ポイント
この記事では、大黄甘草湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、大黄甘草湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、大黄甘草湯という漢方薬が出ています。このお薬は、便秘や食べ物を吐いてしまう場合のお薬としてよく使われています。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。便も出やすくなりますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、大黄甘草湯という漢方薬が出ています。
このお薬は、食べて直ぐ吐いてしまう場合によく使われるお薬です。一般的には便秘のお薬としてもよく使われています。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体の中に余分な熱がある場合に使われ、症状も改善させてくれます。
便も出やすくなりますので、一度、試してみてください。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ84番)
ツムラ大黄甘草湯(外部リンク)
大黄甘草湯についての漢方医学的説明
生薬構成
大黄4、甘草2
出典
金匱要略
条文(書き下し)
「食し已(おわ:終)りて即ち吐く者、大黄甘草湯之を主る。」
条文(現代語訳)
「食べ終わってすぐに吐いてしまうものには大黄甘草湯が良い。」
解説
今日は、大黄甘草湯についての解説になります。本処方は、一般的には便秘等に使われています。
しかし、条文での使い方には「食べてすぐ嘔吐するもの。」とあり、ズレが生じています。この辺りについても、ご紹介いたします。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は「食べ終わりにすぐに吐いてしまうものには大黄甘草湯が良い。」となっています。
しかし、先ほどもお話しましたが、現在では添付文書上では大黄甘草湯は便秘症の効能となっております。
条文と現在の効能が乖離している訳をお話ししたいのですが、それをする為には先に構成生薬を見る必要があります。
早速、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
胃気や諸毒を瀉す:大黄
緩和、気を持ち上げる:甘草
の様になっています。非常にシンプルな処方ですが、単に「大黄だから便秘でしょ?」と済ませる訳にはいかないのが張仲景処方です。
問題は甘草が配されている所にあります。
他の処方でもそうですが、傷寒論と金匱要略の処方は考え抜かれて作られている処方になります。ですので、甘草を入れたのも訳があると考えないといけません。
甘草の主効能は緩和作用となります。これは、甘草の甘味で身体を緩ませる事で起こります。また、甘草の効果には気を上げるというものがあります。
表現が難しいのですが、前者の身体を緩ませる作用と後者の気を上げる作用は、共に脾胃の「土」による水分保持作用を高める事で起こります。
身体全体の水分保持作用を高める事で、体内の新陳代謝を緩和させ、気が上がります。
西洋医学的に解説すると、身体を軽く浮腫ませて昇圧します。これが行き過ぎたものが偽アルドステロン症になります。
苦寒の大黄単味ではなく甘草を配合する事で、脾胃の力をつけて大黄の効果を緩和させて広げる事で、胃腸を冷ましながら動かす為に使用していると言えます。
ですので、本処方は大黄の効能で便秘を治す為にも使えますが、条文と構成生薬を考えた場合は若干合っていないものと考えられます。
別の言い方をしますと、大黄甘草湯で便が出るのは副次的なもので、メインは気逆状態にある胃腸の正常な下降作用というものを復活させる薬といえます。
「便秘を治す処方」を求める場合は、麻子仁丸や潤腸湯を考慮に入れた方が漢方理論としては整合性が取れます。
大黄甘草湯に芒硝という生薬を追加したものに調胃承気湯がありますが、承気というのは気を受け入れる、即ち気の巡りを回復させる意味があります。
承(うけたまわる)ると言う意味の通り、気が詰まっている場合にそれを受け入れて通す為に承気湯類は用いられます。その事を知っていれば、便を出す効果というのが目的ではなく手段である事が解ります。
