ポイント
この記事では、六味丸についての次の事が解ります。
・患者さんへの説明方法、副作用や注意点
・出典(条文)、生薬構成
・詳しい解説、他処方との鑑別
「名古屋漢方.com」のムセキです。
本記事は、六味丸についての解説記事になります。
最初に患者さんへの説明例、その後に詳しい処方解説を載せています。日々の業務で使う資料として、ご活用頂ければ幸いです。
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<急ぎの方用>患者さんお客さんへの説明
一般的な説明
今日は、六味丸という漢方薬が出ています。このお薬は、大人の場合は老化防止、子供の場合は発達不良の薬になります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、身体の芯から強くしてくれます。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
漢方医処方の場合の説明
今日は、六味丸という漢方薬が出ています。このお薬は、漢方の老化防止のお薬で、若返りの薬として有名です。
元々、小児の発達不良の薬として作られたお薬でして、今でもそういう目的で使われることもあります。
今日はどのような症状で受診されましたか?
○○という症状ですね。
お困りの症状に、先生はこれが良いと考えられたようです。このお薬は、老廃物を除きながら身体の芯から強くしてくれます。
一度、試してみてください。長く飲むタイプのお薬ですので、じっくりと行きましょう。
身体が冷えたり、食欲が無くなりますと効き難くなりますので、体調には充分にお気をつけ下さい。
主な注意点、副作用等
アナフィラキシー
消化器(食欲不振、胃部不快感、悪心、嘔吐、下痢等)
冷え
添付文書(ツムラ87番)
ツムラ六味丸(外部リンク)
六味丸についての漢方医学的説明
生薬構成
地黄5、山茱萸3、山薬3、沢瀉3、茯苓3、牡丹皮3
出典
小児薬証直訣(しょうにやくしょうちょっけつ)
条文(書き下し)
「地黄丸,腎虚失音,顖(しん:泉門)開不合,神不足,目中白睛(もくちゅうはくせい:瞳が白く濁る)多く,面色皝白(こうはく:白い)等の証を治す。」
「体形痩弱(たいけいそうじゃく)、無力多困、腎気久しく虚し、寐汗(びかん:寝汗の事)発熱し、五臓ひとしく損じ、 遺精便血、消渇淋濁(しょうかちりんだく:尿が濁る等のトラブル)などの症を治す。この薬は燥ならず温ならず、専ら左尺の腎水を補い、脾胃を兼ね理(おさ)む。少年の水欠け火旺(さか)んな陰虚の症に最も宜しく之を服すべし。」
条文(現代語訳)
「六味丸は,腎虚があって言葉が出ない,泉門が合わない,精神未発達,白内障,顔色が白い等の病を治します。」
「身体は痩せていて弱弱しく、力なく出来る事が少なく、腎気が継続的に虚し、寝汗や発熱があり、五臓が等しく弱り、遺精や便に血が混ざる等があり、尿が濁る等の泌尿器トラブル等を治す。この薬は乾燥させず、温めず、専ら左の尺中で反映される腎水を補い、脾胃も理します。小児の腎気が欠けて虚熱が盛んな陰虚証に最も合います。 」
解説
今日は、六味丸についての解説になります。本処方は、八味地黄丸より桂枝と附子を抜いた処方で、小児の発達不良の薬として開発されました。
しかし、現在ではその派生処方は老人の永年長寿の薬として使用されています。つまり、六味丸という処方は、大人の永年長寿の薬にもなり得ると言えます。
その辺りも踏まえながら、解説していきます。
それでは、最初に条文を見ていきます。条文は、小児薬証直訣(しょうにやくしょうちょっけつ)からの出典となります。
条文が長いので要約しますと「六味丸は小児の腎虚による発達不良(発語の遅れ、泉門が閉じない、精神未発達、白内障、痩せ、寝汗、発熱、遺精、便血、夜尿症等の泌尿器疾患)を治す薬。」になります。
漢方で小児の発達不良で使用される処方の代表的な薬と言えます。
次に、構成生薬を見ていきます。構成生薬は、グループ分けしますと、
腎精を補う:地黄
肝腎を温め、精血を固渋する:山茱萸
脾肺を補い腎精を助ける:山薬
利水・除湿:沢瀉
回水・利水:茯苓
駆瘀血:牡丹皮
となります。一般的な処方解説書を見ますと、「六味丸は三補三瀉(地黄&山茱萸&山薬が補、沢瀉&茯苓&牡丹皮が瀉)で、長期服用に向いた処方」と書かれています。
しかし、本処方は地黄を含み、又、乾姜や附子等の温裏の生薬が含まれておりませんので、裏寒や脾虚がある場合には不適となります。
更に、長期服用というのは腎を補うのに時間がかかる為ですので、三補三瀉の論には少し疑問が残ります。
逆に言いますと、これらの点に注意すれば長期使用が出来ると言えますので、積極的に使っていきたい処方と言えます。
ここからは、条文と構成生薬からもう少し六味丸の効果を突っ込んで解説していきます。
