*ここでは、私が前に居た薬局を去る際、後任の薬剤師の為に書いた漢方の資料を多少加筆して掲載しています。稚拙な文章ですが、笑ってご容赦頂きますようお願い申し上げます。また、少しでもご参考にして頂ければ幸いです。
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五臓六腑概論
漢方医学では、体内の臓器を五臓六腑に分類しています。
五臓とは「肝、心(心包)、脾、肺、腎」であり、また、六腑は「胆、小腸、胃、大腸、膀胱、三焦」です。五臓と六腑で数が一つ違いますが、心の働きは(心は君主であるので)心包が代わりに行っていると考え、それを一つ加えてバランスを取っています。
一般的に病邪が腑にある時、中空の臓器であるが故に有余と考え「実証」とみなし、病邪が臓にある時、中身が詰まっているが故に不足と考えて「虚証」とみなします(腑は中が空なのが正常、蔵は中が詰まっているのが正常)。
現実的には、臓腑に寒熱虚実が入り乱れて居る場合が殆どです。五臓六腑と六病位、経絡はそれぞれ割り当てられています。
太陽病:足太陽膀胱経(膀胱)、手太陽小腸経(小腸)
陽明病:足陽明胃経(胃)、手陽明大腸経(大腸)
少陽病:足少陽胆経(胆)、手少陽三焦経(三焦)
太陰病:足太陰脾経(脾)、手太陰肺経(肺)
少陰病:足少陰腎経(腎)、手少陰心経(心)
厥陰病:足厥陰肝経(肝)、手厥陰心包経(心包)
奇恒の腑概論
奇恒の腑とは「脳・髄・骨・脈・胆・女子胞(子宮)」を指します。
「奇恒」とは、「普通でない」という意味で、生理機能が五臓六腑と異なり、関連の深い臓腑は存在しますが、通常の臓と腑にみられる表裏の関係がありません。
形は奇恒の腑の多くは中空ですが、飲食、水穀を伝導変化させず、物質の運化に直接に関与しません。
また、生理機能は陰精を貯蔵・蓄積することで、胆のほかは排出しない為に機能的に五臓と似ていますが、その機能は単純であり五臓とも異なっている。
「五臓六腑と似てはいるが、そのどちらでもない」という特殊なものを指して奇恒の腑と命名されています。
五臓各論「肝」
肝は、以下の事柄と関係が深いとされています。
木・・・五行では木。木に関連する事象は、肝と関係が深いと言えます。
春・・・肝は春に旺します。肝の病は春に起こりやすく、一年の毒が表面に浮き出る時期になります。
東・・・肝は東に関連が深いとされています。
胆・・・肝と胆は関連が深いとされています。肝は謀慮を主り、胆は決断を主ります。
魂・・・肝は魂を蔵します。
爪・・・肝の病証は爪に現れやすいです。
筋・・・肝は筋を主るとされています。筋肉の痙攣やこむら返り等は、肝の病症である場合が多いです。
目・・・肝は目を主るとされています。目の病変は肝に関わる事が多いです。
涙・・・涙は目から出、情動の変動に影響を受けやすい為、肝に深く関わります。
怒・・・肝は怒りの臓器であり、怒りがあると肝が熱します。
将軍の官・・・肝は「将軍の官」と呼ばれ、思考、謀慮を主ります。
蔵血・・・肝は血を蔵し、必要に応じて出し入れしています。
情動・・・肝は情動の臓です。色々な欲求の根本となります。
疎泄・・・肝は疎泄を主ります。疎泄というのは気血水の流れであり、肝はその調節をしています。
解毒・・・肝は毒を分解します。毒というのは物質だけではなくストレスも指します。
酸味・・・酸味は、肝の疎泄や解毒を助けます。
疲労・・・肝の機能異常により疲労が起こりやすくなります。
謀慮・・・肝は将軍の官と言われ、色々と計画を立てる時に働きます。
肝に関係する代表的な病症は以下のようなものがあります。
裏虚・・・動きすぎ頑張りすぎで、肝陰が不足して虚労となっている状態。芍薬の入った建中湯類を使用します。腹直筋の緊張があり、手掌発汗や逆上せを呈します。
肝熱・・・肝にストレスがかかっている状態。イライラなどの症状を呈す。柴胡剤等を使用します。胸脇苦満を呈します。
肝風・・・肝熱により起こる痙攣。釣藤鈎を使用する事が多いです。筋肉の攣縮や頭痛、めまいなどを呈します。
瘀血・・・血の病症は肝に関係するものが多いです。駆瘀血剤で処理を行います。
上熱下寒・・・陰陽が離れ離れになっている状態。肝の力不足により起こる事もあります。
五臓各論「心(心包)」
心は、以下の事柄と関係が深いとされています。
