ポイント
この記事では、啓脾湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方」のムセキです。
本記事は、啓脾湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、啓脾湯という漢方薬が出ています。このお薬は、食欲があまり無く、腹痛や下痢、嘔吐、お腹の張り等がある場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃腸を丈夫にして下痢腹痛お腹の張り等の症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、啓脾湯という漢方薬が出ています。このお薬は、食欲があまり無く、腹痛や下痢、嘔吐、お腹の張り等がある場合によく使われるお薬です。
小児の胃腸症状に継続して飲むという使い方も昔はされていました。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃腸を丈夫にして下痢腹痛お腹の張り等の症状を改善させてくれますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
過敏症(発疹、蕁麻疹等)
冷え
添付文書(ツムラ128番)
ツムラ啓脾湯(外部リンク)
啓脾湯についての漢方医学的説明
生薬構成
蒼朮4、茯苓4、山薬3、人参3、沢瀉2、陳皮2、甘草1、蓮肉3、山査子2
出典
万病回春
条文(書き下し)
「食を消し瀉を止め、吐を止め疳(かん:ひきつけや夜泣き等)を消し、黄を消し脹(ちょう:お腹が張る)を消し、腹痛を定め 脾を益(ま)し胃を健やかにす。小児常に傷食(しょくしょう:食べ物で胃腸が弱るもの)を患えば、之を服したちどころに 愈(い)ゆ。」
条文(現代語訳)
「胃の中の不消化物を消して下痢を止め、嘔吐を止めひきつけを消し、黄疸を消しお腹が張るのを消し、腹痛を治めて胃腸を元気にする。小児が常に食べ物による胃腸障害を患えば、この薬を服用したらたちどころに癒(い)える。」
解説
今回は、啓脾湯の処方解説になります。この処方は、一般的に食欲が無いもの、栄養不良等に使われています。
それでは、まずは条文を見ていきます。条文は、要約しますと「食事により脾虚が起き、下痢、腹痛、ひきつけ、お腹の張り等があるもの。小児の胃腸障害に良い。」という事です。
食べ疲れで腹痛や下痢、吐き気などが起こってる場合に、昔から使用されてきた処方となります。
条文に有るとおり、小児に続服させて胃腸の状態を健やかに保つ効もあります(四君子湯証との鑑別が必要)。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、それぞれ
利水利湿:蒼朮、茯苓、沢瀉
補気健胃健脾:蒼朮、人参、陳皮、蓮肉、山薬、山査子
補腎:山薬
心腎交通をつける:蓮肉
諸薬の調和、緩和:甘草
の様になります。
構成生薬のうち、四君子湯由来のものが蒼朮、茯苓、人参、甘草となります。
後は、利湿薬の沢瀉や食滞を消す山査子、心腎交通をつけて身体の上下のバランスをとる蓮肉等が配されています。
本処方の所見は、四君子湯がその処方の中核にあるという事より脾虚気虚がメインであるという事が解ります。
そこに、消化不良があり、食事したものが嘔吐や下痢、腹痛を引き起こしている状態であると読み取れます。
ですので、中肉中背やがっしりとした身体というよりは、普段から食べられず、消化不良を起こしている線の細い方が適している処方になります。
また、陳皮が入っていますので、四君子湯より胃腸を動かす力が強く出る処方となります。
以上まとめますと、啓脾湯は「脾虚(胃腸虚弱)がある線の細い方が、食事の影響で下痢、腹痛、ひきつけ、お腹の張りが出ているもの。小児でこの様な症状がある場合は著効する処方。」となります。
本処方は裏寒がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
啓脾湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに四君子湯、帰脾湯、六君子湯があります。それぞれについて解説していきます。
四君子湯
啓脾湯と四君子湯は使用目標がかなり似ており、鑑別対象となります。
四君子湯は、とにかく胃腸が弱く、身体の線が細く、覇気が無く、食欲の無いものが目標となります。
啓脾湯の様に、腹痛や下痢、嘔吐といった症状は少ない若しくは無く、とにかく元気が無い、食べられないものになります。
ですので同じく線の細さや元気の無さといった所見はありますが、その他に条文にある通りお腹の張り、嘔吐、下痢、腹痛といった症状が出てきましたら啓脾湯で良いでしょう
両処方の鑑別ポイントはこれらの違いになります。
啓脾湯は、四君子湯と同じく脾虚を目標とします。しかし、判断が微妙な時もありますので、迷った際は先に四君子湯を選んだ方が無難でしょう。
迷った際に啓脾湯を選んだ場合、四君子湯証だと山薬や蓮肉が障る場合があります。
【漢方:75番】四君子湯(しくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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帰脾湯
啓脾湯と帰脾湯は両処方共に脾虚の存在を目標としては使用する処方であり、鑑別対象となります。
両者の違いは、帰脾湯は心虚(心気虚心血虚)も存在するという所です。症状は、ボーッとして考えられない、物を忘れやすい、気疲れしている、不眠等です。
その様な症状が顕著に出ていたら、啓脾湯より帰脾湯の方が良いでしょう。
逆に、腹痛やお腹の張り、下痢などの症状が出て精神症状が出てなければ啓脾湯が適応となります。
【漢方:65番】帰脾湯(きひとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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六君子湯
啓脾湯と六君子湯は使用目標が似ており、鑑別対象となります。
六君子湯の場合は、腹部症状というよりは胃部不快感や時に咳などの症状が強く出てきます。どちらも四君子湯ベースの処方ですが、その様な違いがあります。
また、六君子湯は胃腸風邪の処方としてもよく使われます。啓脾湯は、あまり風邪で使われるイメージはありません。
【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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