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排膿について

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排膿について

排膿について

ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。

本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。

今日は、排膿について、詳しくご紹介します。

「排膿は膿を出すだけじゃないの?」

って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。

確かに、排膿というと膿を出すだけです。ですが、漢方医学ではその「膿の出し方」に色々とバリエーションがあります。

その為、化膿病変部分のみを見るのではなく、他の状態も見ながら処方を使う必要があります。

今回の記事では、化膿の病態と排膿治療、注意点、使い方等を詳しくご紹介していきます。

本記事は、以下の構成になっています。

排膿とは何か

排膿治療のポイント

排膿治療の注意点

排膿治療に使う生薬

排膿の治療

さいごに

排膿治療には、いくつかポイントがあります。そのポイントを知って処方運用が出来ると、安全性を増して治療効果を上げる事が出来ます。

本記事では、裏熱についてご説明し、治療条件を経て治療まで行きたいと思います。

それでは、宜しくお願い致します。

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排膿とは何か

ムセキ
排膿は、炎症反応の後半、峠を越えて膿が溜まったものを出す治療を指します。

炎症は、一度極大期を迎えて治っていく段階で、化膿する事があります。古人は癰(よう)とか癤(せつ)とか表現しています。俗に言うおできです。

狭義の排膿は、その化膿病変部から膿を排出させる事を指します。広義には、化膿病変を生じさせる様に持っていく事で、邪毒を体外に出す事も含みます。

膿が溜まるという事は、一般的にはあまり良い事では無いとされています。ですが、見方を変えるとそれは身体に散った病邪の毒を排出させる為に集めていると考える事も出来ます。

そう考えると、漢方医学における排膿というのは病変部位だけでなく、身体全体を観て行う必要があるということが解ります。

ちなみに、膿は湿熱の一種と捉える事も出来ます。

化膿病変部分は熱を持って腫れている訳ですから、そこに溜まっているドロッとした粘性の高い血以外の液体は湿熱になります。

次に、排膿治療のポイントについてご紹介します。

排膿治療のポイント

ムセキ
漢方医学の排膿は、部位や身体の状態によって使用する処方が変わります。

排膿と一言で言っても、その部位や身体の虚実の状態で使用処方が変わります。

皮膚や粘膜等の浅い肺が担当する部分の場合は、桔梗が必要となりますし、身体の奥深く、盲腸による化膿の場合は冬瓜子や敗醤根が必要になります。

また、排膿を後押しする為に、組織修復をする必要がある場合もありますし、その様な場合は気血両補剤を中心とした補剤を使用します。

虚実の状態ですが、例えば熱状が激しく実証の場合は瀉剤を中心に生薬群を考えないといけませんが、虚証の場合は補の生薬を中心にして最終的に排膿を促します。

それらの違いは、実際の処方の適応を見ながら判断していきます。それらは後ほどお話します。

この「虚証の場合は補の生薬を中心にして最終的に排膿を促す」という治療を「托裏(たくり)」と言います。

文字通り「裏」である身体の内部に托(たく=託)する訳です。「とりあえず、身体の状態を良くしてあげるから後はお任せ(委託)しますね。」という考えです。

托裏の場合、実の排膿治療とは違い、膿を出した方が良い場合は出して膿を身体内部で解毒して消した方が良ければ消してくれます。場合場合を身体が自動で判断してくれる訳です。