火(君火)・・・五行では火に入ります。火に関連する事象は、心と関係が深いと言えます。心包は同じ火を当てるが相火となります。
夏・・・心は夏に旺します。心の病は夏に起こりやすく、心肺に熱が溜まりやすくなります。
南・・・心は南に関連が深いとされています。
小腸・・・心と小腸は関連が深いとされています。
心包・・・通常、心は君主の官であるので、代わりに心包がその作業を行っています。
神・・・心は神を蔵し、高次精神機能や五臓六腑を統率します。
君主の官・・・心臓は「君主の官」と言われ、王様の役割を持ちます。
血脈・・・心は血脉を主ります。脉は心が作り出しています(心が止まると脉は発生しません)。
舌・・・心は舌を主ります。心の病変は舌の症状(味覚鈍麻、舌痛等)に現れる事が多いです。
汗・・・心の液は汗になります。
喜・・・心は喜びの臓器です。心が虚すと喜びにくくなり、逆に実すると笑いが止まらなくなります。
造血・・・心は血を作ります。
生命の本・・・心は生命の本です。病邪が心に至ると治りません。
苦味・・・苦味は心の熱をそらし、その機能を助けます。
心に関係する代表的な病症は以下のようなものがあります。生きている間は心が虚すことは無く、心に至る前に心包で食い止められています。
心気虚(甘麦大棗湯証)・・・心気が虚し、不安症状や緊張を呈します。甘麦大棗湯を使う状態。心配が多い時になりやすい病態です。精神的ストレスが一気にかかって不安になっている状態。
心気虚・・・心気が虚し、心気が不安定になり不眠や健忘、精神不安を呈します。帰脾湯、人参養栄湯等を使う状態。この状態の時の心気不足は脾虚が原因になります。
心熱・・・心に熱が溜まっている状態。程度により麦門冬処方、芩連剤、梔子剤等が使われます。顔が全体的に赤黒く、イライラした精神状態を呈する事が多いです。
五臓各論「脾」
脾は、以下の事柄と関係が深いとされています。
土・・・五行では土に入ります。土に関連する事象は、脾と関係が深くなります。
土用・・・脾は土用に旺します。土用は年4回あり、それぞれの季節の境に現れます。土用の時は脾が旺し、食欲の異常が起き易くなります。
中央・・・脾は中央に関連が深いとされています。
胃・・・脾と胃は関連が深くなります。脾胃という一つの単位として語られる事が多いです。
意・・・脾は意を蔵します。
肌肉・・・脾は肌肉を主ります。肌肉というのは、腱以外の肉の部分、皮膚の下の肉の平滑筋等の部分です。
口・・・脾は口を主ります。口や、口の周りの病変は脾胃の弱りを示します。
涎・・・涎は口から出、食欲が増すと増える所から、涎は脾に深い関連があるとされています。唾と涎は両者とも唾液ですが、よだれは無意識に口の外に垂れるものを指します。
思・・・脾は思という感情を主ります(思い浮かべる、等)。
統血・・・脾は血を統べ、栄気を脈に送り込むことで脈外に血が漏れ出るのを防いでいます。
甘味・・・甘味は脾を助けます。
後天の本(創稟の官)・・・脾は後天の本と呼ばれ、食物を腐熟して消化して、エネルギーを全身に出します。
脾に関係する代表的な病症は以下のようなものがあります。
脾陽虚・・・脾が冷えて動かなくなっている状態。人参湯等を使用します。
気虚・・・脾の機能自体が落ち込んで、全身に気力が回っていかない状態。湿が存在する場合もあります。四君子湯等を使います。
裏虚・・・虚労となり全身の栄養が不足している状態。脾に陰を補う事で、気血を全身に送り届けます。建中湯類を使います。
脾虚・・・気虚を含む広範な脾の機能不足を指す事が多くあります。四君子湯をベースとした様々な方剤(啓脾湯、補中益気湯、帰脾湯、等)を使用します。
五臓各論「肺」
肺は、以下の事柄と関係が深いとされています。
金・・・五行では金に入ります。金に関連する事象は、肺と関係が深いとされています。
秋・・・肺は秋に旺すします。秋は冬に向かって物事を粛殺し、物事を内なる方向に向かわせます。身体においても、徐々に冬の準備を行うようになります。
西・・・肺は西に関連が深いとされています。
大腸・・・肺と大腸は関連が深い部位です。外界との折衝を行っています。
魄・・・肺は魄を蔵します。魄というのは形気であり、身体を形作ります。また、自律神経系や癖等も魄が主ります。
肌・・・肺は肌を主ります。肌というのは、外界と身体内部の接点であり、空気(外界)の出し入れを行う肺や、便を外界に出す大腸と関連が深いとされています。
