ポイント
この記事では、酸棗仁湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、酸棗仁湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、酸棗仁湯という漢方薬が出ています。このお薬は、身体が疲れて眠れない場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体の血液の巡りを良くして症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、酸棗仁湯という漢方薬が出ています。このお薬は、身体が非常に疲れた場合の不眠の場合によく使われるお薬です。
あまり使われる逆に惰眠と呼ばれる、寝すぎ症状にも使われる事もあります。今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体の血液の巡りを良くして症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ103番)
ツムラ酸棗仁湯(外部リンク)
酸棗仁湯についての漢方医学的説明
生薬構成
酸棗仁10、茯苓5、川芎3、知母3、甘草1
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「虚労(きょろう:疲れこんで気血が不足した状態)、虚煩(気血の不足で循環が止まり、余分な熱が発生して身体に熱を持つ)して眠ることを得ざる証」
条文(現代語訳)
「疲れこんで気血が不足し、身体(身体・精神共)に熱を持って眠れないもの。」
解説
今回は、酸棗仁湯の処方解説になります。この処方は、一般的に不眠症に使われています。
「不眠症と言えば酸棗仁湯」位の勢いですね。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、解りやすく書き換えますと「疲れこんで気血が不足する事で起こる不眠に使用する。」という事です。
疲れていたら普通は眠りますが、あまりにも疲れこんでいると逆に眠れなくなります。
目が冴えて眠れない、というご経験があると思います。
その様な時に使用を考える処方となります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
肝血と肝胆の気を補い守る:酸棗仁
回水:茯苓
血を走らせる:川芎
腎の陰虚火旺を治す:知母
諸薬の調和、緩和:甘草
の様になります。
酸棗仁は面白い生薬で、伝統的に不眠症には胆気の虚から来る為に炒って用い、逆に惰眠の場合は胆気の熱である場合が多い為に生で用いるとされています。
従って、酸棗仁湯には不眠の効もあれば、逆に惰眠(だみん:寝すぎ)への使用例も確認されます(吉益東洞の治験例、活用自在の処方解説P211)。
不眠・惰眠への効果は酸棗仁だけではなく、それらの気血を上焦に回すのがポイントになります。
言い方を変えますと「血が走っていない」訳ですので、血を走らせる川芎で血を走らせて上焦に到達させるという対応をしています。
茯苓は回水という効があります。これは、体内の水を循環させるという事で、川芎茯苓の組み合わせで血が全身を巡って、利水されて尿量が増えていきます。
また、知母という生薬は腎熱を去る効があり、これは腎から熱が昇って肺まで到達するもの(竜火「りゅうび」と言います。)を治します。
知母が入るものは、大体腎陰虚による腎熱があり、それが肺を焦がすという所見があり、麦門冬も同時に配合される事が多いです。
本処方は、肺熱にはならずに心熱として病態が現れていますので、結局の所、心の血虚を治す処方でもあると言えます。
簡単に表現しますと、酸棗仁湯という処方は、肝胆の気血を全身に巡らせて、心を中心とした上焦に溜まった邪熱を瀉す働きがあります。
所見としては、非常に忙しい日常を送っている方が不眠で眠れない、という条文そのままの使い方が適応されます。また、惰眠の場合も試してみても良い処方となります。
また、腎熱がありますので、足小陰腎経の然谷(ねんこく)を押さえると痛みが走ります。更に、身体が重だるく、一日中横になっていたいと訴える場合が多いです。
以上、まとめますと、酸棗仁湯は「非常に忙しい方が疲れこみ、身体が重だるく、不眠(又は惰眠)になっているもので、足小陰腎経の然谷(ねんこく)を押さえると痛むもの。」となります。
本処方は、脾虚や裏寒がある場合には使用不可となりますので注意が必要です。
鑑別
酸棗仁湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに帰脾湯、人参養栄湯、甘麦大棗湯、滋陰降火湯があります。それぞれについて解説していきます。
帰脾湯
酸棗仁湯と帰脾湯は、共に不眠に使用する処方であり、鑑別対象となります。
帰脾湯は、その構成生薬に四君子湯が丸々含まれ、身体の線が細くあまり食欲が無いのが特徴です。
脾虚の方は基本的に受け答えに覇気が無く声も小さいのが特徴となります。酸棗仁湯の場合、脾虚はありませんので、この点で鑑別が可能となります。
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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人参養栄湯
酸棗仁湯と人参養栄湯は、共に不眠に使用する処方であり、鑑別対象となります。
人参養栄湯は気血両補剤の一種であり、その処方中に桂枝を含みます。桂枝があるという事は、所見として逆上せがある事を示し、頬が桜色になります。
また、その処方中に血虚を治す四物湯由来の当帰、川芎、芍薬を含む為、肌の色艶が悪いのが特徴です。
酸棗仁湯にはその辺りの所見は有りませんので、その部分で鑑別が可能となります。
甘麦大棗湯
酸棗仁湯と甘麦大棗湯は、共に不眠に使用する処方であり、鑑別対象となります。
甘麦大棗湯は、条文にある通り、心霊の憑りついた様なヒステリー症状が出たり、不安が強い場合が多いです。大抵、泣き顔になります。
酸棗仁湯は、疲れこんでいるという事があり、逆にヒステリー症状や不安等はありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:72番】甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
滋陰降火湯
酸棗仁湯と滋陰降火湯は、共に腎熱による上焦の熱が存在する為、鑑別対象となります。
滋陰降火湯は、その処方中に麦門冬を含み、肺の燥熱があるのがポイントとなります。また、咳があったり皮膚の色艶が悪い等の血虚症状が出てきます。
酸棗仁湯は、その様な症状が無い代わりに、度を越えた疲労と不眠(惰眠)があるのが特徴となります。その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:93番】滋陰降火湯(じいんこうかとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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