ポイント
この記事では、桂枝茯苓丸加薏苡仁についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、桂枝茯苓丸加薏苡仁についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、桂枝茯苓丸加薏苡仁という漢方薬が出ています。このお薬は、子宮筋腫等で下腹部のしこりがあって、肌荒れもある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、悪い血を取り除いてお肌の調子を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、桂枝茯苓丸加薏苡仁という漢方薬が出ています。このお薬は、子宮筋腫等で下腹部のしこりがあって、肌荒れもある場合によく使われるお薬です。
駆瘀血剤と言い、悪い血を取り除く作用に、イボ取り等の肌荒れの生薬を追加したものになります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、悪い血を取り除いてお肌の調子を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
消化器(胃部不快感、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ125番)
ツムラ桂枝茯苓丸加薏苡仁(外部リンク)
桂枝茯苓丸加薏苡仁についての漢方医学的説明
生薬構成
薏苡仁10、桂皮4、芍薬4、桃仁4、茯苓4、牡丹皮4
出典
本朝経験方(条文は金匱要略より桂枝茯苓丸)
条文(書き下し)
「婦人,宿癥病(しゅくちょうびょう:しこり)あり,経断ちて未だ三月に及ばず,而も漏下を得て止まず,胎動きて臍上に在る者は癥痼妊娠を害すと為す。六月にして動く者は,前三月経水利するの時の胎なり。血下る者は断ちて後三月の胎なり。血止まざる所以の者は,其の癥去らざるが故なり。当に其の癥を下すべし。桂枝茯苓丸之を主る」
条文(現代語訳)
「女性のしこりで、月経が無くなって三か月に満たないもので、おりものが止まらず、しこりが動いて臍の上にあるものは子宮筋腫等が妊娠を阻害しているものである。六か月にして動く場合は、前三か月で正常の場合の胎である。不正出血するものは、妊娠が駄目だった場合の胎である。血が止まらないのは、そのしこりがあるからである。そのしこりを下すべし。桂枝茯苓丸が良い。」
解説
今回は、桂枝茯苓丸加薏苡仁の処方解説になります。この処方は、一般的に肌荒れを伴う月経異常や血の道症に使用されています。
それでは、まずは条文を見ていきます。本処方は本朝経験方ですので条文はありません。代わりに、元となった桂枝茯苓丸の条文を取り上げます。
出典は金匱要略で、要約しますと「子宮筋腫等の瘀血による子宮の腫れ物なら桂枝茯苓丸を使って下せ。」という意味になります。
3か月や6か月云々と書かれていますが、現代ではエコーをはじめとして各種診断技術が発達しております。
ですので、そちらを第一に見て、プラスして漢方的な見方を追加した方が賢明ではないでしょうか。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
水毒を去る:薏苡仁
表の気を補い経を巡らせる:桂皮
肝陰を補い、裏を充実させる:芍薬
駆瘀血:桃仁、牡丹皮
利水回水作用:茯苓
の様になります。処方名の通り、子宮筋腫等の瘀血を下す桂枝茯苓丸に利湿の薏苡仁を足した処方となります。
薏苡仁が足されてるとは言え、基本は駆瘀血になりますので、使用目標は「桂枝茯苓丸と同じ証+肌荒れ」で良いでしょう。
桂枝茯苓丸が合う方の特徴は、身体の中心部の冷え(裏寒)が無く、食欲に問題がなく、舌下静脈の怒張や唇が紫色という瘀血所見があり、加えて気の逆上せ(頬が桜色)がある方になります。
ですので、本処方はその所見プラス肌荒れという感じで使います。勿論、子宮筋腫があるというのもポイントになります。
以上まとめますと、桂枝茯苓丸加薏苡仁は「舌下静脈の怒張や唇が紫色等の瘀血所見があって、頬が桜色で冷えが無く胃腸が丈夫なもの。」となります。
繰り返しになりますが、裏寒や脾虚が無い方の処方になりますので、それらの所見が有る場合には不適となります。
鑑別
桂枝茯苓丸加薏苡仁と他処方との鑑別ですが、代表的なものに桂枝茯苓丸、桃核承気湯、温経湯があります。それぞれについて解説していきます。
桂枝茯苓丸
桂枝茯苓丸加薏苡仁と桂枝茯苓丸は、薏苡仁の有無の違いしか違いが無い為鑑別対象となります。
薏苡仁の有無は、湿邪の有無と置き換える事が出来ます。一般的に、漢方の効果というのは生薬数が少ない程切れ味が鋭く効果範囲が狭まると言われています。
桂枝茯苓丸加薏苡仁の場合は、湿邪を排出する為に身体の正気を使いますので、瘀血を下す力は桂枝茯苓丸よりも若干下がると考えられます。
しかし、その程度は数値化出来ておりませんので、そこまで気にする事は無いような気もします。
肌荒れに使うとありますが、中でもイボ等があれば桂枝茯苓丸加薏苡仁一択で良いでしょう。他は、そこまで差が無いと私は考えています。要はどちらでも良いと思います。
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桃核承気湯
桂枝茯苓丸加薏苡仁と桂枝茯苓丸は、同じ瘀血を下す処方であり鑑別対象となります。
桃核承気湯という処方は、「承気湯」というグループの処方となります。
承気というのは「気を承(うけたまわ)る」という意味で、胃が詰まって食べたものが下に下がらなくなり、精神異常を来している場合に使用します。
桂枝茯苓丸加薏苡仁の場合は、桂枝茯苓丸と同じ様に下腹部のしこり(子宮筋腫)等に用いられますので、桃核承気湯の様な胃の詰まりはありません。
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温経湯
桂枝茯苓丸加薏苡仁と温経湯は、同じ瘀血を下す処方であり鑑別対象となります。
温経湯は、処方構成からも解ります通り桂枝茯苓丸の虚の処方です。
ですので、気力体力の有無で桂枝茯苓丸加薏苡仁、桂枝茯苓丸、温経湯の3つでの鑑別になる事が多いです。
子宮筋腫等の下腹部での瘀血性のしこりの場合、温経湯が一番使いやすい処方と言えます。現代人向けの処方と言っても過言ではありません。
鑑別で迷った場合、先に温経湯を使用し、その後で桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸加薏苡仁等の処方を考えても良いでしょう。
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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