次に、排膿治療の注意点をお話します。

排膿治療の注意点

ムセキ
排膿も毒出しの治療ですので、虚状に注意が必要です。

身体は、排膿が上手く行くと劇的に症状が改善してきます。ですので、それを目標としてよく排膿の効果のある処方は使われがちとなります。

しかし、排膿させるのにも力が要る訳で、身体の虚状が激しい場合は排膿する事で虚脱状態となり、ぐったりしてしまう可能性があります。

具体的には、裏寒という身体の芯が冷えてしまう状態になります。ですので、他の瀉剤と同様、裏寒や脾虚気虚に十分注意して運用する必要があります。

先にそれらを確認してから、排膿が必要であればそれを行っていく様にしましょう。

排膿治療に使う生薬

ムセキ
排膿治療に使う生薬についてご紹介します。

排膿治療に用いる生薬は、直接的に排膿を促すものから、膿を出せる状態に持っていく補助的な生薬等、様々な種類があります。

その為、何処まで排膿治療に用いる生薬とするかの線引きが非常に難しいのですが、具体的には、以下の生薬がよく使われます。

桔梗 薏苡仁、枳実、冬瓜子

敗醤根、大黄、柴胡、竜胆

金銀花(忍冬)、当帰、黄耆

上記のもの以外にも排膿に使われる生薬は沢山あります。ですので、ここの生薬群は本当に一部と言えます。

それでは、一つずつ説明していきますね。

桔梗

排膿を促す生薬の中でも、一番有名なものではないでしょうか。桔梗は主に肺に昇ってその結ぼれた気を利す効があります。

肺部で鬱滞している気を散らして流す生薬です。

結局の所、皮膚も肺に属しますので、化膿病変部分はその気が結ぼれ熱を持っている状態となります。桔梗はそれを利し散らす働きがあります。

また、諸薬の効果を上に導く働きがあるとされています。

薏苡仁

疣(イボ)の治療生薬として有名です。イボというのは漢方医学的には湿熱の一種で、触ってみると解りますが皮膚より下の肌肉部分に発生しているできものとなります。

それを除去するのに頻用されます。また、その湿熱の邪が筋肉中にある場合は痛みを発します。その痛みを取るのにも薏苡仁が使用されます。

肺の管轄下である皮膚に行っても、肝の管轄下にある筋に行ったとしても、薏苡仁で取れる湿邪の出所は脾胃となります。つまり、薏苡仁は陽明胃経の気を下げる働きがあります。

