ポイント
この記事では、五苓散についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、五苓散の解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料としてご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今回の漢方は五苓散と言います。
これは、喉が渇いて水を飲んでもすぐ吐いてしまう、オシッコが出にくい等の胃腸風邪のような感じの症状に使う漢方です。そのような症状はありますか?
気持ち悪いとかそんな症状でも使いますね。身体の余分な水を除く薬です。一度飲んでみて下さい。
身体が冷えてきた、変な咳が出だした、下痢、お腹が張る等、その様な症状があればご一報頂ければと思います。
一日〇回△日出ておりますので、指示通りお飲みください。
漢方医等処方の場合
今回の漢方は五苓散と言います。
これは、喉が渇いて水を飲んでもすぐ吐いてしまう、オシッコが出にくい等の胃腸風邪のような感じの症状に使う漢方です。
頭痛や発熱も伴っているのが特徴です。そのような症状はありますか?
〇〇といった症状も、先生は五苓散で治ると思われたのかもしれません。
生薬が5種類入った漢方ですが、そのうちの4種類が水抜き材ですので、身体に余分な水が溜まっている状態を改善します。一度飲んでみて下さいね。
体が冷えてきた、変な咳が出だした等の症状があればご一報頂ければと思います。一日〇回△日出ておりますので、指示通りお飲みください。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
肝機能異常(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTP等の上昇)
冷え(裏寒)
添付文書(ツムラ17番)
五苓散についての漢方医学的説明
生薬構成
構成生薬:朮3、茯苓3、沢瀉4、猪苓3、桂枝1.5
出典
傷寒論、金匱要略
条文(書き下し)
「霍乱(かくらん),頭痛,発熱,身疼痛,熱多く水を飲まんと欲す者,五苓散之を主る」
「太陽病,発汗後,大いに汗出で,胃中乾き,煩躁して眠ることを得ず。水を飮まんと欲する者は,少少与えて之を飮ましめ,胃気を和せしむれば則ち愈ゆ。若し脉浮,小便不利,微熱消渇する者,五苓散之を主る」
「仮令痩人(たとえばやせたひと),臍下悸有りて,涎沫を吐し癲眩(ひっくり返るような眩暈頭痛)するは,此れ水也。五苓散之を主る」
「中風,発熱六七日,解せずして煩し,表裏の證あり,渇して水を飲んと欲し,水入れば則ち吐す者は,名て水逆と曰ふ,五苓散之を主る」
「発汗し己って脈浮数,煩渇の者は五苓散之を主る」
条文(現代語訳)
「激しい吐き下し,頭痛,発熱,身体の痛み,熱が多く水を飲みたいと思う者,五苓散で治ります。」
「太陽病で,発汗した後,大いに汗が出で,胃が乾き,色々と精神的に思い煩い、眠ることが出来ない。水を飲みたいと思う者は,少し与えて水を飲ませ,胃気を和すことができれば治る。もし脈が浮き,小便が出ず,微熱して喉が渇く者は,五苓散で治る」
「例えば、痩せた人間が,臍の下に動悸が有って,よだれを吐いてひっくり返るような眩暈頭痛するものは,原因は水の邪です。五苓散で治ります」
「風邪をひいて,発熱が六七日続き,治らずして苦しみ,表裏の証拠あり,喉が渇いて水を飲みたいと思い,水を飲めばすぐに吐いてしまう者は,水逆と言い,五苓散で治ります。」
「発汗し、脈が浮数の場合,喉が渇いて苦しむ者は五苓散で治ります」
解説
五苓散という処方は、患者さんへの説明は楽ですが、処方内容を書こうと思うと中々に説明が厄介です。
条文にもありますが、消渇という水を飲んでも消えてしまうような病態で、尿が出ず、水を飲むと吐いてしまうという事を繰り返す病になります。
「喉が渇くのに水を吐き戻す。尿が出ない。どうなっているんだ?」と頭が混乱してきます。
実は、あまり他の書籍等では重要視されていませんが、桂枝がポイントとなります。その辺りを説明出来ればと思います。
そもそも水は要るのか要らないのか?
