ポイント
この記事では、疎経活血湯についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、疎経活血湯についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、疎経活血湯という漢方が出ています。
このお薬は、身体が消耗して全身に痛みが出ている場合に使われる処方になります。今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生はこのお薬が合うと判断されたようです。一度、お試しください。
このお薬は、身体が冷えたり食欲が無くなってくると効果が弱まりますので、生活に注意して頂くようお願い致します。
漢方医処方の場合の説明
今日は、疎経活血湯という漢方が出ています。
このお薬は、無理をして身体が消耗して、全身の筋肉等に痛みが出ている場合に使われる処方になります。
今日はどのような症状でかかられましたか?
〇〇という症状ですね。先生はこのお薬が合うと判断されたようです。威霊仙という生薬が、主に痛みを取ってくれます。一度お試しください。
このお薬は、身体が冷えたり、食欲が無くなってくると効果が弱まりますので、生活に注意して頂くようお願い致します。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
偽アルドステロン症
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ53番)
疎経活血湯についての漢方医学的説明
生薬構成
芍薬2.5、地黄2、川芎2、蒼朮2、当帰2、桃仁2、茯苓2、威霊仙1.5、羗活1.5、牛膝1.5、陳皮1.5、防已1.5、防風1.5、竜胆1.5、甘草1、白芷1、生姜0.5
出典
万病回春
条文(書き下し)
「遍身走痛(へんしんそうつう)し、日は軽く夜は重き者はこれ血虚なり。遍身走り痛んで刺す が如く、左の足痛み尤(もっと)も甚(はなはだ)しきを治す。左は血に属す。多くは酒色損傷に よつて、筋脈虚空(きんみゃくこくう)、風寒湿を被り、熱内に感じ、熱に寒を包(兼)ぬ時は、 痛み筋絡をやぶる。これを以て昼は軽く夜は重きに、宜しく経をすかし、 血を活し湿を行らすべし。これ白虎歴節風(びゃっこれきせつふう)に非ざるなり。」
条文(現代語訳)
「全身を走る痛みがあり、日中は酷く無く夜に痛みが酷いものは血虚です。全身に痛みが刺す様に走り、左足が非常に痛むものを治す。左は血に属します。多くは酒や色(恋愛)により血を損耗し、筋が虚して、風寒の湿を受け、それが元で熱邪が内に生まれ、熱邪と寒邪が併存する場合は、痛みが筋を破る。それで昼は軽く、夜は重くなる。そういう場合は経脈や血を活性化して湿邪を巡らして瀉さないといけない。これは虎に噛まれたような痛みのある関節痛とは違います。」
解説
今回は、疎経活血湯の処方解説を行います。本処方は、非常に多味な生薬構成となっていて、その種類は17種に及びます。
構成生薬の解析が非常に大変と一見思うかもしれませんが、グループ分けして考えるとそれほど複雑な内容でもありません。
なるべく解りやすくまとめて行きたいと思いますので、お付き合いいただければ幸いです。
まずは条文を見ていきます。万病回春の条文は、非常に読みやすく、しかも解りやすく書かれています。
現代語訳は上で書いていますので、それを要約しますと、「血虚と、風寒湿の邪と、それから生ずる熱邪により、左を中心とした全身の筋に痛みが走るもので、昼間に寛解して夜に増悪するもの。」となります。
最後に、「白虎歴節風(びゃっこれきせつふう)に非ざるなり。」とあるのは、「筋に痛みが走るもので、関節痛では無いですよ。」という鑑別になります。
白虎という名前が入っているのは、「虎に噛まれたような痛み」が歴節風の場合起こるからと言われています。恐らく痛風や関節リウマチか何かだと考えられます。
次に、構成生薬を見ていきます。疎経活血湯の構成生薬の17種類は、グループ分けしますと次のようになります。
ポイント
・補血(芍薬、地黄、川芎、当帰)
・駆瘀血(桃仁、牛膝)
・利水、去湿熱(蒼朮、茯苓、竜胆、防已)
・祛風湿、疎経(威霊仙、羗活、防風、白芷)
・胃を動かし気を補う(蒼朮、陳皮、生姜、甘草)
・諸薬の調和(甘草)
作用が複数あるものもあるので、ざっくりとした感じでまとめました。
構成生薬から見ても、条文通り「湿邪(寒熱両方)を除き、駆瘀血と補血をして経を巡らせる。」処方になっています。
