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脾胃剤の特徴
まずは生命を守るという視点から裏寒の治療を最優先しますが、次に、脾胃の治療を行う事が重要です。
裏寒の治療を最優先するのは、それを行わないと脾胃が動かず、また、無理やり動かす事で裏寒を悪化させてしまう可能性があるからです。
脾胃の治療はその次の段階に重要となってきます。
脾胃は後天の本
脾胃という所は、飲食物を消化し、後天の精を作り出して全身に供給する「後天の本」の臓器です。
先天の本である心腎の中間に位置し、その働きが一番発揮される臓器は胃(とその支配臓器の小腸~大腸まで)です。
すなわち、胃腸が動いて後天の精が全身に供給されているという状態が「胃気」が正常に働いているという状態です。
逆に、「胃気」が弱いと勢いが無くなるので、元気が出ず、疲労しやすくなります。脾胃が正常に働き、胃気が全身に行き渡っている状態が健康ということになります。
言い換えますと、胃気が全身に行き渡っていると、身体全体に艶が出てきます。
例えば、木から切り倒した木材は死んでいますが、それを鉋で削り、家を建てるとその木材が生きてきます。
そうして年月を重ねると、その木材は長年に渡り生き続けているという「艶」が出てくる事となります。木材のまま死んだ木では、生きていない為に、この「艶」というものは出てきません。
身体も同じように、胃気が全身をめぐっていないと、艶が出てきません。
土王説と脾胃
五行学説の派生、土王説には、脾胃を中心として四方に肝(東)・心(南)・肺(西)・腎(北)が配されます。
実際に人体を見てみますと、臍下(命門の火が集まり腎を表す)-胃(脾の海)-膻中(心を表す)の縦を中心にして左に肝(東)、右に肺(西)が配されます。
古来は脾臓も含めて肝と考えられていますが、春には右側の肝が詰まりやすく律速となり、肺は左右に存在しますが、秋に心の陽気を受けて熱が篭り易く律速になりやすくなります。
このことより、根幹は腎⇔脾胃⇔心の縦の流れが中心となり、肝が主に陰から陽への化を、肺が主に陽から陰への化を司っているものと考えられます(右が陰で左が陽、右回転、右昇左降)。
なお、脾胃に作用する方剤ではありますが、厚朴剤や利水剤、理気剤は別項目にて解説し、ここでは補脾剤を中心として、その関連処方を解説していきます。
脾胃剤に使われる生薬
脾胃剤に使われる代表的な生薬は、人参、甘草、白朮、大棗、生姜、陳皮、半夏、乾姜、山楂子、山薬、茴香、のようなものがあります。
また、本来、朮は補気効果の高い白朮を使用すべきでありますが、ツムラのエキス剤は蒼朮を使う場合が殆どです。次項より、脾胃剤の代表例を順に取り上げます。
脾胃剤の種類
人参湯、附子理中湯、四君子湯、六君子湯、異効散、啓脾湯、帰脾湯、加味帰脾湯、補中益気湯、甘麦大棗湯、麦門冬湯、半夏白朮天麻湯、等
人参湯
構成生薬:人参、乾姜、蒼朮、甘草
人参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
蒼朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する。
*脾陽虚を治す代表的な薬方です。脾胃及び心肺が冷え、顔が青白く元気がないものに使用します。甘草乾姜湯に朮と人参が加わって、脾胃の気虚陽虚を補い、心肺の補気を行います。四逆加人参湯との違いは、朮か附子かということですが、脾胃に湿が存在して気虚が強い場合は人参湯、脾胃の湿より腎陽虚から来る裏寒が強い場合は四逆加人参湯を用います。白朮という生薬は、胃の湿邪をさばきながら健胃健脾して気を肺に持ち込む為、上焦の陽虚にも有効です。
附子理中湯
構成生薬:人参、乾姜、蒼朮、甘草、附子
人参・・・脾胃の気を補い、五臓の気を補う
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している。
蒼朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
甘草・・・補脾。また、生体反応を緩め、解毒する
附子・・・腎陽を補い、命門の火を活性化させる
*人参湯に附子が加わった処方。人参湯証で、裏寒の甚だしい者に使用します。四逆加人参湯に朮が加わったものとも取れ、陽気を上焦に持ち込みます。エキス製剤には茯苓四逆湯が無い為、この処方で代用する場面も多くあります。
四君子湯
構成生薬:人参、蒼朮、茯苓、甘草、大棗、生姜
人参・・・脾胃の元気を補う
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
茯苓・・・心肺脾の水飲を除く
甘草・・・脾胃の元気を補い、潤わせる
大棗・・・補脾、補肺、陰陽調和
生姜・・・発表、脾胃を温め悪気や諸毒を去る
*脾胃を整える代表方剤。脾胃は土に例えられますが、良い土でないと作物は育たず、収穫ができません。その為、脾胃を整える事は身体を養う根本であると言えます。人参、朮、茯苓、甘草という四つの君薬は、脾胃の気を補い湿を乾かすと同時に、乾きすぎ防止に甘草を加えて適度に潤わせています。土に例えると、日光で温め、泥を取り、水を撒いて養うということになります。残りの大棗と生姜は、大棗は脾胃の気を補うと同時に肺の昇降を助けて脾胃で出来た気血を四肢に分散させます。また、生姜は脾胃を温めて諸毒を除くのを助けて、肺においてもそれを温めることで宣発粛降作用を助けます。ですので、四君子湯には脾胃の機能そのものを助ける事で食欲を増し、全身の気血不足を両方改善する効果が期待できます。
