ポイント
この記事では、当帰湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、当帰湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、当帰湯という漢方薬が出ています。このお薬は、一般的には腹痛や腹部膨満感がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、腹痛等の不快症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、当帰湯という漢方薬が出ています。このお薬は、一般的には腹痛や腹部膨満感がある場合によく使われるお薬です。
大建中湯の代わりに使用される事もあり、その他にも、気力体力を補ったり、胃の詰まりがある場合にも使われます。今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、腸を動かして、腹痛等の不快症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、 痒、蕁麻疹等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ102番)
ツムラ当帰湯(外部リンク)
当帰湯についての漢方医学的説明
生薬構成
当帰5、半夏5、桂皮3、厚朴3、芍薬3、人参3、黄耆1.5、山椒1.5、甘草1、 乾姜1.5
出典
千金方
条文(書き下し)
「心腹絞痛(しんぷくこうつう:胸が締め付けられるように痛む)し、諸虚冷気満痛す。 」
条文(現代語訳)
「胸が締め付けられるように痛み、諸々の虚があり冷気が身体に満ちて痛むもの。 」
解説
今回は、当帰湯の処方解説になります。この処方は、一般的に腹痛や腹部膨満感に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は千金方からの出典で、短く「胸の締め付けられるような痛みと冷えによる痛みに良い。」と書いてあります。
確かにその通りに使えばいいのでしょうが、これだけでは使用条件等がよく解りません。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
補血:当帰、芍薬
胃の詰まりを取る:半夏、厚朴
補気:人参、黄耆
表を温め経を巡らす:桂皮
裏を温め蠕動運動を促す:山椒、乾姜
諸薬の調和:甘草
の様になります。少し解説を加えますと、この処方の特徴は、軽い気血両補剤に大建中湯と厚朴剤を足した様な作りになっている所です。
当帰湯は一般的には中建中湯と言われる事が多いのですが、構成生薬には膠飴が入っておりませんので、建中湯類ではありません。
気血両補剤、大建中湯、厚朴剤のそれぞれの特徴を合わせ持つ処方ですので、その所見もそれらが混在したものになります。
それぞれの処方グループの特徴は以下の様になります。
桂枝入りの気血両補剤:顔が赤く、食欲が有り疲れこんでいる状態で、肌の色艶が悪い
大建中湯:腹部の冷え、ガス満、腹痛、下部消化管の蠕動運動異常、便秘がち
厚朴剤:顔の表情や雰囲気が固く、食べ過ぎで、我が強く、すぐ言い返す
以上、まとめますと、当帰湯は「食べ過ぎ傾向で顔の表情が硬く我が強く、そこまで身体はガッシリとしておらず、疲れこんで顔が赤く、お腹が冷えてガスが溜まって胸が痛い場合に使用する処方。」と言えます。
本処方は、裏寒や脾虚が著しい場合は使用不可となりますので、注意が必要です。
鑑別
当帰湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに大建中湯、十全大補湯、平胃散があります。それぞれについて解説していきます。
大建中湯
当帰湯と大建中湯は共にガス満があり、便秘がちな場合に使用する処方となりますので鑑別対象となります。
大建中湯は腹部膨満感や下部消化管の蠕動運動の異常が強く出ます。逆に、当帰湯にある様な胃の詰まりや気血両虚の所見はありません。
また、桂枝が大建中湯には含まれませんので、当帰湯にある様な頬の火照り等はありません。その辺りで両処方の鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:100番】大建中湯(だいけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
十全大補湯
当帰湯と十全大補湯は共に気血両補剤の作用がありますので鑑別対象となります。
十全大補湯には腹部膨満感やガス満、胃の詰まり等はありませんので、雰囲気が固い、我が強いという所見はありません。
また、十全大補湯は四物湯が丸々入っていますので、当帰湯よりも血虚を回復させる力が強いのが特徴です。
言い換えますと、血虚の度合いは十全大補湯の方が酷いので、肌の色艶の悪さは十全大補湯証の方が上になります。
その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明
平胃散
当帰湯と平胃散は共に胃の詰まりがあり、健胃作用がありますので鑑別対象となります。
平胃散には、当帰湯にある大建中湯部分が入っておりません。ですので、腹部膨満感や下部消化管の蠕動運動の異常、ガス満等はありません。
また、当帰湯に入っている桂枝も含まれておりません。ですので、表証が無く頬の赤みが無いのが特徴です。
以上2点が鑑別ポイントとなります。
続きを見る【漢方:79番】平胃散(へいいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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