ポイント
この記事では、桂枝加黄耆湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、桂枝加黄耆湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、桂枝加黄耆湯という漢方薬が出ています。このお薬は、汗が出て止まり難い場合やあせも等によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、汗を止めて症状を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、桂枝加黄耆湯という漢方薬が出ています。このお薬は、汗が出て止まり難い場合やあせも等によく使われるお薬です。
汗が出て尿が出にくい場合にも使われます。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、汗を止めて症状を良くしてくれますので、一度、試してみてください。
身体が逆上せてボーッとしているのにも良いです。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、発赤、そう痒等)
冷え
添付文書(東洋薬行26番)
桂枝加黄耆湯(外部リンク)
桂枝加黄耆湯についての漢方医学的説明
生薬構成
桂枝4.0g、生姜4.0g、芍薬4.0g、甘草2.0g、大棗4.0g、黄耆2.0g
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「諸病黄家(しょびょうおうけ:諸々の原因による身体が黄色くなる病),ただ其の小便を利すべし,假令(けりょう:おおよそ)脈浮なる者は,當(あだて:目当て)に汗を以て解すべし,桂枝加黄耆湯之を主る。」
「黄汗(おうかん)の病は両脛(りょうすね:両足のすね)自ら冷ゆ,假令発熱するも此(これ)は歴節(れきせつ:関節炎や関節痛)に属す,食し已て(しょくしいて:食べ終わって)汗出で,又身常に暮に盗汗出る者は,此れ(これ:これは)労気なり,若し汗出で已て(もしあせいでいて:もし、発汗が止み)反て発熱する者は,久々其身甲錯(きゅうきゅうそのしんこうさく:続くと全身の皮膚は乾燥)す,発熱止まざる者は,悪瘡(あくそう:たちの悪い腫れ物)を生ず,若し身重く,汗出で已て輙ち(すなわち:つまり)軽き者は久々必ず身潤す(じゅんす:筋肉が痙攣する),即ち胸中痛む,又腰より以上必ず汗出で,下汗無く,腰髖弛痛(ようかんしつう:腰骨が痛み),物あり皮中に在るの状の如し,劇き者は食すること能わず,身疼重,煩躁,小便不利す,此を黄汗と為す,桂枝加黄耆湯之を主る。」
条文(現代語訳)
「身体が黄色くなるのには諸々の原因があるが,とにかくその小便を出すべし,おおよそ脈が浮の者は,目当てとして汗を以て解すべし,桂枝加黄耆湯之を主る。」
「黄汗(おうかん)の病は両足のすねが自然と冷える,おおよそ発熱するもこれは関節炎や関節痛等に属す,食べ終わって汗が出で,又、全身が常に夕方以降に盗汗となる者は,これは労気である。もし、発汗が止み、かえって発熱する者は,続くと全身の皮膚は乾燥する。発熱止まない者は,たちの悪い腫れ物を生じ,もし全身が重く,汗が出で終わった後で軽くなる者は続くと必ず身体の筋肉が痙攣し、胸中を痛む。又、腰より上に必ず汗が出で,腰より下には汗が無く,腰骨が痛み,皮膚の中に物がある様な感覚異常があり,激しいものは食べる事も出来ず,全身が痛みで重く,もだえ,小便が出ない。これを黄汗とする,桂枝加黄耆湯が良い。」
解説
今回は、桂枝加黄耆湯の処方解説になります。この処方はあまり使われる処方ではありませんが、漢方医を中心として寝汗やあせもに使用されています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は非常に長いのですが、要約すると「身体が黄色くなり、脈が浮いて小便が出にくいもので、例えば疲れて皮膚乾燥や筋肉の引き攣りがあり、腰部から下に痛みや感覚異常があるもの。」となります。
下の条文の文章は、傷寒論が著された時代の文章にしては異常に細かく長いので、後世で付け加えられた可能性も否定できませんので、参考程度で良いと思われます。
また双方の条文に「黄家」「黄汗」とありますが、ここでは触れずに先に構成生薬を見ていきます。
構成生薬は、それぞれ
発表、表を温める、経を巡らせる、栄衛の調節:桂枝、生姜、芍薬、甘草、大棗
肺気を補う:黄耆
と分かれます。黄耆以外は桂枝湯になりますので、処方名の通り、桂枝湯に黄耆を足した処方になります。
