ポイント
この記事では、苓姜朮甘湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、苓姜朮甘湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、苓姜朮甘湯という漢方薬が出ています。このお薬は、腰が冷えて重痛い等の場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、腰を中心に温めて症状を改善してくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、苓姜朮甘湯という漢方薬が出ています。このお薬は、腰が冷えて重痛い等の場合によく使われるお薬です。その他にも、生理痛や腰痛等にも使用出来ます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、腰を中心に温めて症状を改善してくれますので、一度、試してみてください。
西洋薬で上手く行かなくても、漢方が良いという場合もあります。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
添付文書(ツムラ118番)
ツムラ苓姜朮甘湯(外部リンク)
苓姜朮甘湯についての漢方医学的説明
生薬構成
茯苓6、白朮3、甘草2、乾姜3
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「腎着(じんちゃく:腎に冷えが沈着したもの)の病、その人身体重く、腰中冷え、水中に坐するが如く、形水状の如し、かえって渇せず、小便自利飲食故の如きは、病下焦に属す、身労汗出で、衣裏冷湿、久久(きゅうきゅう:長く)にこれを得、腰以下冷痛して、腹の重きこと五千銭を帯ぶる(ごせんせんをおぶる:硬貨を多量に持つ)が如きは、苓姜朮甘湯これを主る。」
条文(現代語訳)
「腎に冷えが沈着した病で、身体が重く、腰中の冷えは水中に座っている様で、腰自体が水であるかの様で、逆に喉は渇かず、小便は飲食後に出る様に自ら出るものは、病が下半身にあるもので、全身発汗し、衣類の裏が冷たく湿り、長くこれを患い、腰以下が冷たく痛み、腹の重さは硬貨を多量に持っている様なものは、苓姜朮甘湯が良い。」
解説
今日は、苓姜朮甘湯についての解説になります。本処方は、に使われています。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は金匱要略からの出典で、長々と書かれていますが要約しますと「腰周りが水に浸かっている様に冷えて重だるいもの。」になります。
張仲景先生の文にしては冗長なので、もしかしたら後の世代の先生の注釈文が紛れたのかもしれませんね。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
水毒を除く:茯苓、白朮
緩和:甘草
中・下焦を温める:乾姜
の様になっています。この処方のポイントは乾姜になり、この生薬が腰回りを温める事で水毒の排出を促しています。
これが桂枝に変わると、上焦の水毒を除く苓桂朮甘湯になりますので、この辺りは漢方処方の奥深い部分ではないでしょうか。
また、本処方の条文で「かえって渇せず、小便自利」とありましたが、これはその後の文の通り、病が下半身にある事を示しています。
これが桂枝の要る場合、身体の上半身に熱が滞留している訳ですので「渇し、小便不利」となります。太陽膀胱経が流れると尿が出てきますので、苓桂朮甘湯の場合は解表するような状態ではない事が解ります。
本処方が適応する所見は、条文そのまま「腰が水に浸かっている様に冷えて重い」という症状になります。よく「腰回りが冷えて」という方はこれが良いでしょう。
冷えを自覚していなくても、腰部痛や生理痛が酷い場合に使用の場がある処方です。私は後陣痛に使用して喜ばれました。
芍薬が入っていませんので、脾胃が弱い方でも使いやすいのが特徴です。
鑑別
苓姜朮甘湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに苓桂朮甘湯、真武湯、芎帰調血飲があります。それぞれについて解説していきます。
苓桂朮甘湯
苓姜朮甘湯と苓桂朮甘湯は、その構成生薬が一つ違うだけであり、名前も似ており鑑別対象となります。
両者のポイントは、繰り返しになりますが「乾姜か桂枝かの違い」だけになります。ですので、鑑別ポイントはこの2つの生薬の差になります。
乾姜は、中下焦の内部のみを温めるという効能があります。この部分を集中的に温める事で、薬の作用点を中下焦に持ってきている訳です。
対して、桂枝(桂皮)は内部の気(エネルギー)を外に出し、体表を温めるという効能があります。
ですので、身体の下焦から中・上焦まで順に温め、最終的に頭部から全身に太陽膀胱経や脈外を中心に気が走行して温まります。
その上焦の水滞が原因となっている苓桂朮甘湯証は、その気の流れに乗って水毒が除かれます。
こういう効き方をしますので、一味の違いが全然違う効能になる事が解ります。
鑑別ポイントは、苓姜朮甘湯の証があるかどうか、桂枝の証があるかどうかになります。
つまり、腰部の痛みや腰の重だるさ、冷たさがあれば苓姜朮甘湯、頬が桜色に逆上せている、眩暈等の所見が有れば苓桂朮甘湯という鑑別になります。、
【漢方:39番】苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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真武湯
苓姜朮甘湯と真武湯は、どちらも中下焦を温める処方であり、鑑別対象となります。
真武湯の場合、腰部を中心とした腰の冷水の毒というよりは、全身の陽虚と水毒が溜まっている状態に使用します。
また、その処方中に芍薬を含みますので、ある程度食欲が残って居ないと使えないという事になります。
苓姜朮甘湯の場合、その所見が腰部に集中しているという所で真武湯とは違います。また、食欲が無くても使える所がポイントです。それらの違いが鑑別ポイントとなります。
【漢方:30番】真武湯(しんぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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芎帰調血飲
苓姜朮甘湯を応用的に使う事で、生理痛や産後の後陣痛等に対応する事が可能です。この場合、鑑別は芎帰調血飲となります。
どちらが良いかどうかは、紙一重である事が多いので難しいですが、全身状態での虚状で「血を動かすだけの力があるかどうか?」を診る事でそれが可能となります。
苓姜朮甘湯の方が芎帰調血飲よりも虚状が強く、食事もとれない場合もあります。解らなければ、先に苓姜朮甘湯を使ってみてアタリを見るという方法が良いでしょう。
芎帰調血飲が先ですと、逆に具合が悪くなることが多いです。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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