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気血両補剤解説

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気血両補剤の特徴

ムセキ
季節の変わり目等に使いやすい処方です。

気血両補剤は、文字通り気と血の両方を補う剤です。補気の効のある生薬と、補血のある生薬の両方を使用するのが特徴です。

また、この段階に身体がなると、身体内部に蓄積された諸毒が表に出てくるので、それを瀉す事も時と場合によって必要となり、それに対応する生薬も配合されている事が多いです。

ここで気を付けないといけないのは、補血の生薬、瀉剤として使われる生薬は裏寒が存在していたり、脾胃の虚が甚だしい場合等は反って身体の虚を酷くしてしまうので使用を控える必要があるということです。

現代人は普段の食生活や社会生活上、身体の虚が激しい為、昔に言われているような「病中病後の体力回復」という使用目標でこれらを用いると、失敗してしまう事になります。

気血両補剤を用いる証は、脾胃の弱りは改善されていますが、補血剤補腎剤を用いると胃腸がもたれてしまう場合に用います。

現代人では、元気がついてきて、身体の虚が少なくなって毒が出、見た目は症状が酷くなったように見える時に使用されます。

補気、補血に使われる生薬には、以下の物があります。

補気・・・人参、甘草、大棗、黄耆、白朮、膠飴、粳米、小麦補血・・・地黄、当帰、芍薬、阿膠

次項より、気血両補剤の代表例を順に取り上げます。

気血両補剤の種類

ムセキ
十全大補湯より人参養栄湯の方が使用の場が多くあります。

十全大補湯、人参養栄湯、大防風湯、炙甘草湯、八珍湯、帰耆建中湯

十全大補湯

構成生薬:当帰、芍薬、川芎、地黄、人参、蒼朮、茯苓、甘草、桂皮、黄耆

当帰・・・血を温め心血を養う

芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う

川芎・・・血を走り散らす

地黄・・・血を補い、血熱を冷ます

人参・・・脾胃の補気を行う

蒼朮・・・脾胃の湿を去る

茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する

甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

桂皮・・・表を補い経を巡らす

黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する

*補脾をして気力をつける四君子湯、血熱を冷まし補血の効のある四物湯の合方に黄耆と桂皮を足して、表に薬能を導いて補する処方です。

四物湯の中の川芎は、血中の気剤と呼ばれ、血液の留滞を去る効があります。病中病後に使用するとありますが、現代は、元気な方が少し疲れた時に飲む処方として重宝されます。

人参養栄湯

構成生薬:当帰、芍薬、川芎、地黄、人参、蒼朮、茯苓、甘草、桂皮、黄耆、遠志、陳皮、五味子

当帰・・・血を温め心血を養う

芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う

地黄・・・血を補い、血熱を冷ます

人参・・・脾胃の補気を行う

蒼朮・・・脾胃の湿を去る

茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する

甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

桂皮・・・表を補い経を巡らす

黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する

遠志・・・腎の水中の気を強め、これを上達させる。下気を固くし、心腎の気を交通させ、健忘、驚悸を治す

陳皮・・・脾胃の気を動かし、巡らす

五味子・・・肺気を收めて守り、養う

*十全大補湯から血を巡らす川芎を外し、代わりに陳皮、五味子、遠志を入れた処方。気血両虚症ですが、帰脾湯のように心血虚があり、精神不安、不眠、健忘等の症状が出ているものに使用されます。

