ポイント
この記事では、桂枝人参湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、桂枝人参湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、桂枝人参湯という漢方薬が出ています。このお薬は、下痢をしている方の風邪によく使われます。また、小児の風邪にも使われる事があります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃腸を温めて巡りをよくしてくれますので、一度、試してみてください。
身体を冷やしますと効きが悪くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、桂枝人参湯という漢方薬が出ています。このお薬は、胃腸が弱く下痢をしている方の頭痛発熱を伴う風邪によく使われるお薬です。
応用として、小児の下痢と頭痛発熱を伴う風邪にもよく使います。また、胃腸が弱くて桂枝湯という風邪の処方が使えない場合にも使われます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃腸を温めながら逆上せを取って、巡りをよくしてくれますので、一度、試してみてください。
身体を冷やしますと効きが悪くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、搔痒、蕁麻疹等)
冷え
添付文書(ツムラ82番)
ツムラ桂枝人参湯(外部リンク)
桂枝人参湯についての漢方医学的説明
生薬構成
桂皮4、甘草3、蒼朮3、人参3、乾姜2
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「太陽病、外証いまだ除かずしてしばしば之を下し、遂に恊熱(きょうねつ:表証の熱と下したことを原因とする熱が合わさった邪熱)して利し、利下やまず、心下痞鞕(しんかひこう:鳩尾(みぞおち)が固く詰まる)し、表裏解せざるものは、桂枝人参湯これを主る。」
条文(現代語訳)
「太陽病で、外証がまだ除けていないのに数回これを下した為、表証の熱と下したことを原因とする熱が合わさった邪熱となり下痢し、下痢が止まらず、鳩尾(みぞおち)が固く詰まり、表裏共に解せないものは、桂枝人参湯これを主る。」
解説
今日は、桂枝人参湯についての解説になります。本処方もあまり使われるイメージはありませんが、胃腸虚弱な方や小児の風邪に使われています。
それでは、最初に条文を見ていきます。
条文は、傷寒論からの出典で、要約しますと「表証が残っている状態で、間違って何度も瀉剤を与えた為に鳩尾(みぞおち)が痞(つか)えて下痢が止まらなくなったものに使う。」となります。
このままでは少し不明点が残りますので、解説を加えます。
表証とは、体外から来た邪気により気の回転が止められ、気が頭部を中心とした上焦に留滞した状態を言います。
症状は逆上せや頭痛、発熱、首筋のコリ等があります(その他にも、汗無or微発汗等の別で証が分かれます)。
この状態を太陽病と言い、通常は解表という処置をします。具体的に言いますと、桂皮や麻黄で気を動かして経絡の巡りを復活させます。
しかし、桂枝人参湯証の条文の「しばしば之を下し」というのは、その太陽病という状態に間違って黄芩や石膏、大黄の入った清熱剤を何度も与えて、誤った治療、即ち誤治を起こした事を示します。
そして、それが原因で恊熱(きょうねつ)という上焦に熱が溜まる状態となり、鳩尾が痞えて下痢を起こします。
その状態に桂枝人参湯を使うよう条文には書かれている訳です。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
裏から表へ気を持ち出し、巡らせる:桂皮
人参湯証:人参、乾姜、蒼朮、甘草
の様になっています。表より解ります通り、桂皮以外は人参湯で胃腸の冷えに対する処方となります。
【漢方:32番】人参湯(にんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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即ち、構成生薬を見ますと、この桂枝人参湯という処方は「表証かつ裏寒が存在する処方」と言えます。
ここで疑問が生じます。条文では、「恊熱して利し~」とあります。一見、これは実熱の邪が存在するように見えます。
しかし、本処方の構成生薬は人参湯+桂枝なので、胃腸は冷えているはずであり、表面上は矛盾するように思えます。