この処方のポイントは何と言っても威霊仙で、疎経活血湯の「疎経」の部分を担う主薬と言えます。
また、各種痛みを取る特性がありますので、後世方で痛みを処理する処方に使われる事が多い生薬になります。
また、竜胆が入っておりますので、あまり解説されませんが、肝気過多なものを瀉す方剤でもあります。最後にまとめます。
条文と構成生薬からまとめて考えた場合、疎経活血湯は「瘀血と寒熱の湿邪が原因となり起こる、全身性の筋を中心とした痛みで、左側が中心に痛み、昼に寛解、夜に増悪するもの。」という適応となります。
この左側というのは、不明点も多いのですが「左の脈の対応が、寸口・関上・尺中の順に心・肝・腎(水)」である所から来ているものと考えられます。
血の疏泄は肝になりますので、左とされているのでしょう。ちなみに、右は肺・脾・腎(命門火)となります。
本処方は、補脾の生薬や温裏の生薬があまり配合されておらず、補血・駆瘀血・祛風湿の薬方になりますので、裏寒や脾虚のあるものには注意が必要となります。
また、応用的な使い方として、痛みに関わらず湿邪・駆瘀血を除く薬としても使用されます。応用範囲の広い薬方と言えます。
鑑別
疎経活血湯と他の処方との鑑別ですが、代表的なものとして竜胆瀉肝湯、大防風湯、薏苡仁湯、桂枝加朮附湯が挙げられます。
それぞれ、順番に解説していきます。また、薏苡仁湯、桂枝加朮附湯等は、条文にある「白虎歴節風(びゃっこれきせつふう)」の場合に考慮される処方になります。
疎経活血湯とは症状が違いますが、鑑別の為に挙げさせて頂いています。
竜胆瀉肝湯
竜胆瀉肝湯と疎経活血湯は、一見全然別の処方だと思われます。しかし、構成生薬を見てみますと、基本的な構成がそこそこ似ており、鑑別対象になります。
まずは、生薬を比較してみます。
ポイント
竜胆瀉肝湯(一貫堂)
芍薬、地黄、川芎、当帰、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、竜胆、連翹、薄荷、木通、車前子、沢瀉、甘草
疎経活血湯
芍薬、地黄、川芎、蒼朮、当帰、桃仁、茯苓、威霊仙、羗活、牛膝、陳皮、防已、防風、竜胆、甘草、白芷、生姜
どちらも、補血と瀉肝、湿邪を除く生薬が配合されているのが解ります。
しかし、竜胆瀉肝湯は、身体の裏熱を瀉す黄連解毒湯が入っているのに対し、その部分が疎経活血湯は駆瘀血薬に変更されているのが解ります。
ですので、これらの処方の鑑別は、症状の違い(全身の痛みがあれば疎経活血湯、デリケートゾーンの湿疹や膀胱炎等の下焦湿熱所見)と裏熱の有無(顔が非常に赤い、イライラ)と瘀血所見の有無(舌下静脈の怒張、唇の瘀血色、腹証による瘀血圧痛点等)で鑑別します。
裏熱があれば竜胆瀉肝湯を疑い、瘀血があれば疎経活血湯を疑います。その辺りで鑑別が可能となります。
大防風湯
大防風湯は、丁度、疎経活血湯の虚の処方です。
虚の処方というのは、同じような症状がある場合に、その他の所見で虚状が激しい場合、対象処方の代わりに適応を考える処方になります。
疎経活血湯の場合、「使いたいけど胃腸が悪くて。」「ちょっと疎経活血湯の証にしては元気が無いな。身体が冷えているかも?」という場合に大防風湯を考慮に入れます。
大防風湯は「気血両補剤+補腎剤+祛風」のような処方で、手足が気血両虚でやせ細ってしまって、痛みが出ている場合に使います。
薏苡仁湯
薏苡仁湯は、条文の「白虎歴節風」の場合に使われる処方の一つですので、鑑別対象の一つとなります。
薏苡仁湯の場合は麻黄と桂枝が入りますので、「逆上せと無汗、時に悪寒、皮膚が冷たい」という表証があるのが特徴です。
疎経活血湯はその様な所見は見られませんので、その辺りで鑑別が可能となります。
続きを見る【漢方:52番】薏苡仁湯(よくいにんとう)の効果や副作用の解りやすい説明
桂枝加朮附湯
桂枝加朮附湯も、条文の「白虎歴節風」の場合に考慮する処方の一つになります。
薏苡仁湯と同じように、表証(逆上せ、悪寒、発熱等)があるのが特徴ですが、麻黄が入っていないので太陽膀胱経は通っており、発汗している事が解ります。
疎経活血湯の場合には薏苡仁湯と同じように表証自体がありません。
続きを見る【漢方:18番】桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)の効果や副作用の解りやすい説明
お読み頂きありがとうございます。
以上です。少しでも参考になれば幸いです。以下より、他の漢方記事が検索できますので、宜しければご活用下さい。
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