ポイント
この記事では、通導散についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、通導散についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、通導散という漢方薬が出ています。このお薬は、交通事故後のケアや瘀血と呼ばれる悪い血が溜まっている場合に使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は、胃腸を元気にして血流を良くしてくれますので、一度、試してみてください。便秘も改善しますよ。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、通導散という漢方薬が出ています。このお薬は、交通事故後のケアや瘀血と呼ばれる悪い血が溜まっている場合に使われるお薬です。
昔は百叩きの刑の後に、気が狂わない様に用いられていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。
このお薬は、胃の詰まりと悪い血を取って血流を良くしてくれますので、一度、試してみてください。便秘も改善しますので、お腹もスッキリします。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
偽アルドステロン症
肝機能異常
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢等)
添付文書(ツムラ105番)
ツムラ通導散(外部リンク)
通導散についての漢方医学的説明
生薬構成
枳実3、大黄3、当帰3、甘草2、紅花2、厚朴2、陳皮2、木通2、蘇木2、芒硝1
出典
万病回春
条文(書き下し)
「跌撲(てつぼく:打撲)傷損きわめて重く、大小便通ぜず、すなわち瘀血散ぜず、肚腹(とふく:下腹部)膨脹し、心腹を上り攻め、悶乱(もんらん:悶え乱れて)して死に至らんとする者を治す。先づこの薬を服し、死血、瘀血を打ち下し、然して後に方まさに補損薬を服すべし。」
条文(現代語訳)
「極めて酷い打撲後、大小便が通じないという事は瘀血が散っていないという事で、下腹部が張って、気が胸に突き上げて、苦しみ悶えて死にそうになっている者を治す。まずこ
の薬を服用し、瘀血を取り去った後、補剤を飲むように。」
解説
今日は、通導散についての解説になります。本処方は、一般的に生理不順や便秘、打撲等に使われています。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は、万病回春からの出典で、要約しますと「打撲後の瘀血で気が狂うもの」となります。
また、通導散の条文の親切な所は「通導散を飲んで瘀血を取ってから補剤を飲むように。」となっている部分です。
順番が逆になりますと気が余計に突きあがって悪化させてしかねません。この条文は、先に毒を取る重要性を教えてくれています。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
ポイント
胃の気を瀉す、健胃:枳実、厚朴、陳皮
補血:当帰
駆瘀血:蘇木、大黄、紅花
便を出す:大黄、芒硝
緩和、諸薬の調和:甘草
除湿熱:木通
の様になっています。
本処方は、大承気湯という処方の発展処方であり、大承気湯の構成生薬である厚朴、枳実、大黄、芒硝がそのまま配されています。
大承気湯に駆瘀血の生薬を中心に追加した処方とも取れます。
打撲というのはその患部が全身に及ぶ場合があり、その様な時に通導散が合う状態と言えます。具体的には、交通事故や地震、スポーツ等における全身の打ち身への使用が良いでしょう。
また、瘀血所見がありますので、唇が紫色や舌下静脈の怒張等が見られます。
本処方は、その構成生薬に厚朴を含むために食べ過ぎ傾向であり、雰囲気が非常に硬いという所見があります。
また、気が突きあがる様なものに使用しますので顔が赤黒くて、目が怒りで見開きぎみになります。
この様な通導散特有の所見は、一貫堂医学の「瘀血証体質」と呼ばれるものにもなります。
患者さんの中には、全身打撲に合う通導散証を平素から持っておられる方も見えますので、通導散は打撲等だけの処方では無い事を頭の隅に入れて置く必要があります。
以上まとめますと、通導散は「スポーツや事故、地震時の打撲により全身に瘀血を帯び、胃が硬く詰まって食べ過ぎ傾向となり、便秘となって気が付きあがっているもの。また、一貫堂医学の瘀血証体質の処方でもある。」となります。
応用で全身に散らばった癌に対して使用する場合もあります。癌細胞は瘀血ですので、その見立てでも会う場合があります(その他の所見も通導散である場合は問題ありません)。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
通導散と他処方との鑑別ですが、代表的なものに治打撲一方、平胃散、九味檳榔湯、大承気湯があります。それぞれについて解説していきます。
治打撲一方
通導散と治打撲一方は、共に打撲等の怪我に使用する処方であり、鑑別対象となります。
治打撲一方は、ある特定部分の打撲や捻挫があり、その部分に瘀血がある場合に使用します。通導散の様に、全身に瘀血が散らばっているという状態ではありません。
また、通導散には蘇木や紅花の様な少し古めの瘀血を取り去る生薬も含まれております。
ですので、打撲から時間が経ってからもある程度効果が期待できますが、治打撲一方は怪我をしてなるべく早めに服用した方がいい処方と言われております。
一番確実と言えるのは、治打撲一方には厚朴が含まれておりませんので、胃実の所見(食べ過ぎ、雰囲気が硬い)があるかどうかで鑑別する方法です。
通導散と治打撲一方はその辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:89番】治打撲一方(ぢだぼくいっぽう)の効果や副作用の解りやすい説明
平胃散
通導散と平胃散は、共に厚朴を含む処方であり、鑑別対象となります。
平胃散は、主に胃腸症状を訴える事が多く、通導散の様な瘀血所見(唇が紫色、舌下静脈の怒張)はありません。
気が通導散の様に突きあがっている事もありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:79番】平胃散(へいいさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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九味檳榔湯
通導散と九味檳榔湯は、共に厚朴を含む処方であり、鑑別対象となります。
九味檳榔湯は古来より脚気に使われて来た処方です。その効能は胃実を治す他に利水や駆瘀血等、通導散と似通った部分も多くあります。
通導散は、その処方構成が駆瘀血主体になっている事がポイントで、逆に九味檳榔湯は理気利水が主体となっています。
単にタイプ別の処方と言っても過言ではないので、厚朴剤の所見(食べ過ぎ、固い雰囲気、頑固、多弁等)を確認してからの鑑別になります。
通導散は瘀血所見(唇が紫色、舌下静脈の怒張、下腹部の張り、便秘等)が強く、九味檳榔湯は気鬱・胃部不快感等の症状がメインになります。
その辺りで鑑別が可能となります。
大承気湯
通導散と大承気湯は、共に厚朴を含む処方であり、鑑別対象となります。
大承気湯は通導散の元になった処方で、その基本的効能は通導散と同じです。これら2処方の違いは瘀血所見が有るか無いかになります。
ですので、キツい胃実(厚朴)所見があり、イライラして怒鳴り散らすような人で、瘀血所見の有る無しでの鑑別が良いでしょう。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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