六君子湯
構成生薬:人参、蒼朮、茯苓、甘草、大棗、生姜、半夏、陳皮
人参・・・脾胃の元気を補う
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
茯苓・・・心肺脾の水飲を除く
甘草・・・脾胃の元気を補い、潤わせる
大棗・・・補脾、補肺、陰陽調和
生姜・・・発表、脾胃を温め悪気や諸毒を去る
半夏・・・脾胃に溜まった痰を除き、胃のつまりを取り気の疎通を改善する。サラサラした水ではなく、ネバネバベトベトした水を除く。
陳皮・・・脾胃の気を動かしてその働きを高める。
* 強固な痰が存在する場合や脾胃の機能を強力に賦活したい場合には力が足りないので、四君子湯では力不足となります。その場合は、痰を除いて胃のつまりを取る半夏、脾胃の気を巡らせて機能を高める陳皮を加えて六君子湯を用います。四君子湯と六君子湯の間に異効散という処方があります。四君子湯に陳皮を加える処方ですが、この時点で「効能が異なる」という名前の処方になりますので、やはり四君子湯には四君子湯の、六君子湯には六君子湯の場があります。六君子湯だけ使われるような現代の使い方は間違っていると言えます。
異効散
構成生薬:人参、蒼朮、茯苓、甘草、大棗、生姜、陳皮
人参・・・脾胃の元気を補う
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
茯苓・・・心肺脾の水飲を除く
甘草・・・脾胃の元気を補い、潤わせる
大棗・・・補脾、補肺、陰陽調和
生姜・・・発表、脾胃を温め悪気や諸毒を去る
陳皮・・・脾胃の気を動かしてその働きを高める。
*六君子湯と四君子湯の中間処方であると考えられます。半夏が要るような強固な痰はあまり存在しないのですが、脾胃の機能を高めたい場合に使用します。四君子湯に陳皮を加えて異効散とします。
啓脾湯
構成生薬:人参、蒼朮、茯苓、甘草、大棗、生姜、山薬、蓮肉、山楂子、沢瀉
人参・・・脾胃の元気を補う
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
茯苓・・・心肺脾の水飲を除く
甘草・・・脾胃の元気を補い、潤わせる
大棗・・・補脾、補肺、陰陽調和
生姜・・・発表、脾胃を温め悪気や諸毒を去る
山薬・・・肺及び脾胃の気液を補い、また、腎の精気伴に助ける
蓮肉・・・中焦を補い、神を養い、気力を益す。心腎を交わせ、腸胃を厚くし、精気を固くし、寒湿または湿熱を除く
山楂子・・・心下部に食が鬱滞するものを治す。陳旧性の気の欝滞や、血の欝滞を破壊する
沢瀉・・・腎臓、膀胱に入って、水道を通じ、三焦に停滞した水を逐う
*四君子湯がそのまま入り、それに山薬、蓮肉、山楂子、沢瀉が入った処方です。脾胃の虚を補い、食滞を消し、水をさばいて最終的に腎気を高めます。
帰脾湯
構成生薬:黄耆、酸棗仁、蒼朮、人参、茯苓、遠志、大棗、当帰、甘草、生姜、木香、竜眼肉
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
酸棗仁・・・肝胆の気血を補す。胆の熱による不眠には生のまま用い、胆の虚寒による冷えは炒って用いる
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
人参…比井野補器を行う
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
遠志・・・腎の水中の気を強め、これを上達させる。下気を固くし、心腎の気を交通させ、健忘、驚悸を治す
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
当帰・・・血を温め心血を養う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
木香・・・三焦に入り、気分の留滞、閉塞、結爵を治し、諸気を昇降する
竜眼肉・・・手の少陰、脚の太陰脾経に入って、専ら心の気血の虚を補う。智を長じさせ、精神を安定させ、健忘を除く。
*心脾の血虚気虚の方剤です。心の血虚は結局、脾胃に由来するものであるので、それを補す事で、心血虚心気虚を治します。心血虚が起きると、陰虚により心の陰陽バランスが崩れ、陽(働き)が動揺する。結果、不眠や不安感、健忘等の精神症状を起こします。腎の志というのは、「物事を深く見る」という意で、遠志を使用する事で物事を深く見通す力がつき、健忘を治します。
加味帰脾湯
構成生薬:黄耆、柴胡、酸棗仁、蒼朮、人参、茯苓、遠志、山梔子、大棗、当帰、甘草、生姜、木香、竜眼肉
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
柴胡・・・肝熱を去り、毒を和す事で気の巡りを改善させる
酸棗仁・・・肝胆の気血を補す。胆の熱による不眠には生のまま用い、胆の虚寒による冷えは炒って用いる
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
人参・・・脾胃の補気を行う
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
