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過去漢方資料(理論)

漢方の基礎(季節と漢方:概論・春・夏)

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*ここでは、私が前に居た薬局を去る際、後任の薬剤師の為に書いた漢方の資料を多少加筆して掲載しています。稚拙な文章ですが、笑ってご容赦頂きますようお願い申し上げます。また、少しでもご参考にして頂ければ幸いです。

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季節と漢方概論

ムセキ
季節の流れに人間の身体は大きな影響を受けます。

人間は自然の中で生きていますので、季節と共に漢方を変えていく必要があります。現実的には、文明の発達や生活習慣の変化、地球環境の変化に伴って、その年その年で使用方剤は変化しますが、平均的な移り変わりは以下のようになります。

季節と漢方各論「通年」

ムセキ
冷蔵庫やエアコンは、過去に無い病態を生み出しました。

一年通して使用される方剤は、温裏剤(茯苓四逆湯、真武湯、四逆加人参湯等)、脾胃剤(四君子湯、六君子湯等)、気血両補剤(人参養栄湯、大防風湯、十全大補湯等)、建中湯類(小建中湯、黄耆建中湯、当帰建中湯、帰耆建中湯等)、利水剤(防已黄耆湯、桂枝加朮附湯、苓姜朮甘湯、真武湯等)、桂枝湯類(苓桂朮甘湯、苓桂甘棗湯、桂枝加附子湯等)があり、体調の良い方は腎虚の方剤(八味丸、牛車腎気丸等)が使われます。特に、生活環境や社会情勢、自然環境の変化に伴い、身体の冷えが出やすくなっている為、温裏剤は多用されます。また、隠れた裏寒を治すことが出来る為、温裏剤は他薬と合方する事が多くなります。
他にも、社会情勢の不安定や先行き不透明等による不安が大きいので、一年を通して心気虚の方剤(甘麦大棗湯、帰脾湯、人参養栄湯等)の場も多く存在します。

季節と漢方各論「春(立春~春分前:春の基本処方)」

ムセキ
気が最も上りやすい時期です。

春は肝が旺する時期であるので、肝に関する病が起き易くなります。また、草花が芽吹き、成長し始める時期でもあります。春の成長する力はとても強く、それは陰から陽に転化する力でもある為、人体においても気が上に衝き上がり易くなります。
以上より、春の時期は身体の内部に溜まっていた毒が前面に出てきやすくなり、ストレスが溜まり易く、イライラや火照り、頭痛やふらつき、ボーッとする等の症状が出易くなります。この状態の時は、柴胡剤(加味帰脾湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、加味逍遥散、滋陰至宝湯、竹筎温胆湯等)に代表される瀉剤の適応になる事が多くあります。状態によっては、動きすぎで虚労を引き起こしていたり、脾胃の弱りや冬の養生不足で冷えが肝に入り、上熱下寒を呈する事もあります。前者の場合は肝陰虚の処方である建中湯類が使われ、後者の場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯等が使われます。
また、風邪(ウィルス、花粉症等)の侵襲を受けやすい為、風邪を処理する解表剤(香蘇散、参蘇飲、麻黄湯他)、桂枝湯類、胃腸虚弱タイプには湿を除く脾胃剤(六君子湯、香砂六君子湯加減)や食べ過ぎタイプには胃のつまりを取る厚朴剤(茯苓飲合半夏厚朴湯等、正理湯)が使われます。春の日差しがきつく、体内に熱を持ちやすいので麦門冬処方(清暑益気湯、炙甘草湯、竹筎温胆湯等)も使われる事があります。

季節と漢方各論「春(春分前後)」

ムセキ
毒取りの漢方が出しやすい時期です。

春分前後は、春の基本処方と同じ処方が多いのですが、身体が安定して毒が前面に出てくる頻度が増える為、強めの瀉剤(柴胡清肝湯、竜胆瀉肝湯、加味逍遥散、滋陰至宝湯、大紫胡湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、梔子柏皮湯、辛夷清肺湯、他)を使い易い時期でもあります。

