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腎虚の治療について

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腎虚の治療について

腎虚の治療について

ブログ「名古屋漢方」管理人の、ムセキ(@nagoyakampo)です。

本業は薬剤師で、漢方医学を専門にしています。

今日は、腎虚の治療について、詳しくご紹介します。

「腎虚って老化に関係するんですよね?治療はどうするの?」

って思っていらっしゃる方、お見えだと思います。ご想像の通り、腎虚は老化に従ってその程度が酷くなります。

老化≒腎虚としてしまっても良い位です。また、老化以外にも、先天的な発育不良等も腎虚に関係する場合があります。

また、漢方の書籍を見ていますと、血虚と腎虚の混同がよく見られます。その辺りについても詳しくご紹介していきます。

人は結局の所、時間と共に腎虚の度合いが強くなります。ですので、腎虚に対する処方というのは基本的に長く飲む様に出来ているものが多いです。

言い換えますと、漢方医学において「腎虚は最後の最後に残る病態」とも言え、腎虚を治すのが漢方治療の最終目標とも言えます。

「補瀉が上手く行った後、最終的な治療で腎虚を治す。」これが漢方治療の本当の目的になります。

尚、腎虚には色々とバリエーションがありますので、本記事にてそれらも詳しくご紹介していきます。

本記事は、以下の構成になっています。

腎虚とはなにか?

腎虚と血虚の違い

腎虚治療の条件

腎虚の種類

腎虚の治療

無理そうなら前段階の治療に戻る

継続的な治療には、腎虚の概念が必須です。是非是非、マスターしたい所ですね。

本記事が、その助けになれば幸いです。どうぞ、ご覧ください。

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腎虚とはなにか?

ムセキ
腎虚は老化であり、漢方治療の終着点です。

腎虚とは何でしょうか。五臓のうちの腎が虚したものが腎虚と言われますが、実はこれは言葉が適切ではありません。

腎虚というのは、腎に蔵されている腎精の虚であり「先天の精の虚」とも表現されます。現代医学で言う所の「遺伝子の老化」もその一つです。

生きていくと、どんどんとテロメアが擦り減っていきますよね。

また、腎臓や副腎の働きの不全も腎虚と表現される事が多いです(副腎に関しては血虚も絡んできます)。

漢方医学で言う腎の概念はかなり広いものになりますので、結局の所スッパリと切り分ける事は出来ません。

ですので、最初はざっくりと「腎精の虚は身体の最奥、中心部分の虚で、老化全般や成長障害に深く関係する。」という認識で置いておくと良いでしょう。

そこから、「こういうものも腎虚だ」という感じで知識を深めて行くと効率が良いでしょう。

ちなみに、腎虚は身体の中心の虚状ですので、骨や歯が脆くなったり、難聴や耳鳴り、脱毛等がある場合も腎虚が関連します。

腎虚と血虚の違い

ムセキ
腎虚と血虚を混同されている方が結構おられますが、それぞれ違いがあります。

腎虚と血虚は、その扱い方に混同が見られます。ちゃんと切り分けて考える必要があるのに、それがされていない書籍や講義が多いです。

この事は、「血虚の治療について」の記事でもご紹介しています。

血虚の治療について
血虚の治療について

詳しい解説は上記記事をお読み頂ければ良いのですが、簡単にご紹介しますと「腎虚は先天の精そのものの虚で、血虚は先天の精が変化した血(全身の血液や組織)の虚」となります。

