「名古屋漢方」ブログのムセキ(@nagoyakampo)です。
漢方を理解する上でどうしても必要な概念に「気」というのがあります。
でも、その定義があやふやで、解った様な解らない様な状態でどんどんと勉強を進めていかざるを得ない方が多いと思います。
「気って何だろう。みんな言ってる事違うし、どうも解った様な解らないような。」
と思っていらっしゃる方、お見えだと思います。私も漢方を始めた時、そうでした。
ですが、ある時、岡本一抱先生の「医学三蔵弁解」という本を読んで、気の成り立ちについて書かれた内容に非常に感銘を受けました(「気は神の子である。」)。
また、老子道徳経の第四十二章に書かれている内容(「道は一を生じ、一は二を生じ、二は三を生じ、三は万物を生ず。万物は陰を負い陽を抱き、沖気(ちゅうき)以って和を為す。」)も非常に参考になりました。
これらの本には、漢方を理解する上で重要な事が沢山書いてありますので、是非とも読んでおきたい所です。
僕も、折を見て読み返して、その都度新たな発見をしています。
今回、それらの本に書かれてある気の概念を発展させ、現代版としてまとめてみました。
本記事は、以下の構成になっています。
「気」の簡単な説明
「気」の成り立ち
「気」の内訳
周囲の文脈で「気」の意味が変わる
人間の身体における「気」
まとめ
この記事を読んで頂いて、少しでも皆様の漢方の勉強の肥やしになれば幸いです。
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「気」の簡単な説明
気というのは、簡単にまとめますと「道(神)から生まれたガス状若しくはそれに類する不定形のもので、物理的または非物理的なものを問わず、何かしらの影響力をもつもの。」となります(現時点での私の解釈)。
気というのは複数のモノ、事を合わせた複合的概念で、結局の所「気」としか言えません。
その便利さからついつい使ってしまいますが、デタラメなものも説明出来てしまうというデメリットもあります。
これは気を扱う人の良心に委ねられる面が大きいので、本当にセンシティブな話になってきます。
ここでは気の簡単なまとめをお話しましたが、非常にあやふやで解りにくいと思いますので、次の見出しから一つ一つ解説していきますね。
「気」の成り立ち
この見出しでは、気の成立過程をご紹介します。
上のまとめの該当箇所は「道(神)から生まれたガス状若しくはそれに類する不定形のもの。」という部分になります。
ここでのポイントは2つ、
①道(神)から生まれた
②ガス状若しくはそれに類する不定形のもの
です。順番にご紹介していきます。
①道(神)から生まれた
いきなり難しい概念が出てきました。
黄帝内経素問という書物に、「天にあっては玄と為し、人にあっては道と為し、地にあっては化と為し、化は五味を生じ、道は智を生じ、玄は神を生ず。」という内容の一文が出てきます。
かなり細かく分かれていますが、老子道徳経では「道を大切にせよ。」とあり、また面倒なので僕はまとめて「道=玄=化=神」としています。
また、上でもご紹介した通り、老子は「道は一を生み、一は二を生み、二は三を生み、三は万物を生む。」と言っています。
現代物理学でも、この世はビッグバンから始まったとされており、これが「道は一を生み、一は二を生み」に当たります。
更に、原子は陽子(+)と電子(ー)に別れ、また中性子もありますので、この部分が「二は三を生み、三は万物を生む。」という部分になります。
今となっては永遠に解りませんが、老子は何故、この世の成り立ちについて知っていたのでしょうか。不思議ですね。
量子力学の学者であるニールス・ボーアも後半生は東洋哲学に傾倒しており、デンマーク最高の勲章であるエレファント勲章を授与された際に、そのデザインに陰陽の太極図をモチーフに用いています。
ここまで少し話を広げましたが、まとめますと「道=玄=化=神であり、陰陽の物事全てであり、全ての始まり、生み出すものである。」となります。
この道(神)というものは人間の身体にも宿っているとされ、その中でも特に心臓に関わりが深いとされています。
根源の力、変化の源、動力の源と考えても良いでしょう。この考えを発展させると、五行においては「火」という扱いになります。
また、生み出すという働きより、「母性」「愛」「良心」という意味も持っています。
この様な複合的な意味を一つの言葉で表すと、道(神)となります。この概念が、漢方医学の基本中の基本になります。
ですので、「道(神)から生まれた」という事は、その様な意味を折り重ねて表現したものになります。
②ガス状若しくはそれに類する不定形のもの
この文章は比較的理解しやすいのではないでしょうか。元々、「気」という漢字は「氣」と書き、炊いたお米から立ち上がる湯気の形象から来ています。
また、物質を構成する量子の様な目に見えない細かいもの、細菌やウィルスの様な人間の裸眼では見えないもの、精神的ストレスの様な「物理現象としては存在しないもの」も不定形のものになります。
「気」の内訳
この見出しでは、気の種類についてご紹介していきます。
上のまとめの該当箇所は「物理的または非物理的なものを問わず、何かしらの影響力をもつもの。」になります。
ここでのポイントは2つ、
①物理的または非物理的なものを問わず
②何かしらの影響力をもつもの
です。順番にご紹介していきます。
①物理的または非物理的なものを問わず
気の内訳には大きく二つ、
物理的な気
非物理的な気
に分かれます。それぞれ、解説していきますね。
物理的な気
