ポイント
この記事では、平胃散についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、平胃散についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、平胃散という漢方薬が出ています。このお薬は、消化不良で胸やけする場合によく使われるお薬です。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の消化を助けて、動きを良くしますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食べ過ぎますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、平胃散という漢方薬が出ています。このお薬は、胃腸に未消化物が残って胸やけするとか、口の中がすっぱくなる場合によく使われるお薬です。
食事によって胃腸が疲れている場合によく使います。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、胃の消化を助けて、動きを良くするお掃除漢方です。一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食べ過ぎますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
冷え
添付文書(ツムラ79番)
ツムラ平胃散(外部リンク)
平胃散についての漢方医学的説明
生薬構成
蒼朮4、厚朴3、陳皮3、大棗2、甘草1、生姜0.5
出典
和剤局方
条文(書き下し)
「脾胃和せず、飲食を思わず、心腹脇肋(しんぷくきょうろく:鳩尾、脇、あばら)、脹満刺痛、口苦くして味なく、 胸満短気、嘔噦悪心(おうわいおしん:吐く他に気持ちが悪く)、噫気呑酸(あいきどんさん:呼吸が酢を飲んだようなにおい)、面色萎黄(めんしょくいおう:顔色が黄色く萎え)、肌体痩弱(きたいそうじゃく:肌や身体が痩せて弱り)、怠惰嗜臥(だらけて横になって)、体重く 節痛(せっつう:節々の痛み)するを治す。常に服すれば、気を調え、胃を温め、宿食を化し、痰飲 を消し、風寒冷湿、四時非節の気(しじひせつのき:季節それぞれの邪気)を避く。」
条文(現代語訳)
「胃腸の動きや消化が悪く、食欲が無く、胸全体が張って刺す様に痛み、口が苦く味覚が無く、呼吸が浅く、嘔吐や気持ち悪い等があり、息が酸っぱく、顔色が黄色く萎えて、皮膚や身体が痩せて弱り、だらけて横になり、身体は重く、節々が痛いものを治す。常に服用すれば、気を調えて、胃を温めて、胃腸の未消化物を消し、痰を消し、風・寒・冷・湿等の、季節それぞれの邪気を避ける事が出来る。」
解説
今回は、平胃散の処方解説になります。一般的にはそれほど使われず、胃苓湯の方がよく使われるイメージです。
それでは、条文を見ていきます。条文は和剤局方からの出典で、非常に長く書かれています。要約しますと、「胃腸の調子が悪く、食欲不振や胸やけ等の不調があり、身体が弱って節々が痛むものに使用する。」処方になります。
条文だけを見ますと、「食欲不振」「身体が痩せて弱り」等の所見が見られますので脾虚の方剤と思われますが、後で「宿食を化す」という語句が出てきますので違う事がわかります。
次に、構成生薬を見てみます。構成生薬は、グループ分けしますと以下の様になります。
除湿:蒼朮、生姜
健胃:陳皮、厚朴、生姜、蒼朮
脾胃や肺を温める:生姜
分散・緩和:大棗、甘草
平胃散の特徴は、厚朴が配されているという所になります。厚朴という生薬は、胃の食滞を除くという作用があるので瀉剤になります。
条文に「宿食を化す」という文言が入るのは、この特徴が影響しています。平胃散は、厚朴の作用と他の生薬の作用が合わさり、胃の掃除をする処方と言えます。
掃除をした結果、胃腸の調子が整うという理屈になります。
つまり、胃腸にとって瀉剤として働くという事は、四君子湯や六君子湯、補中益気湯等の脾虚処方とは対極に位置する処方になります。
よく患者さんで、「食べられない食べられない」と言ってて太っている方、肉付きが良い方は、大体食べ過ぎ傾向になります。
平胃散も含まれますが、厚朴が入った処方を「厚朴剤」としてまとめる事が出来ます。この厚朴剤の特徴としては、「胃実である」部分になります。