季節と漢方各論「春(春分~春の土用前)」

ムセキ
疲れが出る事もあるので、虚労の方剤も考える必要があります。

春分から春の土用前の漢方は、基本的には立春~春分の処方と代わり無いと言えますが、気温も上がり、上焦に熱を持ちやすくなるので、麦門冬処方等で上焦を冷ます方剤が必要になる事があります。また、春の気から土用~夏の気に移り始めている為、建中湯類や気血両補剤も使用する機会が増えます。

季節と漢方各論「春(春の土用)」

ムセキ
この辺りまでは柴胡剤が適応する事が多い印象です。

春の時期は肝が旺する時期なので、脾胃が弱り易くなります。しかし、土用の時期は脾胃の時期であるので、脾胃剤を使用する機会が多くなります。柴胡剤でも補中益気湯や加味帰脾湯、柴胡剤手前の十全大補湯などが良いと思われます。また、夏の気も漂い始めているので、虚労の薬や気血両補剤の適応となる場合もあります。春の処方もまだ使う機会も多くあります。土用は脾胃が詰まり易く、逆に弱くなり易いので、胃の詰まりには厚朴剤、脾の弱り等には六君子湯などを中心として使用します。

季節と漢方各論「夏(立夏~夏至前:夏の基本処方)」

ムセキ
虚労、気血両虚、湿熱、肺燥の方剤がよく使われる印象です。

夏は一番身体が動く時期であり、動きすぎによる陰の消耗や冷え、脾胃の弱り、また、暑邪熱邪湿邪が多くなるので、湿熱や熱燥にも気を付ける必要があります。方剤としては、動きすぎによる虚労疲労には建中湯類や気血両補剤、熱燥がある場合には麦門冬処方、湿熱の場合は薏苡仁エキス散、清暑益気湯、清心蓮子飲、竜胆瀉肝湯等を使用する。脾虚の場合は、熱が溜まっている場合も多いので、軽く熱を取りながら脾胃を立て直す補中益気湯、清暑益気湯等がファーストチョイスとなります。冷飲冷食やクーラー、動きすぎによる脱気により裏寒を呈する事も多く、温裏剤の適応となる場も多くあります。
また、夏は食品の傷みも多いので、下痢嘔吐を伴う胃腸症状が出易い時期でもあります。その場合は人参湯、五苓散合人参湯、黄芩湯、真武湯、梔子柏皮湯等の場があります。

季節と漢方各論「夏(夏至前後)」

ムセキ
湿邪が非常に多くなるので、利湿の薬も考慮に入れます。

基本的には夏の基本処方と同じです。しかし、夏至前後は身体が安定するが、夏至の前と後で昇発と粛殺のバランスが逆転する為、夏至を境にして、陰を補う方向に処方を変化させる事もあります。また、夏至周辺は食あたりが多いので、五苓散等の場もあります。

季節と漢方各論「夏(夏至~夏の土用前)」

ムセキ
清心の剤(炙甘草湯、清心蓮子飲、清暑益気湯等)が適応しやすい時期です。

夏至から夏の土用までは、梅雨が終わり夏本番となる。基本的には夏の基本処方ですが、より暑邪熱邪に対応した薬が必要となります。麦門冬処方を中心に、虚労には建中湯類、気血両虚に気血両補剤等を用います。

季節と漢方各論「夏(夏の土用)」

ムセキ
ここでも清心の剤が適応になりますが、冷飲食が過ぎて裏寒に陥っている場合もあります。

大暑という時期であり、夏の暑さが一番酷くなります。夏の基本処方を中心として、清暑益気湯や清心蓮子飲等の麦門冬処方や湿熱の薬方や水の多飲による裏寒、水毒を去る温裏剤や利水剤の適応が多くなります。また、脾胃が詰まり易く、逆に弱くなり易いので、詰まりには厚朴剤、脾の弱り等には六君子湯などを中心として使用します。

以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

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