言い換えますと、脾胃の湿熱に対する瀉剤になりますので、脾胃の虚状が激しい場合は使用不可という生薬でもあります。

枳実

枳実(きじつ)とは、ミカンの実を使用します。脾胃に気血が結ぼれているものを破る強い力があります。

ですので、「枳実は気実」と覚えて頂くと良いでしょう。

一番効きやすいのが脾胃の詰まりですが、同じグループである皮膚下の肌肉部分での気血の詰まりも取ります。その為、排膿が必要な処方にも入る事があります。

作用の強い生薬である為、脾胃の虚がある場合には使用に注意が必要です。

冬瓜子

冬瓜子(とうがし)は、夏に取れ、冬まで持つ事から冬瓜(トウガン)と呼ばれている植物の種です。消炎、排膿等の作用があります。

虫垂炎や肺化膿症などの身体内部の化膿性疾患に使用される事が多い生薬で、あまり皮膚表面の化膿に使用される例を見たことがありません。

私は、炎症後期で化膿し始めから、病変部が破れるまでに使用されるものと認識しています。

敗醤根

敗醤根(はいしょうこん)はあまり聞きなれない生薬です。処方も、有名な所が薏苡附子敗醤散(よくいぶしはいしょうさん)というマニアックな処方です。

では、何故これを取り上げる必要があったのか。

それは、敗醤根でないと駄目な病態があるからです。敗醤根は、腸間膜や内臓の熱毒や膿を除くという働きがあり、他の生薬では中々その様な効果は見られません。

膿による熱邪を除く感じでしょうか。膿という汚濁にまみれた炎症を取るという作用とイメージして頂くのが良いです。

現代では虫垂炎も手術や抗生剤で何とかなる時代なので、あまり使われる事はありません。

大黄

大黄は将軍との別名がついている生薬で、とにかく邪熱を外に排出する働きがあります。

厳密には排膿というより駆瘀血と言った方が良いのですが、化膿性炎症病変の初期にも使用されますのでご紹介します。

性は寒で、陽明病期に頻用されます。ですので、身体の内部に実熱がある場合に使用します。排膿のカテゴリーですと大黄牡丹皮湯ですね。

大黄という生薬は非常に使い方が難しい生薬です。ですので、使った後のフォローも含めて考え、万全の状態を取ってから使用するようにしましょう。

柴胡

柴胡は少陽病期に使用する生薬で、肝の気が流れず溜まった時に、それによって発生した詰まりを取って熱を冷ます働きがあります。

肝気鬱や肝熱とよく言われる状態に使用する処方です。

柴胡は、肝熱を取り気の通りを改善する事で、身体の経絡の流れを正常化します。その為、毒を中和し排出されやすくなります。

丁度、化膿が裏熱の極大期を過ぎて治る過程で発生するものですので、排膿自体が少陽病の治療法と言っても間違いではありません。

肝熱が溜まりやすい方は、気が上がりやすく巡りが悪い為に毒が溜まりやすく、排膿治療のタイミングで柴胡を使う事もあります。

竜胆

竜胆は少陽病期に使用する生薬で、肝の気が多すぎて肝に熱を持つ状態に使用します。瀉肝といい、肝の熱を取り去る働きがあります。

その過大な熱は湿熱という形で身体に熱毒として溜まっており、皮膚もその熱毒により汚くなります。

その為、肝気過多の方は化膿しやすくなり、その治療で竜胆を使用する事があります。

柴胡との違いですが、柴胡は肝気の流れを冷やして改善する事で、身体の気の流れを復活させるのに対し、竜胆は肝気自体を瀉して排出する事で肝熱を下げるという違いがあります。

金銀花(忍冬)

