ポイント
この記事では、芍薬甘草湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、芍薬甘草湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明&漢方医処方の場合の説明共通
今日は、芍薬甘草湯という漢方薬が出ています。一般的に、こむら返りや足が攣った時の薬として有名です。昔からその様な使い方をしていますね。
今日はどうされましたか?
〇〇ですね。先生は、このお薬がその症状に合うと判断されたようです。一度飲んでみて下さい。
このお薬ですが、足湯等して身体を温めると、効果が良くなりますので、
一度お試しください。また、食欲が無くなってくると効果が悪くなりますので、食生活等お気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
間質性肺炎
偽アルドステロン症
うっ血性心不全、心室細動、心室頻拍
肝機能障害、黄疸
過敏症(発疹 発赤、そう痒等)
肝機能異常
消化器(悪心、嘔吐、下痢等)
その他(低カリウム血症、浮腫、高血圧、動悸)
冷え
添付文書(ツムラ68番)
ツムラ芍薬甘草湯(外部リンク)
芍薬甘草湯についての漢方医学的説明
生薬構成
芍薬6、甘草6
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「傷寒脈浮に、自汗出て、小便数に、心煩し、微悪寒し、足攣急(あしれんきゅう)するに、反(かえ)って桂枝湯を与え、その表を攻めんと欲するは、これ誤りなり。これを得てすなわち厥(けっ)し、咽中渇き、煩燥し、吐逆する者は、甘草乾姜湯を作りてこれを与え、もってその陽を複す。もし厥(けつ)癒え、足温まる者は、更に芍薬甘草湯を作りてこれを与うれば、その脚即ち伸(の)ぶ。」
条文(現代語訳)
「寒邪を受け、脈が浮き、発汗し、小便が何度も行きたくなり、胸苦しくなり、微悪寒し、足が痙攣(こむら返り)する時、間違って桂枝湯を与え、その表を攻めんと思うのは、誤りです。これが原因で四逆の状態になり、咽中渇き、煩燥し、吐逆する者は、甘草乾姜湯を作りてこれを与え、もってその陽を複す。もし厥(けつ)癒え、足温まる者は、更に芍薬甘草湯を
作ってこれを与えれば、その脚すぐに伸びます。」
解説
今回は芍薬甘草湯の解説になります。本処方は、一般的にもこむら返りや足の痙攣によく使われています。
しかし、正確な使われ方をしている処方を私は殆ど見た事がありません。その辺りにも触れながら、お話していきます。
最初に条文ですが、張仲景先生としては珍しく長文となっています。逆に言いますと、それだけ使用制限のある処方であるとも捉えることができます。
条文の内容は、「脈浮、発汗があり少便数、心煩、微悪寒、足が痙攣するものに間違って桂枝湯を飲ませた。それで上熱下寒になったものは甘草乾姜湯で身体を温めて、芍薬甘草湯を飲ませれば治る。」となります。
ポイントは条文の「厥」で、これは裏寒外熱(りかんがいねつ:内部が冷えて外部が熱い状態)の四逆(しぎゃく)という状態を指します。
この状態になりますと、手足が冷えて上半身がのぼせてきます。
これは、俗にいう冷えのぼせ状態です。ですので、この状態に対する治療としては「温補」が最も適当になります。とにかく身体の中心を温める事が治療になります。
「その治療が終わって、まだ足の痙攣が残るようなら芍薬甘草湯を飲ませよ。」と条文には書いてある訳です。
つまり、芍薬甘草湯の使用には体の芯が温まっている事が必要であり、現代では忘れ去られた条件であると言えます。
ここで、桂枝湯が何故「自汗出て、小便数に、心煩し、微悪寒し、足攣急」には使ってはいけないのかをお話しします。
この状態は、桂枝湯の使用条件「脈浮、自汗、悪寒、悪風(おふう:風に当たるのを嫌がる)、発熱、鼻鳴、乾嘔」と似ています。
しかし、「小便数、心煩、足攣急」はありません。
この部分は、甘草乾姜湯で治る所から「身体の内部が冷えて」という条件において、「トイレが近くなり、胸苦しくなり、足が攣る」訳です。
芍薬甘草湯で肝陰を補う前に、身体を温める事が必要になります。
ここで桂枝湯を与えますと、桂枝の作用で身体の内部ではなく体表が温まります。言い換えますと、桂枝の作用が身体の内部の気(熱)を利用して体表を温めているという事です。
