厚朴は気剤といい、胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させて気分を改善するという作用があります。
胃の実滞というのは、ストレスや気分の影響を受けて胃に起こった食滞や水滞であり、それらの滞りが気の通行を止めてしまいます。
気の通行が胃で止まると、胃より上部では喉の詰まり(梅核気)、胸苦しさ、咳、嘔吐、気欝等の症状が発現し、胃より下部は、ガス満や便秘、腹痛などを起こします。厚朴はその実滞を除く要薬です。
厚朴は胃を温めるが、決して補剤ではない事を認識する必要があります。
一般的に厚朴証の患者は、気分がふさぎ、食べすぎであり(本人は自覚していない場合も多い)、顔つきが硬く(胃経の詰まり)、訴えが多い(胃実=意実)、言われた事に対して腑に落ちない、等の特徴を持ちます。
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厚朴剤の種類
半夏厚朴湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、正理湯、平胃散、胃苓湯、当帰湯、九味檳榔湯、通導散、柴朴湯、五積散、等
厚朴剤解説
半夏厚朴湯
構成生薬:半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*食べ過ぎ傾向で胃が張って胸苦しく、気分がふさぎ、喉に詰まったような違和感があるものを目標とします。現実は、脾胃の弱りがある場合が多く、茯苓飲合半夏厚朴湯等や正理湯の方が良い事が多いです。
茯苓飲合半夏厚朴湯
構成生薬:半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜、人参、陳皮、蒼朮、枳実
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
人参・・・脾胃の補気を行う
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
枳実・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
*茯苓飲(茯苓、蒼朮、陳皮、人参、枳実、生姜)と半夏厚朴湯の合方です。半夏厚朴湯証で、胃に湿が存在し、より胃が動かず詰まりが一層はっきりとしているものに使用します。現実は、半夏厚朴湯より使用機会が多い処方です。
正理湯
構成生薬:半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜、人参、陳皮、蒼朮、枳実、香附子、甘草
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
人参・・・脾胃の補気を行う
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
枳実・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
香附子・・・気分の爵を散行する
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
*正理湯は茯苓飲合半夏厚朴湯に香蘇散を合方したものであり、茯苓飲合半夏厚朴湯証に加えて上焦に頭重感、気欝症状等が出ているものに使用します。胃の詰まりが存在する花粉症や咳にも使用できます。
平胃散
構成生薬:蒼朮、厚朴、陳皮、大棗、甘草、生姜
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*胃に湿が存在し、弱って動かず、胃気が巡らずに詰まっているものに使用します。無理やり詰まりを取ろうとする為、食べすぎの傾向となります。顔が固く、訴えが多く、人の話を遮って自分の話をしたくなり、また、胸苦しさ、咳、肩こり等の症状を呈する事もあります。茯苓飲合半夏厚朴湯証のような気欝は少ないです。
胃苓湯
構成生薬:蒼朮、厚朴、陳皮、大棗、甘草、生姜、茯苓、白朮、沢瀉、桂皮、猪苓
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
白朮・・・脾胃の湿を取り、脾を健やかにし益気する
沢瀉・・・水道を通利し、上焦の湿を除く
桂皮・・・裏で出来たエネルギーを表に持ち出して表虚を去り、経を巡らす
猪苓・・・小便を利せさせ、下焦の湿を除く
*平胃散証かつ、水毒が存在するものに使用します。平胃散に五苓散が合方されています。飲みすぎ食べすぎで胃が詰まっており、尿が少なく、時に吐き下し、のどが渇き水を飲み、上焦に熱状(頭痛、肩こり、のぼせ)のあるものに。
当帰湯
構成生薬:当帰、半夏、桂皮、厚朴、芍薬、人参、黄耆、乾姜、山椒、甘草
当帰・・・血を温め、心血を養う
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
桂皮・・・裏で出来たエネルギーを表に持ち出して表虚を去り、経を巡らす
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
人参・・・脾胃の補気を行う
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
乾姜・・・心を通し、陽気を助け、中焦下焦を温め、肺気肝血を利し、中焦下焦の寒湿を去る
山椒・・・肺に入って寒を散じ、脾に入って濕を除き、右腎に入って火を補う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
*帰耆建中湯と大建中湯の部分を足し合わせたものに、胃の詰まりを取る半夏と厚朴を加えた処方です。虚労、胃の詰まりがあり、腸が動かず腹満し、便が出ないものに使用します。
九味檳榔湯
