ポイント
この記事では、治打撲一方についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、治打撲一方についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、治打撲一方という漢方薬が出ています。このお薬は、打撲や捻挫の急性期によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、患部の治りを良くしますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、治打撲一方という漢方薬が出ています。このお薬は、打撲や捻挫の急性期によく使われるお薬です。
江戸時代の日本の医師が作った処方で、「打撲や捻挫の漢方と言えば治打撲一方。」という位メジャーなお薬になります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、患部の血流を良くして毒を抜き、また、打撲のショック等にも効いてきますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症注(発疹、発赤、そう痒等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、腹痛、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ89番)
ツムラ治打撲一方(外部リンク)
治打撲一方についての漢方医学的説明
生薬構成
桂皮3、川芎3、川骨3、甘草1.5、大黄1、丁子1、樸樕(ぼくそく)3
出典
本朝経験方(香川修庵:条文は浅田宗伯「勿誤薬室方函口訣」)
条文(書き下し)
「この方は、よく打撲筋骨疼痛を治す。」
条文(現代語訳)
「この処方は、よく打撲による骨や筋肉の痛みを治します。」
解説
今日は、治打撲一方についての解説になります。本処方は、一般的に打撲痛や捻挫、怪我等の初期に使われています。
私も臨床で使用経験があり、確かに治りが良いと感じています(記憶にあるのは、家族に使ったスノーボードでの外傷による腸管損傷)。
それでは、最初に条文を見ていきます。この処方は江戸時代の医師である香川修庵先生の創方で、条文は勿誤薬室方函口訣から引用しています。
口訣では簡単に「打撲痛を治す。」とだけありますが、元々がどの様な証であっても本処方の適応される証になる可能性があります。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
補気・通経:桂皮
補血・駆瘀血:川芎、大黄
補気・鎮静:川骨
胃を温める・肺気の冷滞を去る、通経:丁子
止血・収れん・気つけ:樸樕
緩和:甘草
の様になっています。
本処方の特徴は、駆瘀血だけではなく、打撲による精神的ショックや気の詰まりも改善させる生薬が含まれている事ではないでしょうか。
単に傷を治すだけではなく、その周辺症状まで見て処方が作られている事が解ります。
本処方には、人参や当帰等、補剤の生薬は含まれておらず、それらの創傷治癒の材料は身体にあるものを使用する処方になります。
打撲や捻挫というのは、言わば身体にとっての緊急事態です。この状態に陥りますと、基本的にとにかく創傷部位をある程度治す事が先決になります。
ですので、他の箇所の気血を創傷治癒に回すという生体反応が起きる、一種の特殊状態が引き起こされます。
治打撲一方は、その特殊状態の時に使用する処方になりますので、根底にある証が何であれ、打撲した場合の急性期に使用できる処方と言えます。
只、ある程度気力体力が残っている状態であれば、打撲時に創傷治癒が優先されますが、裏寒や酷い脾虚がある場合、命自体を助ける為にそれら身体内部の治療が優先されます。
ですので、「裏寒や酷い脾虚を除く」という条件はつけて置く必要があります。
以上、まとめますと、治打撲一方は「裏寒や酷い脾虚を除いて、根底にある証が何であれ急性期の打撲や捻挫等外傷に用いる事が出来る処方。」と言えます。
鑑別
治打撲一方と他処方との鑑別ですが、代表的なものに通導散、人参養栄湯があります。それぞれについて解説していきます。
通導散
通導散は古来「百叩きの刑」の後に使用され、全身打撲等で瘀血が発生した場合に使用される為、治打撲一方とは鑑別対象となります。
現代では、交通外傷や全身を強く打ち付けた時等に使用する場があります。
通導散は、治打撲一方の様な患部が限定された証ではなく、その瘀血所見が全身に及ぶのが特徴です。
また、気が上逆しますので気が狂った様になり、食欲過多で便秘気味になり、顔も熱が溜まり赤黒くなります。
構成生薬も、その様な証の場合に使用されるものとなっており、一部分の打撲のみで他の部分が正常な治打撲一方とはその部分で鑑別出来ます。
人参養栄湯
人参養栄湯は、褥瘡に使用する機会がある漢方で、治打撲一方とは鑑別対象となります。
これら2処方の鑑別は、簡単に言いますと急性か慢性かの違いにあります。
つまり、急性の場合は、瘀血取りやショックを回復させる必要がありますので毒取りの処方が使用され、慢性の場合は傷の治る力自体を高める気血両補剤が使用されるという事です。
必ずしも褥瘡には人参養栄湯という訳ではありませんが、比較のために載せてみました。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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