根本的な話ですが、そもそも、この証の場合、「水は身体にとって要るのか要らないのか?」という所を考える必要があります。
生薬の構成を見てみますと、桂枝以外は全て利水剤です。水抜きです。という事は、つまり「水は要らない」と言えます。
ですが、症状としては、水を欲しがります。その辺りを考えていきます。
車の渋滞と同じ
五苓散証での水の状態は、車の渋滞と同じイメージで考えると解りやすいです。
それぞれの生薬の働きを見てみますと、朮が胃中の水滞を取り、沢瀉が全身の組織の水毒を除きます。
血中に送られた水は、茯苓で巡り、最終的に猪苓の助けを借りて尿として出ます。
つまり、胃と肌肉部、言ってしまえば脾胃を中心とする組織で水の動きが止められている為に、その滞りの後では水の不足が、滞りの手前では水余りが生じます。
ですが、その病態の本体は水の滞り、という事になります。
桂枝の働きは?
桂枝の働きも重要になります。
そもそもの身体の水の流れですが、脾胃から入った水は、一旦肺まで持ち上げられて、そこから下に下って尿として排泄されます。
一回上に水が持ち上がってから排出される訳です。五苓散証では、この水が上に持ち上げられずに上焦で不足します。
これは、脾胃の異常で水が滞る為に起こる二次的な現象になります。
五苓散の働きで桂枝以外の生薬が水の流れをつけますが、その流れるエネルギーは桂枝で経を巡らせる事で得ます。
ですので、この桂枝は非常に重要な生薬と言えます。
ちなみに、水が上焦で不足し、表証があるという事は、熱が頭部に溜まるので、発熱や頭痛がして喉や口が非常に乾いてきます。だから水を飲みたくなります。
条文の「胃中乾き」について
この一語がある為、五苓散証の理解が混乱してしまいますが、この「胃中乾き」というのは五苓散証ではありません。
条文の、「若し脉浮、」より前は、水を飲ませれば治る病態です。この言葉の後が五苓散証で表証の存在を表していますので、桂枝が要ると暗に示しています。
まとめ
五苓散証は、水の脾胃での滞りが原因で、その手前で水が溢れ(飲んでは吐く)、その後では水不足(喉渇、小便不利等)が起こります。
五苓散は詰まっている水を外に排出するよう導き、表証を改善する事でその病態を治します。
ですので、目標としては、水を飲んで吐く水逆の所見があり、発熱頭痛逆上せといった表証がある方になります(処方解析は難しいのですが、使い方や解説は比較的簡単な所が興味深いですね)。
処方の鑑別
五苓散の鑑別は、代表的なものに水毒を除く真武湯、胃腸風邪の処方で六君子湯、茯苓飲合半夏厚朴湯があります。それぞれの処方との鑑別を書いていきます。
真武湯との鑑別
真武湯は、五苓散と同じく身体の水を抜く処方ですが、一番大きな違いというのは真武湯が裏寒の処方であり、五苓散は桂枝剤の一つであるという所です。
五苓散は、上焦に熱が溜まりますので発熱頭痛などの表証と思われる症状が出、頬が桜色で逆上せています。
真武湯は、食欲があり、身体の中心線に沿った部分が青みがかて冷えている方によく使います。
また、真武湯は吐き気が無いのが特徴です。
【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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六君子湯との鑑別
六君子湯との鑑別ですが、六君子湯は胃腸が弱い為に食欲が無く、細身の身体で逆上せてはいません。
時によって咳が出る事が有ります。五苓散の方が症状が急激ですので、その辺りでも鑑別できます。条文から、五苓散は瀉剤と言えます。
茯苓飲合半夏厚朴湯との鑑別
茯苓飲合半夏厚朴湯との鑑別です。
この処方は、胃が詰まっている方に処方される事が多いですが、風邪で咳が止まらない方にも合う処方となります。
この証の方は、食べ過ぎ傾向で、胃が固く、顔つきも固い方が多いので、その辺りで鑑別が可能となります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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