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漢方薬の解りやすい説明

【薬剤師向け】漢方の服薬指導をスムーズに行うポイントをご紹介します!

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はてな

漢方の服薬指導は難しいね。どうやって患者さんに話せば良いのかな?使い方もそれぞれ医師によって違うし、副作用とか西洋薬とかの絡みもあるし。

という疑問に沿って書いて行きます。

「名古屋漢方.com」のムセキです。

私が漢方を専門に勉強し始めて10年以上が経ちますが、働いている中で「漢方の服薬指導が難しい。」と話される薬剤師の先生が多く見えました。

実際、漢方理論や漢方薬の説明は処方医師の意図の差が大きく、また、医学体系自体が西洋薬とは一線を画しており、現代医学的に不明な部分も多くあります。

更に、医師が気づいていない所まで確認して、安全を確認してから患者さんに説明する事も場合によっては必要となりますので、西洋医学には無い難しさがあります。

この記事では、それらのポイントを押さえながら漢方の服薬指導についてお話していきます。

ムセキ
少しでもお役に立てれば幸いです。

この記事は以下の様な構成になっています。

ポイント

1漢方の服薬指導における全体的な注意点

2漢方の服薬指導各論「添付文書」

3漢方の服薬指導各論「原典の条文」

4漢方の服薬指導各論「構成生薬、生薬の代表的な成分」

5漢方の服薬指導各論「副作用、相互作用」

6漢方の服薬指導各論「体調、食事内容、睡眠」

7まとめ

自分自身の行う服薬指導も上記のポイントを踏まえて行っています。特に、副作用とその対策を患者さんにお伝えすると喜ばれる事が多く、個人的に非常にオススメです。

服薬指導にも使える「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明データベース」を作成中です。

現在50番まで作成終了していますので、宜しければお使い下さい(直リンクやブックマークOKです。)。

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漢方の服薬指導における全体的な注意点

ムセキ
まずは全体をざっくりご紹介します。

漢方の服薬指導は、押さえるべきポイントが色々とあります。

次の見出しから詳しく説明していきますが、添付文書、原典の条文、構成生薬、生薬の代表的な成分、副作用、相互作用、体調、食事内容、睡眠の9個です。

勿論、ここまで多くを一度に処理するのは難しいのですが、何度も服薬指導で患者さんにお話していく中で、必要な時に必要な情報が思い浮かぶようになります。

また、最低限押さえておきたいポイントは副作用と併用薬、患者さんの体調の3点になりますので、まずはここから始められると失敗無く行けます。

それでは、それぞれのポイントを見ていきます。

漢方の服薬指導各論「添付文書」

ムセキ
基本ですが、それだけに重要です。

当たり前の話ですが、添付文書は服薬指導の基本資料になります。

製品にもついていますし、最近は電子薬歴からすぐに情報を取る事もできますし、インターネットに繋がっていればPMDAへのリンクも可能です。

特にPMDAへのブックマーク登録は、漢方の服薬指導以外にも非常に便利ですので、まだ登録されていないようならすぐされる事をお勧めします。

急ぎ時の添付文書のチェック項目(クリックして下さい)

添付文書のチェック項目は、急ぎの場合も多いので全部は確認する事は難しいと思います。

私は最低限、用法用量、効果、禁忌、副作用の4項目はサッとチェックするようにしています。

用法用量は、大体が一回一包で食前投与ですが、建中湯等で一回二包投与の場合もありますので注意が必要です。

また、用法用量の絡みで小児や妊婦に処方されている場合、それらに関するデータも拾っておく必要があります。

漢方の服薬指導各論「原典の条文」

ムセキ
知っておくに越したことはありませんが、調べるようにしておくだけでも良いです。

条文も押さえておくと、服薬指導のバリエーションが豊富になります。

添付文書の効能効果と、古来から使われている使われ方には食い違いがある場合がありますので、一般的にはあまり言われませんが条文は大切です。

例えば、便秘に使われる大黄甘草湯は、条文では「食事をしたものを吐く場合」に使う処方とされています。

それを知っている医師の場合、便通目的ではなく条文にある使い方をする場合もあります。

添付文書だけ見ていた場合、医師の処方意図を逃す場合がありますので、出来れば出典の条文もチェックしておいた方が良いです。

特に、漢方専門医の場合、添付文書の効能で処方する事の方が稀になりますので、検索だけでもすぐ出来るようにしておくと非常に便利です。

手前味噌になりますが、上でもご紹介しております「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明データベース」をお使い頂ければ、すぐに該当の条文を検索する事が出来ます。