まとめますと、大黄甘草湯は「食べて直ぐに吐いてしまうもので、胃腸に熱による詰まりがあるものに使用する処方。」と言えます。
胃腸に熱があるという事は陽明病であり、裏熱実の証になります。その所見は「身体の中心部を表す顔の中心が赤い」です。
また、大黄甘草湯の添付文書上での効能効果が便秘になりますので、漢方医の先生が処方を出す場合は適応外使用の可能性を疑う必要が出てきます。その辺りは気を付けておきましょう。
本処方は、裏寒や著しい脾虚がある場合には不適となりますので、注意が必要です。
鑑別
大黄甘草湯と他処方との鑑別ですが、代表的なものに調胃承気湯、麻子仁丸、潤腸湯、二陳湯、六君子湯、茯苓飲合半夏厚朴湯があります。それぞれについて解説していきます。
調胃承気湯
大黄甘草湯と調胃承気湯は、芒硝という生薬が入る入らないという差しかなく、鑑別対象となります。
芒硝というのは、天然の含水硫酸ナトリウム結晶の事で、実熱が固く詰まっているものに使用します。大体は、便を出してそれらの熱を体外に出す事に使用されます。
ですので、大黄甘草湯と調胃承気湯を比べた場合、調胃承気湯の方が熱症状が強くなります。
条文通りの使い分けになりますが、裏熱がある場合に、うわ言等の精神的な症状が出ていたり大便が詰まっている場合は、大黄甘草湯より調胃承気湯の方が良いでしょう。
続きを見る【漢方:74番】調胃承気湯(ちょういじょうきとう)の効果や副作用の解りやすい説明
麻子仁丸
大黄甘草湯と麻子仁丸は、共に現代的には漢方の便秘薬としての効能があり、鑑別対象となります。
麻子仁丸での便秘の場合、便が固くて乾燥してコロコロしているのが特徴です。また、麻子仁丸は厚朴が入っている為に、胃に食滞がある事が解ります。
食滞があるという事は、食べてすぐに吐くという訳ではありませんので、その部分でも大黄甘草湯と鑑別が出来ます。
また、麻子仁丸は便秘の薬として作られておりますので、使用目的でも使い分けて良いでしょう。
潤腸湯
大黄甘草湯と潤腸湯は、共に現代的には漢方の便秘薬としての効能があり、鑑別対象となります。
潤腸湯は、麻子仁丸を元にして、地黄や当帰等の血虚の生薬が追加されています。ですので、麻子仁丸+皮膚の色艶が悪い場合に使用する、という特徴があります。
使い分けは、麻子仁丸と同じ様に「食べてすぐ吐く」という症状があれば大黄甘草湯、乾燥性の便秘を主症状として、皮膚の色艶が悪い場合には潤腸湯になります。
続きを見る【漢方:51番】潤腸湯(じゅんちょうとう)の効果や副作用の解りやすい説明
二陳湯
大黄甘草湯と二陳湯は、使用する症状が似ており鑑別対象となります。
大黄甘草湯が裏熱の処方であるのに対して、二陳湯は胃に痰が詰まり動かないものが目標になります。
ですので、裏熱の有無が鑑別ポイントとなります。裏熱がある場合、お腹が張って便の出が悪い、熱症状がある、顔の中心部分が赤い等の所見が出ます。
二陳湯にはそれらの所見はありません。
続きを見る【漢方:81番】二陳湯(にちんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
六君子湯
大黄甘草湯と六君子湯は、使用する症状が似ており鑑別対象となります。
六君子湯の場合は、脾虚が存在している為、痩せて食欲が無いのが特徴です。大黄甘草湯は脾虚がありませんので、中肉中背以上が対象となります。
また、六君子湯には裏熱がありませんので、お腹が張って便の出が悪い、熱症状がある、顔の中心部分が赤い等の裏熱の所見の有無でも鑑別が出来ます。
続きを見る【漢方:43番】六君子湯(りっくんしとう)の効果や副作用の解りやすい説明
茯苓飲合半夏厚朴湯
大黄甘草湯と茯苓飲合半夏厚朴湯は、使用する症状が似ており鑑別対象となります。
茯苓飲合半夏厚朴湯は、食べ過ぎにより食滞が出てきます。ですので、固い顔つき、我が強い、喉のイガイガ等の所見が見られます。大黄甘草湯にはそれらがありません。
また、茯苓飲合半夏厚朴湯には裏熱がありませんので、お腹が張って便の出が悪い、熱症状がある、顔の中心部分が赤い等の裏熱の所見の有無でも鑑別が出来ます。
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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