腎精の虚は、身体の一番際奥である腎の虚です。身体を下支えしている力が虚してしまう事を言います。

しかし、血虚は、その腎精が後天の精(飲食物)や気と一緒になって作られた血の虚となります。

腎精というのは一番中心であり奥、血は皮膚や肌肉、筋等の身体全身の組織を指します。虚しているモノが違いますので、その辺りはしっかりと区別する必要があります。

腎虚の場合、当帰・芍薬・川芎といった血を全身にばらまく為の生薬が入っていないのがポイントで、逆に瘀血をとる牡丹皮が配合されています。

牡丹皮は心を若干瀉しますので、基本的に腎虚は心熱がある明るい方が多いですね。

腎虚治療の条件

ムセキ
腎虚の治療を行う条件は、身体の冷えが無い又は軽度、胃腸の虚が無い事の2点です。

腎虚の治療は地黄をメインに使う為、胃腸に負担をかけてしまいます。また、身体の冷えの程度が酷いと胃腸に負荷がかかった場合に身体を余計に冷やしてしまいます。

ですので、血虚の治療と同じくその条件をクリアしてから使う必要があります。

全体的に身体ががっしりとして食欲があり、どちらかというとニコニコと機嫌が良く、腰が重く排尿障害や足腰の痛み等の下半身の虚状が目立つものが目標となります。

また、地黄ではなく竜骨・牡蛎を使用する際も、同様の注意が必要です。竜骨・牡蛎はどちらかというと身体の冷えを中心に注意する必要があります。

身体内部の冷え、胃腸の虚弱に問題が無い事を確認してから使用するようにしましょう。

腎虚の種類

ムセキ
腎虚のバリエーションをそれぞれご紹介します。

腎虚の種類には色々あります。どの腎虚が当てはまるかで使う処方や治療方法が変わりますので、押さえておきたいですね。

代表的な腎虚には、以下の様なものがあります。

老化による腎精の虚

先天的な腎精の虚

不摂生による腎精の虚

胃腸の虚状がある腎虚

腎精が漏れ出て虚すもの

それぞれご紹介しますね。

老化による腎精の虚

「老化による腎精の虚」は補腎の基本です。

ある先生が、「腎精は人生」と仰っていました。単なる冗談かと思いきや、実は本質だったというオチです。

腎精は、地黄等で補う事が出来ても結局は減りの方が断然早いので、基本的に「時間と共に減るもの」と思った方が良いです。電池みたいですね。

言い換えますと、腎精は人が人生を生きる為の「時間」とも言えます。

その時間を少しでも伸ばしてあげる様に何とかしよう、という考え方が補腎の基礎となります。

補腎は、腎精を補う「地黄」と、血の毒を除く駆瘀血生薬の「牡丹皮」を中心とした生薬を使用します。

先天的な腎精の虚

腎精の虚は老化以外の原因でも起こります。その代表例が「先天的な腎虚」になります。

よく発育不良のお子様が見えます。その様な場合は何かしらの先天的な腎虚があると見ます。しかし、教科書通りにその病態が治る事は中々無く、大抵四苦八苦します。

時間をかけて、治療していない状態よりも良い状態に持っていくのが、先天的な腎虚の治療になります。

また、簡単に地黄剤が使える事もまず無く、他の病態の治療から始める事が殆どです。精神的な腎虚の治療は、根気との勝負になります。ちなみに根気も腎精になります。

不摂生による腎精の虚

不摂生による腎精の虚は、現代人によくありがちな病態です。五行の表を見てみますと、土から水へ相克の流れがあります。

これは、土が水の作用に対してブレーキをかけている状態を表しています。

具体的には、

①甘いもの脂っこいモノを食べ過ぎると、太って足腰に負担をかける。

②食事した後の食べ物カスが残る状態が続くと、虫歯や歯槽膿漏になる。

③甘い物や脂っこいモノを食べ過ぎると糖尿病や高脂血症、高血圧になりやすく、腎に負担がかかる

等、パッと出るだけでもこの様なものが出てきます。

炭水化物や油脂分は、基本的に甘味に分類されます。甘味が身体に入ると、胃腸が動きます。

胃腸が動くという事は土が旺しますので、相対的に水である腎の作用にブレーキがかかります。甘味は湿邪となりやすく、そのベトベトした湿邪が腎の根本に対しダメージを与えます。

