ポイント
この記事では、芎帰調血飲についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、芎帰調血飲についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、芎帰調血飲という漢方薬が出ています。このお薬は、産後の不調がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、産後の血の巡りを改善しますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、芎帰調血飲という漢方薬が出ています。このお薬は、産後の不調で眩暈や頭痛、目がチカチカする等がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃腸を助けて身体の循環を良くして血の流れを改善しますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
冷え
添付文書(太虎堂230番)
太虎堂芎帰調血飲(外部リンク)
芎帰調血飲についての漢方医学的説明
生薬構成
当帰2、川芎2、地黄2、白朮2、茯苓2、陳皮2、香附子2、牡丹皮2、大棗1.5、生姜1、甘草1、烏薬2、益母草1.5
出典
古今医鑑(条文は万病回春より)
条文(書き下し)
「産後、一切の諸病、気血虚損、脾胃怯弱(ひいきょじゃく:脾胃虚弱)、或いは悪露行かず、或いは血を去ること過多、或いは飲食節を失い、或いは怒気相沖き、以て発熱悪寒、自汗、口乾、心煩、喘急、心腹疼痛(しんぷくとうつう:腹痛)、脅肋脹満(きょうろくちょうまん:体側部の肋骨下の張り)、頭暈、眼花(がんか:目がチカチカする)、耳鳴、口噤(こうきん:口をつぐむ)して語らず、昏憒(こんかい:意識もうろう)等の症を致すを治す。」
条文(現代語訳)
「出産後の一切の諸々の病気、気血が虚し、脾胃虚弱で、あるいは悪露が正常に出ず、あるいは血が出過ぎ、あるいは暴飲暴食し、あるいは精神不安定でイライラし、それらが原因で発熱悪寒し、自汗し、口が乾き、胸苦しく、息が上がり、腹が差し込むように痛み、体側部の肋骨下)が張り、眩暈し、目がチカチカし、耳鳴、口をつぐんで言葉が出ず、意識もうろうとする、等の症状を治す。」
解説
今回は、芎帰調血飲の処方解説になります。この処方は、一般的に産後の体調不良に使われています。
漢方をかじったことのある方は、「産後一切の気血を調理する。」という口訣(くけつ:格言)をご存じかもしれません。
実際、東洋医学科や和漢診療科等の漢方外来や、漢方に詳しい婦人科の先生は好んで使われます。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、要約しますと「産後の気血の流れが不良で精神不安定をはじめとする上半身に症状が出るもの。」となります。
「脾胃虚弱」とありますが、「食欲が無いもの」という言葉がありませんので食欲は残っている事が解ります。
只、そこまで脾胃が強い訳ではありませんので、中肉中背からやや痩せ位の体型の方に合う事の多い処方となります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
補血、活血:当帰、川芎、地黄
利水、健胃、健脾:白朮、茯苓、陳皮、生姜
理気:香附子、烏薬
駆瘀血:牡丹皮、益母草
緩和、分散:大棗、甘草
の様になります。
底辺で支える生薬は利水、健胃の生薬で、利水して胃腸の動きを活性化する事で、気血を全身に補給します。
それらのエネルギーを使って気血を動かし、理気、補血、駆瘀血を行う処方となります。
理気というのは、頭がボーッとする、眩暈がする、頭に何かが被さった様な感じがする等の症状が出る「停滞した余分な気」による病態を改善する方法です。
出産という大仕事を終えた女性は、多量の血を失っており、また、各所に余分な血があります。
ですので補血・駆瘀血は必須ですが、血虚・瘀血は気の流れを阻害して経絡の運行を止めますので、頭部を中心として気滞の症状が出てきます。
これは、経絡の運行が止められた時の気血水の動きで、上焦は気、中焦は水、下焦は血の滞りが出やすいという経験則にも当てはまります。
最後、緩和・分散の大棗と甘草は、それらの動きの調和を取っています。
芎気調血飲を使用する際に重要なのは、「口訣(くけつ)に囚われない事」と、「裏寒脾虚に注意する事」の2点です。
僕の経験例をお話します。丁度、妻が出産した後、やはり体調がすぐれず眩暈や瘀血に関連する所見が出ましたので、きちんと証を取らずにに芎気調血飲を選択しました。
飲み始めて数日、「あまり調子が変わらない。」との事でした。なので、とりあえず芎気調血飲をストップし、真武湯に切り替えました。
真武湯に切り替えた所、少しずつ体調が良くなっていきました。
また別の有る時、知り合いの女性の出産後に後陣痛を訴えた為に苓姜朮甘湯を選択し、お渡しした所「一日で痛みが消えた!」との事でした。
それら2つの経験から、恐らく芎帰調血飲と苓姜朮甘湯は表裏の処方であると考えられます。
今思うと、妻の時もきちんと証を取っていればと後悔しています。次、機会があればきちんと証をとって選択しようと思います。
この経験から、芎帰調血飲を使用する際には「裏寒脾虚が無い事を確認する事」が必須だと思い知りました。口訣も鵜呑みにしてはダメですね。
また、漢方の師匠先生から「女性の産後は、一生産後ですよ。」とお話されていたのを覚えています。
この言葉は、女性にとって芎帰調血飲の適応を広げてくれますので、ご紹介しました。
口訣と違ってきちんと証を見る事を前提としてますので、有用性が高いのではないでしょうか。