実は、この「恊熱」という状態は表証と裏寒外熱(りかんがいねつ:身体の内部が冷えて表面が熱くなる状態)が合わさった状態になります。
裏寒外熱という言葉は、傷寒論の通脈四逆湯の部分に出てくるだけですので、非常にマイナーな概念です。
もしかしますと、「少陰病の発熱状態」と表現しますとご理解頂けるかもしれません。
とにかく、桂枝人参湯証は、身体の内部が冷えて表面が熱くなる状態になると思って頂ければそれで良いです。
つまり、条文の後半部分の「鳩尾の痞えが出て下痢が起こる」というのは、胃腸が冷えて動きが悪くなった為に発生するものになります。
この場合、食欲があまりなく、下痢をし、裏に寒が存在して表に熱が溜まりますので、顔の中心部が青白(青黒)く、頬が桜色という状態で、頭痛発熱等の表証が出てきます。
この桂枝人参湯証を、私の漢方の師匠先生は「表熱裏寒の薬。」と表現されていました。言い得て妙ですね。
以上、まとめますと、桂枝人参湯は「頭痛発熱等の表証があり、顔の中心部は青くて頬は桜色で、胃腸に冷えがあって鳩尾が痞えて下痢をするものに使用する処方。」と言えます。
応用では、小児において下痢と頭痛を伴う胃腸風邪等にも使用される場合があります。この使い方の場合は、桂枝湯の胃腸虚弱版とも取る事が出来ます。
本処方は、酷い裏寒や脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
桂枝人参湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに人参湯、升麻葛根湯、桂枝湯、真武湯があります。それぞれについて解説していきます。
人参湯
桂枝人参湯と人参湯は、桂枝が入るか入らないかの差しか無い為、鑑別対象となります。
人参湯は、とにかく胃腸を温めて下痢を止め、心肺の機能を賦活する作用があります。その所見は、顔全体が青白く、全体が冷えている状態となります。
桂枝人参湯の場合は、気が頭部を中心とする上焦に留滞している為、頬が桜色で、頭痛発熱等の表証が存在するのが特徴です。
両者は、これらのポイントで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:32番】人参湯(にんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
升麻葛根湯
桂枝人参湯と升麻葛根湯は、両方共に小児の風邪に使用される処方であり、鑑別対象となります。
升麻葛根湯には葛根が含まれるため、陽明胃経の熱を取る処方となります。これは、首筋、うなじ部分のコリをほぐす効果がありますが、「胃熱がある場合」に使用します。
また、芍薬を含む為、食欲があるのが特徴です。更に、構成生薬には裏寒に対する生薬が入っておりませんので身体の内部の冷えはありません。
桂枝人参湯の場合、その構成生薬中に人参湯がありますので、胃腸が冷えて食欲があまり無く下痢をしています。また、顔の中心部が青白い(青黒い)のが特徴となります。
胃腸症状、顔の所見で、この両者は鑑別が可能となります。
桂枝湯
桂枝人参湯と桂枝湯は、同じ桂枝が入る処方であり、風邪に使用される処方である為鑑別対象となります。
桂枝湯の場合、処方中に芍薬を含み、人参等の胃腸の虚に対する生薬が入っておりませんので、胃腸は何ともない場合に適応します。
桂枝人参湯の場合、胃(鳩尾)の詰まり、下痢等の冷えや胃腸症状がありますので、その部分で鑑別が可能となります。
また、顔の中心部の色でも青白い(青黒い)or普通の肌色で鑑別出来ます。前者が桂枝人参湯、後者が桂枝湯です。
続きを見る【漢方:45番】桂枝湯(けいしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
真武湯
桂枝人参湯と真武湯は、両者共に身体の内部が冷える裏寒の状態の処方になりますので、鑑別対象となります。
真武湯には芍薬が入り、人参等の胃腸の虚に対する生薬が入っておりませんので、食欲がある場合が殆どになります。
逆に桂枝人参湯では、食欲があまりなく、下痢などの胃腸障害を伴っています。また、桂枝人参湯の場合は桂枝を含みますので、頬が桜色等の逆上せ所見が見られます。
その辺りで鑑別が可能です。
続きを見る【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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