上の例で行きますと、

①は脂肪分が湿邪となり、その重さで足腰に負担をかける事になります。

②は食べ物カスが歯垢という湿邪になり、腎のグループである歯を障害します。

③は言うまでも無いですね。

ここで解るのは、①②③全てが「老化を促進させている」という事です。つまり、腎精を浪費しているという事になります。

老化の促進になりますので、これは「老化による腎精の虚」と基本的に同じ治療になります。

只、自然と腎精が減った状態ではありませんので、湿邪を除く処方や生活習慣の改善もセットで行う事になります。

副腎も漢方において腎のカテゴリーになりますので、近年多くなっている免疫の暴走(アレルギー)も、もしかすると腎虚が関連しているのかもしれませんね。

胃腸の虚状がある腎虚

これは、上記の3つの種類の腎虚どれにも当てはまる場合があります。胃腸の虚がある時の腎虚ですね。

この場合、使う処方は補腎剤ですが、量を極力減らして服用します。場合によっては通常量の3分の1、4分の1の量で行く場合もあります。

脾虚が腎虚から来ている場合、この様に少しずつ胃腸に負担をかけないようにして投与します。

痩せたご老人で、食は細いのですが西洋医学的に問題ないとされている場合にこの様な治療を選ぶことがあります。

腎精が漏れ出て虚すもの

腎精が漏れ出て起こる病態もあります。これは、思春期等で性が立ち上がって不安定な場合によく起こります。また、何らかのオペ後にも起こる場合があります。

具体的な症状は、不眠、多夢、精神不安定、脱毛、陰部湿疹等です。変わったものだと、首から上がフワフワ浮いた感じになる、という異常感覚を訴える場合もあります。

この場合、精の漏出を原因と考える事があります。漏出を止めて気血を巡らせれば、治るという病ですね。

腎精が足りないという虚ではなく、漏れ出て運用が上手く行かないという虚状です。この時の生薬は、竜骨と牡蛎を使用します。

腎虚の治療

ムセキ
腎虚に使う処方についてご紹介します。

腎虚の治療に使用される代表的な処方は、以下の様なものがあります。

八味地黄丸

六味地黄丸

牛車腎気丸

柴胡加竜骨牡蛎湯

桂枝加竜骨牡蛎湯

味麦地黄丸

知柏地黄丸

それぞれご紹介していきます。

八味地黄丸

補腎剤の代表ですね。腎精を補う地黄と、瘀血を除く牡丹皮が主薬です。補腎剤や補血剤のレベルになると、その処方中に瀉の生薬がよく混じります。

血の毒を取って腎を補うという考え方は、現代医学でも基本は同じですね。

現代医学では、降圧剤や糖尿病薬で血管や循環器、神経や腎臓へのダメージを減らしながら、中性脂肪やコレステロールを下げて血管の詰まりを抑えます。

また、八味地黄丸は附子や桂皮を含む為、身体の表裏を温めて動きをつけ、楽しい老後を過ごせるように工夫されています。

使用目標を一言で言うと「サンタクロースのおじいちゃん」ですね。ニコニコ笑って腰が重くってがっしりとした赤ら顔のご年配の方によく合います。

八味地黄丸の詳しい解説については、以下の記事をご覧ください。

【漢方:7番】八味地黄丸(はちみじおうがん)の効果や副作用の解りやすい説明

六味丸

八味地黄丸から桂枝と附子が抜かれた処方です。たったそれだけですが、それだけでその効果は表裏逆転します。

八味地黄丸は、上の見出しでお話した通り「身体の表裏を温めて動きをつける」処方です。最終的に、その効果を動き(陽)に持ち込むのが八味地黄丸です。

しかし、六味丸はその「温める」という効果が無いので、その効はとにかく補腎する事に特化されます。

補腎に特化するというのはどういう事かと言いますと、動き(陽)を補う事を捨てているという事です。

内部を作るのを最優先させて寿命を延ばす、小児の先天の精の虚を治すのに特化した処方となります。全ての処方の中で一番身体の最奥を補う処方、とも言えます。

六味丸の詳しい解説については、以下の記事をご覧ください。

六味丸
【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明

牛車腎気丸

牛車腎気丸は、八味地黄丸に牛膝と車前子という2つの生薬を足したものになります。

この2つの生薬は、血と水の毒を取りながら処方の薬効を下に持っていく作用があります。ですので、八味地黄丸よりも更に下半身の虚状がある場合に使用します。

足腰の虚や痛み、排尿障害等の症状が強い場合は、八味地黄丸よりも牛車腎気丸を選ぶ場合が多くなります。違いを押さえておくと良いでしょう。

牛車腎気丸の詳しい解説については、以下の記事をご覧ください。

牛車腎気丸
【漢方:107番】牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)の効果や副作用の解りやすい説明

柴胡加竜骨牡蛎湯

柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡湯という処方に竜骨と牡蛎を足した処方と言われています。