構成生薬:檳榔子、厚朴、桂皮、橘皮、蘇葉、甘草、大黄、生姜、木香、呉茱萸、茯苓
檳榔子・・・胸中に存在する至高の気(非常に硬い気)を下す
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
桂皮・・・表を補い経を巡らす
橘皮・・・肺胃の気滞を巡行、開散させる
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させる
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
大黄・・・処々の実熱して不通な箇所を瀉し、瘀血を破り下す。下焦の湿熱を除く。
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
木香・・・三焦の気分の留滞、閉塞、結爵を治し、諸気を昇降する。肺中の気滞を瀉し、中気を順ずる
呉茱萸・・・中を温め気を下す。湿を除き、風邪を去り、腠理を開く。
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
*中焦の気を下して疎通を改善する薬。厚朴証ですが、胃に硬い気滞が存在するので鬱々として融通が利かず、頑固です。また、気の留滞により水や血の滞りも起こっています。
通導散
構成生薬:枳実、大黄、当帰、甘草、紅花、厚朴、蘇木、陳皮、木通、芒硝
枳実・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
大黄・・・処々の実熱して不通な箇所を瀉し、瘀血を破り下す。下焦の湿熱を除く。
当帰・・・血を温め心血を養う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
紅花・・・瘀血を行らせる
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
蘇木・・・血を破る
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
木通・・・気血を通じ、小便を利す。湿熱を泄し、火熱を導き下す
芒硝・・・堅積を砕く。大便を解し、小便を通じる。三焦腸胃の実熱、宿垢、火邪を折る。
*瘀血が存在する事で気が下らず、知らずに食べ過ぎて胃が詰まり、気が狂うものに使用します。元々は百叩きの刑の後の処理に用いられた薬方です。クラッシュシンドロームの予防として、地震時等に使用できます。応用として、打撲や手術後の瘀血を下すのに用いられます。
五積散
構成生薬:蒼朮、陳皮、当帰、半夏、茯苓、甘草、桔梗、枳実、桂皮、厚朴、芍薬、生姜、川芎、大棗、白芷、麻黄
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
当帰・・・血を温め心血を養う
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
桔梗・・・気を升らせて肺分に至らせ、結果、一切の気を下降させる。諸薬の気を上行させる。
枳実・・・気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
桂皮・・・表を補い経を巡らす
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
川芎・・・血を走り散らす
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
白芷・・・大腸経と肺経に入り、解表、祛風燥湿、消腫排膿し、止痛、頭面の諸疾を治す。
麻黄・・・発表して汗を出し、邪熱の気を去る。栄衛の寒邪を除く
*脾胃が弱って水気が詰まり、気血水が巡らないものに使用します。原典では、「気血痰寒食の五積を治す処方」と命名されています。
柴朴湯
構成生薬:柴胡、半夏、茯苓、黄芩、厚朴、大棗、人参、甘草、蘇葉、生姜
柴胡・・・肝熱を去り、毒を和す事で気の巡りを改善させる
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
黄芩・・・肺熱を去り、気を下す
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
人参・・・脾胃の補気を行う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
蘇葉・・・胃を開き、気を巡らし、血を巡行させ、裏を保全しながら表に達しさせ発汗させ
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*胸脇苦満があり口苦く、胃気が詰まり、喉の詰まりや胸苦しさ、咳や呼吸困難、気鬱等が強いものに使用します。柴朴湯証であればアトピー等にも使用できます。
潤腸湯
構成生薬:地黄、当帰、黄芩、枳実、杏仁、厚朴、大黄、桃仁、麻子仁、甘草
地黄・・・血を補い、血熱を冷ます
当帰・・・血を温め心血を養う
黄芩・・・肺熱を去り、気を下す
枳実・・・腸胃の気、血、痰、熱、食、水などの一切の積結堅滞を破る
杏仁・・・肺を潤し温め、気を下降させ、肺の結気を散らす
厚朴・・・胃の実滞を除去し、胃を賦活して暖め、気を下降させる
大黄・・・処々の実熱して不通な箇所を瀉し、瘀血を破り下す。下焦の湿熱を除く
桃仁・・・肝経血分に入り、留滞した血液を巡らせる。また、大腸を潤させる
麻子仁・・・大腸を潤し、気を下げる
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
* 便秘、瘀血があり、また、胃に気の詰まりが存在する時等に使用されます。老人の下剤としてよく用いられます。
お読み頂きありがとうございます。
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