帰脾湯から変方する事も多い処方です。また、免疫調整作用があり、リウマチやアトピー等、身体が頑健な者の免疫系疾患等に用いて効果が高い処方です。

大防風湯

構成生薬:黄耆、地黄、芍薬、蒼朮、当帰、杜仲、防風、川芎、甘草、羗活、牛膝、大棗、人参、乾姜、附子

黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する

地黄・・・血を補い、血熱を冷ます

芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う

蒼朮・・・脾胃の湿を去る

当帰・・・血を温め心血を養う

杜仲・・・腎精を補い、肝の燥を潤す

防風・・・上焦の風邪を治す。頭目の中に滞る気を発散し、肺実を瀉し、経絡中の留濕を去る

川芎・・・血を走り散らす

甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

羗活・・・風を逐い、湿を除いて太陽膀胱経の滞りを去る

牛膝・・・下枝の寒湿を去り、肝腎の気を補充して筋骨を盛んにして瘀血を去る

大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す

人参・・・脾胃の補気を行う

乾姜・・・心を通し、陽気を助け、中焦下焦を温め、肺気肝血を利し、中焦下焦の寒湿を去る

附子・・・腎を温補し、身体の新陳代謝を高める

*胃腸が比較的弱く、気血両虚と腎虚を兼ねるものに使用されます。当帰、川芎で活血させます。慢性関節リウマチや関節痛でも使用します。

「うどの大木」のような、くびれの無い体つきの女性にも使う。羗活や防風で、上焦の風を去ります。

炙甘草湯

構成生薬:地黄、麦門冬、桂枝、大棗、人参、麻子仁、生姜、炙甘草、阿膠

地黄・・・血を補い、血熱を冷ます

麦門冬・・・肺の陰を補う事で、心肺の熱燥を去る

桂枝・・・経を巡らす

大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す

人参・・・脾胃の補気を行う

麻子仁・・・大腸を潤し、気を下げる

生姜・・・脾胃を温め、気を発散させる

炙甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

阿膠・・・血の流動性を高めて混和させる

*心肺の熱燥があり、気血両虚が存在する者に使用します。

体つきは比較的がっちりとし、胸~顔がほんのり赤く、動悸があり、舌や喉の渇き、空咳、のぼせ症状や便秘等が目安となります。

立秋から秋分前後までよく使用される処方です。

八珍湯

構成生薬:当帰、芍薬、川芎、地黄、人参、蒼朮、茯苓、甘草

当帰・・・血を温め心血を養う

芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う

川芎・・・血を走り散らす

地黄・・・血を補い、血熱を冷ます

人参・・・脾胃の補気を行う

蒼朮・・・脾胃の湿を去る

茯苓・・・体内の水を巡らせ、利水する

甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

*補脾をして気力をつける四君子湯、血熱を冷まし補血の効のある四物湯の合方です。十全大補湯より黄耆と桂皮を去ったものとも言えます。しかし、この二味を去っただけで、全く違う方剤となります。桂枝が存在しない事で、この方剤は身体の臓を主に補う作用を示し、また、黄耆も存在しないので、肺気は充実していて色黒、痩身である事が多いです。気のめぐりも異常無く、頬の赤みや首筋の凝りや頭痛といった症状は酷くありません。十全大補湯は、桂枝と黄耆が入る事で、表を補う処方であり、八珍湯は裏を補う処方であるといえます。

帰耆建中湯

構成生薬:桂皮、芍薬、生姜、大棗、甘草、膠飴、当帰、黄耆

桂皮・・・表を補い経を巡らす

芍薬・・・肝陰を補い、裏を和らげる。温補し過ぎるのを防ぎ、水を逐う

甘草・・・脾胃を補い、諸薬を調和し、急迫を緩和する

大棗・・・脾胃を補う事で肺氣を補い、陰陽を和す

生姜・・・脾胃の補気を行う

膠飴・・・渇きを止め、悪血を去り、気を益し、肺を潤し、脾を健やかにし、胃の痰を消し、咳や喉痛を止め、附毒を解し、薬を和す。麦芽糖を多量に含む。

黄耆・・・脾から気を肺に導き、肺気を高めて表の水を逐い、皮膚粘膜を修復する

当帰・・・血を温め心血を養う

*華岡青州作方で、十全大補湯の一歩手前の処方です。裏虚を解除し、黄耆で肺気を、当帰で心の血を補う気血両補剤です。アトピーや喘息等に長服させることもあります。色艶が悪く、働きすぎ動きすぎで疲れて動悸がするものに使用します。

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ムセキ
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