせたものになり、大塚敬節先生がよく使われていた事で有名です。
それでは、まずは条文を見ていきます。
条文は合方なので茯苓飲合半夏厚朴湯自体には存在しませんが、そのまま2つの条文を合わせたものをまとめますと次のようになります。
「喉に何かがある様な詰まり感があり、胸に水毒が溜まり、水を吐いた後も食欲が湧かないもの。」
もっと簡単にまとめますと、「喉が詰まって食欲が湧かないものに使用する処方」となります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬はそれぞれ、
胃の湿邪を除く:半夏、茯苓、蒼朮
健胃:厚朴、陳皮、人参、枳実、生姜、蒼朮、半夏
理気:蘇葉
の様になります。処方名の通り茯苓飲と半夏厚朴湯の合方になりますが、合方をする事で本処方にしかない効果も生まれています。
その効果というのは、健胃の部分になります。人参と蒼朮は配されていますが、その他厚朴、陳皮、枳実、生姜、半夏というのはとにかく胃を動かす生薬になります。
厚朴は食滞を除き、陳皮と枳実は気滞を破り、半夏をはじめとする利水の生薬は水毒を除きます。
簡単に表現しますと、本処方の健胃というのは、胃の掃除を行う事で胃の機能を復活させようとする組み合わせになります。
この事は、脾胃に対する処方で甘草が含まれていないという事を裏付けています。甘草はその性味より湿邪を呼びやすいので、両処方には入っておりません。
ここから少しお話を変えます。本処方は、食滞を除く厚朴が含まれる「厚朴剤」と呼ばれる部類です。厚朴が入るという事は食滞の証があるという事になり、もっと言いますと食べ過ぎ傾向にあるという事が言えます。
茯苓飲の条文や、患者さんに直接お聴きした場合に「食欲が湧かない」という表現があります。
しかし、これは消化能力が下がって食欲が湧かないという事ではなく「種々の邪が溜まり過ぎて消化出来ない。」という事になりますので、そこは区別が必要です。
また、厚朴を含む処方が合う方の所見は「頑固、喋りすぎ、人の話に覆いかぶせる様に喋る、顔つきが固い」等になります。
丁度、痩せた頑固職人の様なイメージですね。この特徴は、本処方だけでなく厚朴配合処方の方には大体見られる所見となります。
しかし、食べ過ぎ傾向とは言っても胃の状態が悪いので、体つきは痩せています。
更に、喉の詰まりの他に咳等として症状が出てくる事もあり、それが本処方の使用のポイントになります。
以上、まとめますと、茯苓飲合半夏厚朴湯は「胃の状態が悪く、喉が詰まったり咳が良く出る方で、固い顔つきで頑固でよく喋り、体格は痩せている方に合う処方。」となります。
具体的には、普段から食欲がある方の風邪等に使用の場が多いです。本処方は、裏寒や脾虚のある場合は不適になりますので、注意が必要です。
鑑別
茯苓飲合半夏厚朴湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに六君子湯、半夏厚朴湯、平胃散、柴朴湯があります。それぞれについて解説していきます。
六君子湯
茯苓飲合半夏厚朴湯と六君子湯は、共に脾胃の異常で食欲不振がある場合に使われますので、鑑別対象となります。
これら2処方の違いは、「胃腸の掃除が必要か、胃腸の力をつけるか。」です。
茯苓飲合半夏厚朴湯は、胃腸に食滞や湿邪が溜まって胃腸の調子を悪くしている処方になりますので、必要なのはそれらの邪を取り去る厚朴の入った掃除の処方です。
胃腸の力を若干持ち上げながらそれらの邪を除く処方が茯苓飲合半夏厚朴湯になります。
六君子湯の場合は、胃腸の力自体が弱っていて動かない場合に使用します。丁度、アプローチの仕方が逆になります。
茯苓飲合半夏厚朴湯証の場合、痩せていても非常に頑固で、人の意見を聞かず自分の事ばかり喋りたがるという特徴があります。
六君子湯の場合は、その様な所見が無く、食欲自体が無く、目に力が無いのが特徴となります(多少怒りやすいという所見はありますので、見分けし辛い場合もあります)。
その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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半夏厚朴湯
茯苓飲合半夏厚朴湯は半夏厚朴湯と茯苓飲の合方であり、鑑別対象となります。
基本的には、この鑑別については大塚敬節先生と同じ考えで、「半夏厚朴湯証の方は茯苓飲を合方した茯苓飲合半夏厚朴湯。」で良いでしょう。
しかし、あまりにも胃の詰まりがキツくて胃気の詰まりが激しい場合は、半夏厚朴湯単剤の方が良い場合があります。これは、茯苓飲についても同じ事が言えます。
稀にそういう方が見える事もありますので、頭の片隅にそれを置きながら茯苓飲合半夏厚朴湯を使用すれば良いでしょう。
【漢方:16番】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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平胃散
茯苓飲合半夏厚朴湯と平胃散は、共に厚朴を含み胃腸に対する処方であるため鑑別対象となります。
基本的には両処方共に厚朴剤になりますので、これらどちらかで迷う事が多いです。この2処方の所見の違いは、食べ過ぎの状態で「食べているかどうか?」になります。
つまり、「茯苓飲合半夏厚朴湯証は厚朴が要る胃実の状態で食欲があまりない、対して平胃散証の場合は更に食べてしまっている。」という状態です。
ですので、茯苓飲合半夏厚朴湯証の場合は身体は痩せていて、平胃散証の方は横に広く太っています。
【漢方:79番】平胃散(へいいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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