ポイント
この記事では、大防風湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、大防風湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、大防風湯という漢方薬が出ています。このお薬は、病後に痩せて痛む関節痛等によく使われています。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、元気をつけて関節の痛みも取ってくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、大防風湯という漢方薬が出ています。このお薬は、病後に痩せて痛む関節痛等によく使われています。また、気力体力回復の薬としても使います。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、元気をつけて痒みや痛みも取っててくれます。
また、閉経後の不調や老化防止の作用もありますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症注(発疹、蕁麻疹等)
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
その他(心悸亢進、のぼせ、舌のしびれ等)
冷え
添付文書(ツムラ97番)
ツムラ大防風湯(外部リンク)
大防風湯についての漢方医学的説明
生薬構成
黄耆3、地黄3、芍薬3、蒼朮3、当帰3、杜仲3、防風3、川芎2、甘草1.5、 羌活1.5、牛膝1.5、大棗1.5、人参1.5、乾姜1、附子1
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「風を去り、気を順らし、血脈を活かし、筋骨を壮んにし、寒湿を除き、冷気を逐う。又、痢を患いたる後、脚痛み、䛯(たん:物言い)弱にして行履(こうり:行う)すること能わざるを治す、名付けて痢風(りふう)という。あるいは両膝腫れて大いに痛み、髀脛(ひけい:腿(もも)や脛(すね)) 枯腊(こせき:肉が枯れた干し肉のようになる)してただ皮骨を存し、拘攣䶄臥(こうれんせんが:かがんで寝る)して、屈伸 すること能わず。名付けて鶴膝風(かくしつふう)という。これを服して気血流暢(とおる:流れる)し、肌肉ようやく生じて、自然に行履すること、もとのごとし。」
条文(現代語訳)
「風の邪を去り、気を順らし、血脈を通し、筋骨を盛んにし、寒湿を除き、冷気を駆逐する。又、感染症に罹患後、脚が痛んで、言葉が弱くなり、動けなくなるものを治す。この病態は、名付けて痢風(りふう)という。あるいは両膝が腫れて大いに痛み、腿(もも)や脛(すね)の肉が枯れ果てた様になって皮と骨ばかりになり、かがんで寝て屈伸することが出来なくなる。これは名付けて鶴膝風(かくしつふう)という。この大防風湯を飲み、気血を充実させ、肌肉を生じて、元の様に自然に動けることになる。」
解説
今回は、大防風湯の処方解説になります。一般的には、条文に在る使用方法である関節痛やリウマチ、痛風の薬として使用されています。
しかし、条文をよく読みこみ、構成生薬を見ますとそれだけの薬方ではない事が解ります。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は「和剤局方」出典で、いつも通り長々と書かれています。
ポイントは条文の最初と最後に凝縮されており、要約しますと「寒風湿の邪を去り、気血を充実させる処方。」となります。
気血の虚状の強い関節痛に効く処方ではありますが、効き方は気血両補剤+祛風剤そのものと言えます。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれグループ分けしますと
補肺気:黄耆
祛風湿:防風、羌活
補肝腎:杜仲、地黄、牛膝
補血:当帰、地黄、芍薬、川芎
補気、補脾:大棗、人参、甘草、蒼朮
温裏:乾姜、附子
緩和、諸薬の調和:甘草
となります。7つのグループに分かれますのでややこしいと思われるかもしれません。ですので、更にまとめますと
①補気・補脾
②補血・補肝腎
③温裏
④祛風
の4つとなります。もっと簡単にしますと、「補腎・祛風が付いた気血両補剤」と言ってしまっても良いでしょう。
十全大補湯や人参養栄湯に代表される気血両補剤と八味地黄丸や牛車腎気丸に代表される補腎剤の中間処方である事が解ります。
この、「補腎効果のある気血両補剤」というのはエキス剤では他にあまり例が無い為、関節痛に限らず気血両虚と腎虚を伴う様々な病気に使用可能です。
以上、条文と併せてまとめますと、大防風湯は「寒風湿の邪を去る補腎効果のある気血両補剤。」と言えます。
実は、私の漢方の先生に本処方の使用目標を聞いた事があります。
その時の先生の返答は、「(血虚があるので)皮膚の色艶が悪く、(腎気が弱いので)色気のないストーンとしたうどの大木のような女性や、早期閉経した方、(男女問わず)腎気丸を行きたいけれど胃腸が弱くて使えない方。」でした。
本処方は、附子や乾姜、人参が入っておりますが、著しい脾虚や裏寒がある場合には不適となりますので注意が必要です。
鑑別
大防風湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに十全大補湯、人参養栄湯、牛車腎気丸、炙甘草湯、薏苡仁湯があります。それぞれについて解説していきます。
十全大補湯
大防風湯と十全大補湯は共に気血両補剤であり、鑑別対象となります。
大防風湯と十全大補湯の違いは色々とありますが、中でも大きな違いは桂枝の有無になります。
桂枝が要る状態は、気が逆上せて頬が赤くなり、頭に熱が溜まりますので肩こりや頭痛が出る場合もあります。
十全大補湯には桂枝が入りますので顔がほんのり上気して赤いのが特徴となります。大防風湯にはそれがありませんので、その点で鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:48番】十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)の効果や副作用の解りやすい説明
人参養栄湯
大防風湯と人参養栄湯は共に気血両補剤であり、鑑別対象となります。
十全大補湯と同じ様に、人参養栄湯にも桂枝が入りますので、気が逆上せて頬が桜色になっています。
また、人参養栄湯証の場合は神経疲れ(気を使いすぎている)、健忘、不眠と言った症状が出てきます。大防風湯にはそれらの所見が目立ちませんのでその点で鑑別できます。
牛車腎気丸
大防風湯と牛車腎気丸は共に補腎作用があり、鑑別対象となります。
大防風湯には、補腎作用の他に補気・捕脾作用がありますので、その証には脾胃の虚が存在します。ですので、身体の線が何処となく細い印象を受けます。
牛車腎気丸証には脾胃の虚は無い為、身体ががっちりとしております。ですので、その処方中に捕脾の生薬等は含まれておりません。
その他にも、大防風湯には補血作用があり、心血が補われる作用がありますので、その証はどちらかというとネガティブ傾向になります。
牛車腎気丸には駆瘀血作用のある牡丹皮が配されており、この作用は心を瀉すというものになります。ですので、牛車腎気丸の方はどちらかと言うと朗らかで陽気な印象を受けます。
それらのポイントで鑑別が可能となります。
炙甘草湯
大防風湯と炙甘草湯は共に気血両補剤であり、鑑別対象となります。
炙甘草湯の特徴は、その処方中に麦門冬を含み、その証は肺の熱燥とそれに付随する心熱になります。
ですので、顔全体が赤く、粘膜が乾燥して息切れをしかけているのが特徴です。大防風湯にはその様な所見はありませんので、それが鑑別ポイントとなります。
続きを見る【漢方:64番】炙甘草湯(しゃかんぞうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
薏苡仁湯
大防風湯と薏苡仁湯は共に関節痛等に使用する処方であり、鑑別対象となります。
薏苡仁湯の場合、その処方中に薏苡仁を多量に含みます。また、麻黄も含みますので、皮膚に湿熱が存在し、それが発散出来ない事で症状を出していると解ります。
つまり、薏苡仁湯の方が瀉剤になりますので、その症状は酷くなります。また、大防風湯は気血両補剤であり、手足がやせ細っている場合に適応がある処方になります。
所見の状態が虚か実か、というのを見分けていくと、これらの処方は簡単に鑑別がつくようになります。
続きを見る【漢方:52番】薏苡仁湯(よくいにんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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