ですので、逆に身体の内部は「桂枝湯にて冷えてしまう」という現象が起きてきます。この状態は、日常で見ないように思われるかもしれませんが、実はよく目にしています。
桂枝湯という処方の効果は、運動等で走っている時と同じ様な状態に身体を持っていって風邪を治します。汗を出して治してしまうという訳です。
逆に言いますと、「マラソンや駅伝で足が攣った。」という現象は、「体表を温める内部(裏)の気が虚した、甘草乾姜湯証と同じ状態。」とも言えます。
「走って身体が温まっているはずなのに、身体が冷えてくる。」という一見矛盾した状態がみられるのはこの為です。
これは裏寒であり、身体の内部が冷えきってしまっている状態になります。マラソン中の足の攣りも裏寒が原因ですので、この場合は甘草乾姜湯で身体を温めるのが治療になります。
そして、それでも痙攣が残るようなら「芍薬甘草湯で肝陰を補うように。」という指示になっています。あくまで芍薬甘草湯は二番手という認識が大事になります。
現代的な使い方ですと、足湯やレッグウォーマーでも良いのでまずは身体を温める事を念頭に置いて、それから芍薬甘草湯を使用する事をお勧めします。
ですので、もし芍薬甘草湯の効果が悪いようなら、身体を温めてみると良いでしょう。
また、芍薬甘草湯は脾虚の場合にも不適です。条文にはありませんが、芍薬という生薬は脾胃の調子を崩す場合があります。
ですので、脾虚の処方(補中益気湯、六君子湯、四君子湯等)には芍薬は含まれていません。
蛇足になりますが、小柴胡湯には芍薬が含まれず、大柴胡湯には芍薬が含まれるのも同じ理由になります。
以上より、芍薬甘草湯を痙攣に使う場合は、最低限、
①身体を温める
②脾虚の場合は不可
の2点に注意して使用する事が大切です。
最後に、長期使用の場合の注意点をお話します。長期使用の場合は、ご存じの通り偽アルドステロン症の確率が上がります。
また、芍薬の補陰作用で脾虚や裏寒になりやすくなりますので、浮腫みや血圧、食事やだるさ等、体調のチェックに気を付ける必要があります。
本来なら長期使用はしない処方ですので、頓服での使用が望ましいと言えます。
鑑別
芍薬甘草湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに桂枝湯、真武湯があります。それぞれの処方について、解説していきます。
桂枝湯
解説の所の繰り返しになりますが、芍薬甘草湯を使う前には、桂枝湯ではなく甘草乾姜湯を使用して身体を温める事が重要です。
そして、身体内部の冷えである裏寒を治してから芍薬甘草湯を使用します。
桂枝湯の場合は足の痙攣や尿が近いという症状は起こりませんので、その部分で鑑別が可能となります。
【漢方:45番】桂枝湯(けいしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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真武湯
芍薬甘草湯と真武湯は鑑別対象となります。芍薬甘草湯を飲む前に飲む甘草乾姜湯は、温裏剤という分類の処方となります。
ですので、同じ温裏剤である真武湯は甘草乾姜湯の代わりに飲ませる事が出来ます。
甘草乾姜湯と違う部分は、真武湯には芍薬が既に含まれておりますので、脾胃の虚が酷く食欲が無い場合は不適となります。
また、利水剤でもありますので、水滞の証があります。食欲があって身体が冷えて、浮腫んで足が攣って、という方には真武湯を考慮に入れます。
【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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人参湯(附子理中湯)
人参湯(附子理中湯)は、甘草乾姜湯の代わりに使用する事が出来ます。
甘草乾姜湯よりも冷えが弱く、脾虚の程度が酷い場合に使用しますが、現実的には代用品んとして使用して構わないでしょう。
人参湯証は食欲がありませんので、その部分と浮腫みの有無で真武湯とも鑑別出来ます。
【漢方:32番】人参湯(にんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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