しかし、原典では鉛丹が入っていたり、柴胡湯がどんな処方かは不明だったりと、色々と謎が残っています。

本処方のポイントは、何と言っても竜骨牡蛎です。柴胡という生薬は、身体の上下左右前後のバランスを取る生薬で、その効果プラス腎精の漏れがある場合に使います。

腎精の漏れがありますと、心がふらついてきます。要は、心腎交通の不良が起こる訳です。

この状態が起こると、腎精の不足の症状と精神症状と腎精の漏れによる湿熱症状の3つが同時に起こります。

具体的な症状は、不眠や精神不安定、脱毛等の虚状と陰部湿疹や痒み等の同時発生です。この様な所見が自覚的他覚的に見られたら、竜骨牡蛎の使用を検討します。

そこで柴胡加竜骨牡蛎湯を選ぶか桂枝加竜骨牡蛎湯を選ぶかというのが大切になります。

柴胡加竜骨牡蛎湯の場合は柴胡の所見(目つきが鋭く、イライラ、胸脇苦満等)が顕著に出て来るのがポイントですね。

柴胡加竜骨牡蛎湯の詳しい解説については、以下の記事をご覧ください。

【漢方:12番】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

桂枝加竜骨牡蛎湯

桂枝加竜骨牡蛎湯は、桂枝湯に竜骨と牡蛎を足した処方となります。桂枝湯というのは、経絡の巡りが悪く、上半身に気が溜まってしまう病態となります。

余計な気が溜まりやすくなる事で、逆上せ、頭痛や発熱、首筋のコリ等が起きてきます。

桂枝加竜骨牡蛎湯は、その様な桂枝湯の証プラス、前の柴胡加竜骨牡蛎湯の見出しでご紹介した竜骨と牡蛎の特徴が合わせて現れます。

私の漢方の先生は、思春期の脱毛や不眠等によく用いていました。逆上せが強い素直な方に用いる印象です。

桂枝加竜骨牡蛎湯の詳しい解説については、以下の記事をご覧ください。

【漢方:26番】桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明

味麦地黄丸

味麦地黄丸は六味丸に五味子と麦門冬を加えた処方で、一般用医薬品にしか製剤はありません。

六味丸証で唇の乾燥や喉の乾燥、顔全体が赤く、胸を触ると熱っぽい、不整脈が起きている等の肺陰虚・心熱の症状がある場合に使用します。

尚、医療用漢方製剤を使用する場合は六味丸と麦門冬湯を合わせます。完全じゃありませんが、似た効果になります。

六味丸
【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:29番】麦門冬湯(ばくもんどうとう)の効果や副作用の解りやすい説明

知柏地黄丸

知柏地黄丸は六味丸に知母と黄柏という生薬を足した処方となります。両方、腎の熱を取る効能があり、六味丸に裏熱が加わった病態に使用します。

顔が赤黒く逆上せてイライラがあったり、深い所に邪があり耳鳴りが取れない等の場合に適応となります。

医療用漢方製剤にはありませんが、六味丸と黄連解毒湯を合わせる事で似た効果が出ます。

六味丸
【漢方:87番】六味丸(ろくみがん)の効果や副作用の解りやすい説明
【漢方:15番】黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の効果や副作用の解りやすい説明

無理そうなら前段階の治療に戻る

ムセキ
腎虚の治療は、他の治療が終わってから行うのが基本です。

漢方薬というのは、身体に合った使い方をする必要があります。ですが、「処方の効果がこれだから、これ!」という西洋医学的な使い方をされる先生が後を絶ちません。

腎虚だから補腎剤!というのもよくありがちな失敗で、症状を見ただけで簡単に出すのは危険だと考えます。

虚状を見抜き、怖かったら前段階の治療に戻る事が大事です。特に、第六感的なアラートが働いた場合は、無理せずに引いた方が良い事が多いです。

補腎の治療は慎重に運用していきましょう。

前段階の治療は、裏寒、脾虚、裏虚、気血両虚の治療になります。それぞれ以下の記事をご参照下さい。

身体内部の冷え(裏寒)の解消方法
漢方入門。臨床第一歩目は身体内部の冷え(裏寒)の解消方法を学ぼう!
脾虚の見分け方と漢方治療
脾虚の見分け方と漢方治療について
裏虚・虚労の治療
裏虚・虚労の治療について
漢方臨床記事まとめ
漢方臨床記事まとめ

さいごに

ムセキ
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

今回は、腎虚の治療についてご紹介しました。

腎虚の治療は漢方治療の終着地点です。根本治療につながりますので是非是非、挑戦してみて下さい。

この記事が皆様のお役に立てたら嬉しいです。最後までお読み頂きありがとうございました。

以下より他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。

参考記事
目次

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また、手前味噌ですが、私のnoteがお役に立てるのではないかなと思います。それぞれ「心構え」と「ドラッグストアでの漢方の選び方」についての内容です。

調剤に従事される薬剤師の方でしたら、本ブログに服薬指導用のデータベースもありますので、そちらもご参考頂けたら幸いです。

「説明しか出来ない」と思われるかもしれませんが、条文や生薬の薬効をじっくりと押さえながら読み込む事で、また趣深い勉強が出来ます。

「漢方薬の効果や副作用の解りやすい説明」データベース

また、漢方の勉強の仕方は下記の記事にて詳しくご紹介しています。本記事と併せてお読み頂けると幸いです。

漢方の勉強方法
漢方の勉強方法について

それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。

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