遠志・・・腎の水中の気を強め、これを上達させる。下気を固くし、心腎の気を交通させ、健忘、驚悸を治す
山梔子・・・肺熱、心熱、胃熱を除く。経絡の熱、大腸、小腸の曲屈した熱を去る(奥深くまで浸透する)
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
当帰・・・血を温め心血を養う
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
木香・・・三焦に入り、気分の留滞、閉塞、結爵を治し、諸気を昇降する
竜眼肉・・・手の少陰、脚の太陰脾経に入って、専ら心の気血の虚を補う。智を長じさせ、精神を安定させ、健忘を除く。
*帰脾湯に山梔子と柴胡が加わったものです。二味加わるだけで、効能は全く違うものになります。即ち、上焦に熱があり、胸脇部が詰まり精神的ストレスがありますが、脾胃が弱いが為に上手く発散して流し去る事が出来ないものに使用します。殆ど女性に使用されます。加味逍遥散の脾虚タイプの薬方といえます。
補中益気湯
構成生薬:黄耆、蒼朮、人参、当帰、柴胡、大棗、陳皮、甘草、升麻、生姜
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
蒼朮・・・脾胃の湿を去る
人参・・・脾胃の補気を行う
当帰・・・血を温め心血を養う
柴胡・・・肝熱を去り、毒を和す事で気の巡りを改善させる
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
升麻・・・陽明大腸経を通じ、下焦の気を上昇させ、浮かんで皮膚に達し、頭面の風を去り、熱を除き、毒を逐う
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
*名の通り中を補いますが、益気させる場所は脾胃ではなく肺になります。胸脇苦満が少しあり、脾胃が弱り、元気が無く内臓が下がっているものに使いますが、現代においては、どちらかというと普段元気な人が、ストレスや運動等で胃腸が弱ったものに使う機会が多い処方です。肺気を上げるので、皮膚炎や喘息等にも使用できます。
甘麦大棗湯
構成生薬:甘草、小麦、大棗
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
小麦・・・煩渇を除き、汗を収め、尿を利し、血を止め、心気を養う。
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
*3味の簡単な処方ですが、現代人には非常に合う処方と言えます。大棗甘草で脾胃を補うと同時に急迫を沈め、それぞれ前者で分散、後者で緩和させ、肝気を補して感情をスムーズにし、心気を補い処理します。心気虚になると気が逆厥し、思考停止状態や憂鬱な気分を呈します。応用として、急迫を緩和して自律神経を調節するので、アトピーや喘息に使用できます。
麦門冬湯
構成生薬:麦門冬、半夏、人参、大棗、甘草、粳米
麦門冬・・・肺の陰を補う事で、心肺の熱燥を去る
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
人参・・・脾胃の補気を行う
大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す
甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する
粳米・・・脾胃を補い、温め、五臓を養う
*四君子湯のような脾胃の気虚と胃の詰まりが存在する、肺陰虚の者に使用します。肌肉が痩せていて色が白く、声に力が無い、喉の乾き、空咳等が目安となります。熱症状はそれ程ありません。
半夏白朮天麻湯
構成生薬:陳皮、半夏、白朮、茯苓、天麻、黄耆、沢瀉、人参、黄柏、乾姜、生姜、麦芽
陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす
半夏・・・脾胃の痰を去り、気を落とす
白朮・・・脾胃の湿を除き、益気する
茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する
天麻・・・内風の爵を逐い、外に排泄させる。頭面、及び、経筋の風濕を除く。頭旋目眩中風の要剤である
黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する
沢瀉・・・腎臓、膀胱に入って、水道を通じ、三焦に停滞した水を逐う
人参・・・脾胃の補気を行う
黄柏・・・腎膀胱の熱を去り、結果、肺気を下に導く。脾胃の熱を下す
乾姜・・・脾胃を温める。生姜のように発散の効は少なく、裏を温めるのに適している
生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる
麦芽・・・米、麺、諸果などの食積を消化する。腹脹、腹痛、霍乱を治す。気を下し、痰を消し、生を促し、胎を落とす
*脾胃を温めて補気し、痰飲食積を除いて胃気を巡行させ、肝風を除きます。肝に熱があり、胃が詰まり気逆を起こしているものに使用します。
お読み頂きありがとうございます。
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