ポイント
この記事では、附子理中湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、附子理中湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、附子理中湯という漢方薬が出ています。このお薬は、身体が冷えて調子が悪かったり、下痢等が起こっている場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体を芯から温めて症状を改善してくれますので、一度、試してみてください。
身体を冷やさない事が肝心ですので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、附子理中湯という漢方薬が出ています。このお薬は、身体が冷えて調子が悪かったり、下痢等が起こっている場合によく使われるお薬です。
身体の冷えがあって、食欲が無い場合にもよく使われます。人参湯という、身体を温める処方の強化版です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体を芯から温めて、身体を活性化させて症状を改善してくれますので、一度、試してみてください。
身体を冷やさない事が肝心ですので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
その他(心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ、悪心等)
添付文書(三和410番)
三和附子理中湯(外部リンク)
附子理中湯についての漢方医学的説明
生薬構成
人参3.0g、甘草3.0g、白朮3.0g、乾姜3.0g、附子1.0g
出典
直指方(条文は勿誤薬室方函より)
条文(書き下し)
「虚損久痢、四肢厥冷を治す。即ち理中湯方の中に附子を加うべし。 」
条文(現代語訳)
「諸々の虚損による長く続く下痢、手足が冷たくなるものを治す。つまり、人参湯の中に附子を加えるべし。 」
解説
今回は、附子理中湯の処方解説になります。本処方は、一般的に冷えや下痢によく使われています。
「直指方」という書物が出典ですが、条文が見つからない為「勿誤薬室方函」を参考にしています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文を要約しますと「四肢厥冷や長く続く下痢には附子理中湯。」という事です。理中湯というのは人参湯の別名になります。
人参湯は傷寒論出典の処方で、胃腸の冷えが酷く下痢になっている場合に使用します。
条文にある「四肢厥冷」というのは「四逆」という状態になります。手足が冷えて、頭が逆上せるという危険な状態で、身体の芯が冷えるとなりやすくなります。
中心部に熱を集めて、生命を保とうとする訳です。この状態は桂枝で気を散らしたり、瀉剤などで熱を取ってしまうと大変な事になります。
この場合はとにかく、身体の内部を温める事を第一優先としないといけません。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
利水健脾:人参、白朮
温裏:乾姜、附子
緩和:甘草
の様になります。附子以外は人参湯そのものですね。
勿誤薬室方函の条文も人参湯の使用方法に則ったものですので、人参湯の使用目標をそのまま流用すれば問題ないでしょう。
只、附子が入っておりますのでその程度が酷い、と捉える必要があります。
また、人参湯という処方は脾胃虚弱の場合に使用する処方となります。ですので、本処方も胃腸の状態もあまり宜しくないと考えないといけません。
ですので、食欲も無い状態のものに使用する処方となります。
以上まとめますと、附子理中湯は「身体の内部が冷え、食欲が無く、下痢が長く続き、手足が冷えて逆上せているもの。」となります。
本処方の一番のポイントは、「脾虚が甚だしい場合にも使用できる」という部分です。ですので、唯一、医療用漢方製剤のエキスの中で四逆湯の代わりが出来る処方となります。
裏寒の甚だしい場合、真っ先に頭に思い浮かべたい処方ですね。
鑑別
附子理中湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに人参湯、真武湯、桂枝人参湯があります。それぞれについて解説していきます。
人参湯
附子理中湯は、人参湯に附子を足した処方であり、使用目標が似ている為鑑別対象となります。
人参湯は、別名「理中湯(理中丸)」と言います。剤形によって湯か丸なります。
理中という言葉の意味は、そのまま「中焦=(脾胃)の理(機能)を回復させる」という意味です。人参白朮が入り、乾姜が入りますので、胃腸を温めながら動きをよくしてくれます。
裏を返せば、それだけ脾胃が冷えて動きが悪くなっている状態という訳です。
全ての生薬の方向性は上で、附子理中湯の附子も上向きのベクトルになります。附子は裏を強烈に温める処方となりますので、その所見の有無がそのまま鑑別になります。
四逆まで冷えていたら附子理中湯、そこまで行かない状態で冷えてるようでしたら人参湯で構わないでしょう。
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真武湯
附子理中湯と真武湯は、使用目標が似ている為鑑別対象となります。
真武湯も附子理中湯も、その処方中に附子を含み、身体を芯から温める処方となります。一見大きな違いが無いように思われますが、2点程相違点があります。
1つ目は水の処理です。真武湯の場合、身体の余分な水分を除きますので、心不全や浮腫み等の水滞の所見があります。
また、もう1つは「食欲の有無」です。真武湯は芍薬を含み、肝血を増やします。これは、営気を全身に散らばらせるという働きになります。
芍薬が含まれるという事は、「少々それを飲んでも大丈夫」という風に判断します。
芍薬という生薬は、多少胃腸に重たい生薬となります。ですので、脾虚がある場合はあまり積極的には用いない方が良い処方となります。
逆に言いますと、芍薬が入っているという事は、「まだ食欲が残っている」と判断出来ます。これら2点が鑑別ポイントとなります。
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桂枝人参湯
附子理中湯と桂枝人参湯は、共に人参湯の派生処方であり、使用目標が似ている為鑑別対象となります。
桂枝人参湯は、その名前の通り、人参湯に桂枝(桂皮)を足した処方になります。
附子理中湯は附子を加えていましたので、温める場所が裏か表かの違いだけになります。
桂枝という生薬は、裏のエネルギーを表に回して運用します。ですので、その使用は裏がある程度温まっている事が前提となります。
つまり、両処方共に裏寒がありますのが、所見では桂枝人参湯の方が軽く、附子理中湯の場合はその程度が重い、という事になります。
裏寒の程度を確認し、手足が非常に冷えて手首足首の冷えがあるもの、顔の中心部が青黒い等の所見の程度で考えると良いでしょう。
桂枝人参湯はその所見があまり無く、逆に附子理中湯はその所見が非常に強いのが特徴です。その辺りが鑑別ポイントとなります。
【漢方:82番】桂枝人参湯(けいしにんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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