金銀花(きんぎんか)は、花部の名前であり、草部分は忍冬(にんどう)と呼ばれる生薬です。

風邪(ふうじゃ)が体表にあり、発疹や痒みが出ている場合に、その風を発散させて治癒させるというのが金銀花の働きになります。所謂、辛涼発表剤と呼ばれる生薬です。

金銀花は温病(うんびょう)という、風と温性熱性の邪が結びついた病の時によく使われます。桂枝の様に温める事をしない解表剤となります。

化膿病変の場合は桂皮で温めると悪化する事があり、金銀花で冷ましながら発散させる事で治癒を助けます。

当帰

当帰は補血の生薬として有名です。「この生薬と排膿が関係あるの?」と思われそうですが、非常に関係があります。

当帰の補血の役割をもって、組織修復を促します。紫雲膏の肉芽形成作用が有名な例ですよね。

排膿という治療は、化膿病変が出来て初めて行える治療となります。

虚状が激しい場合、まず化膿する事すら出来ずに病邪が長期間身体に残ってしまいます。まずは虚状を回復させて、化膿させるというプロセスが必要となります。

ですので、当帰は勿論の事、その他の補の生薬である人参や白朮等々も広い意味では排膿の生薬と言えます(ここでは代表として当帰を取り上げました)。

黄耆

黄耆は肺の補気薬として有名です。当帰と同じく、補の生薬になるので排膿とは関係ないと思われるかもしれません。

肺の補気を行うという事は、皮膚の補気剤とも言えます。漢方医学では皮膚の状態を改善する生薬としてよく使われています。

当帰と説明が被りますが、虚状を回復させる事で化膿を促すという治療を行う際、黄耆もよく使用されます。

虚の創傷として有名なものに褥瘡(じょくそう)があります。これに対して十全大補湯や人参養栄湯が使用されていますが、両方の処方に黄耆が配されています。

両処方に皮膚の状態を改善させる効が強いのは、黄耆が配されているからと考えられます。

排膿の治療

ムセキ
様々な排膿の治療方法についてご紹介します。

排膿の治療に用いられる代表的な処方を挙げ、それぞれ簡単にご紹介していきます。

排膿と一言で言っても、病期は様々ですので、個々の処方をしっかりと押さえておく事が大事です。

排膿の治療に用いられる処方は、以下の様なものがあります。

排膿散及湯、桔梗湯、腸癰湯、薏苡附子敗醤散

十味敗毒湯、荊芥連翹湯、竜胆瀉肝湯、治頭瘡一方

人参養栄湯、帰耆建中湯、千金内托散、托裏消毒飲、葛根湯

それぞれご紹介していきます。

排膿散及湯

排膿散及湯は、元々排膿散という処方と排膿湯という処方に分かれていました。

これは、身体の状態で使う処方を分けていた為です。ちなみに、排膿散が実の処方、排膿湯が虚の処方です。

薬局やドラッグストアには、排膿散という処方が歯肉炎に対する薬として残っています。医療用には排膿散及湯のみになります。

通常、「気血両補剤の様に気虚と血虚の両方が無いと使えない」という狭い適応範囲になりがちですが、本処方は実の処方と言ってもそこまで強烈な生薬は入っていません。

ですので、二つを合わせる事で虚実の虚の方が少し排膿湯より削れただけで、そこに排膿散の効果範囲が加わった名処方となりました。

身体の表に近い部分の粘膜(上気道)や、皮膚の化膿病変に使用されます。

排膿散及湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

排膿散及湯
【漢方:122番】排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

桔梗湯

桔梗湯は、咽頭痛に対する処方として有名です。患部が化膿しており、腫れを伴っているものに使用します。

排膿の効のある桔梗が君薬の処方でもあります。

また、本処方は少陰病の処方であり、実ではなく冷え等の虚状の激しいものが適応となります。

ですので、喉の痛みだけではなく身体の冷えの所見が無いかを確認して使用する事が大事です。ここが、他の咽頭痛等の所見との鑑別点となります。

桔梗湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

桔梗湯
【漢方:138番】桔梗湯(ききょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

腸癰湯

腸癰湯(ちょうようとう)はその昔、虫垂炎の処方として頻用されました。現代では、抗生物質や手術の適応になる為、殆ど使われません。

医療用医薬品に処方が残っていますが、触った経験のある方は少ないのではないでしょうか。

本処方は、大黄牡丹皮湯が合う様な熱の極大期を過ぎ、化膿が顕著になってきた段階で使用します。冬瓜子が入っている珍しい処方でもあります。

腸癰湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

腸癰湯
【漢方:320番】腸癰湯(ちょうようとう)の効果や副作用の解りやすい説明

薏苡附子敗醤散

薏苡附子敗醤散は、「よくいぶしはいしょうさん」と読みます。

虫垂炎がほぼ抗生物質や手術の適応であり、腸癰湯と同じく今では殆どみかけない処方となりました。

本処方は虫垂炎の化膿病変が破れ、腹腔内全体に炎症が散らばった状態に使用します。

炎症の極大期に大黄牡丹皮湯を使用し、その後化膿病変が顕著ならば腸癰湯、その次の病態の時ですね。

膿が全体に散ってしまった時の処方と認識して頂けると幸いです。

十味敗毒湯

十味敗毒湯は江戸時代の医者である華岡青洲先生の創方で、紫雲膏と並んで有名なものです。

桔梗と柴胡が配されているのが特色で、丁度、少陽病期の排毒に適しています。

肝に熱を持つと、イライラした言動、目つきが鋭くなる等の症状が出ます。その様な状態で、化膿性病変や痒みなどが皮膚にあるものに使用します。

荊芥連翹湯はその性が上焦に集まり、痒みや鼻づまり等の風による症状が強いのが特徴です。

しかし、十味敗毒湯は全身の何処でも対象となり、化膿性病変が目立つ場合に使用します。

十味敗毒湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:6番】十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明

荊芥連翹湯

荊芥連翹湯は明治時代から昭和初めにかけて活躍された森道伯先生が始められた、一貫堂医学でよく使われる処方です。

その中で、解毒証体質という肝に熱が溜まりやすい体質の方の為の処方として荊芥連翹湯が出てきます。

この処方は、特に風と呼ばれる遊走性の邪に対する作用が強く、上焦にその効が集中します。ですので、体格が中肉中背以上で肝熱が溜まっている方の鼻炎や鼻づまり等に使われます。