物理的な気というのは、量子の様に現実に物理現象として存在するものを指します。
例:圧力、光、原子、電気、磁気、ウィルス、細菌、空気、各種ガス、冷気、熱、風、音等
非物理的な気
非物理的な気というのは、ストレスやイメージ、感情等、物理現象としては存在しないものを指します。
ストレス、雰囲気、陽気、陰気、霊気、トラウマ、記憶、感情、第六感、運気等
②何かしらの影響力をもつもの
この一文は、気の種類を分類する為に入れてあります。
つまり、基本的には気は、そこにあるだけで何かしらの影響力を持ちます。その影響力の種類と度合いの違いで、細かく分類されていきます。
例えば、「邪気」と言った場合、生体に対して害を為すもの全般を指します。暑邪という場合は、「夏の暑さと湿気を伴った身体に害を為す邪気」となります。
この様に、気は時と場合によって細かく分類されていきますので、どの気を指しているのか、というのは時と場合によって変わってきます。
その辺りについて、次の見出しでご紹介していきます。
周囲の文脈で「気」の意味が変わる
気の種類が沢山あるという事は、前後の文脈や全体の文章の意味により、気の種類が変わってくるという事です。
ですので、文章を読みながら「ここではどういう意味の気か?」というのを特定していく必要があります。
例えば「身体の気の流れが悪くなる。」という文章では、「身体を正常に流れている正気(正常な気)が何らかの異常で停滞する(又はストップする)。」となります。
また、「風寒の邪気」という言葉では「身体に悪い作用を持つ、冷気や感染症等の目に見えない気。」と読み替えていきます。
人によって訳し方に差はありますが、気についての認識がしっかりしていると、この辺りの文章も大体正しく読み下す事が出来ます。
どうしても漢方用語は不明点が残ってしまいますが、そのままは良くありません。その都度、情報をアップデートしていく必要があります。
また、定義が変化するという事は、間違いに気づきにくく、また無いものを有るものとしてしまう事も出来てしまいます。
その辺りは「気」を扱う治療者の良心に委ねられます。私も気をつけながら気の運用をして行きたいと思います。
人間の身体における「気」
漢方医学において、人間の身体を流れる気というのは色々な意味を含みます。
例えば、身体を温める熱も気の一種で、これは「陽気」という名前がついています。
その他にも、神経を流れる電気、筋肉の力の入り具合も気になりますし、経絡という身体の気の通り道を流れているものも気になります。
経絡に関してはその存在が疑問視されていますが、現代医学では解き明かされていないものとして処理するか、もしくはあると仮定して処理していく必要があります。
ある身体の部分が機能失調に陥った際、該当する経穴に鍼やお灸をすると機能回復するという現象を臨床で目にします。
私も、右肩が上がらなくなった患者に対して鍼灸をされている医師の先生が左足の陽陵泉(ようりょうせん)に鍼を刺し、一瞬で上にあがるようになったのを目の前でみています。
「百聞は一見に如かず」の通り、実際に目にする事も勉強になりますね。
漢方においても経絡は必要な概念ではありますが、そこまで細かく見なくても大まかな気の流れが解れば処方決定はかなり正確になります。
漢方の口訣(くけつ)で、「上焦では気の異常、中焦では水の異常、下焦では血の異常が現れやすい」とされています。
上焦は横隔膜から上、中焦は横隔膜から臍(へそ)まで、下焦は臍から下を指します。
この中で気の異常に着目しますと、例えば「咳」の場合は肺、「頭痛」は頭、「耳鳴り」は耳という風に、何らかの異常で上焦に気が溜まって異常が起こっていると見る事が出来ます。
ちなみに、肩こり、首筋のこりも気の異常になります。また、精神的な異常も気の異常になります。それらが起こっている原因を探し出して漢方の処方を決めて行きます。
漢方の証決定が上手く行きますとこれらの気の異常が解消される方向に行きますので、精神的に落ち着いて肩こりや頭痛も楽になります。
これを「上焦の余分な気が抜ける」と表現します。
また、五臓六腑それぞれに「その臓腑に宿る気」が存在します。
臓の場合は月(肉月)に蔵という字の通り気が蔵されて詰まっているのが正常、腑は中空の臓器とされ、流れるのが正常とされています。
異常がある場合、例外はありますが基本的に臓の場合は虚(必要なものが足らない)、腑の場合は実(過剰なものがあったり、どこかで流れが止まっている)となります。
漢方の処方を決定する際に、この様な気の流れを知っているだけで、間違いは本当に少なくなります。
間違っていたら、全く変化が無いか逆に身体がしんどくなりますので、すぐに解りますね。
まとめ
今回は、漢方医学において重要な「気」についてご紹介しました。
何とも捉えどころがない様な概念ですが、自分なりに検証してまとめておくだけで、不明点はかなり無くなるのではないでしょうか。
本記事が、皆様の漢方の勉強にとって少しでもお役に立てたら嬉しいです。
繰り返しになりますが、最初に出した2つの本は本当にお勧めです。僕が漢方の勉強で行き詰まった時、これらの本のお蔭で先に進む事が出来ました。
一度手にとってみられる事をお勧めします。
私の書いたnoteも、ご参考にして頂ければ幸いです。
また、以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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それではまた!ムセキ(@nagoyakampo)でした。