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漢方の証決定や服薬指導で、陰陽学説をどうやって使うか解らない。本でもちょっとしか紹介されてないし、具体的な方法を教えて欲しい。
という疑問に沿って書いて行きます。
「名古屋漢方」のムセキです。
よく「この世の全ての事は陰陽で説明出来る。」と言われます。でも、具体的な例や、方法が詳しく書かれていない事が殆どです。
陰陽学説自体も、漢方の入門本の最初に2~3ページ書いてあるだけで、解ったような解らないような感じで終わっています(漢方は、この感覚がずっと続きます)。
本記事では、そんな陰陽学説を掘り下げ、臨床で使える様な状態まで整理してお話していきます。少しでもお役に立てれば幸いです。
この記事は以下の様な構成になっています。
漢方の中心は陰陽五行説ではない
陰陽という概念はペアで考える事
陰陽学説の具体的な使用法
基本は「巡らせる事で土台や軸をしっかりさせる」
最後に
陰陽学説の使い方が解ると、証決定で間違える事がかなり少なくなります。本記事で、その基本的な考え方を身につけて頂ければ幸いです。
どうぞご覧ください。
漢方の中心は陰陽五行説ではない
漢方の入門本は「陰陽」から始まっていますが、これが良くないと私は考えています。
漢方の中心となる概念は「道」です。これ全ての事象を同一に見る見方で、老子道徳経を読んで頂いて身につけるのが一番です。
本来なら、詳しくお話すべきだと思うのですが、記事題名とは異なってしまいますので、ここでは、簡単に「こんなものだ」というのを書き出してみます。
言葉では表現できない概念で、例えしか出来ないので申し訳ないのですが・・・。
道とは、
・全ての事柄の根底
・色々と物事が起こっている中にある静寂
・道=仏=悟り=愛=私=空=覚悟
・冷静
となります。曹洞宗の道元禅師が「全ては仏。星の瞬きと私たちの心の動きは同じもの」と述べられていますし、私もその通りだと思います。
般若心経の「色即是空」も確かにその通りですね。色々な人が色々な事を話されていますが、全て同じ事を言っています。
全ての事象を一つと見る見方、「存在」、そこに「在る」という事等、表現は違いますが、全て同じ事を言っています。
ちなみに、私自身はまだまだ道には程遠い位置に居ます。
少しずつ身につけていくものだと感じていますので、日進月歩、焦らずゆっくりと道を身につけたいと思っています。
道の説明はこれ位にして、早速、陰陽の話に入っていきます。
陰陽という概念はペアで考える事
道から陰陽に分かれると、どうしても両極端になります。明暗、上下、前後、左右等々・・・。
しかし、それは「片方があるからもう片方が存在出来る」という事です。言い方を変えますと、「ペアでしか存在出来ない」とも言えます。
現れ方に時間差があるものもありますので、見かけ上片方しか無い様に感じる場合もあります。
そんな時は、「反対もある」と思って頂ければ幸いです。プラスマイナスゼロと考えれば、心が冷静になってきます。
この考え方で生活をしますと、心の揺れが少なくなりますのでお勧めです。
また、「陰陽に分ける」という概念も、見方を変えますと「(物事を)陰陽の2つにまとめる」とも捉える事が出来ます。
ですので、曖昧なものを曖昧なままで処理するのに非常に都合の良い側面もあります。
陰陽は、どちらか片方が欠けると、もう片方も存在出来ない訳ですので、漢方治療では心身どちらも治療する必要があります。
漢方処方も、身体と精神の基本的にどちらにも効くもので、どちらか一方だけに働く事は無いという認識が大切です。
そうしますと、薬だけではなく、患者さんに話す言葉も大切という事が言えます。
陰陽学説の具体的な使用法
「2種類の陰陽」というのは、「動的陰陽」と「静的陰陽」です(私自身はこう呼んでいますが、一般的にはどう呼ばれているかは解りません)。
簡単にまとめますと、
動的陰陽:陽が下で陰が上に存在。主に内部系。外部系に逆らうように働く。例えば、頭寒足熱は、足が温まり頭部が冷めている状態。
静的陰陽:陽が上で陰が下に存在。主に外部系。自然の摂理に従う様に動く。例えば、冷え逆上せは、足が冷え頭部が熱く火照る状態。
となります。
身体の気血の巡りが正常に巡っているものが動的陰陽、何処かで滞りが起き、それが原因で気血の流れが止められますと静的陰陽の状態となります。
静的陰陽の場合、気血は物理法則に従って身体の上半身(横隔膜から上)に邪気としての気、下半身に水(湿邪、痰等)や血の毒(瘀血等)が溜まりやすくなります。
漢方治療というのは、「邪気が溜まる原因を取り除いて、気血を体中に巡らせる(回転させる)事。」と言え、気血の回転を活性化して、動的陰陽を止めない事が大事となってきます。
