ポイント
この記事では、排膿散及湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、排膿散及湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、排膿散及湯という漢方薬が出ています。このお薬は、化膿している所に、膿を出して治す場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、膿を出してできものを治しますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、排膿散及湯という漢方薬が出ています。このお薬は、化膿している所に、膿を出して治す場合によく使われるお薬です。
排膿散と排膿湯という、別々の処方を合わせたものなので、排膿散及湯という名前になります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、膿を出してできものを治しますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
冷え
添付文書(ツムラ122番)
ツムラ排膿散及湯(外部リンク)
排膿散及湯についての漢方医学的説明
生薬構成
桔梗4、甘草3、枳実3、芍薬3、大棗3、生姜1
出典
本朝経験方(金匱要略の排膿散と排膿湯を合わせた吉益東洞創方)
条文(書き下し)
なし
条文(現代語訳)
なし
解説
今回は、排膿散及湯の処方解説になります。この処方は、一般的に強い咳に使われています。
本処方は、金匱要略の排膿散と排膿湯を合わせた吉益東洞先生の創方であり、条文はありません(調べましたが、それらしいものがありませんでした)。
代わりに覚え方をご紹介します。この処方の名前は、ご存じの通り排膿散と排膿湯を合わせたので「排膿散及湯」です。
「及(きゅう)は及(およ)び」ですので、そのまま「排膿散と排膿湯を合わせたもの」という意味です。
私の面識のある産婦人科医の先生が「排膿してくれてサンキューサンキュー!って覚えてました。」と仰られたことがありますが、それは間違いです。
ですが、覚え方としてはこれ以上ない覚え方になります。
ここまでお読み頂ければ忘れる事は無いと思いますが、勉強会や患者さんへこの薬を伝える際には非常に使えますので、覚えておくと良いでしょう。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
排膿:桔梗
緩和・分散:甘草、大棗
破気:枳実
補陰:芍薬
肌肉~表を温める:生姜
の様になります。名前の通り、排膿散と排膿湯を合わせた処方になります。それぞれの処方の構成生薬は以下の様になります。
排膿散:枳実、桔梗、芍薬、鶏子黄
排膿湯:甘草、桔梗、生姜、大棗
これを見て、構成生薬を検討してみます。排膿散には枳実と芍薬が入っており、逆に、排膿湯にはそれらが含まれず甘草・大棗が含まれています。
この事より、排膿散はどちらかというと実の処方、逆に排膿湯は虚の処方である事が解ります。
大柴胡湯と小柴胡湯の比較など、他の張仲景先生の処方を見てみても、実には枳実や芍薬、麻黄等が含まれ、虚の処方にはそれらが含まれていません。
そこから考えると、同じ様な使い分けをしていると言う事が解ります。
それを合わせた排膿散及湯は、その2処方の特性を併せ持つもの・・・とは言えず、どちらかというと排膿散加減としての特性が出てきます。
というのも排膿散の配合生薬である枳実、芍薬は虚状が酷い場合は使えず、逆に甘草、大棗、生姜は実の場合でも使用可能と考えられるからです。
排膿散の枳実で破った気を、排膿湯の大棗と甘草で和らげて散らすという、非常に合理的な処方という見方も出来ます。
ですので、排膿散及湯は排膿散より少し虚状のある状態から排膿散の状態まで使える、使いやすい処方と言えます。
ちなみに、芍薬は補陰する事で、傷の修復を助けています(血の増量)。ここに鶏子黄が入る事で、修復の材料が提供される訳です。
また、当然ですが排膿散及湯エキスには鶏子黄が入っていません。これは卵の黄身の事ですので、排膿散及湯を飲むときに卵黄に溶いて飲むと良いかもしれません(経験が無いので解りませんが)。
本処方の主効能は、名前の通り排膿になります。できものが出来て膿んでいる場合に使用します。
ですので、応用的に使用する場合、歯科領域の腫れや、耳鼻科領域の副鼻腔炎等に使用出来る処方になります。
辛夷清肺湯がよく用いられますが、排膿散及湯も使用できるという事を知っていれば、治療の応用が効くようになります。
以上まとめますと、排膿散及湯は「炎症があり膿が溜まっている場合に使用し、歯肉炎や副鼻腔炎等にも応用できる排膿処方。」と言えます。
本処方は、著しい裏寒や脾虚がある場合、使用不適となりますので注意が必要です。
鑑別
排膿散及湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに葛根湯加川芎辛夷、十味敗毒湯、辛夷清肺湯、清上防風湯があります。それぞれについて解説していきます。
葛根湯加川芎辛夷
排膿散及湯と葛根湯加川芎辛夷は、共に鼻汁が詰まる場合に使用の場があり、鑑別対象となります。
葛根湯加川芎辛夷は、葛根湯に川芎と辛夷を足した加味方です。経験的にこの2つの生薬を足した場合に鼻の通りが良くなるという事が解り、それが元で生まれた処方になります。
葛根湯加川芎辛夷のポイントは、加味方ではありますが、これも「葛根湯」という事です。ですので、裏寒や脾虚が無く、頭痛、首筋のこり、発熱等がある太陽病の処方になります。
葛根湯証が無いと使えません。排膿散及湯には、この様な表証はありませんので、そこで鑑別が可能となります。
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辛夷清肺湯
排膿散及湯と辛夷清肺湯は、共に鼻汁が詰まる場合に使用の場があり、鑑別対象となります。辛夷清肺湯は、その処方中に黄芩、石膏、知母、山梔子等を含み、かなり熱状が強いのが特徴です。
それは、鼻汁というよりは鼻腔内の腫れ物に使用する事が多く、また、胸全体に熱を蝕知する事が多いです。排膿散及湯はその様な所見は無く、鼻汁の排出により特化した様な形の処方構成となりますので、その辺りで鑑別が可能です。
【漢方:104番】辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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十味敗毒湯
排膿散及湯と十味敗毒湯は、共に腫れものやできものの処方であり、鑑別対象となります。十味敗毒湯は、その処方中に柴胡や防風、荊芥を含むのが特徴です。
ですので、柴胡の証(目つきの鋭さ、胸脇苦満、皮膚が浅黒い、発現の端々に怒気を感じる)があり、また皮膚の痒み等の風湿の邪が存在するのが特徴です。
只、桔梗も同時にあり、十味敗毒湯も化膿性疾患に用いる処方である事は確かです。
基本的に排膿散及湯は一か所が大きく膿んでいる場合に使用する事が多く、十味敗毒湯は全身に渡って症状が出ている場合に使用する事が多いです。
ですので、この2処方の鑑別は、柴胡の証、皮膚の痒み、疾患部位で判断すれば良いと考えられます。
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清上防風湯
排膿散及湯と清上防風湯は、共に腫れものやできものの処方であり、鑑別対象となります。清上防風湯は、赤みが強くて痒みも強い、頭部の湿疹や吹き出物の処方で、ニキビ処方として使われています。
これも十味敗毒湯との鑑別と同じで、頭部の広範囲に広がって熱状が強いものに清上防風湯、患部が限定されていて膿んでいるものに排膿散及湯という違いになります。
【漢方:58番】清上防風湯(せいじょうぼうふうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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