また、同じ肺のグループに対する処方でもある為、皮膚炎や鼻づまりにも使われます。

解毒証体質の方は身体に毒が溜まりやすいので、肌が全体的にガサガサして化膿しやすくなっています。荊芥連翹湯はその様な方に使われる事が多いです。

荊芥連翹湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:50番】荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

竜胆瀉肝湯

竜胆瀉肝湯も荊芥連翹湯と同じく、一貫堂医学の解毒証体質の薬となります。

身体に毒が溜まりやすく、目つきが鋭い方によく使います。

荊芥連翹湯と違い、より強い肝熱が存在するため柴胡ではなく竜胆という肝熱を瀉す生薬が使われています。

その強い肝熱は、湿熱という形となり下腹部を中心に難治性の炎症を引き起こします。その部分を中心に、小さな化膿病変が広がって出来る事があります。

その様な場合に竜胆瀉肝湯が使われます(証の虚実によって五淋散や清心蓮子飲、疎経活血湯に行く場合もあります)。

また、竜胆瀉肝湯は、同処方名で構成生薬が違うものが存在します。一貫堂医学の竜胆瀉肝湯は、通常の竜胆瀉肝湯より重い構成となっています。

基本的な使い方は変わりませんので、より実かどうかの判断で良いでしょう。

竜胆瀉肝湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

竜胆瀉肝湯
【漢方:76番】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
一貫堂の竜胆瀉肝湯
【漢方:76番:一貫堂】竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

治頭瘡一方

治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)は処方名の通り、頭のできものを治す処方です。

よく乳児湿疹が頭に出来、ドロドロした粘つきのある液体が頭に発生する事がありますが、その様な場合に使用します。

頭の脂漏性湿疹等も、ベタベタしたものは膿とみて古人は治療していました。瀉剤となりますので、虚状に注意しながらご使用ください。

治頭瘡一方の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

治頭瘡一方
【漢方:59番】治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)の効果や副作用の解りやすい説明

人参養栄湯

人参養栄湯は精神不安や気疲れ、不眠のある方の気血両補剤として有名です。

排膿とは一見関係ない様に見えますが、実は非常に関係があります。少し前、フレイルという老化による衰えが注目される様になりました。

そして人参養栄湯は、その衰えという病態の他に褥瘡の治療に使われる様になりました。ちなみに、例として人参養栄湯を出しましたが、同じ気血両補剤の十全大補湯も同じです。

要は、組織修復を早める働きが気血両補剤にはあります。組織修復というのは、漢方医学で「陰虚を治す」治療となります。

そして、組織修復が進むと同時に褥瘡や創傷部分周辺に散っていた邪毒が膿として顕在化してきます。

つまり、人参養栄湯や十全大補湯の様な気血両補剤が排膿治療の側面を持つという事になります。

化膿病変がしっかりと出た所で瀉の排膿処方(十味敗毒湯や荊芥連翹湯、治頭瘡一方等)に切り替える事で、スムーズに排膿を行う事が出来ます。

人参養栄湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

人参養栄湯
【漢方:108番】人参養栄湯(にんじんようえいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

帰耆建中湯

帰耆建中湯は、小建中湯に黄耆と当帰を足したものになります。十味敗毒湯の所でお話した華岡青洲先生の処方です。

私は手掌反熱、便秘ぎみ、顔の火照り、疲れ等の小建中湯の証があり、それがより酷い場合に使用しますが、元々は化膿病変部が潰れた後、治りが悪いものに使用されていました。

タイプは違いますが、人参養栄湯や十全大補湯の様な気血両補剤と見る事が出来ます。

人参養栄湯の所でお話した様に、帰耆建中湯は傷の組織修復を早めることで化膿させる事が出来、それが最終的に排毒につながります。

エキス剤での帰耆建中湯は当帰建中湯と黄耆建中湯を同時に飲ませる事で作る事が出来ます。詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

