ポイント
この記事では、桂枝加芍薬大黄湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、桂枝加芍薬大黄湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、桂枝加芍薬大黄湯という漢方薬が出ています。このお薬は、便秘や腹痛の場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、お腹の中の余分なものを出して病気を治してくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、桂枝加芍薬大黄湯という漢方薬が出ています。このお薬は、急性の腸炎、便秘や腹痛の場合によく使われるお薬です。
昔は風邪の治療で失敗した時によく使われていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、お腹の中の余分なものを出して病気を治してくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
消化器(食欲不振、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ134番)
ツムラ桂枝加芍薬大黄湯(外部リンク)
https://www.info.pmda.go.jp/go/pdf/460026_5200033D1023_1_09
桂枝加芍薬大黄湯についての漢方医学的説明
生薬構成
芍薬6、桂皮4、大棗4、甘草2、大黄2、生姜1
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「本太陽病、医反つて(かえって:間違って)之を下し、因って(よって:それが原因で)腹満時に痛むものは、太陰に属するなり。桂枝加芍薬湯これを主る。大実痛するものは、桂枝加大黄湯之を主る。」
条文(現代語訳)
「太陽病という発汗させないといけない場合に、間違って下してしまい、それが原因で腹満時に痛むものは、太陰に属する病です。桂枝加芍薬湯はこれを治します。非常に痛むものは、桂枝加大黄湯で治ります。」
解説
今回は、桂枝加芍薬大黄湯の処方解説になります。この処方は、一般的に急性の腸炎や便秘等に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は傷寒論からの出典で、要約しますと「太陽病の時に間違って陽明病の治療(下痢、清熱等)を行い、それが原因でお腹が張って激しい痛みを伴う場合に使用する。」という事です。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
補陰:芍薬
表を補い気を巡らせる:桂皮
諸薬の調和・緩和・分散:大棗、甘草
清熱、便を出す、駆瘀血:大黄
健胃、表を温める:生姜
の様になります。
桂枝加芍薬湯に大黄を足したものになりますので、基本的には
【漢方:60番】桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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と同じ解説になります。
つまり、桂枝加芍薬湯と同じく肝陰虚があり、経絡を巡らせながら全身の筋の陰を補い和らげる働きがあります。
そこに下剤である大黄を配した処方が桂枝加芍薬大黄湯となります。
小建中湯とも一剤のみの違いになりますので、基本的に同じ様な所見(素直な性格、手掌発汗、腹直筋緊張、頬が桜色)が存在します。
その状態で、腹痛が酷い場合に、桂枝加芍薬大黄湯を使用するという事になります。
条文の使い方は誤治後の治療方法のみとなりますので、本処方の目標は構成生薬や類方をメインに置いて考えた方が現実的だと考えられます。
また、大黄を使用するという事から、便秘傾向である事が解ります。
以上、まとめますと、桂枝加芍薬大黄湯は「素直な性格、手掌発汗、腹直筋緊張、頬が桜色等の所見があり、便秘傾向でお腹が張って激しい痛みが出るもの。」となります。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合には不適となりますので注意が必要です。
鑑別
桂枝加芍薬大黄湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに桂枝加芍薬湯、小建中湯、麻子仁丸、調胃承気湯があります。それぞれについて解説していきます。
桂枝加芍薬湯
桂枝加芍薬大黄湯は桂枝加芍薬湯の発展処方であり、鑑別が必要となります。
両処方の違いは、大黄の有無となります。条文にもある通り、腹痛が酷い場合に桂枝加芍薬大黄湯、そうでなければ桂枝加芍薬湯で大丈夫でしょう。
また、それ以外にも本証の場合は便が固くなる傾向があります。ですので、便の出にくいものに桂枝加芍薬大黄湯、として良いでしょう。
【漢方:60番】桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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小建中湯
桂枝加芍薬大黄湯と小建中湯は、一味のみの違いしかなく、鑑別対象となります。
小建中湯の建中というのは、「中を建て直す」という意味で、全身の栄養状態の改善が目的となります。
対して桂枝加芍薬大黄湯は、全身の栄養状態の改善は意図されておらず、あくまで風邪に起因する腹部症状の改善を目的としています。
ですので、基本的には目的別で使い分けた方が良いでしょう。
また、小児の便秘傾向なものにも小建中湯は使われます。桂枝加芍薬大黄湯は大黄が小児にはキツイ生薬となりますので、避けた方が無難です。
また、現代ではピコスルファートナトリウム内用液の様な薬がありますので、桂枝加芍薬大黄湯を使う意味は無いと考えられます。
【漢方:99番】小建中湯(しょうけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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麻子仁丸
桂枝加芍薬大黄湯と麻子仁丸は、両処方共に便秘に使われる処方であり、鑑別対象となります。
麻子仁丸の目標はコロコロ便で、また、厚朴が配されている所から、食べ過ぎ傾向で頑固な方に適している処方と言えます。
逆に桂枝加芍薬大黄湯は、素直な性格、手掌発汗、腹直筋緊張、頬が桜色等の所見がある場合に使われます。
ですので、便出の状態と全体的な身体の所見から、どちらが適しているかを鑑別する事が出来ます。
【漢方:126番】麻子仁丸(ましにんがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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調胃承気湯
桂枝加芍薬大黄湯と調胃承気湯は、両処方共に便秘に使われる処方であり、鑑別対象となります。
調胃承気湯の重要所見の一つに、うわ言を言う等の精神症状があります。
桂枝加芍薬大黄湯にはその様な所見は無く、かわりに素直な性格、手掌発汗、腹直筋緊張、頬が桜色等の所見があります。
ですので、その部分で鑑別が可能となります。
【漢方:74番】調胃承気湯(ちょういじょうきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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