上にて生薬のグループ分けをしましたが、その表を全体から見てみますと見えてくる事があります。
それは、六味丸の効果は補腎・駆瘀血・利水の3本柱から成り立っているという事です。更に、それらを統合すると、とにかく補腎のみの処方である事が解ります。
補腎については大丈夫と思いますが、駆瘀血と利水について、少しお話します。まず、駆瘀血についてです。
これは、主に牡丹皮がその役割を担っています。腎が弱ると身体に瘀血が溜まりますが、牡丹皮はその瘀血を流し去る働きがあります(血管壁にある汚れを取る)。
腎という概念は、西洋医学の腎臓を含んだ内分泌代謝系、骨、骨髄、脳等になりますので、その弱りは老廃物を溜めてしまう事が解ります(西洋医学では透析)。
牡丹皮は、その老廃物を除きます。
次に、利水についてお話します。これは、漢方医学全般的に言える事ですが、基本的に身体にとって過剰な水は毒になります。
体内水分量が多くなりますと、血管・循環器系に負荷をかけますし、身体が冷える原因にもなります。
漢方薬に利水剤が多く含まれるのはこれが理由にあります。
ですので、勿論、生理的に必要な水分はありますが、あまり過剰に取る必要はないと言えます。
結局の所、腎虚になりますと瘀血や水毒が溜まりますので、それを除く必要があります。六味丸はそれらの働きを一度に行う処方でもあります。
ここで疑問が一つ生じます。それは「小児の腎虚でも、駆瘀血や利水が必要なのは何故だろう?」という事です。
小児の腎虚の場合、血管に高齢者の様な血管壁への瘀血の付着は無いか少ないものと考えられます。
ですので、これらの効果が必要なのは別の理由になります。
何処にも書かれていない事なので私の仮説になりますが、小児の腎虚で駆瘀血と利水が必要な理由は、
①駆瘀血:発達異常部位の除去
②利水:成長促進
の2点であると考えられます。それぞれ解説していきます。
①についてですが、駆瘀血というのは肉体部分における何らかの異常を指します。それが原因で発育不良が起こっていると考え、その異常個所を瘀血として捉えています。
牡丹皮により、その瘀血を除くという訳です。
②については簡単で、利水により身体の細胞の新陳代謝がアップし、その結果成長促進が行われると考えられます。
更に、何故、八味地黄丸から桂枝と附子を抜いたのかもお話します。
これら2つの生薬を抜いた理由ですが、一般的に言われているのは「小児は元々陽が過多なので、これら2剤を入れる必要が無いから。」というものです。
しかし、例えば小建中湯等で解る通り桂枝が含まれている処方もありますし、新陳代謝が悪くなった場合には人参湯や附子理中湯などの熱薬を使います。
ですので、この理由だけですと少し不十分だと感じます。少し、理由を追加してみましょう。
古代中国の医師である銭乙(せんいつ)が六味丸を作った際、「小児は陽が過多ですので、熱剤で逆上せて鼻血が出ないようにした。」と仰ったそうです。
つまり、これは発育不良ではありますが、風邪や感染病等の急性病の為の薬ではなく、平常時の為に使用する薬である事が解ります。
平常時に熱薬を飲む事で起こる可能性のある、鼻血等の逆上せ症状を嫌ったものと思われます。これは条文にある「面色皝白(こうはく)=白い顔」からも解ります。
白い顔というのは、桂枝が要るような逆上せ症状がない事を示しています。逆上せが無いので入れる必要がないという事です。
更に、構成生薬から考えた場合、もう一つ、桂枝を除いた理由が見えてきます。
鼻血症状は、附子や乾姜等の裏の熱薬にて起こりやすい症状ですが、桂枝は、表を補い、上衝した気を下げる処方となります。
桂枝の薬効の二面性という部分です。桂枝という生薬は、裏の気を表に持ち出し、更に経を巡らせて最終的に腎に返す生薬となります。
ですので、桂枝が入るだけで、その薬能の方向性は上向き、外向きになります。逆に、六味丸は小児の発育不良の薬になりますので、身体の裏の陰を補う為の処方となります。
そこから考えますと、六味丸の薬能では桂枝は不要という事になります。言葉には残っておりませんが、その様な事も銭乙は考えた可能性があります。
結局の所、目的が小児と高齢者の場合で全然違いますので、当たり前と言えば当たり前の話ですね。
ここからは、六味丸を大人に使う場合についてご紹介します。
六味丸やその派生処方は、五味子と麦門冬を足した味麦地黄丸(みばくじおうがん)や枸杞子と菊花を足した杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)、知母と黄柏を足した知柏地黄丸(ちばくじおうがん)等の高齢者の永年長寿の薬として使われています。
これらの処方は、それぞれ、
味麦地黄丸・・・六味丸証で粘膜乾燥のある場合等
杞菊地黄丸・・・六味丸証で高血圧や眼圧が高い場合等
知柏地黄丸・・・循環器に異常のある場合や、脳卒中の病後等
という使い分けがされています。上でも少し触れましたが、大人の腎虚を治す目的としては、