鼻・・・肺は鼻を主ります。鼻水や鼻詰まりは肺に異常がある事を示しています。
鼻水・・・鼻水は鼻から出るので、肺に関連します。
憂(悲)・・・肺は憂の臓器です。肺の臓が失調すると、悲しみを帯びます。
宣発粛降・・・宣発は「広く行き渡らせる、発散させる」という意味、粛降は「静粛、粛正、きれいにする、下降する」という意味を持ちます。肺は、いらない物を外部に捨て去り、また、下の方向(下部組織)への循環を主ります。
通調水道・・・水の流れの調節を行っています
気を主る・・・気の流れを統率します(呼吸など)
相傅の官・・・「相傅(そうふ)の官」とは宰相という意味で、君主を助けて主に自律神経系の調節を行います
肺に関係する代表的な病症は以下のようなものがあります。
肺気虚・・・肺気が虚す状態。呼吸が苦しくなったり、声が弱くなったりします。気虚を併発する場合が多い病態です。脾胃剤を用いる事もあり、また、柴胡剤や気血両補剤で改善する場合もあります。
肺陰虚(肺燥)・・・肺の陰(潤い)が不足する状態。皮膚の乾燥、喉の乾燥や空咳などが起こります。麦門冬処方を使用する場合が多い病態です。
肺熱・・・肺に熱が溜まっている状態。心由来の熱もあれば、夏の暑邪によるもの、腎熱によるものがあります。肺燥と併発する事が多く、麦門冬処方がよく使われます。
肺の水毒・・・肺の水毒は、主に脾胃の水滞や気虚由来のものと、腎虚や裏寒によるものがあります。また、湿邪由来によるもの等も存在します。脾胃剤、建中湯、麦門冬処方、温裏剤、補腎剤、気血両補剤等、原因により様々な処方が使われます。また、肺気を補う事で粛降作用が働き、皮膚表面の水毒を逐うこともあります(黄耆剤を使用)。
五臓各論「腎」
腎は、以下の事柄と関係が深いとされています。
水・・・五行では水に入る。水に関連する事象は、腎と関係が深いとされています。
冬・・・腎は冬に影響を受ける。腎の病証は基本的に虚証となり、冬はその寒さや冷えにより腎が痛みやすくなります。
北・・・北は腎に関連が深いとされています。
膀胱・・・腎と膀胱は関連が深い。太陽膀胱経の異常は腎が関与している場合が多いです。
志・・・腎は志を蔵します。志というのは、希望や目標の意ではなく、物事の奥深くを見通すという意になります。
骨・・・腎は身体の中心である骨(髄)と強い関連を持ちます。
脳・・・「脳は髄の海」と言われ、骨と同じく腎と強い関連を持ちます。
二陰・・・「腎は二陰に開竅する」と言われ、二陰に強い関連を持ちます。二陰とは、尿道(前陰)と肛門(後陰)です。
耳・・・腎と耳は関連が深く、腎を病むと耳の聞こえが悪くなります。
唾(つばき)・・・腎の液は唾である。唾と涎は両者とも唾液だが、よだれは無意識に口の外に垂れるものを指します。
鹹(かん)味・・・出汁の味であり、髄の味である。腎を補い。簡単に言いますと出汁の味になります。
生殖・・・腎は精(先天の精)を蔵し、生殖に強く関与します。
老化・・・腎は精(先天の精)を蔵し、老化に強く関与します。
恐・・・腎は恐の臓器である。恐がるという感情は腎と強い関連を持ちます。
冷え・・・腎が弱ると身体が冷えてきます(裏寒)
作強の官・・・腎は「作強(さっきょう)の官」と呼ばれ強い力を出す元と言われます
納気・・・腎は納気を主る。納気とは、元気を溜めるという事です。
吸気・・・呼吸は肺が主っていますが、吸気は腎の関与が大きいとされています。。腎がしっかりしていると、息を深く吸うことが出来ます。
髪・・・腎は髪に深く関与します
腰、膝・・・腎は腰、膝をはじめ、下半身全般の異常に関与します。
腎に関係する代表的な病症は以下のようなものがあります。
腎陽虚・・・裏寒というショック状態の事。新陳代謝が沈衰し、内臓の機能低下を起こしている状態。隠れた裏寒は現代人に非常に多いといえます。真武湯、茯苓四逆湯類等を用います。
腎虚・・・腎陰・腎精の不足。先天の精の枯渇です。老化とともに腎が衰え、下半身が弱くなります。八味地黄丸、六味地黄丸、大防風湯等を用います。
腎熱・・・腎陰の不足に伴って、陰陽のバランスが崩れ、熱を持つ状態。熱は上に昇るので、肺が焼けることが多いです。滋陰降火湯等を用いる。
六腑各論「胆」
木・・・五行では木に配当されます。
肝・・・胆は五臓では肝と関連が深いとされています。
中正の官・・・胆は「中正(ちゅうせい)の官」と言われ、決断を主ります
胆・・・胆汁を蔵します。
