ポイント
この記事では、麻杏甘石湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、麻杏甘石湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明・漢方医処方の場合の説明共通
今日は、麻杏甘石湯という漢方が出ています。このお薬は、昔から喘息の発作等に使われてきたお薬です。
気管支を広げて痰を出して、呼吸を楽にする効果があります。今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生は、このお薬が合うと考えられたようです。一度、試してみてください。
身体が冷えてきたり、胃腸の調子が悪くなると効果が落ちますので、生活習慣には注意してください。
主な注意点、副作用等
偽アルドステロン症
自律神経系(不眠、発汗過多、頻脈、動悸、全身脱力感、精神興奮等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、軟便、下痢等)
泌尿器(排尿障害等)
添付文書(ツムラ55番)
麻杏甘石湯についての漢方医学的説明
生薬構成
麻黄4、杏仁4、甘草2、石膏10
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「発汗して後、汗出でて喘し、大熱無き証。」
「下して後、汗出でて喘し、大熱無き証。」
条文(現代語訳)
「解表して表証を去った後、汗が止まらず喘鳴があり、発熱が無いもの。」
「下剤等、瀉剤を投与した後、汗が止まらず喘鳴があり、発熱が無いもの。」
解説
今回は麻杏甘石湯の処方解説になります。よく一般的にも喘息の薬として麻杏甘石湯が用いられます。
まず、条文です。他の処方と同様、傷寒論の条文は非常に簡潔に書いてあります。
要は、「解表したり下したりした後に、発熱は無いが汗が止まらずにゼイゼイと喘息が出るものに使う。」と言う事になります。
「発熱無し」と断りがあるのは、すでに解表しており、表証が残っていないという事を表しています。
次に、構成生薬を見ていきます。麻杏甘石湯は、その名の通り麻黄、杏仁、甘草、石膏という4味で成り立っている処方になります。
解りやすい処方になりますので、よく一般の内科等でもたまに見かける処方です。
西洋医学的な説明としては、「麻黄はエフェドリン配合生薬で気管支を広げます。また、杏仁は痰を切る生薬ですので、気管支の通りを良くします。甘草と石膏は、処方のバランスを取る為に出されています。」という感じになります。
しかし、構成生薬、条文を合わせて漢方理論を用いて考えると、別の作用が見えてきます。
まずは石膏ですが、これは他の石膏配合生薬の所でお話させて頂きました通り「浸透圧の差を利用して水分の偏りを無くす。」という働きになります。
具体的には、「皮膚へ向かう水を石膏で高浸透圧になった血液側に引っ張り、肺胞での乾燥を潤して最終的に尿として出す。」という効があります。
この作用にて、汗が引く事になります。麻黄は、気管支を広げて肺機能を賦活させる目的以外に、心の働きも助けます。
そして、太陽膀胱経を通して気を下げます。杏仁は麦門冬と同じく肺陰を補いますが、その性は温である為に肺機能の賦活を助けて麻黄の解表の働きを強めます。
麦門冬の性味は微寒ですので、麻黄の働きとは逆になる為に本処方には入っておりません。
麦門冬と杏仁は丁度性味が反対で同様の効果がある、表裏の関係になります。
また、本処方の作用点は肺になりますので、その作用が全身に分散してしまうと都合が悪くなります。ですので、大棗が入っておりません。
逆に、越婢加朮湯は、全身症状が対象となるので、効果の分散を行う大棗が含まれています。
以上を全てまとめますと、「麻杏甘石湯は、表証が無く、肺に熱燥があり、それによる病邪の湿邪が存在して喘鳴のある者に使用する処方。」と言えます。
本処方は、構成生薬中に裏寒脾虚に使用されるものが含まれない為、その様な状態の時には不適になります。
蛇足
中国の研究に「麻杏甘石湯+銀翹散」という処方の組み合わせがあるようです。
これは、考え方としては傷寒論金匱要略の使い方ではなく、麻杏甘石湯を温病の処方として見たものになります。
中々上手い組み合わせだとは思いますが、そのインフルエンザが温邪か傷寒か、実証なのか虚証なのかで対応が分かれます。
脾虚裏寒がある場合は確実に身体を壊しますので、使用の際には証決定と患者さんの体質を見極めて使って欲しいと願います。
個人的にはこの組み合わせは結構危ないと思っていますので、自分では使う事は無さそうです。
鑑別
麻杏甘石湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに麻黄湯、小青竜湯、五虎湯、神秘湯、真武湯(温裏剤全般)といった処方があります。
その他にも、長期改善場合は補腎剤や気血両補剤、建中湯類等が使われる場合もあります。
ここでは、急性期に用いるものに限って処方の鑑別を書いて行きます。
麻黄湯
麻黄湯と麻杏甘石湯は、その構成生薬が一味、桂枝と石膏が違うだけの処方となります。この差が、両者の決定的な差になっています。
桂枝が存在すると、その処方自体は表証を解除する方向に向かいます。つまり、発熱、頭痛、無汗(桂枝+麻黄)という症状になります。
しかし、条文にもある通り、「汗出て熱なし」の場合、表証は解除されていますので、麻黄湯は不適となり、浸透圧にて体内の水の動きを調整する麻杏甘石湯の場になります。
麻黄湯と麻杏甘石湯は表裏の関係にある処方になりますのでセットで覚えると覚えやすいと思います。
続きを見る【漢方:27番】麻黄湯(まおうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
小青竜湯
小青竜湯と麻杏甘石湯も、喘息の発作時の処方になりますので鑑別対象となります。
この処方も、麻黄湯と同じく表証があり、発熱、無汗、頭痛と言った症状がありますので、その辺りで鑑別が可能となります。
その他にも、小青竜湯の場合は心下の痞えや全身の浮腫み等が出てきます。麻杏甘石湯はその辺りの所見はありませんので、それで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:19番】小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
五虎湯
五虎湯も喘息に使われる処方であり、麻杏甘石湯に桑白皮(肺熱を瀉し、熱痰を消し、上逆した気と水気を下す。)を足したものになります。
麻杏甘石湯よりも強い喘息発作が所見としてあり、小児の喘息によく用いられます。
喘息発作の程度で、酷いものは五虎湯、そこまで酷くないものに麻杏甘石湯を使用します。
神秘湯
神秘湯も喘息に経験的に使われる処方となります。
この処方は、麻杏甘石湯から石膏を去り、その代わりに柴胡、蘇葉、厚朴、陳皮を加えた処方となります。
麻杏甘石湯に配合されている石膏は胃寒のものに禁忌ですが、神秘湯はその胃寒が存在する場合の喘息の処方となります(ここが鑑別ポイントになります)。
また、柴胡が入っておりますので、肝のストレスがあるのが特徴です。
肝が腫れやすいのは思春期であり、思春期の喘息治療の際に考慮すると良い処方と言えます。厚朴も配されておりますので、食べ過ぎ傾向の方に合う処方です。
真武湯(温裏剤全般)
麻杏甘石湯とは丁度対極に在る、裏寒の処方になります。現実の臨床現場においては、裏寒が非常に多く見られます。
ですので、麻杏甘石湯証と思っても、よく見てみると裏寒があって使えない、というケースが多く出てきます。
そのような場合は、裏寒を治す事で、喘息発作が和らぐ事があります。食欲があれば真武湯、無ければ四逆湯類や附子理中湯等での対処になります。
続きを見る【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
続きを見る【漢方:32番】人参湯(にんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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