また、患者さんの心の動きから、処方が決まる場合もあります。
大雑把ですが、心の動きから証のグループ分けをしますと、以下の様になります(もちろん、他の所見も観て証を決めます)。
肝:「怒る」等は肝気の詰まりで柴胡や竜胆。自分の考えを曲げない、悪口を言う等も肝熱。
心:心気不足や押し込まれた場合にパニックや憂鬱な気分等。健忘、不眠等も。
脾:脾胃が詰まると「俺が俺が」と我が強くなる。相手に物を言わせず覆いかぶせる様に話す。厚朴剤の適応。肝熱と間違えやすいので注意(「思う」と「考える」の差)。愚痴っぽくなる場合はドロッとした湿邪等(麦芽、半夏等で処理。)
肺:悲しみのストレスを受けると、肺の呼吸のバランスが崩れ、泣きたくても泣けない状況になる(甘麦大棗湯で処理)。
腎:裏寒の場合は身体が重だるく、横になっていたい。
桂枝湯類:素直な方が多い
牡丹皮:心を瀉すので、所見としては心熱ぎみ(明るい言動、楽天的な言動)
当帰:心を補すので、所見としては心虚ぎみ(憂鬱、後ろ向きな言動)
その他:その処方に特有の精神状態になる場合もありますので、その辺りは個別で処方を覚える
精神状態(陽)から身体(陰)の方を眺めた視点から見ると、この様な感じでざっくりと分類できます。
他にも、身体の中心を陰、外部を陽と言ったり、身体の腹部側を陽、背部を陰としたり、身体の六病位での定義に使われたりと、色々な所で陰陽という言葉が出てきます。
それらの「陰陽が何を指しているか?」という事を場面場面で選びながら証決定する事が大事になってきます
最後に、身体の上下での陰陽の移り変わりを見ていきます。
ご存じの通り、先天の精が少なくなりますと老化という現象が起こります。そうしますと、主に下半身が弱ってきます(腎虚=陰の弱り)。
人間として生きていく間、ずっと腎は損耗していく事になりますので、証を決定する場合は腎に対する作用も見る必要があります。
これは、「身体を気血が巡って、最終的に腎を補う」という事を示しています。
どんな処方を使うにしろ、最終的に腎(陰)を補う様に使うというのを忘れないようにします。気血が巡ると、自然と腎精は補われます。
基本は「巡らせる事で土台や軸をしっかりさせる」
前の見出しの最後でも少し触れました通り、漢方で治療を行う上で絶対に忘れてはならないのは「腎を補う」という事です。
これは、物事の始まりは陰から始まり陰で終わるという事を暗に示しています。
どういうことかと言いますと、季節の始まりは冬から始まり冬で終わる、一日の始まりは夜から始まり夜で終わる、という事と同じ様に、人の一生も何もない所から生まれ、また散っていくという事です。
人の生を繋ぎとめるには錨(いかり=陰)が必要で、この錨の役割を果たしているものが身体であり、その中心的役割を果たすのが腎となります。
ここで、腎と言うと「心じゃないのか?」と思われるかもしれません。
心はエネルギーを出す為に絶えず動き続ける臓器ですが、動き続ける為には心をはじめとする組織が正常である事が必要です。
その組織自体を構成する大本が腎であると言えます。この腎を少しでも長く持たせる事こそが漢方治療の最重要課題になります。
ある証があるとして、その証にあう漢方処方を選んで服用しますと、経の流れが改善します。
経の巡りが改善したという事自体、腎を補うという事に繋がりますので、大きな意味では漢方処方全てが腎を補う処方という事も出来ます。
この腎を補うという事は、その管轄下である骨や下半身を補う事です。
老化が進みますと、足腰が弱くなり歩くスピードも遅くなります(最近流行りの言葉で言いますと「フレイル」ですね)。
漢方という医学は、腎(陰)を補う事で、これを何とかして遅らせようとして処方を使います。
最後に
陰陽学説を臨床に使用する方法について、重要な部分だけを抜き出してダイジェストでお届けしました。
もし、陰陽学説を詳しく勉強しようとするなら、老子道徳経をお勧めします。
老子道徳経は「難解な書物」とされていて、敷居が高い様に思われるかもしれませんが、私の感覚では「きちんと読めれば楽」という印象です。
少しでも無理な意味で取ると途端に読めなくなりますので、逆に言いますと親切な書物でもあります。
漢方を勉強されている方には是非是非挑戦して頂きたいと思います。
私のお勧めは加島祥造先生のタオ―老子です。日本語訳と原文と、英訳が載っているので解りやすいです。
慣れてきたら、加島先生訳だけでなく、色々な訳本を読んだり一から自分で原文を訳してみると良いでしょう。
以上、少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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