奇恒の腑・・・胆は奇恒の腑の一つでもあります。
六腑各論「小腸」
火(君火)・・・五行では火(君火)に配当されます。
心・・・小腸は五臓では心と関連が深いとされています。
受盛の官・・・小腸は「受盛(じゅせい)の官」と呼ばれ、胃から送られてきた糟粕(消化された食べ物)を受け取り、さらに消化して清(栄養)と濁(残りカス)に分け、清は全身へ送り、濁ったものは水分と固形分に分けられ、水分は膀胱へ、固形物は大腸へ送られます。
六腑各論「胃」
土・・・五行では土に配当されます。
脾・・・小腸は五臓では脾と関連が深いとされています。
創稟の官・水穀の海・・・胃は「創稟(そうりん)の官」「水穀の海」と呼ばれ、飲食物(水穀)は胃に入り(受納)、脾の力で助けられながら胃の消化作用(腐熟)を経て、小腸に送られます。
通降・・・胃は通降を主り、飲食物を下へ降ろす状態が正常です。糟粕を小腸・大腸に送り、新たな飲食物を受納します。
六腑各論「大腸」
金・・・五行では金に配当されます。
肺・・・大腸は五臓では肺と関連が深いとされています。
伝化・・・糟粕の伝化(下に伝える)を主り、大便を肛門から排泄します。
伝導の官・・・大腸は「伝導の官」と呼ばれ、伝導(便を出す、物事の伝導)、変化(糟粕を便に変える)を主ります。
六腑各論「膀胱」
水・・・五行では水に配当されます。
腎・・・膀胱は五臓では腎と関連が深いとされています。
州都の官・・・膀胱は「州都(しゅうと)の官」と呼ばれ、尿を溜めて排尿を行う。州都とは水が集まる所です。
気化・・・膀胱は気化を主ると言われています。一般的には気化とは液体から気体に変わることを指しますが、漢方では逆に気体から液体への変化を指します。
六腑各論「三焦」
火・・五行では火(相火)に配当されます。
心包・・・三焦は五臓では心包と関連が深いとされています。
決涜の官・・・三焦は「決涜(けっとく)の官」と呼ばれ、全身の気水を統括して、気が昇降出入する通路です。また、体温調節作用、気血津液の調整作用、輸瀉作用の三つを主に行います。決涜とは、水道を流通させるという意味である。
上焦・・・上焦は横隔膜より上部を指し、清気を取り入れ血と共に全身に巡らせます。また衛気・津液を全身の皮膚に巡らせ皮膚に潤いを与えて、体温調節を行います。臓腑において心、肺と関係深い部位になります。
中焦・・・中焦は横隔膜から臍までを指し、働きは消化・吸収を行い、そこから生じる精気を、営気と血とし、経絡を介して全身に巡らせます。臓腑において脾、胃、肝、胆と関係深い部位です。
下焦・・・下焦は臍から下部を指します。働きは消化した糟粕を大便、水分を尿として排出します。臓腑において腎、膀胱、小腸、大腸と関係深い部位です。
奇恒の腑各論「脳」
「髄之海」「精明之腑」・・・脳は「髄之海」「精明之腑」と呼ばれ、高度な神経活動はすべて脳の働きに属し、心・肝・腎などの機能が統合されています。
奇恒の腑各論「髄」
腎は髄を生ず・・・主に脊髄を指しますが、骨髄も含められた概念です。腎が蔵する気(精)が変化して出来、「腎は髄を生ず」と言われています。髄の海は脳になります。
奇恒の腑各論「骨」
骨・・・骨は髄の腑です。よって、腎と非常に関連が深い部位になります。骨は身体を支えるものであり、腎気と肺気両方の作用が顕著に出ます。また、歯は骨の余りであり、身体の上部にある為肺気を強く受けて白色となっています。また、骨が単体では白いのも、生気が抜けて魄のみとなった為に白くなると考えられています。
奇恒の腑各論「脈」
経絡・・・代表的な脈(経脈、絡脈)を合わせて経絡と呼びます。気血水の通り道と言われています。発展して経絡学説が成り立っています。
奇恒の腑各論「胆」
胆・・・胆は六腑に入れられていますが、排泄する液は「糟粕」ではなく「清浄の液」であり、一般的な腑とは異なることより、「奇恒の腑」にも属すとされています。肝は蔵血し、胆は疎泄します。
奇恒の腑各論「女子胞(子宮)」
女子胞(子宮)・・・女性の内性器を包括して言います。月経、受胎、妊娠の機能を持ち、衝脈と任脈の始まるところで心・脾・肝・腎と密接な関係があります。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。 続きを見る
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