ポイント
この記事では、黄芩湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、黄芩湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、黄芩湯という漢方薬が出ています。このお薬は、秋冬の胃腸風邪で下痢をしている場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、下痢を起こしている原因を身体の外に出して早く治してさせてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、黄芩湯という漢方薬が出ています。このお薬は、秋冬の胃腸風邪で下痢をしている場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、下痢を起こしている原因を身体の外に出して早く治してさせてくれますので、一度、試してみてください。
下痢は積極的に止めず、早く治す事で自然と止まるように持っていく薬になります。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
間質性肺炎
冷え
添付文書
三和黄芩湯(外部リンク)
黄芩湯についての漢方医学的説明
生薬構成
黄芩4、大棗4、甘草3、芍薬3
出典
傷寒論
条文(書き下し)
「太陽と少陽との合病,自下痢の者は黄芩湯を与う。」
条文(現代語訳)
「太陽病と少陽病との合病で,下痢をしているものは黄芩湯を与う。」
解説
今日は、黄芩湯についての解説になります。本処方は、一般的に下痢や胃腸炎によく使われています。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は傷寒論からの出典で、「太陽病と少陽病との合病で,下痢をしているものは黄芩湯を与う。」とあります。
この文章は簡潔に書かれておりますが、非常に難文です。
通常、太陽病というのは、上焦に熱が溜まって頭痛や発熱、悪寒悪風等の症状を出す病態です。
また、少陽病というのは、半表半裏と呼ばれる「身体の表面と裏(胃腸等)の間の中途半端な部分」に病邪が入り込んで抜けない病態を指します。
本処方の場合は、その2つの病態を合わせた状態にあるという事になります。
その状態で下痢が起こっている場合に、本処方を使用する状態にあると書かれています。
もう少し条文を探っていきたいのですが、これ以上進む為には構成生薬も観る必要がある為、先に構成生薬を見ていきます。
構成生薬は、グループ分けしますと、
肺熱を清す:黄芩
緩和・分散:大棗、甘草
肝の補陰:芍薬
の様になっています。黄芩以外は桂枝湯由来で、桂枝湯から桂枝と生姜を抜いて黄芩を足したものが黄芩湯になります。
処方名に黄芩があり、また、作用も桂枝生姜に匹敵するほど強力ですので、桂枝湯フラグメント部分が下支え(臣佐使)で、黄芩がメインの生薬(君薬)であることが解ります。
黄芩は肺熱を取り、桂枝湯フラグメント部分は栄衛の栄の効能(全身の血の巡りや栄養を巡らせる)となります。
ここからは、条文と構成生薬両面を見ながら、解説していきます。
まず、条文の「太陽病」の部分です。太陽病の治療は、通常、桂枝や麻黄の様な解表薬と呼ばれる、体表を温めて汗を出す生薬が使われます。
ですが、それらの生薬は使われておらず、代わりに黄芩が配されています。
また、少陽病の治療は和法と呼ばれ、通常は柴胡を使用して、身体の上下左右のバランス不全を治す方法が取られます。
ですが、その柴胡も使われおらず、代わりに黄芩が配されています。
黄芩という生薬の特性は、肺の熱を下に下げるという働きがあるとされています。また、麦門冬と違い、黄芩の性質は燥となります。乾かすという作用が強いという事ですね。
また、黄芩が熱を取る肺という臓は上焦にあり、そこから、「合病」という言葉の意味が判明します。
つまり、少陽の病位よりは表で、太陽の病位よりは下になる病位が「太陽と少陽との合病」という事になります。
合病というと、太陽と少陽それぞれに病邪があるという事ではなく、少陽よりは表、太陽よりは裏の位置に病邪が存在する事を示します。
このように考えると、黄芩が何故使われるかという事と、条文の意味が上手くリンクしてきます。
肺は腕と関係が深く、黄芩で取れる肺熱は手の火照りとなって現れる事が多いです。また、燥性の生薬になりますので、皮膚粘膜の乾燥は無い事が解ります。
この場合、表証ではありませんので桂枝は使われず、また、半表半裏の熱でもありませんので肝の熱を取る柴胡は使われません。肺の熱を取る必要があるという事ですね。
また、桂枝湯フラグメント部分について解説します。この部分は、下痢止めの効などは無く、単に全身に栄養を届ける働きだけとなっています。
下痢の部分はどうなるのでしょうか。
恐らくですが、黄芩の働きである上焦の熱を下方に下げるという効果が働いているのだと考えられます。