宜しければブックマーク登録お願い致します。

出典の条文を読む時の注意(クリックして下さい)

出典の条文を読む時、いくつか注意点があります。

服薬指導を行う上では、時間勝負の場合が多くなります。ですので、極力現代文に近いものを検索できるようにしておいた方が良いでしょう。

また、出典によってもその信頼性が違います。

古方の傷寒論、金匱要略の場合は条文自体が非常に短く、色々な周辺情報を省いている場合が多いので、漢方理論で条文を補いながら読む必要があります。

逆に後世方の条文は、逆に長いものが多いので、まとまりにかける場合が多くなります。

また、和剤局方の条文に関しては、条文自体が処方の効能を拡大解釈しすぎて、その通りに使うと誤治や副作用を引き起こす場合がありますので注意が必要です。

和剤局方に限っては、生薬構成を主体に見て行った方が良いと個人的には思っています。

漢方の服薬指導各論「構成生薬、生薬の代表的な成分」

ムセキ
グループ分けすると解りやすいです。

漢方と切っても切れない関係にあるのが生薬になります。この生薬を組み合わせて漢方薬が出来上がっています。

医師の中には、どのような生薬構成か解らずに使われている先生も見えますので、薬のプロである私たち薬剤師は、生薬についても押さえておきたい所です。

しかし、特に後世方で顕著ですが、生薬の数が非常に多くなってくると、どれがどの作用で、また、それらの関係がよく解らなくなってくる事があります。

基本的には、後世方で非常に多くの生薬が使われている場合、元となる漢方処方があったり、それらの合方である場合が多いです。

ですので、構成生薬が多くなってきた場合は、カテゴリー毎に「これは〇〇作用」「これは〇〇に使う組み合わせ」というように、グループで把握しておくと理解しやすくなります。

また、生薬の代表的な成分も知っておいて損はありません。大学で習った程度の代表的な生薬の成分は、何となくで良いので覚えておいた方が良いです。

漢方の服薬指導に使えるお勧めの生薬の本は「生薬単」です。生薬トリビアが載っており、患者さんとの話にも使いやすいです。

私も一冊持っていますが、重宝しています。本当に良い本ですので、薬局に一つ置いておきたい所です。

生薬単

特に気を付けるべき生薬(クリックして下さい)

漢方薬には色々と生薬が入っていますが、身体に負担の出やすい生薬については特に注意しておく必要があります。

血圧を上げやすく胃腸に触り、排尿障害を起こしやすい「麻黄」、胃腸に負担がかかり下痢しやすい「当帰・芍薬・地黄」、内部の冷えを助長しやすい「桂枝(桂皮)」等は特に要注意です。

更に、入っていない生薬についても押さえておく必要があります。

特に、脾虚の生薬(人参、白朮、甘草等)が入っていない処方、温裏の生薬(乾姜、附子等)が入っていない処方等は、「それらについては体調に特に問題が無い。」と言外に注釈がついていますので、患者さんを見て、それらが無いか確認する事は非常に重要です。

漢方理論を知っておくと、患者さんに起こるであろう有害事象を防止する事が可能になります。

基本理論だけで良いので、押さえておくと安心です。

漢方の服薬指導各論「副作用、相互作用」

ムセキ
ここは必ず見て置く所です。

昔は、「漢方薬は安全」という神話がありましたが、当然、漢方薬にも副作用が存在します(漢方理論において、それらは副作用ではなく「誤治」と呼ばれます)。

有名なものには、間質性肺炎や偽アルドステロン症等、西洋医学的につけられたものがありますが、漢方理論上、西洋医学では何ともなくても問題にするケースがあります。

そして、それらの問題の大部分を占めているであろうものが「裏寒」と「脾虚」になります。

裏寒と脾虚については、漢方治療上、最優先で行う必要があります。

ですので、裏寒・脾虚が甚だしい場合、飲む事で患者さんの体調が悪化する場合もあります。

もしその危険がある場合があれば、足湯やレッグウォーマーをお勧めして、事前にそのような事象が起こらない様にする事が大切です。

また、西洋薬との絡みも見ておいた方が良いです。

甘草配合処方の場合、血中カリウム濃度に変化が出ますので、利尿剤や強心薬への影響も考慮にいれないといけませんし、大建中湯には糖が入っていますので、糖尿病の方への影響もチェックします。

また、抗生物質を飲んでいる場合、腸内細菌叢の変化がありますので、漢方の配糖体成分の細菌による代謝が低下してアグリコンの濃度が下がりますので、漢方の効果自体も下がります。

