ポイント
この記事では、当帰芍薬散加附子についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、当帰芍薬散加附子についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、当帰芍薬散加附子という漢方薬が出ています。このお薬は、婦人病と呼ばれる女性の血の道証や不調等に使われます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は身体を温めて血の流れを良くして体調を整えてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、当帰芍薬散加附子という漢方薬が出ています。このお薬は、婦人病と呼ばれる女性の血の道証や不調等に使われます。
有名な当帰芍薬散という漢方に、身体を温めて痛みを止める生薬が追加されたものになります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は身体を温めて余分な水を除き、血の流れを良くして体調を整えてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等)
その他(心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ等)
添付文書(三和29番)
三和当帰芍薬散加附子(外部リンク)
当帰芍薬散加附子についての漢方医学的説明
生薬構成
当帰3.0g、川芎3.0g、芍薬6.0g、茯苓4.5g、白朮4.5g、沢瀉3.5g、附子1.0g
出典
類聚方広義
条文(現代語訳)
「妊娠、産後にして、下痢腹痛し、小便不利、腰脚麻痺して力なく、あるいは眼目赤痛のもの。もし下痢止まず、悪寒するものは附子を加え~」
解説
今回は、当帰芍薬散加附子の処方解説になります。この処方は、一般的に女性の婦人病(血の道症)に使われています。血虚と呼ばれる血の不足に使用されている処方ですね。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、「産前産後で下痢腹痛し、尿が出ずに下半身に力が入らず目が赤い物。下痢止まらず悪寒する場合に附子を足す。」という事です。
前半の文章は当帰芍薬散のものになります。当帰芍薬散で下痢が治まらずに悪寒するものに、附子を加えるように指示した文章ですね。
この文章からは、下痢と悪寒を止める為に附子を加えていますので、温裏の作用を狙ったものと読み取れます。
ちなみに、この後も文章が続きますが、大黄を加味する条文になりますので割愛しました。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
補血、活血:当帰、川芎、芍薬
利水、益気:茯苓、白朮、沢瀉
温裏:附子
の様になります。附子以外は当帰芍薬散ですね。利水と補血の処方です。安胎薬として、婦人科でよく使われています。
この当帰芍薬散は、当帰による下痢を引き起こしやすいので注意が必要です。
「条文には下痢に使用する、となってますが・・・?」
と思われるかもしれません。実は、当帰芍薬散の副作用による下痢と、本処方の下痢はメカニズムが違います。
当帰芍薬散の下痢というのは、当帰や芍薬といった胃腸に重い生薬が入っている為、それによる障害の為下痢が起こります。
しかし、当帰芍薬散加附子で下痢が止まるというのは、冷えが原因であるものを附子で治すという理由になります。胃腸(脾)の障害か冷えか、という違いですね。
単に下痢しているというだけではその違いは解りませんので、他の所見から判断する必要があります。
食欲が無い場合に本処方を使いますと下痢しやすいですし、当帰芍薬散が適応する下痢というのは血が温まって全身を駆け巡る場合に効いてきます。
その効きが悪い場合に附子を使用する、というのが条文の主旨になります。
ですので、身体の冷えがあれば使っても大丈夫ですが、胃腸虚弱がある場合は使用は避けた方が良いでしょう。
本処方は、当帰芍薬散から出発していますので、その使用目標は当帰芍薬散と同じになります。
即ち、血虚で水滞のある女性の方ですね。血虚というのは全身の栄養不良があって、肌の色艶が悪いものになります。また、水滞があるので、少しフワッとした体つきの方になります。
これらの特徴から、一般的によく美人に使用する処方となっております。しかし、これは現代美人ではなくお多福顔の平安美人と呼ばれる、昔の美人さんの処方だという事です。
当帰芍薬散には胃腸の調子を考えた生薬が配されておりませんので、胃腸は丈夫であるという所が前提です。
現代の美人さんはほっそりとした胃腸が虚弱な方が多いので、当帰芍薬散は少し重たい処方となります。
当帰芍薬散の虚の処方に当帰建中湯というのがあり、それが現代の美人さんに使用する機会の多い処方となります。
以上まとめますと、当帰芍薬散加附子は「胃腸が丈夫な血虚で水滞のある女性で、全身の栄養不良があって、肌の色艶が悪いもののうち、冷えによる下痢や悪寒又はそれに付随する諸症状のあるものに使用する処方。」となります。
長いですので、簡単に「平安美人で冷えの強い方。」と覚えて頂ければ良いでしょう。
本処方は、裏寒や著しい脾虚がある場合には使用不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
当帰芍薬散加附子と他処方との鑑別ですが、代表的なものに当帰芍薬散、当帰建中湯、温経湯があります。それぞれについて解説していきます。
当帰芍薬散
当帰芍薬散加附子は当帰芍薬散の加味方であり、使用目標も似ている為鑑別対象となります。
元々、当帰芍薬散加附子の条文は前半部分が当帰芍薬散になります。ですので、冷えの程度で附子を加えるかどうか判断するのが妥当と考えられます。
また、冷えによる痛みの程度などでも鑑別のヒントになります。
【漢方:23番】当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)の効果や副作用の解りやすい説明
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当帰建中湯
当帰芍薬散加附子と当帰建中湯は、同じ血の道証で使用目標も似ている為鑑別対象となります。
当帰建中湯は、当帰芍薬散より疲れやすく、また、表証(頬が桜色、頭がボーッとする等の気の逆上せ)があります。
また、手の火照りや手掌発汗もあります。当帰芍薬散加附子にはその様な所見はありませんので、そこが鑑別ポイントとなります。
【漢方:123番】当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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温経湯
当帰芍薬散加附子と温経湯は、同じ血の道証で使用目標も似ている為鑑別対象となります。
温経湯は、牡丹皮が含まれる為駆瘀血効果があります。悪い血を除く効果ですね。また、麦門冬が入る為に唇がかさついています。
瘀血所見唇が紫、子宮筋腫等の訴え、舌下静脈の怒張があり、唇等の粘膜がかさつき喉の渇き等があれば温経湯証を疑います。
当帰芍薬散加附子にはその様な所見は無く、上の見出しにてご紹介した通り血虚と水滞があります。「平安美人で冷えの強い方。」を目標に使用すると良いでしょう。
【漢方:106番】温経湯(うんけいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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