肺の熱を下方に下げる事で胃腸が温まり、その影響で下痢が解消されるのでしょう。
他にも、肺の裏が大腸となりますので、肺の熱が取れる事で大腸の動きが正常化されるとも取れます。
また、黄芩湯は積極的に下痢を止めないという判断をする事で、病邪を外に排出する事も期待しています。病邪を排出しながら栄を整える事で、胃腸をはじめとした全身のバランスを取るという働きをしているという訳ですね。
更に言いますと、黄芩湯は傷寒の邪による証になりますので、秋冬の寒い時期の寒邪風邪による邪気の侵襲になります。
以上、まとめますと、黄芩湯は「少陽の部位より浅めで太陽の部位よりは深い位置に風寒の邪気があり、それにより五臓では肺の位置に乾燥を伴わない熱があるもので、発熱や口の苦み、首筋のコリや悪寒悪風があり、時に手が火照り、顔の鼻周囲が赤く、食欲はあるが下痢をしているもの。」と言えます。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
黄芩湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに人参湯、清暑益気湯、胃苓湯、半夏瀉心湯があります。それぞれについて解説していきます。
人参湯
黄芩湯と人参湯は、共に下痢に使用する処方の為、鑑別対象となります。
人参湯の場合、乾姜が配されている所から胃腸の冷えが強いという事が解ります。胃腸をはじめとする身体の冷えが原因となり、下痢が起こっているという病態となります。
ですので、その所見としては顔色が青黒若しくは青白く、食欲や元気が無いのが特徴です。
黄芩湯の場合、肺に熱がある訳ですから、顔がどちらかというと熱く、手が火照りやすくなります。
また、芍薬が配されている所から食欲は残っており、元気もあります。その辺りが鑑別ポイントとなります。
【漢方:32番】人参湯(にんじんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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清暑益気湯
黄芩湯と清暑益気湯は、共に下痢に使用する処方の為、鑑別対象となります。
清暑益気湯は、その名の通り夏場を中心として暑い時期によく使用されます。また、温病の薬としても使用されます。
温邪や暑邪の薬という訳です。また、麦門冬が入っておりますので、肺の熱燥があるのが特徴です。喉が渇く、皮膚粘膜の乾燥を伴ってきます。
対して黄芩湯は、太陽病と少陽病の中間という事で、傷寒の邪による秋冬に起こりやすい胃腸炎に使用されます。
寒邪、風邪の薬ですので、寒気や悪風を伴います。また、黄芩は肺の熱を取りますが、肺を乾燥させるのが特徴で、そこが麦門冬処方と違う部分です。
ですので、皮膚粘膜の乾燥や喉の渇きというのはありません。似た様な病態ですが、両処方の特徴を掴んでおくと容易に鑑別出来ます。
【漢方:136番】清暑益気湯(せいしょえっきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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胃苓湯
黄芩湯と胃苓湯は、共に下痢に使用する処方の為、鑑別対象となります。
胃苓湯は、平胃散と五苓散を合方した処方で、厚朴が配されている処方となります。厚朴が配されている処方は、その病態に胃の詰まりがあります。
胃の詰まりがある場合、それを解消しようと食べ過ぎ傾向となり、また、我が強くなってくる傾向になります。
胃苓湯は、その状態で食べ過ぎ飲み過ぎてお腹を壊したものに使用します。黄芩湯の場合は厚朴を含みませんので、食べ過ぎ傾向ではありません。
これらの部分で両処方の鑑別が可能となります。
【漢方:115番】胃苓湯(いれいとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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半夏瀉心湯
黄芩湯と半夏瀉心湯は、共に下痢に使用する処方の為、鑑別対象となります。
半夏瀉心湯は、その構成生薬に黄連を含み、神経不安や不眠が現れるのが特徴となります。逆にお腹は冷えてくるので、下痢傾向となります。
黄芩湯の場合、心に熱はありませんので、神経不安等の所見はありません。また、お腹の冷えも黄芩湯の場合はありませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
【漢方:14番】半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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