①加齢に伴って起こる瘀血(老廃物)を除く
②心血管系のイベントの予防
となります。小児の処方である六味丸を大人に使う場合、同じ腎虚でも考え方が変わってきますので注意が必要です。
最後に、大人に六味丸を使うメリットをお話します。例えば八味地黄丸証は桂枝が含まれますので、どちらかと言うと身体の動きの改善となります。
逆に、桂枝の入らない六味丸の場合、骨自体を補う、脳髄自体を補う働きになりますので、その作用が表裏逆になります。
ですので、認知症や骨粗しょう症の場合はどちらかというと六味丸の方が適している場合もあります。
私の経験ですが、真武湯を合方しながら使うと良い結果になる場合が多いです。
六味丸は、その効能が補腎専一になりますので、漢方治療の終着点となります。加齢するに従って老化していきますので、腎虚を治すというのは漢方治療での永遠のテーマと言えます。
漢方治療においては、他に治すところが無く体調が本当に落ち着ている場合、六味丸にて補腎をして老化防止します。
また、女性の場合は血虚の聖剤である四物湯の加減法になる場合もありますが、より腎が虚した場合は補腎剤が適応する場合もあります。
少し補足しますと、補血と補腎の違いは地黄で補われた腎精の運用方法がポイントとなります。
補血剤は、その他の当帰、芍薬、川芎と言った生薬の作用により、中上焦の血虚に効能が出てきます。
そうしますと、相対的に下焦や身体の裏(内部)については補う力が損なわれてしまいます。また、中、上焦を補うという事は、心肺に対しても補う方向に働きます。
具体的には当帰がその主薬であり、逆に言いますと、当帰が入っているという事は、心に対して補う方向に働くという訳です。
補腎剤の場合はその逆で、地黄以外の補血剤は含まれておらず、専ら補腎の働きがメインとなります。また、牡丹皮が含まれておりますので、駆瘀血作用が主体となります。
牡丹皮による駆瘀血作用というのは、身体の毒成分を含む瘀血を流し去るという意味で、当帰等で足りない血を補う補血とは対照的な働きとなります。
つまり、牡丹皮は心にたいして瀉剤としての働きになります。
以上より、六味丸についてまとめますと、「六味丸は小児の腎虚による発育不良所見や、大人の腎虚に使用する処方で、漢方治療の終着点である補腎の処方。」と言えます。
本処方は、裏寒や脾虚がある場合は不適となりますので、それらが無い事を確認してから使用します。
鑑別
六味丸と他処方との鑑別ですが、代表的なものに八味地黄丸、牛車腎気丸、四物湯があります。それぞれについて解説していきます。
八味地黄丸
六味丸は八味地黄丸より桂枝と附子を除いた処方で、同じ補腎剤ですので鑑別対象となります。
まずは、これらの処方を使う目的ですが、小児には基本的には八味地黄丸を使う事はありません。
ですので、「小児の補腎の処方と言えば六味丸。」と覚えれば良いでしょう。
これらの2処方については構成生薬2味の違いが鑑別ポイントで、気の逆上せ(頬が赤い等)があれば八味地黄丸、無ければ六味丸となります。
【漢方:7番】八味地黄丸(はちみじおうがん)の効果や副作用の解りやすい説明
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牛車腎気丸
牛車腎気丸と六味丸も鑑別対象となります。牛車腎気丸は、八味地黄丸に牛膝と車前子という生薬を足したもので、八味地黄丸の効果を下半身に集めたものになります。
牛膝と車前子は、それぞれ、
牛膝:下半身の駆瘀血
車前子:下半身の利水
となります。この構成生薬の差により、「牛車腎気丸は八味地黄丸証で腰痛や膝の痛みが激しいものに使用。」という事が解ります。
ですので、八味地黄丸と六味丸との差である「気の逆上せ」がそのまま牛車腎気丸にも応用でき、それが鑑別ポイントとなります。
四物湯
四物湯と六味丸も鑑別対象となります。四物湯は補血の聖剤と呼ばれ、婦人病処方に配合される割合の高い処方となります。
解説の所でご紹介した通りですが、四物湯は当帰を含み、血を温めて中上焦に届ける効能があります。これが補血という作用となります。
逆に六味丸は牡丹皮を含み、補血ではなく駆瘀血作用を持ちます。
この駆瘀血作用というのは、簡単に言いますと瘀血という異常な血=悪い血を身体の外に排出する薬となります。
ですので、補血とは正反対の作用となります。具体的には、心肺に対しての作用で、補血の場合は補う方向、駆瘀血の場合は瀉す方向に働きます。
八味地黄丸や六味丸等の補腎剤との鑑別での一番のポイントがこの部分で、四物湯証の方はどちらかと言うと抑うつ傾向で、補腎剤が合う方は明るく陽気なふるまいになります。
六味丸と四物湯との鑑別もこのポイントが適応となります。
続きを見る【漢方:71番】四物湯(しもつとう)の効果や副作用の解りやすい説明
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