有名どころだけで良いので、西洋薬との絡みも知っておく必要があります。

裏寒と脾虚について(クリックして下さい)

裏寒というのは、身体の中心部の冷えであり、生命に危険が及ぶ状態になります。

解りやすい例は、冬の駅伝において、マラソンランナーがなる低体温症になります。

あれほど激烈なものでなくても、日々のストレスや食生活、睡眠不足で身体がダメージを受けると、知らず知らずのうちに裏寒となり、「何となく身体がだるい」「ずっと寝ていたい」というような状態になります。

このような場合、裏寒の治療(四逆湯類、真武湯、足湯等)を行う他は方法が無くなります。裏寒があった場合は、まず身体を温める治療をします。

また、脾虚ですが、脾虚になりますと、まず食欲が落ちます。

よく、太りたいけど太れないという方が見えますが、これも脾虚に陥っている事が多くあります。

その場合は、四君子湯等の脾胃剤を用いて、脾虚を改善する治療をします。

しかし、現実では脾虚で太れない場合、よく「一杯食べるように」病院で言われる事が殆どです。

これをしてしまうと、逆に脾虚を悪化させてしまう為、まずは消化の良いものを少量食べる事が大事です。

脾虚が治って食欲が出てきた時、食事量を少しずつ増やしていけば良いですので、無理や焦りは禁物です。

漢方の服薬指導各論「体調、食事内容、睡眠」

ムセキ
患者さんを観察する事が大事です。

漢方の服薬指導では、西洋薬以上に、患者さんを見ないといけません。

薬剤師は、基本的に患者さんに触れる事は殆どありませんが、望聞問切の四診うち望診・聞診・問診は出来ます。

出されている漢方に対して、証が合っているかどうかを出来るならした方が良いです。

証が見れなくても、最低限、裏寒(身体の冷え)と脾虚(食欲が有るか)はチェックしておくべきです。

裏寒があると、顔が青黒く、だるくて生気のない顔つきになります。脾虚の場合は、基本的に痩せていて食欲が無いのが特徴です。

裏寒の疑いがあれば足湯をするよう伝えますが、酷い冷えが確認され、しかも処方には清熱剤が出ていた場合、医師への疑義照会も考慮に入れる必要性も出てきます。

脾虚の場合は、消化の良いものを少なめに食べて、無理に食べない様に伝えます。脾虚の甚だしい場合は、必要に応じて医師に疑義照会をかけます。

また、漢方治療の場合は、普段の食生活や睡眠時間が治療効果にかなりの影響を与えます。

食事内容は、糖分や脂分はほどほどにして野菜中心で、また、睡眠は最低でも6時間以上は寝るようにお伝えします。

望診・聞診・問診で解る事(クリックして下さい)

最初は慣れないかもしれませんが、望診・聞診・問診を繰り返していると、患者さんによって、何となくパターンがあるのが解るようになります。

寝不足だと、寝不足特有の顔つきやボーッとした目、イライラならイライラの顔つきや行動、甘やかされて育った子は甘えた行動等、違いを感じるようになります。

それらが漢方理論上ではどういうものに当たるか、処方はどれが良いかを考えていくと、自然と漢方の証決定が出来るようになります。

薬剤師は、医師や看護師に比べて患者さんの観察が少ない様に思います。

昨今の薬剤師バッシングを見ていて思うのですが、私を含めて、薬剤師はもっと患者さんを見る必要がありそうです。

まとめ

ムセキ
医師の処方意図によって、説明を変えないといけないのは難しい所です。

医師が漢方を処方する場合、漢方の本来の証を見て使う使い方もあれば、西洋医学的なエビデンスに基づいて行う方法、添付文書の効能通りの使い方など色々あります。

ですので、「証が違うから」と医師に疑義照会を毎回のように行うのもナンセンスな話になります。

その様な場合、最低限、患者さんに被害が出ないような服薬指導も時には必要になります。

各論でお話したチェック項目のうち、副作用と相互作用だけでも念頭に置いて服薬指導するだけで、患者さんのQOLを高める事が出来ます。

漢方薬は、その処方が合わなくなってくると、何となく飲みたくなくなる事が多いです。

ですので、患者さんから「お薬が余ってきた」というお話を聞いたら、残薬調整で減らしていく事も出来ます。

どうしても処方医師の意図が優先される場合が多く、こちらの出来る事は限られていますが、その中で最大限のサポートをしていけば良いのではないでしょうか。

お読み頂きありがとうございます。

ムセキ
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以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

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