桂枝湯という処方には、汗が出ないという事ではなく、汗がうっすらと出て表面が少し濡れて、また、表虚がある為に顔の頬が火照って皮膚を触ると冷たい、という所見が出てきます。
黄耆という生薬は、発汗が止まず気力体力が削られる場合で、肌荒れがある等の場合に使用されます。桂枝湯の効果+肺気を補うという作用です。
簡単な目標としては、「発汗が止まらず尿の出にくいもの。」と言えます。それに続発して、「あせもや寝汗」といった症状が出てきます。
さて、構成生薬の解説が終わりましたので、「黄家」「黄汗」について見ていきます。
今の所、「黄家」「黄汗」については現代医学的にはよく解っていません。一説に「黄疸」とするものがありますが、そちらは茵陳蒿湯や茵蔯五苓散等の処方が対応となります。
処方構成からは、発汗が続いて皮膚に張りが無くなり、栄養不良の様な感じになっているものと考えられます。
また「黄汗の病」については、「汗が黄色くなり」という文は無く、どちらかと言うと腰部で気の流れが停滞している様な記述が見られます。
なので、どちらかというと「黄家」「黄汗」という言葉に囚われず、証決定においては参考程度に留めた方が良いでしょう。
それより、桂枝湯の特徴と黄耆を使う場合の所見という「確実な情報」を重点的に見ていった方が間違いは少なくなります。
以上、まとめますと、桂枝加黄耆湯は「頬が桜色に逆上せる等の表証があり、発熱や発汗が続くなど盗汗があり、皮膚を触ると濡れて冷たく、反って尿が出にくく、時として腰痛や感覚異常、皮膚が黄色みがかる、肌荒れ等があるもの。」となります。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合は不適になるので注意が必要です。
鑑別
桂枝加黄耆湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに葛根加朮附湯、黄耆建中湯、防己黄耆湯があります。それぞれについて解説していきます。
葛根加朮附湯
葛根加朮附湯と桂枝加黄耆湯は、使用条件が似ている為鑑別対象となります。
これら2処方の根本的な違いは、元々の処方が葛根湯か桂枝湯かという違いになります。
ですので、鑑別点はただ一点「汗が出ているか出ていないか。」です。葛根加朮附湯は汗が出ず、桂枝加黄耆湯は汗が出過ぎる傾向になります。
これは、麻黄と葛根の有無から来るものとなります。
【漢方:141番】葛根加朮附湯(かっこんかじゅつぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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黄耆建中湯
黄耆建中湯と桂枝加黄耆湯は、使用条件が似ている為鑑別対象となります。
黄耆建中湯は、桂枝湯の芍薬を倍量にして膠飴という飴を加えた「小建中湯」に黄耆を足したものとなります。
芍薬が倍量になりますと、肝陰を補う作用が増強され、結果的に支配下である筋肉が柔らかくなります。
簡単に言いますと、脾胃から肝への気血の通りを良くする処方となります。
ですので、脾胃の支配下である肌肉から漏れ出た汗がひっこみ、腹直筋や大腿部の筋が柔らかくなります。
また、全身の栄養状態も改善(気血を補う)されますので、元気が出てきます。
桂枝加黄耆湯の場合、そこまで気力が落ちていて筋肉の栄養不良が起こっている訳ではありません。ですが、実臨床の場では区別がつかない事も多いです。
ですので、迷った場合はとりあえず先に手に入りやすい黄耆建中湯を服用し、ダメなら桂枝加黄耆湯、という選択でも良いでしょう。
【漢方:98番】黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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防己黄耆湯
防己黄耆湯と桂枝加黄耆湯は、使用条件が似ている為鑑別対象となります。
防己黄耆湯は、皮膚にしまりがなくブヨブヨで、汗をかき色白な方によく使われます。その処方中には桂枝加黄耆湯と違って桂枝を含みません。
ですので、頬が桜色の様な逆上せ症状は無く、発熱等もしていません。同じ汗が出ている時の処方ですが、周辺の所見が全然違います。
【漢方:20番】防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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