以上、まとめますと芎帰調血飲は「女性の産後によく合う処方で、産後に胃腸の動きが悪く、ふらつき眩暈、頭が重い等の気滞症状があり、唇の色が悪い、舌下静脈の怒張、下腹部の張り等、瘀血や血虚の所見のあるもの。産後の女性一生に渡って使用の可能性がある処方。」となります。
上でも触れた通り、裏寒脾虚が無い事が前提となりますので、そこは確認しておく必要があります。
鑑別
芎帰調血飲と他処方との鑑別ですが、代表的なものに〇があります。それぞれについて解説していきます。
芎帰膠艾湯
芎帰調血飲と芎帰膠艾湯は、名前が似ているため鑑別対象となります。処方箋の記載時に選択を間違えやすい(疑義照会対象)ので、あえて取り上げました。
芎帰膠艾湯は、名前は芎帰調血飲に似ていますが、処方構成は≒四物湯と思っても問題ありません。血虚の処方と考えた方が早い処方となります。
女性の不正出血等によく使われます。血虚なので、心虚があって肌の色艶が悪く、胃腸の強いがっしりとした身体で抑鬱傾向の方に向いています。
更年期以上の女性で適応の方がよくお見えです。
芎帰調血飲は胃腸の動きが悪くて瘀血がありますので、もう少し痩せて中肉中背、唇が紫色や舌下静脈の怒張、下腹部の張り等の瘀血所見があります。
その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:77番】芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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安中散
芎帰調血飲と安中散は、両処方共に瘀血と胃腸の動きが悪い場合に使用する処方であり、鑑別対象となります。
安中散と芎帰調血飲の違いは、その処方意図のバランスの差になります。
安中散は逆上せと胃腸の虚状がメインで瘀血もちょっと捌きたい場合に使用し、芎帰調血飲は気滞・瘀血・血虚がメインで、下支えが胃腸の虚に対するアプローチです。
つまり、安中散の方が線が細く胃腸の虚が酷いという事になります。
安中散証の方は細身の女性で、口の周りが赤い等の酒さ様湿疹が出ている事が多く、また、顔が逆上せている事が多いです。
ちなみに、男性でも病後回復の処方としても使われます。
芎帰調血飲証の場合は、体つきは安中散証よりは若干がっちりとした中肉中背の方の瘀血証が適応になる場合が多いです。
これらの処方の鑑別は体格と胃腸の虚状の差になります。
【漢方:5番】安中散(あんちゅうさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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温経湯
芎帰調血飲と温経湯は、両処方共に瘀血と血虚がある場合に使用する処方であり、鑑別対象となります。
温経湯は、条文に女性の種々の婦人病に使用する処方であるという事が書いてあります。また、芎帰調血飲は産後の女性によく使われる処方となります。
両者の違いは瘀血の質の違いとなります。温経湯は、体つきがずんぐりむっくりとし、一見桂枝茯苓丸に見えます。桂枝茯苓丸の虚の処方と捉えても良いでしょう。
ですので、産後の様な特殊な場合の散らかった瘀血ではなく、子宮筋腫の様な部位限定の瘀血がある場合に適しています。
また、麦門冬が入っておりますので、唇や皮膚の乾燥もあります。
芎帰調血飲は、失血と子宮を中心とした傷とそれに伴う気滞があり、唇や皮膚粘膜の乾燥は無いか軽度です。その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:106番】温経湯(うんけいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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女神散
芎帰調血飲と女神散は、両処方共に血虚と気の上行がある場合に使用する処方であり、産後に使用しますので鑑別対象となります。
女神散は黄芩と黄連を含むため、心肺に実熱がある事が解ります。この場合、顔色は全体的に赤黒くなり、気の上行が激しいものになります。
また、女神散は駆瘀血の生薬を含まない為、瘀血所見はありません。補血の当帰・川芎といった生薬が配されておりますので、その差が芎帰調血飲との差になります。
芎帰調血飲は気滞がある程度ですが、それのもっとキツイ状態が女神散と考えても良いでしょう。
【漢方:67番】女神散(にょしんさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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苓姜朮甘湯
芎帰調血飲と苓姜朮甘湯は、両処方共に腰部の異常に使用する処方であり、鑑別対象となります。
解説でもご紹介した鑑別です。現代人の産後の処方として、芎帰調血飲は少し強いように私は思います。
気力体力が無い状態で妊娠出産しておりますので、昔の人よりも虚状が激しい場合も多くあります。その時、芎帰調血飲を使用してしまうと、逆に悪化させてしまう事になります。
簡単に言いますと、温める事で気血が自然と巡り、瘀血や血虚が改善される場合があるという事です。
同じ腰部の処方ですので、使いやすいのも魅力的です。どちらか迷った場合、まずは苓姜朮甘湯を使用されてみても良いのではないでしょうか。
又は安中散という手もあります。
「裏寒や脾虚の程度は問題無い!」とはっきりしたら芎帰調血飲でも良いでしょう。
【漢方:118番】苓姜朮甘湯(りょうきょうじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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