ポイント
この記事では、二陳湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、二陳湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、二陳湯という漢方薬が出ています。このお薬は、妊娠時のつわりや、吐き気がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の動きをよくしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、二陳湯という漢方薬が出ています。このお薬は、妊娠時のつわりや、吐き気がある場合によく使われるお薬です。
あまり聞かない名前のお薬ですが、他の漢方薬にこの処方で中心的な働きをする生薬が混ざっていますので、そういう意味ではよく使われる漢方薬の一つになります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の中のべっとりとした湿気を取って、動きをよくしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
添付文書(ツムラ81番)
ツムラ二陳湯(外部リンク)
二陳湯についての漢方医学的説明
生薬構成
半夏5、茯苓5、陳皮4、甘草1、生姜1
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「痰飲が患をなし、あるいは嘔吐悪心、あるいは頭眩心悸、あるいは中脘(ちゅうかん:鳩尾と臍の中間にある胃もたれのツボ)快からず、あるいは発して寒熱をなし、あるいは生冷を食うによって、脾胃和せざるを治す。」
条文(現代語訳)
「痰飲の邪気が病気を作り、あるいは嘔吐悪心、あるいは頭眩動悸、あるいは胃の辺りが嫌な感じで、あるいは発熱して熱が出たり引っ込んだりし、あるいは冷たいものを食べて、脾胃の動きが悪くなるものを治す。」
解説
今回は二陳湯の解説になります。本処方は、一般的には悪心や嘔吐に使われる処方となります。
漢方処方全体を見ますと、それほど使われている印象は無い処方ですが、本処方の中核に配される陳皮と半夏は、脾胃剤グループの他処方にも配合されている事があります。
よく見られる代表例は、
六君子湯
茯苓飲合半夏厚朴湯
になります。どちらも、脾虚か胃実かという違いはありますが、痰を除いて胃を動かすという効果は同じです。
これらの処方、特に六君子湯は非常に良く出る処方ですので、そういう意味では、二陳湯は、非常によく使われる処方と言えます。
それでは、まず条文を見ていきます。条文を要約しますと、「痰飲の邪気や冷湿の邪によって、吐き気、嘔吐等胃の調子が悪くなったもの。」となります。
逆に言いますと、「胃を温めて湿邪を取って動きを良くしましょう。」という処方という事になります。
また、条文以外では、妊婦のつわり時への使用例が文献にて報告されています。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
去痰・利水:半夏、茯苓、生姜
健胃:陳皮:生姜
諸薬を和す・緩和:甘草
去寒:生姜
の様になります。
これらの構成から見ても、本処方は「湿邪をさばいて胃を温めて動かす処方。」と言えます。
ここで、「胃を動かす」という事について少し考えてみます。胃を動かすというのは、消化をしながら食道側から十二指腸や小腸側に食物を流す事です。
この機能が何らかの理由で動いていない場合に、脾胃剤や厚朴剤と呼ばれる処方を使って復活させます。
大抵は、痰の様な湿邪が邪魔をして動かない事が多いので、陳皮と半夏は使いやすい組み合わせだと言えます。
また、処方中の茯苓はサラサラの湿邪である飲(いん)をさばく生薬になります。二陳湯には、それらの生薬がバランスよく配合されている事になります。
以上、まとめますと、二陳湯は「痰飲の邪気や冷湿の邪によって、吐き気、嘔吐等胃の動きが悪くなったものに適した処方。」と言えます。
本処方は、裏寒や脾胃の虚がある場合は使用不適になりますので、注意が必要です。脾胃の虚がある場合は、人参の入った四君子湯や六君子湯等が適応となります。
鑑別
二陳湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに小半夏加茯苓湯、乾姜人参半夏丸、六君子湯、茯苓飲合半夏厚朴湯があります。
これらの処方は、全て熱状が無く脾胃に何らかの異常がある場合に使用される処方となります。それぞれについて解説していきます。
小半夏加茯苓湯
二陳湯も小半夏加茯苓湯も、妊娠時のつわりに使用される処方であり、鑑別対象となります。
小半夏加茯苓湯に陳皮と甘草を足したものが二陳湯です。
小半夏加茯苓湯の方は、条文中に「にわかに」という言葉を含む為、嘔吐所見が急で激烈なものになります。つまり、急性期の処方と得います。
しかし、二陳湯の場合は処方中陳皮と甘草を含む為、処方に緩和作用が働き、胃の動きもよくなりますので亜急性の処方として使用できます。
また、陳皮の有無が鑑別ポイントとなりますので、吐き気はありますが食欲が問題ない場合には小半夏加茯苓湯、若干継続的に食欲落ち気味の場合は二陳湯で良いでしょう。
続きを見る【漢方:21番】小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
乾姜人参半夏丸
二陳湯も乾姜人参半夏丸も、妊娠時のつわりに使用される処方であり、鑑別対象となります。
乾姜人参半夏丸は、医療用漢方製剤にはありませんが、一般用医薬品に製剤があります。胃腸の冷えや弱りが顕著な場合には、人参や乾姜といった生薬で温める必要があります。
顔色が全体的に青白い、痩せていて食欲の無い妊婦さんは、二陳湯や小半夏加茯苓湯よりもこちらの方が合う場合が多くあります。
もし使える様なら準備しておいた方が良い処方の一つになります。
六君子湯
六君子湯は、処方中に二陳湯の構成生薬である陳皮・半夏を含む為、鑑別対象となります。
六君子湯は、脾虚の四君子湯がベースとなり、そこに二陳湯の中核である陳皮と半夏が加わった処方となります。
ですので、二陳湯には無い、脾胃の弱りという所見があります。脾胃が弱りますと、食欲が湧かずに肌肉部が補われない為、痩せてきます。
また、口に熱を帯びて匂ったり、胃が動かない事が原因で咳になる場合もあります。
ですので、二陳湯との区別は脾虚の所見の有無、で鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
茯苓飲合半夏厚朴湯
茯苓飲合半夏厚朴湯は、処方中に二陳湯の構成生薬である陳皮・半夏を含む為、鑑別対象となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯は、厚朴剤と呼ばれる、食べ過ぎによる食滞が胃にあり、喉がイガイガしたり、咳になったりする場合に使用します。
固い顔つきの方が多く、我が強く、よく喋るのが特徴です。また、食欲は無いと仰る方が多いのですが、体つきはそこまで痩せていない場合が殆どです。
痩せていても動きに問題が無く、目に力があります。
ですので、二陳湯との鑑別ポイントは、厚朴剤の所見(食べ過ぎ、胃のもたれ、固い顔つき、よく喋る、我が強い等)があるかどうかになります。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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