胃実という事は五行の「意」が実しているという事になります。言い換えますと、意が強いという事は意志が強いという事になり、我が強いとも言えます。
よく厚朴剤の患者さんは治療家の話を遮るように、覆いかぶせるように喋る事があります。怒ってはいないのですが、「自分の話を聞いて欲しい。」という感じで話されます。
実臨床においては、この部分で「訴えが多い」と捉えてしまい、加味逍遥散等を処方するミスをされる先生が多いです。
厚朴剤の特徴としては、固い顔つきの方が多いです(この所見も、柴胡剤との鑑別を難しくしている原因です)。
また、平胃散に限って言えば、気を落とす処方になりますので、どちらかと言うと陽気な方でお喋り、食欲過多な方が多い印象です。
条文に「飲食を思わず」とありますが、実際は詰まった胃を無理やり押し流そうと、食事を積み重ねる方も多いです(自信の消化能力に対しての食べ過ぎなので、訴えで「食欲が無い」と仰ることもあります。)。
ですので、平胃散証の方は食事を少なくするというのが鉄則になります。
以上をまとめますと、平胃散は「胃に食滞があり、どちらかというと食べ過ぎで気分が陽気で、我が強くよく喋る方の消化・健胃薬。」と言えます。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合は不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
平胃散と他処方との鑑別ですが、代表的なものに四君子湯、茯苓飲合半夏厚朴湯、九味檳榔湯(くみびんろうとう)、胃苓湯があります。それぞれについて解説していきます。
四君子湯
四君子湯と平胃散は、同じ胃腸に対する処方であり、鑑別対象となります。
ここでは、代表として四君子湯を鑑別で取り上げていますが、四君子湯を含む処方全般的に当てはまります。
四君子湯は脾虚の処方であり、胃腸の力自体が弱って、気虚を呈している状態の方に使います。
逆に、平胃散は厚朴を含んでおり、胃実という胃腸に余分な毒(食滞、水滞、気滞等)がある場合に使用します。また、人参を構成生薬では含みません。
四君子湯と平胃散の決定的な違いは、その体格に在ります。
平胃散の方は、手の甲、掌、頬等の肉付きは問題無い場合が殆どです。また、顔つきが固く、頑固そうなイメージになります。
しかし、四君子湯は身体が痩せに痩せて弱り、気虚で目に力が無く、食欲がありません。その辺りで鑑別が可能となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯
茯苓飲合半夏厚朴湯と平胃散は、同じ厚朴剤であり、鑑別対象となります。
平胃散は、どちらかというと陽気な方が多いのですが、逆に茯苓飲合半夏厚朴湯の方は陰気な方が多い印象です。
これは、全く根拠が無い訳ではなく、半夏厚朴湯の中に蘇葉を含むため理気作用が出ます。
逆に言いますと、理気が必要な方であると言え、気分がふさぎ込みがちな方に適応があります。
又、茯苓飲の中には人参を含む為、胃腸の力は平胃散の方が強いと言えます。臨床上も、平胃散の方が肉付きが良いイメージがあります。
この2処方の鑑別は、これらの点で出来ます。
九味檳榔湯
九味檳榔湯と平胃散は、同じ厚朴剤であり、鑑別対象となります。
九味檳榔湯は、平胃散よりも胃の冷えが強く、水滞が強くある場合に使用します。また、胃の詰まりが酷いため、便の出も悪いのが特徴です。
また、九味檳榔湯には平胃散には入っていない桂皮が含まれています。ですので、逆上せ症状が出てきます。胃の詰まりも酷い為、ダブルで気水の流れが止まって上逆しています。
その為、吐く息が非常に匂ってきます。平胃散でも匂いますが、それがもっと酷くなった感じです(離れていても臭います)。
これらはその辺りで鑑別が可能です。
胃苓湯
胃苓湯は、平胃散の派生処方であり、鑑別対象となります。
胃苓湯は、平胃散に五苓散を足した処方で、平胃散証に五苓散の水逆と逆上せが加わった所見が現れます。
ですので、平胃散には無い浮腫みがあったり、頭痛、逆上せ等の表証が現れてくるのが特徴です。表証の特徴として特徴的なのは、頬が桜色という事です。
浮腫みと合わせてあれば、胃苓湯証で良いでしょう。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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