当帰建中湯
【漢方:123番】当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
黄耆建中湯
【漢方:98番】黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

千金内托散

千金内托散は、化膿病変の治りが悪く、時間がかかっているものに使われています。

構成生薬は、黄耆、人参、甘草、桔梗、百芷、川芎、当帰、桂皮、防風、金銀花、厚朴の11味です。

丁度、軽い気血両補に排膿止痒理気の生薬を足した感じでしょうか。

ここまででご紹介した処方群のご紹介でお解りかと思いますが、本処方は組織修復と排膿を一度に行おうという処方です。これが托裏(たくり)ですね。

ただ、人参養栄湯や帰耆建中湯、十全大補湯で組織修復を先に行った方が良い場合もありますし、千金内托散で両方を一度に行う方が良い場合もあります。

どちらか解らない場合は、まずは補剤で様子見を見て、その後考えれば良いでしょう。ですので、本処方は「これで絶対大丈夫!」という感触があって使った方が安全です。

托裏消毒飲

托裏消毒飲(たくりしょうどくいん)は、千金内托散と同じく組織修復と排膿を一度に行う托裏治療の処方です。

構成生薬は、黄耆、当帰、川芎、白芷、桔梗、陳皮、金銀花、白朮、茯苓です。

基本的な、気血両補の効と排膿の効は変わりませんが、水の滞りがある場合はこちらの方が良いでしょう。

葛根湯

葛根湯というと風邪薬のイメージがありますが、江戸時代の医師は化膿病変に使用したようです。

葛根湯は発表作用が強く、皮膚から汗を出させる処方です、ですので、体表にある邪実を汗を出させる事で一緒に体外にだしてしまう治療と考えれば使用出来ない事はありません。

しかし、今日では化膿病変にはもっと良い治療があります。また、脾虚や裏寒などの虚状がある場合には使いにくいという側面もあります。

ですので、よっぽど葛根湯が合う場合を除いて使用する事は稀だと考えられます。

葛根湯の詳しい説明は、以下の記事をご覧ください。

【漢方:1番】葛根湯(かっこんとう)の効果や副作用の解りやすい説明

さいごに

ムセキ
最後までお読み頂きありがとうございます。

排膿治療は、その治療で劇的な効果が生まれやすいカテゴリーでもあります。

特に、托裏治療の「補って瀉す」という考え方は、西洋医学にはない概念になりますので注目すべきものがあります。

只、排膿治療はある程度、気血両補剤が使える位は気力体力が残っていないと使えない治療となります。裏寒脾虚が問題ない事を確認してから使用するようにしましょう。

特に托裏治療のポイントは、「托裏治療で間違いない!」という確証が取れてから使う事です。「どっちかなあ・・・。」で使うと失敗する確率が高まります。

また、排膿治療に失敗した時の対処法まで頭に入れて使う事も必要です。基本的には補剤や、裏を温める温裏剤を使用します。

この2つ(証を間違えない、失敗した時の対処を考えておく)が出来ると、排膿治療を非常に安全に行う事が出来ます。是非、マスターしてくださいね。

本記事が、皆様の漢方学習の助けになる事が出来たら幸いです。

臨床寄りの漢方資料

ムセキ
臨床よりの漢方資料は本当に少ない印象です。

実践向きの良い本を私も探しているのですが、特に初心者向けとなると中々ありません。中には「初心者向け」を謳っている本もあるのですが、私はちょっとお勧めできません。

現代語で総合的かつ実践向きのとなると、高いですけど「漢方診療三十年」「臨床応用 漢方処方解説」位でしょうか。この2冊は、臨床をする上で道しるべになってくれる本です。

後は、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。

調剤に従事される薬剤師の方でしたら、私の編集した「漢方服薬指導ハンドブック」や本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご活用頂くという手もあります。

「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。

【サンプル有】漢方服薬指導ハンドブックのご紹介
「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース

また、漢方の勉強の仕方は、下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。

漢方の勉強方法
漢方の勉強方法について

以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

参考記事
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。

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