ポイント
この記事では、柴陥湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、柴陥湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、柴陥湯という漢方薬が出ています。このお薬は咳が出て胸が痛くなったり、痰が絡む場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、咳を止めて痰を柔らかくして出しやすくしてくれます。
一度、試しに飲んでみて下さい。
身体が冷えてきますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、柴陥湯という漢方薬が出ています。このお薬は小柴胡湯と小陥胸湯という二つを合わせたお薬で、咳が出て胸が痛くなる場合によく使われるお薬です。
ネバネバの痰が出る場合にも使われます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、上半身の余計な炎症を鎮め、咳を止めて痰を柔らかくして出しやすくしてくれます。
一度、試しに飲んでみて下さい。
身体が冷えてきますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
冷え
添付文書(ツムラ73番)
ツムラ柴陥湯(外部リンク)
柴陥湯についての漢方医学的説明
生薬構成
柴胡5、半夏5、黄芩3、生姜1、大棗3、括楼仁3、甘草1.5、黄連1.5、人参2
出典
本朝経験方(条文は勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)より)
条文(書き下し)
「誤下(ごげ)の後,邪気虚に乗じて心下に聚(あつ)まり,其の邪の心下に聚まるにつけて,胸中の邪がいよいよ心下の水と併結する者を治す。」
条文(現代語訳)
「誤まって下した後,邪気が虚に乗じて心下に集まり,その邪が心下に集まるにつけて,胸中の邪が心下の水と合わさるものを治します。」
解説
今日は、柴陥湯についての解説になります。本処方は、小柴胡湯と小陥胸湯(しょうかんきょうとう)の合方になり、日本で作られました。一般的には咳や痰、胸の痛み等に使われています。
続きを見る【漢方:9番】小柴胡湯(しょうさいことう)の効果や副作用の解りやすい説明
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は、浅田宗伯の勿誤薬室方函口訣(ふつごやくしつほうかんくけつ)からの引用となります。
要約しますと「間違って瀉剤を与えて胸の気が虚し、その虚に乗じて邪気が入り、それが心下の水滞と結合したものを治す。」となります。
最初の「誤下」というのは、「陽明病でないのに間違って下した。」という意味で、発表剤の事ではありません。
表を解した場合はその様な記述(「解した後~」「発表後~」等)になります。
ここに出てくる邪気は実邪になりますので、心下の水と合わさったものは鳩尾(みぞおち)部分に固く詰まり、押さえると痛みます。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、処方別に見ると
小柴胡湯由来:柴胡、半夏、黄芩、生姜、大棗、甘草、人参
小陥胸湯由来:黄連、半夏、括楼仁
となっています。薬効別にグループ分けしますと、
心熱を瀉す:黄連
肺熱を瀉す:黄芩
疎肝・中和作用:柴胡
潤肺・去痰:括楼仁
邪気の分散・緩和:大棗、甘草
去痰:半夏
健胃:生姜
諸薬のまとめ:甘草
となります。生薬の種類が多いのですが、簡単に「小柴胡湯に加えて肺熱&肺胃に痰が存在する病態」と考えて良い処方です。
半表半裏の熱が存在し、横隔膜を境に上下で気の流れが妨げられた状態で、脾虚が存在するが痰の詰まりで心下が詰まり、上焦である心肺に熱があり、また、その熱により痰が生じているものとなります。
心肺に熱が籠もりますので顔が全体的に赤く、咳込み易く、咳込むと時に胸の痛みが走ったり、粘調性の痰が出たりするものに使用します。
また、柴胡証ですので目つきが鋭く、胸脇苦満の所見も出てきます。
以上、条文と併せて考えますと、柴陥湯は「目つきが鋭く、胸脇苦満等の柴胡証の所見のある方で、胃腸がそれほど強くなく(どちらかというと細身)、顔が全体的に赤くて咳込みやすく、時に胸の痛みや粘調性性の痰が出るもの。」となります。
本処方は、裏寒がある場合や肺寒のある場合は不適になりますので、注意が必要です。
鑑別
柴陥湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに茯苓飲合半夏厚朴湯、香砂六君子湯加減、麦門冬湯、滋陰至宝湯があります。それぞれについて解説していきます。
茯苓飲合半夏厚朴湯
茯苓飲合半夏厚朴湯と柴陥湯は、共に咳に対する処方であり、鑑別対象となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯は、普段食べ過ぎ傾向の方の咳や痰に使われる処方で、胃腸風邪等にも使われます。顔つきは固く、時に咽に違和感があるものに使用します。
この処方は、柴陥湯の様に顔全体が赤くなく、痰も比較的ネバつきが弱いです。また、半裏半裏に柴陥湯の様な熱はありませんので、目つきも鋭くなく、胸脇苦満も認められません。
その辺りが鑑別ポイントとなります。
【漢方:16番】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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【漢方:69番】茯苓飲(ぶくりょういん)の効果や副作用の解りやすい説明
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香砂六君子湯加減
香砂六君子湯加減(六君子湯+香蘇散)と柴陥湯は、共に咳に対する処方であり、鑑別対象となります。
香砂六君子湯加減は、普段脾虚傾向で気力が無く、痩せて食欲が無いの方の咳や痰に使われる処方です。その様な方が胃腸風邪になった場合にも使われます。
顔つきは目に力が無く、痩せて元気がありません。
この処方は、柴陥湯の様に顔全体が赤くなく、痰も比較的ネバつきが弱いです。また、半裏半裏に柴陥湯の様な熱はありませんので、目つきも鋭くなく、胸脇苦満も認められません。
その辺りが鑑別ポイントとなります。
【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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【漢方:70番】香蘇散(こうそさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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麦門冬湯
麦門冬湯も柴陥湯と同じ様に咳の薬になりますので、鑑別対象となります。麦門冬湯は肺燥という状態で、肺が乾燥して熱を持つが故に咳込みます。
空咳というのが有名ですが、臨床上重要なポイントはその体格になります。
麦門冬湯はその処方中に人参を含み、また、芍薬や当帰が入っていない所から脾虚が強い方用の処方である事が解ります。
柴陥湯との鑑別ですが、麦門冬湯の場合は顔全体が赤くなく空咳があり、半裏半裏に柴陥湯の様な熱はありませんので、目つきも鋭くなく、胸脇苦満も認められません。
また、繰り返しになりますが、食欲が無く痩せている方が対象となる処方になります。
【漢方:29番】麦門冬湯(ばくもんどうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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滋陰至宝湯
滋陰至宝湯と柴陥湯は共に咳に対する処方で、柴胡証もありますので鑑別対象となります。柴陥湯は、黄芩や黄連を含んでいる為、顔全体が赤いのが特徴です。
しかし、滋陰至宝湯はその様な赤みは無く、代わりに加味逍遥散証の様に不定愁訴が多いのがポイントになります。
その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:24番】加味逍遥散(かみしょうようさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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